稀代のパフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」の主宰にして、芥川賞最終候補に5回挙がりながら、5回とも落選した男、戌井昭人。
9月9日にロフトプラスワンにて開催される「鉄割アルバトロスケットの寄合い」を間近に控え、作家活動に限らず、役者として、ミュージシャンとして、場所を問わずその才能を惜しみなく発揮している戌井氏の、なかなか訊きづらい胸の内に迫ってみました! フェスも花火も危険ドラッグも興味ねぇ! 鉄割アルバトロスケットに乾杯!!(interview:マツマル/LOFT/PLUS ONE)
*写真:戌井昭人(真ん中)/撮影:在本彌生
活動17年! 戌井昭人と鉄割アルバトロスケット
──9月9日のイベントですが、「鉄割アルバトロスケット」(以下、鉄割)レギュラーの皆さまほぼ全員ご出演が決定、さらに「渋さ知らズ」から渡部真一さん、不破大輔さんにも出て頂けるということで、鉄割ファンにとってはかなり貴重な内容となりそうですね。
戌井:ここからさらに出演者が増えるかもしれないのですが、もう俺にも何が起こるか分からないですね(笑)。
──鉄割の演目や戌井さんの小説に出てくる個性的なキャラクターについてですが、何かモチーフはあるのでしょうか?
戌井:街で見た人とか、知らないおっさんとかが多いですね。鉄割に関しては基本的にアテ書きなので、演じている人自体がモチーフになっていることがありますね。鉄割の演目自体には正直、内容なんて全くないので(笑)、パフォーマンス重視でむりやり繋げている感じですね。
──鉄割を観ていると、演目が進んでいくうちに何となくそれぞれのお話がリンクしているような気もしますが、そういうわけでもないんでしょうか?
戌井:基本的に「騙し」ですね(笑)。むしろ書いていて何か意味がありそうになってきたら、敢えてその部分を消してしまったりもしています。内容的に「不条理」とか「ナンセンス」とか言われやすいんですが、自分としては演劇的な感覚の論理立てたものを書いているわけではなくて、瞬発的なアイデアで書いたものが結果的に「不条理」に見えてしまっているのではないかと思っています。小説もよく「演劇的」とか言われたりもするのですが………あ! 灰野さんだ!
──え!? 灰野さん?
(偶然、インタビューをしていた喫茶店にミュージシャンの灰野敬二さんが現れ、お店のトイレに入っていった)
戌井:うわー、ビックリした…。やっぱかっこいいね。
──ホントに驚きました。戌井さん自身、鉄割で灰野さんオマージュやってますもんね。
戌井:いや、アレは違うのですけど、実はちゃんとした面識もなくて、一方的に好きなだけで、一度「ギタリストの集い」みたいなイベントで一緒になったことはありますけど。
── 一旦、話を戻しまして…鉄割を始めてどのくらい経つのでしょうか。
戌井:大学で渡部とか牛嶋(鉄割の演出)とかと出会って、文学座で奥村くんと雅楽子さんと出会って…そこから仲のいい友達とつるんで、だいたい延べ17年ぐらいですかね。
──17年間やってきて何か変化はありましたか?
戌井:17年も何やってんだろね(笑)。最初は「世の中をアッと言わせてやる!」みたいな気概でいたけど、今ではだいぶ落ち着いちゃいましたね。もともと「劇団」っていう集団ではなかったんで、「売れてやろう!」っていうヤラしい気持ちもなく、単純に楽しいからここまで続けられているんじゃないでしょうか。また年内も「鉄割」として公演をやります。
──おお! 今度もスズナリですか?
戌井:そうなのです。お陰様で最近では会場がパンパンになってしまって、お客さんにお酒呑ませてるのにトイレに行きづらかったりして、本当に申し訳ないんですが…。
──開演時間直前の松島さん(鉄割の諸々をやってくれている)の客入れも名物ですよね。
戌井:あの人は本当に凄いよね(笑)。一応敬語は使ってるけど、「見世物小屋のおばちゃん」みたいなあの感じは真似できない。本人は全然狙ってないんだけど。ヘンに気張ってないし、気取ったいやらしさもなくて、でも馴れ馴れしくもなくて。今回のイベントもぜひ多くのお客さんにお越し頂いて、松島さんの出番となったら嬉しいです。
シティボーイズ、『情熱大陸』…もはやメジャー?
──昨年はシティボーイズの公演にもご出演されましたね。演出の宮沢章夫さんからのオファーだったんでしょうか?
戌井:きたろうさんの息子さんと元々知り合いだったんですけど、そのきたろうさんにいきなり呼ばれて、宮沢さんと(いとう)せいこうさんときたろうさんの4人で呑むことになりまして、その時に、きたろうさんに「戌井は出ろ!」「宮沢は書け!」と命令されたのがきっかけです。
──きたろうさんに誘われたんですね! なんか意外でした。シティボーイズの舞台はどうでしたか?
