日常の中で起こるドラマを魅力的に描く、雨隠ギドの「甘々と稲妻」。多くのファンが待ち望んだアニメが今夏より放送開始。近年のアニメではなかなか見られなかった静かなストーリー、アニメでは難しいとされている料理をどう表現するのかを岩崎太郎監督に伺いました。(interview:柏木 聡 [Asagaya/Loft A])
媚びたところがなく、キャラクターもしっかりと感情表現がされていた
―“甘々と稲妻”監督になった経緯を伺えますか。
岩崎:“一週間フレンズ”という作品の監督をやっていたんですが、終わってすぐにプロデューサーの野崎(康次)さんからお話をいただきました。雰囲気が似ていたのでお声かけいただけたんだと思います。こういった作品はいわゆる萌え要素も少なく物語も淡々としているので、アニメの企画としては通りにくいんです。お話をいただいたときはよく通ったなとも思いました。プロデューサーの熱意が伝わったんでしょうね。
―ファンからも求められている作品だと思います。
岩崎:僕もこういう作品があってもいいと思ってます。原作を読んだときに僕に合っているなと思い、すぐにやりましょうという話になりました。
―どういった点が合っているなと感じられたのですか。
岩崎:人間ドラマに重点をおいている点です。媚びたところがなく、キャラクターもしっかりと感情表現がされていたので、アニメでもそこを表現できればと考えています。ただ、淡々とやるとさらに地味になるので、どうしようかなとも思いました。あとは料理です、アニメで表現するのは難しいので。
―絵で美味しそうに描くのは難しいですからね。
岩崎:今まで見た中で美味しそうだと思ったのが宮崎駿作品なので、そういう感じにしたいと思って作っています。最初はとにかく料理を美味しく見せるのと(犬塚)つむぎを可愛く見せるにはどうしたらいいんだろうと悩みました(笑)。僕には子供がいないので、難しかったです。
―それでも即答で受けられたということですが。
岩崎:そこは勘です。真面目にやっていて、逃げた感じがなく、好きな作品だなと思ったんです。
―日常を丁寧に描いていますよね。ドラマということでは(飯田)小鳥が(犬塚)公平に対して淡い恋心を抱いていますよね。
岩崎:原作が完結していないので、どうしようかなと思いました。原作では公平・つむぎ親子の話がメインなので、アニメでもそうしています。ただ、完全に抜くということではなく根底にはあるけどはっきりは言わない感じにしてます。
―原作の中で好きなエピソードはどこですか。
岩崎:1~3話が好きなのでアニメもそのままやっています。結局、何のためにやるんだというところなんです。お母さんが亡くなって、料理ができない公平は出来合いのものを買ってくるのが不満でつむぎがおかしくなったのかな、というところからの、1話で「たべるとこみてて」と言うのを見て涙ぐむ公平。そこにこの作品の大事なところが集約されていると思ってます。つむぎも公平が大変だということには気づいていて、ずっと気を使っているんですが、3話のハンバーグを食べたところで大泣きするんです。そこで、公平から「ずっといい子だったもんね。ごめんな…」と言ってもらえて、つむぎの心が少し解放されるんですよ。お父さんがやっとこっちを向いてくれたって。
―確かに最初は大人びた感じの子でしたからね。
岩崎:子供を育てるというのはどういうことなんだろう、というのが出ているんだと思います。原作3話以降のエピソードは日常のドタバタがメインなので、公平は原作よりちょっとダメな感じにしています(笑)。愛情をもって見守る点をリスペクトもしつつ、これから成長していく人という風に表現しています。
愛情もって育てるというのはこういうことだと覚悟を決めました
―子供と一緒に成長していくというのが魅力でもありますからね。この作品は料理も大事な要素で、アニメだと宮崎作品の表現が理想というお話でした。ただ、あの表現はアニメ的で、それをリアルな作品で行うのは難しそうですが。
岩崎:同じアニメなので、美味しそうに見えればリアルにやらなくていいという話をしました。より美味しそうになるように、スタッフも食べるのが好きな人を選びました。
―そこは本当に興味がある人とない人とで魅力が変わりますから大事です。インタビューを受けていただけるということで質問を考える際に、改めて原作を読み返していたらお腹がすいてきちゃったんです。この作品は“夜食テロ”になるって(笑)。
