Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー水口晴幸 with ROLL OVERS(Rooftop2016年6月号)

転がり続けるアウトサイダーが唄うロックンロールという生きる証

2016.06.01

 ex.クールス〜クールス・ロカビリークラブのボーカリスト、ピッピこと水口晴幸がデビュー40周年を記念して結成した『水口晴幸 with ROLL OVERS』。春日 弘(g)、林田正樹(b)、大島治彦(ds)という技巧派揃いの面子を従えて水口が放つのは、不器用だが一本気な彼の生き様がにじみ出た純度100%の硬派なロックだ。ROLL OVERS名義では初のフル・アルバムとなる『GO STRAIGHT』では「紫のハイウェイ」や「THE COOL」といった水口のキャリアを語る上で欠かせない往年の名曲も取り上げているが、古くからのファンに迎合する姿勢は微塵も感じられない。むしろ武骨でキレのあるアレンジでアップデートされたそれらの楽曲に戸惑いを感じる古参のファンもいるかもしれない。だがそれこそが水口の狙いなのだ。転がり続けるためには思い出も伝説も容赦なくぶち壊す。それがROLL OVERSの流儀なのである。その流儀の意図するところに肉薄すべく、水口に話を聞いた。(interview:椎名宗之)

思い出も伝説もぶち壊せ!

──そもそもこのROLL OVERSというバンドは、クールスのボーカリストとしてデビューしてから40周年を迎えたことを記念して始動したんですよね。

水口:去年、プロデューサーの(近藤)竹湖が「40周年記念バンドをやりませんか?」と言ってきて、面白そうだなと思ってね。ROLL OVERSはキーボードやホーンもいないストレートなバンド編成だから、初期のクールスの曲をやってもオリジナルとは違うニュアンスを出せるのがいい。俺は懐メロをそのままやるのが好きじゃないし、そういうのをずっとやってるとダレてくる。子どもの頃から壊すのが好きだったしね。たとえば親戚のおじさんがオモチャを買ってくれるじゃん? モーターで動く車とかさ。2日間はそれで遊ぶんだけど、3日目には「これはどうやって動いてるんだろう?」って壊しちゃうんだよね(笑)。昔からそんな性格だから、バンド名はROLL OVERSにして、転がり続けるために思い出も伝説もぶち壊していこう! っていうのをコンセプトにしたわけ。このバンドではクールスやクールス・ロカビリークラブの曲もやるけど、当時の形のままではやれないし、やらない。一番怖いのは俺自身が飽きてくることだから。

──デビュー30周年の時に発表した『STAY COOL』や今回の『GO STRAIGHT』でクールス〜クールス・ロカビリークラブ時代の曲、ソロの代表曲をセルフカバーするのはファンへのサービスという意味が大きいですか。

水口:ROLL OVERSなら昔の曲でも違う形でやれるしね。そもそもクールスの曲には「紫のハイウェイ」みたいにオートバイのサウンドが聴こえるようなイメージがあるし、今回もそういう曲を入れたほうがいいなとは思ったんだけど、全部やるのはムリだからさ。このアルバムにはこういう曲が合ってるかな? って感じで選曲してみた。なかでも「ROCK'N'ROLL TIME」はレアだと思うよ。何十年ぶりかで唄ったからね。

──そういった往年のナンバーをやると古くからのファンには喜ばれますよね。

水口:そうなんだけど、俺は当時からのファンにいつも説教するんだよ。「お前らが一番ロックンロールしてねぇんだよ!」ってね。懐メロをそのままやってそれを喜んでるようじゃ、その時点でもうロックンロールじゃないからさ。そういう昔ながらの場所にいるほうが居心地がいいのかもしれないけど、やってるほうとしちゃつまんないんだよ。舘(ひろし)ともよく話すんだけど、クールスなんて世間一般じゃ誰も知らないよ。ただコアな層に愛されてるだけ。そんなコアな連中が自分の息子や娘、後輩とかに「こんなにすごいグループがいたんだぞ!」って教え込むと、当時のことを何も知らない下の世代の間では全く歪められたクールス像が出来上がるわけよ。そんなつまんないイメージや伝説は全部ぶち壊してやれ! ってことで、今回のアルバムは『GO STRAIGHT』っていうタイトルにしたんだ。何事もストレートなほうがいいよ! ってことでさ。

