あたかもむかしからあるような曲をつくりたい
──「GET DOWN THE MACKSHOW」から連なる「導火線に火をつけろ!」は「派手にやれ!(Mach Shau!)」と同じように3人交互にボーカルを取る曲で、アルバムの世界に一気に引き込まれますね。
KOZZY:聴いてもらえればわかる通り、3人交互で唄うとかなりデコボコしてるよね。もうちょっと覚えてから唄ったら? みたいな(笑)。
──トミーさんのパートの「右に左にシャクって 非常線を跳び越えろ」という歌詞がインパクトありますね。
KOZZY:「シャクる」って意味がわかんないでしょ?
BIKE BOY:広島弁なんですか? 僕もわからないですね。
TOMMY:そうか、みんなわかんないのか。いまのいままで方言なのを知らなかったよ(笑)。あえて言うなら「煽る」みたいな感じかな。バイクに乗ってるときに「シャクって行け」と言えば「合間を縫って行け」みたいなさ。
KOZZY:広島でも原住民みたいな人しか使わない言葉だよね。それがわかる方面だけに感づいていただければいいかなと思って(笑)。
──歌詞の面白さで言うと、バイクボーイさんが唄う「イカしたグッドタイム」の「ラジオから流れるマッシュポテト/煮ても焼いても食えやしないぜ」という一節も耳に引っかかるんですよね。
KOZZY:まぁ、芋ってことだよね(笑)。バイクボーイの歌入れには今回も時間がかかったよ。
BIKE BOY:僕が全然唄えなかったので、いろいろと調整してもらったんですよ。「イカしたグッドタイム」は唄えるまで何とか唄いきったんですけど、「導火線に火をつけろ!」は日を改めてメロディ自体を変えてもらったんです。
KOZZY:メロどころか曲自体を変えたんだよ。トミーも唄えてるうちに入らなかったけどね(笑)。
TOMMY:あわあわ言ってるだけだったからね(笑)。
KOZZY:僕がいつも心がけてるのは新曲っぽくない感じにしたいというか、あたかもむかしからあったような曲をつくりたいということでね。新曲なのに、聴いた人が「この曲知ってるよ!」って言っちゃうようなさ。こう見えてプリプロもちゃんとやるし、完成形に近いデモを前もってつくるわけ。その上で一気に録りに入るんだけど、トミーとバイクボーイが唄う曲も僕がちゃんと唄っておかないと2人はどう唄えばいいかわからない。だからデモでもちゃんと唄うんだけど、それでも僕の歌のイメージが2人には伝わらないんだよ(笑)。
BIKE BOY:デモを何十回も聴いてメロディを頭に叩き込ませるんですけど、コージーさんはすごくラクそうに唄ってるんですよ。だから俺もいけそうだなと思うんだけど、実際に声を出してみると全然唄えないんです。
KOZZY:そりゃ難しいよね。あたかもむかしからあるみたいな新曲をこなれた感じで唄うのはさ。まぁ、今回バイクボーイが唄ってる曲はとにかくフレッシュだよね。何年やってるバンドなんだよ? っていうか、初期感がすごい(笑)。
──「イカしたグッドタイム」はビートルズで言えばジョージの唄う曲でジョンとポールが1本のマイクでコーラスを入れる様が目に浮かぶ、コーラスワークの妙が楽しめる曲ですね。
KOZZY:まさにそんな感じ。「イカしたグッドタイム」のメインはコーラスだから(笑)。ライブで僕とトミーが1本のマイクでコーラスするのを想定してつくったしね。ライブ映えする感じというかさ。
── 一方、「ハイヒール・スニーカーズ」ならぬ「ハイヒールとスニーカー」はトミーさんがボーカルを取るブルージーなナンバーで。
KOZZY:ある意味、替え歌とも言うかもしれないけどね(笑)。
──スライドギターの音色が程よい隠し味になっていますね。
KOZZY:あのスライドギターの部分はどうしてもエレクトリックシタールで弾きたかったんだよ。あの曲の設定は50年代、60年代のロックンロールそのものじゃなくて、1968年くらいにロックンロール・リバイバルが巻き起こったときのロックンロールみたいな感じにしたかった。シャ・ナ・ナとかね。それでエレクトリックシタールでソロを弾いてみたかったんだけど、たかだか2小節くらいのために何十万も出せなくてさ(笑)。
──「ハイヒールとスニーカー」のトミーさんの歌は曲調とも合っていてすごくいいですよね。
TOMMY:いやぁ、歌はやっぱりなかなか難しいよね。
KOZZY:すごくいいと思うよ。まぁ、だいぶ追い込みをかけたからね。初期のピンク・レディーとか、10代の女の子に怒りまくるプロデューサーみたいに(笑)。
