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INTERVIEW

トップインタビュー『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』三上智恵監督インタビュー(Rooftop2015年6月号)

沖縄で今、何が起きているのか? 『標的の村』三上智恵監督が沖縄の決意を日本に、そして世界に問う、衝撃のドキュメンタリー映画『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』が緊急公開決定! 

2015.05.23

日本の戦争の息の根を止める、それができるのは沖縄からなんだという誇り

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──三上さんは10年前から文子さんを取材しているそうですが、今回の映画の中心に据えたのは、壮絶な戦争体験と戦後もずっと苦しんできたという彼女の人生が沖縄の悲劇を体現しているからでしょうか?(註:文子さんは15歳の時、沖縄戦で米軍から火炎放射器で焼かれながらも奇跡的に生き延び、戦後は母と弟を養うために働き続けた。「生きてきて、楽しいと思ったことは何もなかった」と言う)

 
三上 最初に私が文子さんに注目したのは、とにかく言葉はきついし、目は怖いし、戦時中に負った腕の火傷を見せて啖呵を切るしで、この人凄いなあと。なんで誰もこの人を取材しないんだろうと思って、近寄っていったんですが最初は「私は取材は大嫌いだし、何も話さないよ!」って言われて…、いつも怒らればかりでした。文子さんは誰にでも好かれる愛くるしいおばあではないけど、誰よりも一途で、ピュアで、寂しがり屋で、人間としての弱さや、かわいいところもすごくあって、私はそんな彼女が大好きなんです。「文ちゃんのかわいさが分かるのは私だけ」って思うから、よけいに近づきたくなる(笑)。彼女の家に行くと、手作りのブローチやリボンなどかわいい小物が沢山飾ってあるんです。私のおばあちゃんもそうでしたが、青春時代が戦争だったから、かわいいもの、キラキラした物を何一つ身に付けられなかったんですね。少女時代に何もできなかったから、ようやく今になってフリフリしたものを壁一面に飾って、来る人みんなにプレゼントするんです。一見男勝りな文子さんの中には、本当にかわいらしい「文ちゃん」がいるんです。
 
──そんな三上さんが撮影してることもあって、映像から文子さんのやさしい人柄がすごく伝わってきます。
 
三上 文子さんのことを戦争を体験したから基地に反対しているんだって安直に理解できるものではないんです。だって、戦争を体験した人がみんなトラックの前に立つかって言ったら、そんなわけないでしょ。なぜ彼女が80歳を過ぎてまであれだけ激しく闘うのかって考えると、それは人生の落とし前というか、自分が生き残ったことを肯定できないまま85歳まで生きて来て、自分の人生は一体何だったのか、心の中で暴れ回るものを抱えているのではないかと思うんです。彼女を主人公にしたのは、単なる戦争体験者という象徴からは見えてこない、ある一人の孤独な女性の生涯、それを描きたかったんです。
 
──見ているこちらも嬉しくなるのは、県知事選の勝利の後に文子さんが「生きてきてよかった」って言うシーンですね。
 
三上 85歳になってようやく生きてきた意味をつかみ取るって、考えてみればすごい話ですよね。
 
──その文子さんが「私は沖縄のためだけにやっているんじゃない、日本が二度と戦争をしない優しい国になるために闘ってるんだ」と言ったのが強く印象に残りました。
 
三上 まさに11月の県知事選の頃は、全国から沖縄に応援が来ていて、この知事選に負けたら日本は終わりだってぐらい盛り上がってたじゃないですか。私はそんなに沖縄に何もかも覆い被せないでよって思ってましたが、沖縄の人はそれを引き受けたんです。日本の戦争を止められるとしたら沖縄からしかない、そこまで闘うなら上等だって。それが文子おばあの言葉にもヒロジさんの言葉にも表れてます。沖縄の「島ぐるみ闘争」の振動を激震にして安倍政権にぶつけてやるというぐらいの勢いでした。だから『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』という言葉を、日本の戦争の息の根を止める、それができるのは沖縄からなんだという誇りを込めて映画のタイトルにしました。
 
