昨年9月にドラムの高橋久美子が脱退し、2人体制となったチャットモンチーの初めてのアルバム『変身』が10月10日にリリースされる。今年に入ってリリースした5枚のシングルを含む全12曲。
今作では、変身を遂げた彼女たちを多く見ることが出来る。脱退のタイミングでベースの福岡晃子がドラムに転向したほかに、橋本絵莉子がドラムを叩く曲や、ギターレスで聴かせる曲、かと思えばストリングスを使用した壮大な楽曲など。また、エンジニアにジム・オルーク(ex.SONIC YOUTH)や、サウンドプロデュースで後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、奥田民生を起用したり、さらに自由度が増した楽曲群にまだまだたくさんの可能性を秘めたチャットモンチーを感じられた。
11月から始まるツアー「チャットモンチー TOUR 2012」の初日が新宿LOFTという縁で、こうしてインタビューが実現した。お話を聞きながら、今回のツアー、そして2013年の1月に控えているZeppツアーで、さらなる変身を遂げるだろう彼女たちが楽しみになった。(interview:やまだともこ)
わからないけどワクワクする感覚を信じたい
── 昨年ドラムの高橋さんが脱退されて、2人になってから初のフルアルバムがリリースされますが、2人になってどんな意識の変化がありましたか?
福岡:意識の変化は…今に至るまでに最初の雰囲気とはずいぶん変わりましたね。最初はなんとかせねばという気持ちがすごくあったからその時点で3人の時とは違いますけど、当時は2人でやるって腹括って、1人抜けた分も補わなければとか、でも進まなければとか、そういう狭間にいました。
── 不安とかもありました?
福岡:めちゃくちゃありましたけど、それよりは楽しそうというほうが勝ってました。
── それは、これからどうなるんだろうという楽しみ?
福岡:どうなるんだろうというよりは、もしかしてなんとかなるんじゃないかなという。何も出来てない状態で、これはちょっと面白いことになりそうだぞって感覚なかなかないじゃないですか。特に大人になって、いろんなものを知って、確信のあることばかりで進んできたなかで、なんかわからないけどワクワクするっていうのを信じたかったし、そこに飛び込むことに2人とも怖いとは思ってませんでした。
── そのタイミングで福岡さんはベースからドラムに転向されましたけど、なぜドラムを叩こうと思ったんですか?
福岡:最初は誰か入れようかって言っていたんです。でも、新しく人を入れるということは、前と同じ体制で前の曲を再現して、その状態でこれまでのチャットモンチーも越えていくことは気持ち的に燃えなかったんです。“音楽を作る”ということをその時は感じられなくて、もっとパンチある人いないかなって考えた結果、自分でやったらいいんじゃない? って。
── でも、ベースからドラムに変わるって、同じリズム隊とは言っても弾くと叩くでは全然違うし、そこで戸惑うことはなかったですか?
福岡:やりたいことはすごくあるんですけど、そのやりたいことが出来ないということにもう一度ぶつかりました。でも、その時は苦しかったけどしんどいと思ったことはないです。腰は痛かったけど(笑)。
── さらにドラムを叩きながら鍵盤を弾いたり、1からドラムを始めたのに鍵盤を弾きながらってすごいことのような気がしますけど。
福岡:全然すごいことはないんです。曲があって、楽器を鳴らせたらパートはなんでも良いと思っているので。鍵盤弾きながらドラムって邪道かもしれないんですけど、そこも気にしない。やりたい楽器を触って、それが合ってたからやるみたいな感じです。
── その形にとらわれない感じが、チャットモンチーらしさという感じもしています。
福岡:そうなりましたね。全然そんならしさ1ミリもなかったんですけど(苦笑)。
── そしてアルバムの『変身』ですが、これはバンドが新しくなったということを表現しているんですか?
橋本:今の私たちをまとめて表すなら『変身』かなって。
── 1曲目の『変身』も、そういったことを意識して書かれているんですか?
橋本:アルバムは『変身』って名前がいいんじゃない? って言い出した頃に、1曲目が『変身』って曲だったら良いねっていうところから作りました。
── 私はこの曲の「シンプル先生こんにちは」という歌詞がすごく気になったんです。バンドが明るく扉を開いているイメージがしたし、前に進んでいる感じもしたし、でもまずどうしたらこの言葉が出てくるんだろうって思ったんです。
橋本:『テルマエ・ロマン』で“リンス先輩”が出てくるんですけど、そのさらに上がいたらなと思って、“シンプル先生”というのが出てきて書きました。
── リンス先輩の上にシンプル先生がいると。なるほど。『変身』を聴いた時に、橋本さんの歌声は艶が増した印象を受けましたが、ボーカルに対しても何か変化があったんですか?
橋本:2人でレコーディングを始めた時に、音が少ないから声が目立つなあとは思っていて、でも録り続けていくうちに慣れてきて、『変身』を歌ってる頃は何も考えずに伸び伸び歌えました。
── 気持ち良く歌ってる感じがしますよね。この曲ではドラムを叩きながら歌われていますが。
橋本:ドラムボーカルという位置なので、歌いにくいことはやらない。無理なことはしない。出来ないし。
── 歌いながら叩ける範囲のアレンジで、と。
橋本:そうです。ここにスネアがあったらいいねとかそういう感じです。ドラムを叩きながら歌うというのは、感情とかエネルギーだけでやれるという感じがしました。ギターは繊細だし、足元にもいろいろあるから考えることが多いですけど、今私が叩いているドラムのリズムは簡単なものだし、開放的な感じで歌うことが出来てます。もしかして、すごいデトックスなんじゃないかと(笑)。
── また面白いこと発見しちゃったって感じはあります?
橋本:やり始めたころはそこまで思う余裕もなかったんですけど、今は面白いなと思います。2人でやっていくって決めた時から、何事もチャレンジするという精神ですから。