曲のテーマや歌詞の言葉遣いは地雷ゲーム!?
──ロマンチックな雰囲気の「Take you to the moon」もまた名曲なんですよね。部分的にファルセットになるボーカルがクセになります。
KOZZY:あの手の曲は最初に着地点が見えなくてね。どこでどう着地させるかは歌詞で決まることが多いんだけど、それによって演奏も変わるしさ。大まかな歌詞とテーマができていないと演奏の熱のこもり方も変わってくるから、事前にちゃんとつくり込んでおかなくちゃいけない。それも時間のかかる理由なんだよね。
──「Take you to the moon」はさりげなく挿入されているバイクの音が曲の物語性を高めていますね。
KOZZY:あの曲だけ急にバイクの音が出てくるけど、あれがあるとないとじゃだいぶ印象が変わると思う。
──考えてみると、マックショウの曲ってフェイドアウトで終わることが少ないですよね。今回の14曲もどれも最後まできっちり演奏しきって終わりますし。
KOZZY:やっぱりライブでやることを考えてるからだろうね。フェイドアウトで終わる曲はいままでもほぼないと思うけど、あるとすればエンディングに失敗した曲じゃないかな(笑)。
BIKE BOY:失敗をごまかすためのフェイドアウト(笑)。
──着地ができなかったと(笑)。昨年亡くなったチャック・ベリーに捧げた「今夜はベリーグッド」は着地が早そうな曲ですけど。
KOZZY:そりゃもう。かなり最初の段階でできた曲だからね。
──チャック・ベリーへのオマージュを込めたフレーズがもっと入ってくるかと思いましたが、意外と腹八分目でしたね。
KOZZY:もっとチャック・ベリーしてる曲はまた今度出そうと思ってるからね。でも「今夜はベリーグッド」の歌詞は個人的にもすごく気に入ってるんだよ。
──ダックウォークしているチャック・ベリーの姿や人となりがちゃんと伝わる歌詞ですよね。
KOZZY:1972年のロンドン・ロックンロール・ショウに出たときのチャック・ベリーをイメージしたんだよね。趣味の悪いウエスタンシャツを着て、顔が真っ黒でさ。アップになると歯しか映ってない(笑)。
──コージーさんはチャック・ベリーの存在をどう捉えているんですか。
KOZZY:チャック・ベリーがすごいのは格好いいところばかりじゃなく、格好悪いところも隠さずに見せるところかな。ロンドン・ロックンロール・ショウでも明らかに客ががっかりしてる模様が映し出されてるしさ。50年代、60年代の残ってる生の映像も、ギターから火が出るほどうまい演奏とひどい演奏の落差が激しいんだよ(笑)。
──ニートビーツの新作にもチャック・ベリーに捧げた「BYE BYE VERY GOOD」という曲があって、そのタイトルの確認メールがトミーさんから来たと真鍋(崇)さんに伺いましたが。
TOMMY:そうそう。「そっちの題名、何だ?」って(笑)。
KOZZY:ニートビーツとは一緒にライブをやる機会が多くて、ヤツらがチャック・ベリーのことを唄った曲をライブでやってたから、こっちとタイトルが被るといけないと思ってね。かすりつつ被らないみたいな(笑)。
BIKE BOY:前もニートビーツが『TWISTIN' TIME WITH YOU』を、マックショウが『TWISTIN' CARNIVAL』を出して被りそうでしたよね。こっちは“ツ”イスティンじゃなくて“トゥ”イスティンでしたけど。
──アルバム前半の「ミッドナイト・ラン」や「恋のクレイジーパラダイス」といったビートの効いたぐいぐい攻めまくるナンバーが最大公約数的に支持されると思うのですが、いわゆるリードチューン的なハイレベルの楽曲を毎回きっちりと仕上げてくるところにマックショウの職人気質が垣間見れますね。
KOZZY:マックショウにも「今夜だけが」とか人気曲があって、それを凌ごうなんて別に思ってないんだよね。それでも「恋のクレイジーパラダイス」みたいな滅多に書けない曲ができてしまう。だけど大変なんだよ、ああいう曲をつくるのは。ちょっとボタンをかけ間違えたらこれまで出してきた曲と似ちゃうんだから。ボルダリングみたいなものだよね。こっちの突起物には触れない! みたいなさ(笑)。あるいはチェスみたいな感じ。空いてるスペースにうまいこと駒を入れていく。曲のテーマや歌詞の言葉遣いがすごく狭いなかでそういうのをやるわけだから、まるで地雷ゲームみたいだね(笑)。「こういう歌詞なかったよね?」「このタイトルなかったよね?」とか常に被らないように確認してるんだよ。