岩崎:そうなって欲しいです(笑)。料理の絵そのものも大事ですけど、食べたリアクションも大事なんです。常に、どうやったら美味しそうに見えるのか考えながら作っています。それがうまくいけば夜食テロになるんですよね。
―そこは始まってからの反応を待って、というところですね。
岩崎:料理という点では、後半にかけて調理シーンが短くなるんじゃないかという話も出ました。そうなると大事な要素である料理が後退してしまうので、毎回、同じ作業をしています。愛情をもって育てるというのはこういうことだと覚悟を決めました。日々の生活の中で、義務的になってしまうこともあると思うんです。でもそれは決して愛情がないというわけではないので、逃げずに表現するようにしています。普通、料理シーンは見せないことが多いんですけどね。
―作画を考えると大変ですからね。
岩崎:申し訳ないなと思いつつ、大変なことを頑張ってもらってます。毎話、後半はほぼ料理シーンになっていて、ずっとお店にいるので不評なんですけど(笑)。
―同じ場所だと変化が出ないので、演出としても難しいですよね。
岩崎:そこは逃げずにやりましょうと、料理を表現するために自分たちでも全部作りました。公平は料理ができないので、全くできない人が料理をするシーンをカメラで撮りました。
―どこで見つけてこられたんですか。
岩崎:僕とプロデューサーです。とにかく最初は不安だからものすごく喋っていて、言い訳をしてましたね(笑)。
―まさに公平の視点を手に入れたということですね。
岩崎:本当にそうですね。ただ、2回目からは緊張感がなくなってしまったので、新たに料理ができない人をスカウトしてきました。原作も本当に下手なのは最初の方だけですよね。物語の後半はそういう意味では難しかったです。
わからないことがあってもいいと切り替えました
―となると、後半にかけてドラマパートも増えていくということですか。
岩崎:そこは最後まで同じ形で進んでいきます(笑)。
―アニメは犬塚親子のお話がメインになっていくとなると子供の表現も重要な要素になってきますが、どのような点に注意して演出されていますか。
岩崎:シリーズ構成の方を探す際、絶対に子供がいる方にしてほしいということで、広田(光毅)さんにお願いしました。実際にお話を作っていくと、最初はやっぱり話が合わないんです。それは何かと考えると、広田さんは親目線で、僕は子供目線なんです。僕はどうしてもつむぎの感情を考えてしまうんですが、親の目線ではもちろん子供が感じていることも考えるんですけど、全てを理解している暇がないんです。
―確かにそれがリアルなのかもしれないですね。
岩崎:それを受けて、全てを理解するのはやめてわからないことがあってもいいと切り替えました。でも、最初はなかなか理解してもらえませんでした。特に子供がいないスタッフはどうしてもつむぎの心情を捉えようとするんですが、そうするとつむぎが大人びてしまうんです。そこはキャラクターデザインの原田(大基)さんとの戦いでもあります。
―キャラクターの感情に入り込まずに芝居を付けるというのは難しいですよね。
岩崎:そうですね。すごく悩まれていましたが、原田さんの描くつむぎが一番イメージに近いと思っています。
―キャストの皆さんはどのように選ばれたのですか。
岩崎:雨隠先生と音響監督のたなか(かずや)さんのイメージを大きく取り入れました。特につむぎに関しては女性が聞いて可愛いと思う声になるようにしました。
―つむぎ役の遠藤(璃菜)さんは10歳の子役ですが、いかがですか。
岩崎:最初はつむぎを子役にするかすごく悩みました。音響監督がたなかさんでなければ大人の方にしている可能性もありました。
―それでも選ばれたのはなぜですか。
岩崎:たなかさんが子役を使った経験があって「大丈夫、いけるよ」と言ってもらえたので、全部任せようとお願いしました。
―PVの「たべるとこみてて」は、素晴らしいなと思いました。
岩崎:本当の魅力は脱力したりしているところで、みんなメロメロになってます(笑)。本当に遠藤さんにして良かったと思います。
―公平役の中村(悠一)さんとの掛け合いはいかがですか。
岩崎:回を追うごとに良くなっています。今は本当にキャラクターたちが会話している感じで、みなさんが楽しげにやっているのを見ています。