弾き語りはAFOCの違う聴かせ方をするだけのもの
──初期の作品は憧れのブルースに近づくべく背伸びしていた部分もあったと思うし、確かに年々若返ってきているのかもしれませんね。
佐々木:10年前はやっぱり背伸びもしていたし、俺は元から古い音楽が好きだったし、長くバンドを続けている先輩こそがかっこいいと思ってましたからね。ルーフトップに初めてインタビューをしてもらった頃は、それこそ70年代くらいまでの音楽しか聴いてなかったんですよ。あれからいまの時代に鳴らされるべきロックンロールとは何なのか、自分が本当に面白く感じる音楽とは何なのかをどんどん突き詰めていった結果、いろんなものをなくしたけど得たものもたくさんあったんです。日本語の乗せ方だったり、リアルタイムの音楽をどんどん吸収したい貪欲さだったり、その辺は変わってきたと思います。歳を重ねてきたことで自分の理想にだんだんと近づいてきてるし、どんどん背伸びじゃなくなってきてるし、それが「青く塗れ」に反映されてるんじゃないですかね。いまはジャストなフレッシュさがあると言うか。
──ただ、最初期の代表曲である「ブラックバード」には「星が燃える 青く光るため」という歌詞があって、当時からすでに“青”がAFOCの重要なカラーだったことが窺えますね。
佐々木:言われてみれば確かに“青”というキーワードはつながってますね。Disc1の最後で「未来未来未来未来……」と叫ぶ「ブラックバード」で終わって一周すると最初の「花」に戻る構成が自分ではいいなと思ってるんですよ。
──ライブでは決して欠かすことのできない定番曲である「プシケ」のスタジオ録音バージョンがDisc2で初めて収録されたのもトピックの一つですが、いままでスタジオ録音を避けてきたのはなぜだったんですか。
佐々木:元々ライブでのメンバー紹介ありきで作った曲だったし、それをスタジオ録音する意味をいままであまり感じなかったんです。でも、レア曲を入れるDisc2のリード曲が新曲の「青く塗れ」とするならば、そのカップリングとして「プシケ」は外せないんじゃないかと思って。それでちゃんと向き合うことにして、スタジオ録音じゃなければできないアイディアはないだろうかとエンジニアの杉山オサムさんと話し合ったんですよ。その話し合いの中からフィードバック・ノイズでハーモニーを作るアイディアが浮かんだんです。あのフィードバック・ノイズはギターを5、6本重ねてあるんですけど、倍音が凄いのでとてつもない昂揚感が出るんですよ。それはライブじゃ絶対にできないことだし、スタジオならではのポストプロダクションの一番面白い形をやってみたかった。そうやって「プシケ」みたいなライブの定番曲をスタジオ録音としてクリエイティブな気持ちでやれたのは、ナベちゃんと10年、姐さんと5年一緒にやってきたからこそだし、オサムさんと10年近く一緒に作業をしてきた関係性も大きいと思うんですよ。オサムさんはレコーディングだけじゃなく俺たちのライブのことまでよく分かってくれてますからね。
──デビュー当時からAFOCのことをよく知るオサムさんという良き理解者がいたからこそ「プシケ」のスタジオ録音を形にできたわけですね。
佐々木:このスタジオ録音バージョンを最初に聴いた人がライブでいつもの「プシケ」を聴いたらびっくりするかもしれませんけどね(笑)。俺は昔からライブでメンバー紹介をするミュージシャンやバンドが好きだったんですよ。JBとかRCサクセション、ナンバーガールとか。向井秀徳さんの「ドラムス、アヒト・イナザワ!」っていうMCも凄く好きでしたね。MCと言うか、前口上ですかね。そこからパフォーマンスに入る導入部分。「プシケ」は過去のライブ盤にたくさん入っているので、それはそれで楽しんで欲しいんですけど、スタジオ録音バージョンはそれとは違う確固たるものを聴かせたかったんです。
──それにしても、Disc3を亮介さんの弾き語りに丸々充てるという発想も大胆かつ斬新ですよね。バンド名義の作品なのにソロ!? っていう。
