a flood of circle(以下、AFOC)の結成10周年を記念したベスト・アルバム『10th Anniversary BEST ALBUM "THE BLUE" ─AFOC 2006-2015─』は、度重なるメンバー・チェンジやレーベル移籍といった逆境を肥やしにして不屈の闘志で進化と成長を遂げてきた彼らの歴史を俯瞰できる逸品であり、常に渾身の力を振り絞って最新鋭のロックンロールを生み出してきたバンドの魂の結晶である。余すところなく網羅されたライブのハイライトを飾る定番曲、彼らの歩みを語る上で欠かすことのできない代表曲の数々は波乱に満ちた宿命と対峙し続けた泥まみれで傷だらけの記録と呼べるものだが、どれも輝かしい彩りを放っている。全身で受け止めた無数の傷を多彩な輝きに変えるAFOCは、表面の傷による屈折光で美しく輝くダイヤモンドのようだ。向かい風によって強く育つ樫の木のようだ。冷たい雨風が容赦なく吹きすさぶ中、耐えて咲かせる花もある。AFOCがこの先どんな花を咲かせるのか、お楽しみはこれからだ。(interview:椎名宗之)
図らずも原点回帰ができたロンドンでのライブ
──まず、10周年記念の一環として敢行された2月初頭のロンドン公演の話から聞かせてください。ライブの手応えはいかがでしたか。
佐々木亮介:凄く楽しかったですね。1本目のダブリン・キャッスルという会場は新宿ロフトのバー・スペースみたいな狭い所で、パブの奥にあるベニューと呼ばれるスペースでライブをやったんです。2本目はバーフライという会場で、リバティーンズのカール・バラーとスリー・カラーズ・レッドのクリス・マコーマックが主催するクラブイベントに出ました。そこでカールが弾き語りをしたりして。3本目はフィンズベリーという会場で、土くさいバンドの作品ばかり出しているダーティ・ウォーターというインディのガレージパンク・レーベルのイベントでした。10周年を迎えるにあたって、いままでにやったことのないムチャな冒険をしてみようってことで3本のライブとレコーディングをロンドンでしてきたんですけど、やれて良かったですよ。
──言葉の壁はなかったですか。
佐々木:小学生の時にベルギーに3年間、イギリスに2年間住んでいたのでヒヤリングは割と大丈夫だったんですけど、喋るのはどうだったんだろう。MCはなるべくシンプルにして、「これが俺たちにとってロンドンでの最初のライブです。楽しんでね!」くらいしか言わなかったですね。何と言うか、向こうのオーディエンスは彼らなりに日本語を面白がっているんだなと思って。3本とも30分くらいの出番だったからガンガン攻める曲ばかりのセットリストで、その中でも言葉を矢継ぎ早にぶちまける「Black Eye Blues」みたいな曲の反応が特に良かったんですよ。そのリアクションを受けて俺たちもロフトのバー・スペースでライブをやっていた頃の気持ちを思い出して、ライブをやりながらその場で曲を変えたりしたんです。
──初の異国の地でのライブで図らずも結成当初の感覚が蘇ったとは面白いですね。
佐々木:4月から2年ぶりにワンマン・ツアーをやるんですけど、その前にロンドンでライブをやったことで「AFOCのライブの核とは何なのか?」を改めて考えることができた良い機会だったと思います。ロンドンではそれなりにお客さんも入ってたし、フラットな姿勢で聴いてくれるからライブが良ければそのぶん盛り上がるんですけど、アウェイと言えばアウェイじゃないですか。その中で出すべき自分たちらしさと言えばやっぱり勢いだろうし、ナベちゃん(渡邊一丘)と姐さん(HISAYO)の暴れ馬みたいなリズムとビートの上に俺の暴れボーカルが乗っかるのがAFOCの持ち味だと再認識したんです。その意味でも原点回帰できましたね。たとえばワンマンで20曲以上やる時はいろんな展開や流れを考えて臨みますけど、どこかのタイミングで爆発するのが俺たちらしいと改めて思ったし、今回の渡英はただ自分たちが試されただけではなく、図らずも自分たちのあるべき姿をもう一度見つめ直せたので凄く意味がありましたね。
──幸先の良い10周年のキックオフと言えますね。
佐々木:10周年の幕開けに自分が育ったロンドンの家や公園、学校を見て回れたのも不思議なタイミングだなと思ったんです。今年の上半期はベスト盤を出してワンマン・ツアーを回ることでこの10年を総括して、下半期はロンドンで録ってきた新曲を聴かせて未来を見せるイメージだったんですけど、上半期の出だしで10年を総括する前に自分の人生を総括するみたいになっちゃって(笑)。通っていた学校がスタジオから比較的近かったりして、まるで走馬灯のようにいろんな思い出が蘇ったんですよ。自分たちが住んでいた家は当然違う人たちが住んでいて、通りかかった時にその家の人がたまたま洗車していたんです。「16年くらい前にここに住んでたんだけど、写真を撮ってもいい?」って話しかけたら「いいよ」って撮らせてくれたんですけど、凄く懐かしかったですね。