──『STAY COOL』で過去の曲をセルフカバーした時とはスタンスが異なるわけですね。

水口:『STAY COOL』ではジョニー大倉が作曲した「ワン・デイ」みたいなバラードを唄ったり、全体的にちょっと抑えたテンポで唄うアレンジだったんだけど、それは自分の違う一面を引き出してみたかったからなんだよ。と言うのも、俺はクールスのなかでもハードなイメージを持たれてるけど、それは別に好んでやったことじゃないわけ。デビュー当時はむしろステージで黄色い声援が欲しかったくらいでさ(笑)。そういうキャー! っていう歓声はもっぱら舘や村山(一海)、(大久保)喜市ばかりで、俺が出ていくと喜ぶのはダミ声で柄の悪いお姉ちゃんとか野郎ばっかりでね(笑)。そんな自分のイメージを払拭したかったってわけでもないんだけど、こんな一面もあるんだよっていうのを『STAY COOL』では見せたかった。引き出しはいっぱいあるんだよ、っていうのをさ。勝のオヤジ(親交の深かった勝 新太郎のこと)の口癖でもあったからね、「いっぱい引き出しを持っとけよ」っていうのは。ただね、ああいうメロウな感じも好きは好きなんだけど、やっぱり飽きちゃうんだよ。それよりもROLL OVERSみたいにハードでストレートにやるほうが性に合ってるんだよね。

 

俺は死ぬまで大人になれない

──ROLL OVERSは春日 弘さん(g)、林田正樹さん(b)、大島治彦さん(ds)という技巧者揃いの布陣ですが、結成当初から音も気持ちもハモれたんですか。

水口:みんなクールスを聴いてくれてたし、3人は世代も近いからね。林田はガキの頃に「紫のハイウェイ」を聴いて、“ドゥワッピダン”ってコーラスを“クラッチダウン”って聴き間違えたらしくて、あいつはいまだに“クラッチダウン”ってコーラスするから困ったもんだよ(笑)。兄貴や先輩にクールス好きがいて、その影響で聴いたってヤツはいま現役のバンドマンに多いよね。春日も林田も大島もノリ的に俺のやりたい音楽を分かってくれるから、俺からああしたい、こうしたいって注文をつけることもない。いきなり音を出して、「いいね、これで行こう」って感じだからさ。

──そうした鉄壁の布陣に支えられてピッピさんの歌もすごく生き生きとしているし、新曲の出来も素晴らしいじゃないですか。だから正直、過去の曲のセルフカバーをここまで入れなくてもいいんじゃないかと思ったんですよね。

水口:でも、今回のアルバムは40周年という節目を記念したものでもあるからね。40周年を一つの区切りとして、昔の曲をいまのスタイルで残せるのがいいなと思ってさ。クールス、クールス・ロカビリークラブ、ソロの代表曲を踏まえた上で新曲が並ぶ構成で、足跡を残す感じにしたかった。

──ストレートなバンド編成による「紫のハイウェイ」はオリジナルとまた違うベクトルの良さがあるし、とても新鮮ですね。

水口:そうだよね。このレコーディングに入る前から、ステージでやってる時から春日に言ってたからさ。「この曲は思いきり壊しちゃってくれ」って。春日は「えっ、そこまでやっちゃっていいんですか?」って言ってたけど、壊しちゃったほうが面白いんだよ。

──そうやってピッピさんの意図をちゃんと汲む意味でも、いまのメンバーは適任なんですね。

水口:そうかもしれない。こんな感じでやりたいっていう大まかな方向性はあるけど、メンバーそれぞれが好きにやっちゃったほうが面白いからさ。俺自身、これまで一つの場所に止まってたつもりはないし、いつも何かを作ってないとダメだし、何かを壊してないとダメなんだよ。たとえば勝のオヤジとドラマをやってた頃でも俺は撮影の合間にエッグマンとかでライブをやってたんだけど、「もう音楽はやめちゃったんですか?」なんてハガキをファンからもらうわけ。俺はずっと音楽をやり続けてるのになぁ…っていう思いを込めて、『...ing』ってアルバムを当時作ったんだよ。いまもずっと“...ing”の現在進行形だから、クールスの曲をやるにも過去のイメージにとらわれることはない。原曲をぶち壊す勢いで突っ込んだほうが楽しいし、やっぱり攻めてないとさ。いまのステージもずっと攻めてるし、「セカンド・イズ・ユー」で唯一落とすくらいだから。あとはずっと飛ばしてるよ。

