Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー水口晴幸 with ROLL OVERS(Rooftop2016年6月号)

転がり続けるアウトサイダーが唄うロックンロールという生きる証

2016.06.01

ステージはそいつの生き方のすべてが出る

──一度スイッチが入るとひたすらのめり込んでしまうんですね。

水口:楽しいことには我を忘れるわけよ。歌詞を書いてる時もそうで、周りが何も見えなくなる。今回、歌詞を書くのは大変だったけど楽しかった。新曲はどれも自分の生き様をテーマにしていて、最後の「WAY」は18の頃からいまに至る俺の足跡を描いてる。俺の生まれは三重県の熊野市っていう漁師町で、ガキの頃から七里御浜の水平線をずっと見てたんだよ。アメリカの漫画やドラマを見て育ったから、あの水平線の向こうにアメリカがあるんだよなぁ…って憧れを抱いてた。いつかアメリカに住みたかったし、そのためには免許を取って働くしかないと思ったわけ。免許さえあればどこへ行っても働けるからね。それで高校に内緒で免許を取って、町を飛び出したんだよ。その当時の心境を「WAY」の歌詞に書いたんだけど、思いを込めたから書き上げるのが早かったね。

──確かに「WAY」の歌詞は感動的ですよね。「やっと出会った 確かな真実/コイツは裏切らねぇ それが それが ROCK 'N' ROLL」という一節もピッピさんならではですし。

水口:やっぱりね、裏切られるのはキツいよ。東京に出てきてからさんざんそんな思いをしてきたからね。それも信じた仲間に裏切られる寂しさなんてさ、もうたまったもんじゃないよ。それでも俺は俺らしく生きてきた。その結果としていまがある。たとえばイクラ(井倉光一)には会うといまだに「ピッピさんと岩城(滉一)さんの前だと固まっちゃうんですよ」なんて言われるし、いま原宿のSchottに勤めてるスタッフは俺が『NEW YORK CITY, N.Y.』のジャケットでSchottのライダース・ジャケットを着てたからSchottに入ることにしたって言うし、あるファンは「ハーレーの勉強をオハイオで26年間できたのは『BLACK or WHITE』のおかげなんです」なんてメールをくれたりする。そういうのは逆にこっちが感動するんだよ。癌で余命宣告をされた新潟のファンはカミさんを気遣って離婚しようと考えてたんだけど、ある時カーオーディオからクールスのバラード「追憶」が流れてきて、二人で大泣きして離婚を思いとどまったっていう長いメールをくれてさ。いまは幸せに暮らしてるって聞いて、それも感動したね。「追憶」なんて、俺はただ自分のフラれた経験を書いただけなんだけど、みんな自分の人生に置き換えて聴いてくれるんだろうね。

──自身のレパートリーがこれだけ長く愛されてきたのはなぜだと思いますか。

水口:人間生きてりゃ、いろいろと大変な思いをするじゃない? 生死をさまよう大病を患う人もいれば、ブラックリストに載るくらい追い詰められて自殺を考えた人だっているだろうしさ。そんな時にたまたま引っかかったのが俺の歌で、その記憶がいまも残ってるからじゃないかな。JAPAN NAVYっていうハーレーのクラブチームのアタマをやってた藤原って男がいてさ、余命いくばくもないって話を聞いてたから、去年、彼が住んでる和歌山でROLL OVERSのライブをやったわけ。会場へはメンバー5、6人に車椅子で連れられてきて、最前列を陣取ってさ。ライブ中、気がつけば藤原が車椅子から立ち上がってステージを見てるんだよ。ガタイのいい男だったのに、すごく痩せ細った体になっちゃっててね。ライブが終わって俺は藤原に「お前、絶対また来いよ」って言って、彼も「分かりました。絶対に行きます」って答えたんだけど、それからすぐに逝っちゃったんだ。それがすごいショックでね。その後に藤原のカミさんからメールが来て、彼は死ぬまで「ワン・デイ」と「追憶」を唄ってたって話を聞いて、思わずもらい泣きしそうになっちゃってさ。やっぱり、音楽には気持ちを奮い立たせる力があるんだよな。

