Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー横槍メンゴ(漫画家)(Rooftop2017年2月号)

何かを伝えなきゃという気持ちを初めて形にできた作品

2017.02.01

 思春期の少年少女の複雑に絡み合う恋愛模様を描き、多くの読者からの支持を集める『クズの本懐』。女性ならではの鋭い観察眼で紡がれる、人間の深層心理に迫る美しい語り。繊細さと可愛らしさが共存する唯一無二の絵柄。まるで文学作品のような漫画はどのように生まれたのかを作者である漫画家「横槍メンゴ」先生に伺いました。(interview:柏木 聡[Asagaya/Loft A])

読みたいものではなく、描きたいものを描く

 
──連載に至った経緯を伺えますか。
 
横槍(メンゴ): 2012年に読切で掲載された『君は淫らな僕の女王』(原作・岡本倫/集英社刊)が話題となり、不定期ではありますが連載になったんです。このタイミングでもう1本、定期連載ができたらいいなと思っていたところに声がかかり、『ビッグガンガン』で連載をすることになりました。担当編集さんとデビュー前から知り合いだったというのも大きいです。自由にやらせてもらえそうだなと思って。
 
──最初は全く違った作品だったそうですが、どういった内容だったのですか。
 
横槍:当初は明るいハーレムものでした。当時は自分の描きたいものを描くというのは、すごく売れてからでないとダメだと思っていて。他社の編集さんには「絵のクセがそれほど強くないので、ポップな作品を狙うと良い」と言われ納得もしてたんですけど、今まで同人誌などで描いてきたシリアスな作風はどこで出せばいいんだろうとも思っていました。
 
──もともとそういう作品が好きだったんですね。
 
横槍:好きで読んでましたし、趣味で描いていた作品もシリアスなものでした。逆に明るいものは私には難しくて、もっと力がついてからやりたいなと思っていたくらいなんです。
 
──どのキャラクターも心に闇を抱えていますが、どういった点が描きやすいんですか。
 
横槍:感情をのせて描けばいいだけなので、心情的にはしんどいですけど作業的には楽で、悩むところが少ないんです。この方法で漫画の描き方を覚えてしまったので、無理のないのが『クズの本懐』です。逆にコメディーのほうが構成を考えたりと大変です。
 
──『クズの本懐』が月刊『ビッグガンガン』での連載というのも意外だったのですが…
 
横槍:当初は私も同じことを気にしたんですけど「雑誌のカラーは一切気にしなくて大丈夫」とはっきり言っていただけたので、それならば、と。本当に自由に制約もなくやらせてもらっています。『ビッグガンガン』には他にもいろいろ載っているし、1本くらい変なのがあってもいいだろうというのもありますね(笑)。
 
──自由で描きやすい作品だということですが、具体的にはどういった点でしょうか。
 
横槍:作品と自分との距離がいい形で保てるんです。商業漫画なので第1に読者サービスがないといけないと思っているんですけど、描いていて気持ち良かったり、自分が表現したいものが描けないと空っぽな作品になってしまうので、読みたいものではなく描きたいものを描くということで、客観視することができています。
 
──作品との距離感を、ということですね。『クズの本懐』は、女性キャラの心の声や表情があまりにリアルで、目の前にそのキャラがいるような真に迫る生っぽさがありますよね。生身の女性はこんな風に考えているのか…とこちらが思ってしまうくらい丁寧に描かれているので、どんどんそのキャラが愛おしくなるという。
 
横槍:私が漫画を描くとき全般なんですけど、単純に女子の本音を暴きたいとか露呈させたいということじゃなく、そこを描いた上で女の子を可愛く見せたいと思っていて。理想だけを描いて可愛く見てもらいたいということには興味がなくて、ズルいところ・ダメなところを描いてなお、そこが可愛いと思ってもらいたいので、そう言っていただけるとすごく嬉しいです。
 

ギリギリの部分を意識しています

 
──実際、みんな本当に可愛いです。各キャラの下着まで可愛くて。小物のデティールも隅々まで行き届いているなと。
 
横槍:そこはよく言われるんですけど、全然意識してないんです。でも、可愛くは描こうとはしています。
 
──濡れ場も多い作品ですが、どの画面も性的なだけでなく、キャラの可愛さが内包されていますよね。
 
横槍:可愛さを無視したエロさに私が興味がない、というのもあるんだと思います。品のあるところで止めるように心がけています。
 
――そこは女性の読者を意識してということなんでしょうか。
 
横槍:それもあります。多くの方に読んでもらいたいので、若い女の子が引いてしまうほどにはしていないんですけど、そういったシーンも含めて、読んでくれた読者の心に刺さるものにしたいので、ギリギリの部分を意識しています。
 
──キスシーンがすごくエロいなと感じたんです。舌や涎といった口元の表現が艶かしくて。
 
横槍:以前、友達に汁を描くのが上手そうと言われたことがあったんです(笑)。その時は意識したわけではないんですけど、長所は活用して表現していきたいなと思っています。あとは江川達也先生の漫画で、汗や涎などの水分表現を過剰に演出したほうがエロくなるということを学びました。
 
──作品のテーマからも読者の年齢層は少し高めと思うのですが、高校生を主人公にしたのはなぜですか。
 
横槍:思春期の子と思春期を引きずっている人に向けて描きたかったからです。ターゲットを定めて質の高いものを作っていければ、大人も楽しめると思ったんです。何かを伝えなきゃという気持ちを初めて形にできた作品でもあるので、そういった意味でも思春期をテーマに組み込んだのは良かったんだと思います。
 
──伝えなきゃという気持ちについて具体的に伺ってもいいですか。
 
横槍:私は、最初から描きたいものを持っている人は極少数だと思っているんです。そんなの最初からあったら苦労しないよって。ただ、描くというのは何かを表現しなきゃという衝動自体はあるわけで、それをやっと形にできたなという実感があった作品なんです。なんとなく持っていたテーマといろんなものが噛み合って表現することで、描くことそのものが目的じゃなくて手段になったという感じです。自分の中で目指していた形にハマったなという感覚がありました。
 

「クズの本懐」1巻~7巻 & 公式ファンブック
著者:横槍メンゴ

掲載:月刊「ビッグガンガン」(スクウェア・エニックス刊)
コミックス定価:各562円(税別)
ファンブック定価:857円(税別)

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TVアニメ「クズの本懐」
フジテレビ“ノイタミナ”にて毎週木曜24:55から放送中
ほか各局でも放送中
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