──タイトルが決まったのはその頃なんですね。
 
三上 そうです、知事選の前の10月ぐらい。そろそろタイトルを決めないといけない時期になっていて、ゲート前フェンスに掲げられていた有銘政夫さんの琉歌「今年しむ月や 戦場ぬ止み 沖縄ぬ思い 世界に語ら」(今年の11月の県知事選は、私たちのこの戦いに終止符を打つ時だ その決意を日本中に、世界中に語ろうじゃないか)の一節から取りました。戦後70年の戦場(いくさば)を終わらせるんだという沖縄の思いが、今や日本の戦争を止めることになる、このアイデアを映画の精神的な支柱にしようと。
 
──最初は聞き慣れない言葉ですが、この言葉が歌の一節で、この後に続く歌まで含めると非常に深みのあるタイトルだなと思いました。
 
三上 呪文みたいな言葉ですよね。噛み締めていくうちに言葉がその人のものになると思うんですよ。全然関係ないですが私、小学校の頃に「今帰仁(なきじん)」(註:沖縄県国頭郡にある今帰仁村)って言葉がすごく好きで、ノートに意味もなく何度も書いてたんです。だから「戦場」という字を見たら普通に「いくさば」って読めちゃうようになったらいいな。

怒ったと思ったら笑ってるし、泣いてると思ったら踊ってる

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──ゲート前のリーダーである山城ヒロジさんもすごく魅力的に描かれてますね。

三上 もう私、ヒロジさんが大好きなんです。彼も誤解を受けやすい人で、とにかく喧嘩っ早いし口が悪いしで、反対派の中にもあんなチンピラと一緒にやりたくないって人はいますね。特に7月頃はそういう批判もあった。でもヒロジさんって怒ったと思ったら笑ってるし、泣いてると思ったら踊ってるしで、みんなだんだんその魅力にやられていくんです(笑)。警察だって本当はヒロジさんのことが好きなんですよ。今ヒロジさんは闘病のため休養していますが、抗議現場を離れる日にはいつも対立している警察が数人駆け寄ってきて「早く帰ってきて下さい」って握手されたらしいんです(笑)。私はその話を後で人から聞いてすごく感動して、すぐヒロジさんに電話したんです。そうしたらヒロジさんは「握手なんかしてないよ」って。それは彼らの立場を慮ってそう言ったと思うんですが、そういう所も含めてヒロジさんってとことん優しいんですよね。
 
──抗議中、機動隊に対して「君たちを敵だとは思っていない。君たちを戦場に行かせたくないんだ」ってよく言ってますよね。敵は目の前の警官ではなく、その後ろにいる防衛局や政府だってことを常に意識しているというか。
 
三上 そうですね。だから彼が本当に怒った時はウチナー口(沖縄方言)になるんですが、それも同じ沖縄人への愛があるからで、ウチナーのおじさんがウチナーの青年に語りかける言葉だからこそ通じるものがあるんですね。「お前ら島の青年なのに、本気でこの島を壊そうとしているのか」という言葉はウチナー口だからこそ届くと思うんです。
 
──何も知らない人があれは左翼の運動だとよく言いますが、そうじゃないことがよくわかります。
 
三上 文子さんもヒロジさんも、あと渡具知さん親子や、由里船長、寿里ちゃん…、みんな島に生きる一人の人間としてやっている。現場に来ればすぐわかることなんですけど、来たこともない人がプロ市民の運動だと揶揄するんですね。
 
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◆劇場公開情報
『戦場ぬ止み』
(いくさばぬとぅどぅみ)
監督:三上智恵 上映時間:129分
配給:東風
5月23日(土)より
東京・ポレポレ東中野にて緊急先行上映
【本上映】
7月11日(土)より
沖縄・桜坂劇場
ほか全国順次公開
 
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