──そうやって40年間にわたって歌を通じて活力を与えてきたピッピさんが、「WAY」のなかで「人生が終わるまで 生きる証のROCK 'N' ROLL」と唄うのはとても説得力がありますね。

水口:ロックンロールを生きる証と思えたのは、最近やっとかもね。昔、勝のオヤジからこんなことを言われてさ。「ステージはな、俺も舞台に立つけど、普段の姿がそのまま出るんだよ」ってね。「そいつがどんな生き方をしてるか、そのすべてが出るのがステージなんだ」って。藤山寛美さんも同じようなことを言ってるんだよね。あの人も舞台人だったから、座員に対して「ええか。舞台は楽屋やで」って言ってたみたいでさ。要は舞台の上ではそれだけ真剣であれ、ってことだよね。これも勝のオヤジの言葉だけど、俺たちは言ってみれば士農工商に入ってない河原乞食なわけだし、だからこそ舞台では真剣にやらなくちゃいけない。一般の人たちは精一杯働いて税金を納めて、ずっと働きづめで疲れきってる。そんな彼らが休みの日にいい映画を見たい、いい歌を聴きたいって時にちゃんとしたものを提供するのが俺たちの役目なんだ。だから彼らとはフィフティー・フィフティーだろ? って。そんな話を勝のオヤジから聞いて、ものすごく感銘を受けたね。

 

肝心なのは歌ではなく唄い手なんだ

──舞台上では小手先の技術は使い物にならないし、その人の人間力すべてを出しきるしかないということですね。

水口:ミック・ジャガーも似たようなことを言ってるんだよね。「The Singer Not The Song」、「肝心なのは歌じゃない、唄い手なんだ」って。歌なんて誰でも唄える。たとえば普段は普通のお坊ちゃんでも、髪を立たせて革ジャン着させて唄えばそれっぽく聴こえるかもしれない。特にこの国の人は騙されやすいと思うけど、そういうことじゃないんだよ。そいつの生き方が裏打ちされたものじゃなければ意味がないし、たった一度のシャウトだけですべてを帳消しにするくらいの音楽を俺はやりたいわけ。この40年、いろんな経験を培ってきたことでロックンロールこそが生きる証だとやっと思えてきたし、自分の生き様をストレートに出しきるしかないステージに立つのがいまはホントに楽しいんだよね。フロアの後ろのほうでノッてないヤツでも、ライブをやっていくうちにリズムを取るようになったりするし、こちらの意のままになるしさ。まぁ、やってることは40年間ずっと変わらないけどね。昔、クールス・ロカビリークラブの時にニューヨークのマクシズ・カンザス・シティでライブをやったんだけど、マネージャーに運転手付きの黒塗りのリムジンを借りてもらったんだよ。全員革ジャンを着込んで、それで会場まで乗り込むことにしたんだ。向こうの客は「イエローのやるロックンロールなんて」って下に見てんだろうなと思ったからさ。ライブが始まったら案の定、最前列にいる18、9くらいのガキが女を連れてこれもんで腰に手を回しながらふんぞり返ってるわけ。ライブの最後までそんな感じだったけど、途中から足でリズムを取ってたね。ざまぁみろ! お前らそんなもんだろ!? って思ったよ(笑)。見に来てたシャ・ナ・ナの連中は写真を撮りながら楽しんでたけどね。

──クールス時代からのファンの方は子育てがひと段落して、またライブハウスに戻ってきている感じなんですか。

水口:そういう人たちもいるだろうけど、彼らだけにメッセージしてるわけじゃない。もちろん来てくれるのは嬉しいけど、彼らは昔から応援してくれる身内みたいな感じなんだよ。それより、全く知らない若い世代が来てくれて一緒にロックし、共感し合えることこそがロックンロールなんだと思うよ! この間、吉祥寺でライブをやった時も20代の革ジャン着た連中が前のほうで踊ってて、ああいうのを見るのが面白いね。クールス〜クールス・ロカビリークラブ時代からのファンにもステージを楽しんでほしいけど、いまのロックが好きな連中に見てもらいたい気持ちのほうが強いんだよ。だからこそROLL OVERSみたいなバンドを組んだわけでさ。