──「彼女はダイナマイト」も「THE COOL」も、ROLL OVERSじゃなければ出せない音とアンサンブルになっているのが見事ですよね。

水口:そうなんだよ。いまのステージも「このグループの音ですね」って言われるしね。

──各メンバーが持ち寄った5曲の新曲も良い出来で、特にピッピさんの生き様をストレートに唄い上げた「Neverending Rolling Stone」が秀逸ですね。「俺は誰にもシッポは振らねぇ」「夢見なくなるのが大人というなら/俺は死ぬまで大人にゃなれねぇ」という歌詞もグッときますし。

水口:俺は昔からその歌詞みたいなところがあってさ。クールスの頃に革ジャン着て街を歩いてると、俺たちは何もしてないのにそっち系の人たちからいきなり絡まれたりするんだよ。そうなったらこっちも「なんだコラァ!」って立ち向かうしかないから、そういう俺の立ち振る舞いに舘はいつもヒヤヒヤしてたらしいんだよね。同じような理由で勝のオヤジに六本木のアマンドの前でぶっ飛ばされたことがあるよ。「オヤジが絡まれることがあったら俺が盾になるから逃げてくれ」って言ったらすごく怒られてさ。「お前の性格は分かってるからかわいがってるけどな、逆だよ、バカ! お前のことを守んなきゃいけないのは俺だよ!」って。だからなんて言うか、俺には森の石松みたいなところがあるんだよ。清水次郎長の言うことは絶対、みたいなさ。みんなでバイクで走ってる時も気がついたら飛ばしちゃってみんなのことを置いていっちゃうし、いまだに大人になりきれないんだよね。バイク乗りの後輩からも「もうそろそろ落ち着きませんか?」って言われるけど、俺にはその落ち着くって感覚自体がよく分からない。このままずっと突っ走っていたいからね。

 

GO STRAIGHT

TECH-30479
定価:2,778円+税
2016年6月22日(水)発売

【収録曲】
01. 紫のハイウェイ(作詞:たち ひろし/作曲:五大洋光)
02. ROCK'N'ROLL TIME(作詞:たち ひろし/作曲:ジェームス藤木)
03. 彼女はダイナマイト(作詞:たち ひろし/作曲:ジェームス藤木)
04. BIRTHDAY(作詞:たち ひろし/作曲:ジェームス藤木)
05. THE COOL(作詞:水口晴幸/作曲:ジェームス藤木)
06. SCREAMIN' TO THE NIGHT(作詞:水口晴幸/作曲:ジェームス藤木)
07. ROCKの毒(作詞:水口晴幸/作曲:村田 博)
08. Oh! Yeah(作詞:水口晴彦/作曲:長沢ヒロ)
09. ROLL OVER(作詞:水口晴幸/作曲:春日 弘)
10. 暴走列車(作詞:水口晴幸/作曲:林田正樹)
11. Neverending Rolling Stone(作詞:水口晴幸/作曲:春日 弘)
12. たどりついても(作詞:水口晴幸/作曲:大島治彦)
13. WAY(作詞:水口晴幸/作曲:春日 弘)

LIVE INFOライブ情報

DEBUT ALBUM『GO STRAIGHT』Release Party!
出演:水口晴幸 with ROLL OVERS(発売記念ワンマン)
2016年7月2日(土)渋谷CLUB CRAWL
OPEN 18:30/START 19:00
前売 3,500円/当日 4,000円(共にドリンク代別)
*チケットはローソン、e+、CRAWL店頭にて発売中
問い合わせ:CLUB CRAWL 03-3498-3113

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