佐々木:去年、初めて弾き語りのワンマン・ツアーをやった時に、俺の弾き語りは別にソロ・デビューしたいがためにやっているわけじゃなく、あくまでAFOCの違う聴かせ方をするだけのものだと実感したんです。だから『ベストライド』に入れた「Trash Blues」もピアノとギターの弾き語りだけで成立できた。ああいう曲をAFOCとして出せたことで、今回のDisc3みたいなアイディアもいけるなと思って。ナベちゃんも姐さんも「ソロの弾き語りはAFOCの作品としてやってるんでしょ?」という認識でいてくれてるし。このDisc3は、ベスト盤の一つと言うよりはボーナスディスクとして聴いてもらえたらと思いますね。
ロックンロールはいろんなものを飛び越えていける音楽
──弾き語りの「花」をバンドのオリジナルと聴き比べると、両者の特性が如実に感じられて面白いですね。
佐々木:「花」は元々リズムが8分の6拍子だし、キーもメジャーだったし、コード進行も違ったんです。それをバンドに落とし込もうと思ってナベちゃんが一番得意な8ビートにして、姐さんが一番柔らかく弾けるノリにして、コード進行をマイナーにして、AFOCの代表曲とするべくブラッシュアップしていったんですよ。弾き語りはその根っこの部分を見せたほうが絶対に面白いと思ったんです。
──弾き語りはどの曲もプライベート録音のような雰囲気で、温かみが伝わってきますね。
佐々木:普通に聴いたら割とさり気ない録音だと思われるかもしれないけど、そのさり気なさまで含めて、音には凄くこだわったんです。せっかくのルーフトップのインタビューなのでちょっとマニアックなことを言いたいんですけど、俺はウェス・アンダーソンという映画監督が凄く好きで、DVDも全部集めてるし、関連本もよく読んでるんですよ。その監督の映画で『ライフ・アクアティック』(『The Life Aquatic with Steve Zissou』)というビル・マーレイ主演の作品があって、それにセウ・ジョルジというポルトガル語でファンク・ミュージックをやるアーティストが出演してるんです。その映画の中でセウ・ジョルジは船乗りの役なんですけど、ガット・ギターを弾きながらポルトガル語でデヴィッド・ボウイの歌を唄ってるんですよ。その歌が凄く味わい深くて、映画から派生したセッション・アルバムもあるんです。そこでも「Life On Mars」や「Changes」といったデヴィッド・ボウイのカバーが中心で、そのアルバムにデヴィッド・ボウイが「ポルトガル語の弾き語りで自分の曲の良さが分かった」ってメッセージを贈ってるんですよね。その録音が凄く良くて、まるで目の前でセウ・ジョルジが唄っているような親密な感じなんです。普通の弾き語りの録音だとリバーブを多くかけたり、弾き語りのステージを見せるようなしっかりとした音像になりがちなんだけど、今回の俺の弾き語り録音ではそのセウ・ジョルジのアルバムの音を手本にしたんです。
──さり気なくも柔らかく、体温が感じられるような音を。
佐々木:そうですね。でもなかなか上手くいかなくて、オサムさんにそのアルバムを聴いてもらって、実験的な録音をすることにしたんですよ。普通は歌とギターとマイクだけだけど、スタジオのブースの中にスピーカーを設置してライブみたいに音を出して、そのエアーの音も拾いながら録音してみたんです。そうすることで、Disc1やDisc2みたいにフルボリュームで聴いて欲しいものとは真逆の親密な空気を醸し出せたんじゃないかと思います。ゴールデン街の店やロンドンの小さなパブで流れても合いそうな感じですね(笑)。
──弾き語り録音の選曲は、ご自身でもお気に入りの曲ということでしょうか。
佐々木:それもありますけど、弾き語りから作り始めた曲を中心に選んでみた感じです。こうした弾き語りをやってみて改めて思うのは、俺のロックンロールの捉え方は先達の方々とはちょっと違うところがあるということなんです。たとえばロンドンに住んでいた時にパブに入り浸ってパブ・ロックにハマったわけじゃないし、父親の影響で聴いたビートルズや日本のテレビ番組から知ったスピッツが自分の原点だし、俺がもし既存のロックンロール・バンドみたいになろうと思ったら「コインランドリーブルース」みたいなバラードは唄わないと思うんですよ。でも自分の信じるロックンロールというのはもっといろんなものを飛び越えていける音楽だし、「これはもうJ-POPじゃん」とバッサリ言われるくらいのキレイなメロディだったり大衆性があってもいいと思うんです。ただ、ちょっとしたコード進行やメロディの置き方、シャッフルのリズム、ブルースの要素といった自分なりのロックンロール・マナーはこだわって入れてるつもりです。それが弾き語りをやることによってはっきりするところがあって、自分では気に入ってますね。
