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INTERVIEW

トップインタビュー『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』三上智恵監督インタビュー(Rooftop2015年6月号)

沖縄で今、何が起きているのか? 『標的の村』三上智恵監督が沖縄の決意を日本に、そして世界に問う、衝撃のドキュメンタリー映画『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』が緊急公開決定! 

2015.05.23

賛成か反対かという単純な問題ではない

──映画には基地に対する様々な立場の人が出てきますが、地元の漁師の人達の複雑な立場がよく伝わってきました。ある漁師が「賛成なんかしてない。容認だ」と言ってるように、立場的に反対派ではないけど、心情的には反対派に共感している部分があるんだなあと。
 
三上 やっぱり地元の漁師さんは既に補償金をもらっているので今さら反対とは言えなくなっているんです。反対派の船の人に対しては、戦い方があまいとか、船の扱いがなってないとか、海をバカにするなとか、いろいろ悪口を言うんだけど、抗議のための船を出す船長さんの無謀さや勇気は、どこかで漁師の人達にも通ずるものがあるんです。ここまでして海を守ろうとしている気持ちに対しては、やっぱり一定のリスペクトがありますよ。海が荒れそうな時は、今日はやめておいた方がいいってアドバイスしたり、いつも気に掛けてますね。たとえ立場や主張が違っても繋がっている部分は大きいです。
 
──反対派の和成船長は地元の漁師さん(海人)をすごく擁護してましたね。「ここの海人はすごいんだぞ。海人を基地賛成か反対かで見ないでくれ」って。
 
三上 彼はずっと大浦湾でツアーのガイドをやっていたので、地元の海人をすごくリスペクトしているんです。だから「お金をもらったから漁師はだめだ」って批判を聞くと、「そんなに簡単な問題じゃない」と言って猛然と反発するんです。和成さんが地元の漁師を尊敬するのも、また海保(海上保安庁)に勤めているウチナーのおじさんを尊敬するのも沖縄の儒教の伝統なんです。年上の人には丁寧に接する、おじいおばあを大事にする、それは徹底してますよね。そういう部分も見せたかった。
 
──米兵の社交場にもなっている辺野古の老舗パブ「ピンクダイヤモンド」のママも登場しますが、辺野古は基地の街として、沖縄の他のどの地域よりも基地との交流が盛んだということも描いてますね。
 
三上 交流することが街の自警になっているんですよ。アメリカ統治時代は捜査権も裁判権もなかった沖縄の人たちは自衛手段を講じるしかない。普段からお互いの顔が見える交流、ダンスパーティーとか相撲大会とか運動会とか、ことある毎に行事を一緒にやることで、アメリカ軍にも街のルールを守ってもらう。彼らは日米の合意事項は守らなくても辺野古の地域ルールは守ってくれるんです。そうした住民の長年の努力を無視して、米軍と街の人の交流を馴れ合いだと批判するのは当たらないと思います。
 
──賛成か反対かという単純な問題ではないというのが分かります。Coccoさんがコメントで「ギロチンか電気イスか 苦渋の選択を迫られたとして それはいずれも“死”だ」と書いてますが、そんな選択を強いること自体が非常に残酷なことだと。
 
三上 反対運動をしていない辺野古の人を賛成派というのか容認派というのかは別として、街のリーダーはどこかで折り合いを付けなければならないじゃないですか。ずっと反対したままでは地域の行政もできないですから。どこで折り合いをつけるか、その条件をどうするかをリーダーは決めなきゃいけない。そういう折り合いをつけながらずっと生きてきた中で、自分の本音が言えなくなる、あるいは思考停止してしまう、そういう人達に対して、どうせお金が欲しいんだろうと決めつけるのは全く違うんです。反対派を出すなら賛成派も出すという、いかにもテレビ的なつまらない中立報道で、安易に辺野古の住民は賛成していると報じてしまうことに私はすごく頭にきています。海を埋められることは誰よりも嫌だと思っている人達が黙るしかないという状況を見て、それでもまだ、彼らはお金が欲しいからだと言えるのか。たとえ反対運動をしてなくても、辺野古の人はみんな海を守りたいと思っているし、全部なしにできれば一番いいんだけど、日米合意から17年間、これだけ反対運動をしても日米両政府は基地移設をやるって言い続けているわけで、地域が賛成反対で争って二分されるぐらいだったら、貰うものを貰って決着した方がいいという考えになるのは仕方ないと思います。