「青く塗れ」は未来をつなぐ楔のような大事な曲
──10周年を迎える節目にベスト盤を出すアイディアは以前から温めていたんですか。
佐々木:そうですね。俺自身、ベスト盤が凄く好きなんですよ。『THE BLUE』という今回のベスト盤のタイトルの伏線みたいになっちゃいますけど、自分が最初に聴いたベスト盤はビートルズの“青盤”(『The Beatles 1967-1970』)だったんです。それはベルギーやロンドンに住んでいた頃に聴いたんですけど、ベスト盤ってオリジナル・アルバムではあり得ない選曲を楽しめるし、そのバンドの歩みを辿れるじゃないですか。俺は本にしてもその人の歩みが綴られた自伝を読むのが好きですしね。AFOCが『花』という10年の歩みを総括したシングルを出した後に、いわゆる企画盤を出して違う見せ方をしてから次のオリジナル・アルバムに向かうというプランを立てていたんです。と言うのも、気がつけばミニ・アルバムを4枚、フル・アルバムを6枚出してきて、曲も100曲以上はあるし、分かりやすい入口となるものがAFOCにはないんじゃないかと思って。いまなら最新シングルの『花』から聴いて欲しいけど、アルバムはどれから聴いたらいいのか説明がしづらいなと自分でも感じてたし、それならいっそベスト盤を出してみようかなと。ちょうど10周年を迎えるタイミングだし、俺は30歳になる節目でもあるので。
──ミュージシャンはベスト盤に対して肯定的な人と否定的な人にはっきり二極化しますよね。
佐々木:俺たちの場合はレコード会社との契約枚数の消化みたいな切ない話じゃないってことをはっきり言っておきたいですね(笑)。メンバーもレーベルのスタッフも凄く乗り気でベスト盤の制作に取り組みましたから。
──いわゆる代表曲やライブの定番曲を集めた通常盤(初回盤のDisc1と共通の内容)だけでも充分なのに、新曲やレア音源を集めたDisc2と亮介さんの弾き語りバージョンを収録したDisc3まで封入された3枚組の初回盤はとにかく大盤振る舞いですよね。
佐々木:確かにAFOCの入門編としてはDisc1だけあれば充分なんですけど、Disc2やDisc3みたいなボーナスディスクを入れることで、自分でちゃんと選曲したり手の込んだものを作るというスタンスを出せると思ったんです。ベスト盤と言うよりも企画盤という頭があったので、何かしら面白いものにしたかったんですよね。それで他の人たちがまずやらないような趣向を凝らしたボーナスディスクを入れることにしたんです。
──正真正銘“ザ・ベスト”と言えるDisc1の選曲だけでも骨が折れそうですが、作業はスムーズだったんですか。
佐々木:メンバーやスタッフに見せる前に自分でも選曲はかなり考えました。ただ俺たちはメンバーやプロデューサー、レーベルが変わったりする節目の時期が絶えずあったし、時期ごとで選曲はしやすかったかもしれません。Disc1の頭から6、7曲はギタリストが全曲違ったりするし、そういうのはベスト盤じゃないと味わえない流れですよね。基本的には姐さんが入って以降の5年間、それとテイチクへ移籍してからいまに至る曲を中心に選曲したんですけど、過去の曲も包み隠さず聴かせたい気持ちがあったので、1曲目の「花」と最後の「ブラックバード」以外は時系列に並べたんですよ。マスタリングする時に曲間も凄くこだわって、編成のブロックごとに曲間を長く空けたりしたんです。
──Disc2に収録された新曲「青く塗れ」もまたいい出来ですね。己の身の来し方をもう元には戻らないぶちまけたバケツの青いペンキになぞらえながら、それでも憂鬱のブルーを超えていくんだという軽快な曲調ながらも強靭な意志を持った歌で。
佐々木:「青く塗れ」を10周年のキーワードにしたくて、新曲のタイトルにしました。AFOCはテイチクに移籍して最初に出した『FUCK FOREVER』辺りからどんどん若返って、どんどん青くさくなってきていると思うんです。こうしてロックンロール・バンドをずっと続けてきて感じるのは、ロックンロールというカテゴライズに所属するためにバンドをやっているわけじゃなくて、ロックンロール・バンドこそがいろんなカテゴライズを越境できる存在だということ。だから「青く塗れ」を作る時も如何に自分のやりたいことをやり切るかしかないといういまの自分の思いを描けたし、その思いを青く塗る行動に象徴させたんです。何らかのカラーに馴染むためにロックンロールをやっているのではなく、今年一年をかけて自分たちのカラーを日本中にぶちまけに行って、そこから先の未来をロンドンで録ってきた新曲で見せるストーリーが自分の中であったので、「青く塗れ」は来たるべき未来をつなぐ楔のような大事な曲なんです。