──50'sノリのロックンロール・シーンに限定するのではなく、もっと広い意味でのロック・シーンで勝負したいと。

水口:そういうことだね。たとえばいまホントの意味でのロックンロール・ミュージックをやりたいっていう若いヤツがいるとしたら、俺は「演歌を聴け」とか「昔のヤクザ映画を見ろ」とか一見関係のないようなアドバイスをすると思う。でも実は、そういう経験が肥やしになって自分のやりたいロックンロールをやる上で大きな武器になるんだ。俺がJAPS(Japanese Academic Punks with Tokyo Big Beat Junky)で「東京流れもの」や「ここに幸あり」といった古き良き昭和の歌を現代風にアレンジして唄ったのもそういうことなんだよ。ガキの頃に先輩に連れられて見に行ったヤクザ映画の主題歌っていい歌が多いし、それを自分なりに残しておきたいっていうのが最初の発想だったんだけど、原曲の良さを残しながらも自分らしくぶち壊すスタイルはいまのROLL OVERSと共通してるね。…そうそう、「東京流れもの」をカバーしたことで面白い話があってさ。永井ひろしさんって人が作詞家なんだけど、カバーさせてほしいと電話したら曲を管理してる永井さんの孫に二度断られたわけ。「ロックでやられたら困ります」なんて言われてね。で、俺も譲れないから永井さんと直接会って話を聞いてもらうことにしたんだよ。それでその交渉の場で言ったわけ。「俺も自分で書いた歌詞は子どもみたいにかわいいです。その歌詞をヒップホップやレゲエをやってる若い連中からカバーしたいと言われたら、俺はどんどんやれって勧めますよ。そうやって子どもが揉まれて成長していくのを見守るのが親の務めじゃないですか? カバーの許諾を認めないっていうのは、親が死んだ時に子どもを未熟児のまま一緒に連れていくってことじゃないですか? だからこの国の文化はダメなんですよ!」ってね。別に断られてもいいやと思ってたから生意気なこと言っちゃってさ(笑)。そしたら一言、「エラい! 好きに使ってくれ!」って言ってくれてね。

 

GO STRAIGHT

TECH-30479
定価:2,778円+税
2016年6月22日(水)発売

【収録曲】
01. 紫のハイウェイ(作詞:たち ひろし/作曲:五大洋光)
02. ROCK'N'ROLL TIME(作詞:たち ひろし/作曲:ジェームス藤木)
03. 彼女はダイナマイト(作詞:たち ひろし/作曲:ジェームス藤木)
04. BIRTHDAY(作詞:たち ひろし/作曲:ジェームス藤木)
05. THE COOL(作詞:水口晴幸/作曲:ジェームス藤木)
06. SCREAMIN' TO THE NIGHT(作詞:水口晴幸/作曲:ジェームス藤木)
07. ROCKの毒(作詞:水口晴幸/作曲:村田 博)
08. Oh! Yeah(作詞:水口晴彦/作曲:長沢ヒロ)
09. ROLL OVER(作詞:水口晴幸/作曲:春日 弘)
10. 暴走列車(作詞:水口晴幸/作曲:林田正樹)
11. Neverending Rolling Stone(作詞:水口晴幸/作曲:春日 弘)
12. たどりついても(作詞:水口晴幸/作曲:大島治彦)
13. WAY(作詞:水口晴幸/作曲:春日 弘)

LIVE INFOライブ情報

DEBUT ALBUM『GO STRAIGHT』Release Party!
出演:水口晴幸 with ROLL OVERS(発売記念ワンマン)
2016年7月2日(土)渋谷CLUB CRAWL
OPEN 18:30/START 19:00
前売 3,500円/当日 4,000円(共にドリンク代別)
*チケットはローソン、e+、CRAWL店頭にて発売中
問い合わせ:CLUB CRAWL 03-3498-3113

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