前作の『プリズム』から2年という時を経て、acariの3rd.アルバムとなる『陽がよく当たる』が6月6日にリリースされた。メンバーチェンジを経て、スリーピースとなった彼ら。これまではもっとやわらかいだったり、優しいという音を鳴らしていたが、今作ではスリーピースバンドとして硬派に、そして力強いサウンドへと変化を遂げていた。
今回はメンバー3人と、彼らを昔からよく知る新宿LOFTのブッキングマネージャー樋口寛子女史を交えてお話を聞いた。リリースをして、「良い反応をもらえている」とメンバー3人が口を揃えて言っていたが、作品にもバンドにもそれぞれが手応えを感じ、次のステージに向かっていくのだろうということを窺うことが出来た。(interview:やまだともこ)
スリーピースバンドとしてとことんこだわった
── ニューアルバム『陽がよく当たる』がリリースされ、オフィシャルサイトには樋口さんや繋がりのあるミュージシャンの皆さんからのコメントが掲載されて、どの方からもたくさんの愛情を感じました。
三浦 コウジ(Vocal,Guitar):樋口さんは、もともと今作のタイトル曲『陽がよく当たる』(M-11)を気に入ってくれていたんです。ライブで演奏したのはわりと前なんですけど、当時から「あの曲は何っていう曲なの?」と言ってくれて。
樋口:ライブで初めて聴いた時からいいな、早くCDにならないかなって思っていたから。
三浦:僕らとしてもこの曲がなかったら、アルバムが出来ていなかったと言ってもいいぐらい大切な曲なんです。というのも、昨年の震災以降気持ちが落ち込んでしまって、曲が出来ない状態が続いたんですよね。
斉藤 正樹(Drums):震災の翌日だったかな。珍しく三浦くんから電話がありましたね。
三浦:曲が出来ないということは、ライブも出来ないし、アルバムも作れない、バンドとしては活動が出来なくなってしまうんですよね。それでどんどん不安が増幅していって。でもなんとか立ち上がって出来たのが、この『陽がよく当たる』という曲なんです。バンドで合わせてみたら一発ですごく良い感じになって。まだまだやれそうだなと、もうちょっと音楽頑張ろうという気持ちになっていったんです。
── そこからあとの10曲も作り始めて?
三浦:そうです。
── 前作からこの作品に至るまでに2年という月日が流れ、その間にはメンバーチェンジもあり、バンドに大きな変化がありましたが…。
伊藤 祐介(Bass):もともとacariは、この3人で始めたバンドなんです。最初の頃はサポートメンバーを入れたりしてたんですけど、今作からまた3人になって。ここ数年のいろんな経験や成長もあり、1st.アルバムの『片想いのレッスン』を作っていた時とはもう全然違う感じですね。同じ3人なんですけど。
三浦:当時に比べるとバンドに対する意識も変わったよね。
樋口:最初の3人の時とは音源も全然違うもんね。
斉藤:『片想いのレッスン』から2nd.の『プリズム』をリリースした時って、カフェっぽいところでライブをやっていたところから、新宿LOFTとか下北沢QUEといったライブハウスで活動を始めた時期で。その時に比べても、今はバンドとして強くなったし、モチベーションも違うし、だから今回はスリーピースバンドとして、とことんこだわって作った作品なんです。
── 前作の『プリズム』に比べると音の厚みもあるし、ロック色が強い作品になったということはすごく感じました。
三浦:初めてスリーピースでライブをやった時に、すごく手応えを感じたんです。演奏にしてもアレンジにしても自然とアイディアが出てくるようになってきたんですよね。
斉藤:それぞれの責任感も強くなったと思うんです。
三浦:音の責任感という部分で、前のアルバムに比べてスリーピースだから音が薄いとかには絶対にしたくなかったし、同じ3人で作った『片想いのレッスン』と比べても、断然力強いアルバムになったと思います。