これがいまのマックショウのグルーヴ
──「古いフォトグラフ」はマックショウのアルバムに必ず1曲は入っているバラードの系譜に位置する曲だと思いますが、今回はビートの効いたロッカバラッドという佇まいで、それほどバラードに寄せていませんね。
KOZZY:どっちかと言えばミディアム・テンポのナンバーで、バラードまでは行かなかったね。今回はミディアム系の曲が多くて、どれか1曲を引っ込めるかなと思ってたんだよ。多分「ゴールデンバット」が引っ込むんだろうなと思ったんだけど、出来がいいから残っちゃった。他にメロディアスな曲がないなら「古いフォトグラフ」みたいな曲は引き立つんだけど、今回は思いのほかメロディの際立つ曲が増えちゃったんだよね。
──メロディアスだけど荒々しく野性味溢れる楽曲が増えたように感じるのは、装飾を極力排した演奏とラウドで太い音質も多分に影響しているのでしょうか。
KOZZY:結果としてはこういうふうにしかできなかったってことが大きいけど、初期のマックショウの荒っぽさをベースにしたいとは毎回思ってるんだよ。『Rocka Rolla』の時期はちょっと違うけどね。あの時期にちゃんとした音源をつくりたかったのは、その前があまりにもちゃんとしてなかったから(笑)。それ以降、『狂騒天国』からはラフでいいから押しきっちゃおうっていう作風で、このスタジオ(ROCKSVILLE STUDIO ONE)で3人だけで全部やり遂げるつくり方は前作の『今夜はショウダウン』で一段落した。作品のテーマ性も含めてね。今回はもっとプリミティヴな感じでいいと思ったし、これがいまのマックショウのグルーヴなんじゃないかな。荒いなかにもメロディの良さがあればそのまま残すし、いい曲ができれば素直に出していく。
──いまは『Rocka Rolla』の頃のようにハイファイな音を突き詰めるモードではないんですよね?
KOZZY:全然。かと言って何でもいいってわけじゃなくて、曲が呼んでる音に忠実でありたいと思ってる。それもあって今回はバイクボーイのドラムセットを変えてみたんだよ。初期はグレッチを使ってて、途中からずっとラディックだったんだけど、今回はロジャースに変えてね。叩き方も多少違うんじゃないかな。
BIKE BOY:違いますね。叩いた感触もキック一個踏むのも違うんです。
──たしかに、堅くて重い音になった感じがしますね。
BIKE BOY:そうですね、しっかりした音になったと思います。ラディックがおもちゃみたいな薄っぺらい音をしてたんで、自分でも全然音が違う戸惑いを最初は感じたんですよ。
KOZZY:その重い音のおかげで「ハイヒールとスニーカー」、「あの娘はビートニク」、「今宵はSpecialty」みたいにシンプルな曲は演奏が楽しかったよね。いつになく僕のギターがあまり入ってないのは、ドラムとベースの音をちゃんと聴かせたかったから。今回はベースの弦も指定して替えてもらったんだよ。トミーはとにかく弦を替えなくてさ。5、6年は平気で替えないもんね。
TOMMY:基本的に切れるまで替えないね。
KOZZY:替える人はライブごとに替えるし、レコーディング用にわざわざ古い弦に替える人もいる。そのなかでトミーはずっと同じ好きな弦を使うわけ。バイオリンベースの弦なんて、買ったときに張ってあったままだから(笑)。アルバムで言えば3枚くらいずっと同じ弦で録るよね。そこを今回は新調したドラムとの兼ね合いもあって、もうちょっとラインが見えるようにしてみた。聴く人によっては何ら変わってないように思うかもしれないけど、「ハイヒールとスニーカー」とかは以前とけっこう違うんだよね。
TOMMY:弦を替えるとサステインが伸びるから切りどころがわからなくなるんだよね。「うわ、こんなに伸びるの弾いたことねぇや!」とか思いながら弾いてたよ(笑)。
KOZZY:いつもはポン! っていうのでリズムを取ってるからね。
TOMMY:弦の種類も違うしさ。いままで使ってたフラット弦からラウンド弦に替えてね。
KOZZY:その違いは大きいかな。ラウンド弦は70年代の後半までは発明されてなかったはずだからね。