TOMMY:かなり追い込まれたし、しかも歌入れが朝の5時くらいからなんだよね。声が出る時間じゃないからもうちょっと早く始めてほしいなと思ったんだけど(笑)。
うまく弾くよりも伝わるものがあるのを優先する
──コージーさんのなかでトミーさんに合う曲、バイクボーイさんに合う曲の線引きはどんなところにあるんですか。
KOZZY:どんな曲でも合うとは思うんだけど、2人ともまずバラードはないよね(笑)。リスナーの皆さんはすでにお気づきの通り、バイクボーイが音痴なのは確定事項でね。音程も取れなきゃリズムも悪い。だけどバイクボーイなりの良さが出るのは「イカしたグッドタイム」みたいに明るめな曲、テンポの良いロックンロールなんだよね。ライブでもそういうタイプの曲を唄ってほしいのもあるので、バイクボーイの唄う曲はそこから大きくは外れないかな。まぁ、「イカしたグッドタイム」は30秒くらいでつくった曲だけどね(笑)。「あれ? 今回は俺が唄う曲がないんですね」って言うから、デモを全部つくり終えてからつくった。
BIKE BOY:デモにはなかったですもんね。
KOZZY:デモにあった曲と被らなくて、ドラムの叩きがいがある曲っていうのかな。そういうドラムきっかけとか、ライブでやることを前提で考えて毎回つくってる。自分で唄わないから一番気楽につくれるね。
──ドラムの叩きがいがあると言えば、「導火線に火をつけろ!」のドラム連打は凄まじくパワフルでパンチがありますね。
KOZZY:アルバムのオープニングないしは2曲目くらいで連打が入ってくるイメージがあったし、そういうロックンロールのレコードがほしくてね。
──トミーさんが唄う曲の基準みたいなものは?
KOZZY:トミーに関してはほとんど何も考えない。どれが一番しっくりくるかな? くらいでね。技術的に難しい曲は唄えないし、合わないから。今回はベースから入るミディアム・テンポのいい感じの曲をデモの段階でつくってあって、これはトミーに唄ってもらおうと決めてたんだけど、ちょっとイメージと違ったのでボツにしたんだよね。その代わりトミーが好きだっていう「ハイヒールとスニーカー」を唄ってもらったわけ。
TOMMY:単純にサビの「ハイヒールとスニーカー」って部分を言ってみたかっただけなんだけどね(笑)。
KOZZY:サビを唄う画が見えてたらしいから、じゃあ唄ってよ、ってことでね。
──高水準のクオリティを誇る今回の楽曲群のなかでもとりわけ名曲だと思うのは「ゴールデンバット」で、コージーさんの上京当時と思しき心象風景を描いた歌詞と心をくすぐられるメロディが相まって、青春のきらめきを真空パックしたような傑作ではないかなと。
KOZZY:キラキラするように心がけたからね(笑)。上京したての頃のまっさらな気持ちを忘れがちだし、そういうのを忘れずに残しておきたかったというかさ。メロディもあまり大人っぽくしない感じにしてね。「ゴールデンバット」はわりとすんなりできたかな。歌詞はあとでいろいろいじったけどね。
TOMMY:でも演奏はけっこう大変だったよね。
BIKE BOY:一番苦戦したし、一番多くテイクを録ったと思います。
──キュンとするニュアンスがうまく出せなかったとか?
KOZZY:そういうことだね。テンポがピッチリすぎても古めかしいロックンロールになっちゃうし、暴れすぎても若い感じになっちゃうし。それにあまりうまく演奏したくないっていうのもあってね。この歳になってちゃんとギターも弾けるからうまくやろうと思えばできるけど、マックショウの曲はギター・ソロをあまりうまく弾きたくないから意外と録るのに時間がかかる。うまく弾くことよりも伝わるものがあるほうを優先しちゃうんだよね。若い頃にギター・ソロが全然弾けなくて、ディレクターに「お前、いい加減にしろよ! そんなにテープを回したら低音がなくなっちゃうだろ!」って怒られたときのことを思い出しながら弾いてるよ(笑)。
──ゴールデンバットというのは、かつて両切りタイプだった紙巻きタバコのことですよね?
KOZZY:うん。もうタバコを吸わなくなって長いけど、むかしは現場に働きに行くとみんな安いゴールデンバットを吸っててね。
──ジェームズ・ディーンとジョン・レノンが歌詞に出てくるのは?
KOZZY:僕が行ってた福生の工事現場は、ジェームズ・ディーンの絵が描いてあるビルでね。その工事現場の上から見てる風景を歌詞にしてみた。