樋口:同じスリーピースでもファーストの時はこじんまりとしたイメージがあったよね。そう考えると、いろいろ経験してきたことがすごく生きてるなという感じはするね。
三浦:樋口さんと初めて出会った時って、ファーストを出してすぐだったんですよ。2009年の春ぐらいだったと思うんですけど。会って数日後にZher the ZOOでのライブを見てもらい、その後新宿LOFTのイベントに呼んでもらって。今まではカフェ的な場所でのライブが多かったんですけど、LOFTに出させてもらうようになって、意識が変わったのは今でも覚えています。ちゃんと音を遠くに飛ばさないと聴いてる人に届かないと思うようになって。
斉藤:もちろんカフェでやるのが嫌だったというわけではなくて、それを経験した上でライブハウスで演奏するほうが絶対に楽しいというか、大きいステージでやっていきたいなという気持ちが芽生えたんですよ。
三浦:実際LOFTのステージに立って、もっとたくさんの人に聴いてもらえるような音楽をやりたいなって思うようになったんです。
アイディアを共有する
── 今作の『陽がよく当たる』はアップテンポの曲が多いですよね。3曲目の『マドレーヌ』はロック色が強い曲ですし。
三浦:『マドレーヌ』は変拍子っぽいところもありますけど、3人のアイディアをごちゃまぜにした感じになっていて、間奏は僕がなんとなく歌ったフレーズを伊藤くんがベースで弾いたりしてます。今までは僕が歌詞も曲も書いて、構成まで全部作っていたんですけど、今作はある程度の形にした後はメンバーと相談しながら、いいアイディアをどんどん取り入れて、という作業が初めて出来たんです。自分にないアイディアもたくさん出てきたし、そういう状態で初めて作れたアルバムなんです。2人の成長もひしひしと感じました(笑)。
斉藤:えらそうやね(笑)。
三浦:前からメンバーの意見を取り入れながらアレンジをしたいという願望はあったんですけど、なかなかうまくいかなかったんです。でも、バンドは1人じゃないから、できるだけアイディアを共有したい。今回は、「これどう?」「いいね!」という繰り返しでアレンジもスムーズに出来ました。
── ということは、伊藤さんと斎藤さんはかなりアイディアを出されている、と?
斉藤:曲に対しての姿勢は僕も伊藤くんもそんなに変わってはいないんです。歌が中心にあってというのがあるので。でもふとアイディアが思い浮かんだ時にこれいいんじゃない? って言ったことがすぐに形に出来るというか。それがすごく早かったんだよね。
伊藤:3人で意見を出してやってみようということは初めから言っていて、ダメだったら次はこれやってみようっていうのもすごくスムーズだったし、形に出来るまでの時間が前より早くなったかなと思います。
樋口:じゃあ、レコーディングもスムーズに行ったの?
三浦:録りは早かったです。ドラムとベースは2日間で11曲録れたので時間があまるぐらい。斎藤さんは少しハマったけど(笑)、うまく行ったよね。
斉藤:ハマったけど、そこまで時間はかかりませんでした。
三浦:その分、ギターと歌に時間をかけられました。まずスタジオで3日ぐらいかけて録って、コーラスとか歌とかを深沼さんの家のスタジオで録らせてもらったんですけど、雰囲気が良くてすごく歌いやすかったんです。ギターも歌も適材適所でとてもいい状態で録れたと思います。
── よりバンドっぽくなった感じがしますね。
三浦:それはありますね。ベースの伊藤くんがわりと頑固なタイプなんですよ。エフェクターは絶対に通さないみたいな頑固親父なところがあったので。それが最近はいろんなエフェクター買ってきたよとか、試したりとかして。
伊藤:大人になりました(笑)。
三浦:意識的にはちゃんと大人になってますけど、音は若返ってますよね。ファーストの時って見た目もそうですけど、なんか老けてましたよね(笑)。
樋口:落ち着いてた感じはしてたね。
三浦:まだ3年前の話なんですけどね。
樋口:まだ3年ぐらいしか経ってないんだね。