私達は本来敵じゃない。同じ海が大好きな者同士として違う時に出会いたかった

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──カヌー隊が海保に徹底的に弾圧される場面を見るとこちらも怒りが込み上げてくるのですが、映画では激しく衝突しているシーン以外にも、海保の海猿と反対派の船長とのちょっとした交流も描かれていますね。
 
三上 あれはたまたま女性に弱い船だったんですけどね(笑)。誰が船長かによって海保の対応も全然違っていて、本土から来た船長だと凄くきつく当たられますよ。由里船長とチコちゃんの組み合わせだと海保もついついにやにやするんですね。(カヌー隊の)寿里ちゃんが海保に沈められたことがあり、今、寿里ちゃんは仕事の事情もあって現場に来てないんですが、海保が「なんで寿里ちゃんは来なくなったんだ。楽しみだったのに」って嘆いてるそうです。「お前らがあんなひどい事するからだろ!」って言ってやりましたが(笑)。寿里ちゃんは性格もいいし本当にかわいいから敵味方に関係なくみんな大好きなんです。
 
──あの交流のシーンがあったことで、海保に対する怒りが少し収まるというか、どこかでほっとする所もありました。
 
三上 海保との何気ない交流は一瞬なので撮り逃すことが多いんですが、ああいう人間的な場面っていうのは実は結構たくさんあります。そういうシーンをどれだけ入れるかは難しいんですが、やっぱり人間の可能性の部分、やさしさが捨てられないというか、対立していても人間的に触れ合った時に、ああこのままでいたいなってみんな思うわけですよ。私達は本来敵じゃない。同じ海が大好きな者同士として違う時に出会いたかったねって話もできるんです。いくら権力側が彼らを対立させようとしても、人間の中には相手を好きになりたいし、自分を好きになって欲しいという願望があるのが、私達の希望だと思います。対立させられていることの馬鹿馬鹿しさに気づく瞬間ですよね。
 
──あと、映画全編にわたって、歌と踊りが随所に出てくるのが、沖縄ならではというか、やはり見ていてほっとしますね。
 
三上 そうでしょ! この映画は「座り込みミュージカル」を目指したんです(笑)。さっきまで怒ってたと思ったら次の瞬間には歌って踊ってる。もう劇団四季にミュージカルにして欲しい(笑)。あんまり歌ってるんで、中には「俺は歌いに来たんじゃない」って怒り出す人もいるぐらいで。特に夏休みになると子供達が来るからずっと歌ってました。ヒロジさんは子供が来ることがすごく大事だと思っているんですね。映画の中にも、若いお母さんが赤ちゃんを抱いて来る場面を入れてますが、ヒロジさんは凄く喜んで「あっちで見ててね〜」って大歓迎するんです。決して「子供が来る所じゃない」とは言わない。
 
──あと若者が増えましたよね。東京のSASPL(特定秘密保護法に反対する学生有志の会)のメンバーが沖縄の学生と「ゆんたくるー」という団体を作って座り込みに参加したりとか。
 
三上 SASPLの元山君が最初に辺野古に来た時に、ヒロジさんのことを前時代的だって批判するから、私はカチンときて「いうのは簡単。じゃあ、あなただったらどうやるの?」って問い返した。そのシーンは時間の都合でカットしましたが、彼はその後ちゃんと多くの若者達と運動を盛り上げましたよね。
 
──彼らのおかげもあって辺野古に抗議に行くことがカッコいいという雰囲気にもなったと思います。
 
三上 それってすごく大事なことで、例えばお祭りでも下の世代がカッコいいと思ってエイサーとかを見ていると、その村の祭りはあと十年二十年と続くんですよ。だから辺野古のエイサーもずっと続くと思うし、辺野古の戦いを見て、こういう大人達ってカッコいいなって思う子供達がいることがすごく大事。これが次の世代に繋がっていくことだから。
 
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◆劇場公開情報
『戦場ぬ止み』
(いくさばぬとぅどぅみ)
監督:三上智恵 上映時間:129分
配給:東風
5月23日(土)より
東京・ポレポレ東中野にて緊急先行上映
【本上映】
7月11日(土)より
沖縄・桜坂劇場
ほか全国順次公開
 
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