何事も退路を断ったほうが面白いことが起こる
──亮介さんの中でロックンロールとは狭義なものではなく、とても懐の深い音楽であるということですね。
佐々木:奥行きがあるからいろんな聴き方ができて、いろんな面白さや自由さがあるものですね。もちろん表面的な分かりやすさや派手さも大事で、それがなければ奥行きまで辿り着けないんですけど。そんな俺なりのロックンロール観が今回のベスト盤でかなり表現できたと思ってます。AFOCの入門編にしたかったから通常盤と初回盤のDisc1は正攻法の選曲ですけど、初回盤のDisc2とDisc3はAFOCのことをすでに知ってくれてる人やロックンロールに興味のある人にぜひ聴いて欲しいですね。
──ロックンロールを奥行きのある音楽と捉えているからこそ、中島みゆきさんの「ファイト!」を弾き語りでカバーするのも自然な行為なんでしょうね。
佐々木:だと思います。ロックンロールは反逆や反抗の象徴みたいに捉えられがちだけど、俺にはどちらかと言えば躁鬱の象徴に思えるんですよ。普段から溜め込んできた鬱屈した感情を躁状態で一気に発散するようなイメージですね。ただ、AFOCのロックンロールは精神の病じゃなくて、骨折に近いと思うんです。万年骨折バンドって言うか(笑)。この10年、身体のいろんな部位を骨折してきたことで均整がとれた感があるし、何度骨折してもへこたれずにカラッとしている。そこがAFOCの良いところだと思う。「ファイト!」を唄う時もジメッとした感情があるにはあるんだけど、自分ではもっとカラッとしてる感じなんです。昔のブルースにしても、どれだけ貧困な生活を歌にしてもカラッと明るく唄うじゃないですか。「ファイト!」もそんなふうに解釈して唄えると思ったし、言うなれば骨折バンドならではのカバーですね(笑)。
──AFOCは骨折するたびに逆境を撥ね除けて、むしろそれを活動の肥やしにして前進し続けてきた印象がありますね。その繰り返しの10年間だったと言うか。
佐々木:音楽的にもたぶんそうで、その時々の状況や思いをがむしゃらに反映してきたところもあるけど、リズム、メロディ、コードという音楽的な部分をもっと面白くするにはどうしたらいいかというトライアルをし続けてきたつもりなんです。そうやってチャレンジしてきた軌跡をベスト盤のDisc1と通常盤で見せられたと思うし、俺の弾き語りの姿勢にしても「ファイト!」のカバーにしてもAFOCイズムを反映させられてると思うんです。
──Disc1ではAFOCを語る上で欠くことのできない代表曲を網羅して、Disc2では禁じ手だった「プシケ」のスタジオ録音バージョンを収録して、Disc3ではソロの弾き語りバージョンで隠れた名曲をパッケージした上に「ファイト!」のカバーまであって、一切の出し惜しみをしない潔さがAFOCらしいと思うんですよ。持ち得る駒をすべて打ち出すっていう。
佐々木:音楽を単純に生活の糧として考えて、ちょっとずつ出し惜しみしながらやっていく発想がまず俺たちにはないし、それだとAFOCの存在自体がなくなるでしょうね。でも、どの場面においても常に100%の全力を出し切るやり方じゃないとバンドをやってる意味がないんですよ。メンバーもスタッフも本気でバンドに携わりたい人が集まって、心の底から伝えたいことを生み出す、それを聴いてもらう。そこで何らかのリアクションが起これば最高ですよね。ビジネスライクな発想や過剰なサービス精神とかじゃなく、それを超えたグッとくるものを生み出すエネルギーが一番大事なんですよ。自分にもいま以上に売れたい気持ちが貪欲にありますけど、「これがダメならもうダメだ!」ってくらいのギリギリのエネルギーでぶつかっていたい。だからこのベスト盤でもヘンな出し惜しみはしたくなかったし、何事も退路を断ったほうが面白いことが起こる気がするんですよね。
──そもそも退路を断ち続けてきた人じゃなければ「花」のようにリアルでエモーショナルな曲は書けないのではないかと思うのですが。
佐々木:そこまでかっこいいものじゃないですけどね。結局、ドMなんですよ。ドMな上に骨折ばかりして(笑)。でも、いままでも何が起ころうともバンドをやめようと思ったことは微塵もなかったし、音楽をやめる才能がいまのところ全然ないんです。