Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー牧村憲一(音楽プロデューサー)×平野 悠(ロフト創始者)(Rooftop2017年2月号)

老いては益々壮んなるべし!?
古希を超えた日本のフォーク・ロックの功労者たちが語る、自身の経験やノウハウを後世に語り継ぐことの意義とは──

2017.02.01

ロックのスピリッツと矛盾するテクノロジーの進化

牧村:1998年にCDの売り上げがピークを迎えて以降、ずっと落ちてきていますけど、その代わりにコンサートやフェスの動員は伸びていますよね。そういういまの状況を悠さんはどう見ていますか。ライブを軽視してCDの売り上げばかりを優先したレコード会社とライブハウスの対立構造みたいなものがかつてはあったじゃないですか。

平野:レコード会社に何かを期待する気持ちは20数年前になくなったね。ミュージシャンは売れればライブハウスを卒業していくものなんだよ。こっちは客が数十人の時でも赤字覚悟で頑張って応援するけど、彼らは売れたら必ず次のステップへ行く。戻ってくるのは稀。そこでいちいちジェラシーを感じていたらやってられないよ(笑)。

牧村:とは言え、ライブハウスが発掘したミュージシャンをレコード会社が持っていったりすることもあったじゃないですか。それに対して腹立たしさを覚えたこともあったでしょう?

平野:とあるレコード会社の連中に「ライブハウスでもレコードと同じ音を出せ」と言われたことがあったね。そこの所属アーティストがロフトでやったライブで、電源が2回切れたことがあるんだけど、それからウチには一切出てくれなくなった。ああ、そういうもんなんだなと思ったよ。電源が切れたら本人はアカペラで唄うわけ。そういうハプニングの面白さも含めてライブなんだと僕らは思っていたけど、レコード会社の連中は絶対に許さなかった。

牧村:アーティスト本人がロフトを拒否したわけじゃないんでしょ?

平野:もちろん。僕は彼のことをすごく可愛がってたし、晩年には「悠さん、またロフトでライブをやらせてよ」って何度も言ってくれたしね。でも、レコードが売れればミュージシャンも生活が安定するから、レコード会社の言うことは絶対なんだよ。だから、CDの売り上げよりもライブの動員が増えたいまの状況は、どっかで「ざまぁみろ!」って気持ちもある(笑)。

牧村:ミュージシャンに対しては「卒業」って言葉を使っただけど、レコード会社や大手プロダクションに対しては「ざまぁみろ!」なんですね。平野悠を語る上でここは重要なポイントです(笑)。それはさておき、僕が50年近く制作の仕事をしてきて強く感じるのは、機材の変化によって音楽が変わってしまうことが多々あることです。スピリッツや才能が音楽の出発点と言われるけれど、一方で機材の影響を受けてしまう。10万人が集まる野外フェスもPAがなければ成立しませんからね。新宿ロフトもオープン当初にJBL 4550という当時最新鋭のスピーカーを備えたりして、荻窪や下北以上にPAの設備環境を気にしていたし。悠さんは「お前、マイクなんかなくたって地声で感動させる歌を唄えよ!」なんて言いそうな人なのに(笑)。

平野:だって、いい音を出さないとミュージシャンが出てくれないんだから。彼らが出てくれる主な条件は、PA、照明、スタッフの人柄の3つ。客の入るバンドは取り合いだし、その状況のなかでPAの設備を良くすることは必須条件だった。荻窪ロフトや下北沢ロフトは8チャン、12チャンが精一杯で、あまりお金をかけなかったんだよ。荻窪のスピーカーは大瀧さんに設計してもらったんだけどね。牧村さんの言う機材の変化、テクノロジーの変化に引きずり回されるのは音楽業界の宿命なのかな。レコードがテープやCD、MDに変わり、いまや形すらないMP3みたいなものになり、YouTubeで音楽を見聞きするのが当たり前になった。どの時代も最終的に電気屋が儲かる仕組みだよね。

牧村:マイクとアンプという最低限の機材があれば後は何とかするのが、観念的だけどロックのスピリッツとしてあったと思うんだけど、ライブハウスもPAや照明などテクノロジーの恩恵をずっと受けてきた。そこは矛盾していると思いませんか。

平野:ホントはね、ライブハウスの機材環境はもっとシンプルであるべきだとは思うよ。照明も地明かりだけとかさ。でもそれじゃミュージシャンやスタッフが納得しない。「あそこの照明はひどいな」って言われたら、もう出てくれないんだから。ミュージシャンが出てくれなかったらライブハウスはおしまいなんだよ。もっと言えば、そこからスターが出てこなければライブハウスは続かない。

牧村:結局はポップスに向かってるんですよ。そこに行けなかったのが二つに分かれて、ダメになるか、孤高の存在になるかのどちらか。

平野:難しいよね。僕が一時期支持していた銀杏BOYZやミドリ、神聖かまってちゃんといった面白いバンドは、いいところまでは行くんだけど途中で失速してしまう。

牧村:僕らが知る時代の音楽を意識的にも無意識的にも引き継いでるバンドというと、知っている範囲で言うとアジカンじゃないかな。スピリッツの部分と新しいものを受け入れる融合性がありますね。ゴッチ(後藤正文)の有り様は、僕らが聴いてきた音楽とだいぶ重なる。だけどそれ以降の音楽は、もうこっちが年寄りなんだなと思うしかないですね。なぜそこまでテクノロジーのほうに寄っちゃうんだろう? と僕は思ってしまう。あと、最近の野外フェスにはトークライブがあったり、アイドルやお笑い芸人が出たり、だいぶ多様化してきてるでしょう? いまのロフトも音楽だけではなくトークライブで多種多様なジャンルを網羅している。社会性のある問題から猥雑なことまでね。それは悠さんのなかで大きな意味で等価値なんですか。

平野:全部同じだね。面白ければ何をやってもいい。これはサエキけんぞうが言ってたことなんだけど、いまやロックは情報が膨大に集積してきてしまったと。そうなると、演奏することも大事なんだけど、話で決着をつけなきゃいけない部分もすごくたくさん出てくる。だからトークでツェッペリンやイーグルスの情報を伝えていくことはとても有意義なんだとサエキは言うわけ。なるほどなと思ったね。牧村さんみたいな人はもちろん、ミュージシャン自身でさえ語り伝えていく時代になったんだよ。

makiG_01.jpg

このアーティストの関連記事

「ヒットソング」の作りかた
大滝詠一と日本ポップスの開拓者たち

新書判/208ページ/定価:本体740円+税

amazonで購入

 シュガー・ベイブや竹内まりや、加藤和彦、フリッパーズ・ギター、そして忌野清志郎+坂本龍一の「い・け・な・い ルージュマジック」など……数々の大物ミュージシャンの音楽プロデュースを手掛け、今日まで40年以上業界の最前線で活動を続けてきた伝説の仕掛人が、彼らの素顔と、長く愛され、支持され続けるものづくりの秘密を明らかにす

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