戌井:さすがにメンバーが凄いので、委縮してしまいました。「大竹(まこと)さん恐いなー」とか思いながら。宮沢さんが演出をされていたんですが、稽古の時に「戌井くん、このシーンは鉄割みたいな感じでやっちゃって」って言われて、「ウワァァァァー!!」ってやったら、「ちょっとやりすぎ」と言われてしまいました(笑)。でも、そしたら大竹さんが、「お前、馬鹿だなぁ〜」って笑いながら話しかけてきてくれて。
──役者として今後どこかに出る予定はあるんでしょうか?
戌井:名古屋公演の時、大竹さんが焼肉を食べに連れて行ってくれたんだけど、その時に、「シティボーイズがあまりにも楽しかったので、これ以降は鉄割以外には出ないと思います」と宣言してしまったんです。だから、今でもその通り、芝居の出演のオファーが来ても断ってしまってます。まぁ、大して来ないんですけど。
──実はロフトプラスワン2度目のご出演とのことですが、1度目はどんなイベントだったのでしょうか?
戌井:もう10年以上前になりますかね、詩人のナナオサカキさんが出演するイベントでした。他には遠藤ミチロウさんとかもご出演されていて。俺は奥村くんと2人だけで鉄割の演目をやりました。奥村くんの着ている「P」のロゴの入ったTシャツを破いて、背中の垢を擦って取ってタバコに入れて吸う、っていうものでした。その頃は小説もまだ書いてないし、普通にバイトしてて、ありがちに「俺はこれからどうしたらいいんだ…」みたいな生活を送ってました。
──去年はTBSの『情熱大陸』にも出ていらっしゃいましたね。あの時の戌井さんはもうちょっと固い、作家っぽい感じの印象を受けたんですが、今日お話ししてみて少し印象が変わりました。
戌井:たぶん「なんでずっと撮ってんだろうか」と苛々してたのかもしれないですね。ホントに密着取材されてたから居留守も使いましたし(笑)。
──なんで取材を受けちゃったんですかね(笑)。
戌井:そこが問題ですよね(笑)。夏ぐらいから取材を受けたんですが、向こうとしては半年間で芥川賞の候補に挙がって、冬には「ティーティリティー♪」の音楽に合わせて「取ったーー!!」みたいな画を期待してたんでしょうけど、実際は半年間で小説を書けなかったし、候補に挙がるまで一年かかった上に結局、賞は取れず仕舞いで…。
──「ティーティリティー♪」の時にはちょっと落ち込んだ感じのオチになってましたね。
戌井:情熱のない終わり方に見えたかもしれないですね(笑)。
──また取材の依頼が来たらどうしますか?
戌井:もう断る。もちろん、『情熱大陸』は取り上げて頂いてありがたかったんですけど、ちょっとテレビの仕事は難しいな、と。昔よくあったような真面目なクイズ番組みたいなのなら出てみたいけど、賞金のある。テレビだと自分自身、訳分かんないこと喋るオチのないおじさんになってしまいそうです。バラエティに出れるような、ちゃんと面白いこと言えないし。でもその前にテレビの話なんてきませんよ。絶対。
──最近のバラエティだと、鉄割の演目に出てくるような「ちょっとおかしな人」は敬遠されがちですよね。
戌井:子どもの頃はよくいたじゃないですか。俺ん家の前にも体中イレズミだらけのおじさんがいたんですけど、「俺は何でも食えるぜ!」って言いながらドッグフードを食べ始めたりして、もう子ども心に、そのおじさんは尊敬の対象でした。鉄割では子どもたちにとっての「遊んでくれる知らないおじさん」みたいな、そういう感覚の再現をしてみたいという気持ちはあります。
──確かに、子どもにとってはファンタジーみたいな存在ですよね。
戌井:実際は悪影響なのかもしれないですけど。この間も出演依頼を受けたイベントがあったんですが、直前に「鉄割は子どもの教育上、悪いから」と一方的に断られてしまって…。
──嫌われる人にはとことん嫌われるみたいですね。
戌井:昔はもっと嫌われてました。そして怒られてた。殺人的な音量で音を流したり、大量のネギで殴り合ったりと、やりたい放題だったかもしれません。
──確かに最近ネギの演目はやらないですよね。
戌井:疲れるし、片付けが大変なんですよね。以前、渋さ知らズの生演奏に合わせてネギで叩き合った時は、客席に飛んでったネギをお客さんが投げ返してきたので、こっちも投げ返したら、客席とネギの投げ合いになって、異様な雰囲気でもあり、とても楽しかったんですけど。他の場所ではそんなことにはならないでしょうし。
──世の中、ナマだからなんでもアリ、みたいな風潮はだいぶなくなってきてますよね。
戌井:そうですね、今は何でも許容されてしまっているようなぶん、逆に何もできなくなってきてると言うか。昔は棲み分けされているからこそ良い部分もあったのではないかと。なんと言うか、俗的なグローバリズムって嫌です。