今は亡きツータンに捧げたマボロシハンターズのトリビュート・アルバム
──このDVDと同時期に発売されるのが、『マボトリ』と題されたマボロシハンターズの2枚組トリビュート・アルバムで。この作品もMAGIC TONE RECORDSとROLLER☆KINGからの販売なんですね(発売元はHandsome Tone Records)。
M:僕がお手伝いさせてもらったんですね。マボロシハンターズっていうのは奈良県出身のバンドで、僕が『ニッポンのロックンロール』を作った時にも参加してくれたんです。レコ発ライヴにも彼らを呼んだんですよ。僕は前から知ってたけど、関東の人はよく知らないだろうと思って。そのクラブドクターでやったライヴの数ヶ月後に、ギター&ヴォーカルのツータン(福本強)が亡くなってしまったんです。これからもっと一緒にライヴをやれたらいいなと思っていた矢先に。
──確か、マボロシハンターズはその年(2008年)のリー・ブリロー追悼ライヴにも出演する予定だったんですよね。
M:そう、呼んでたんだけど、ライヴの1週間くらい前に突然ツータンが亡くなって、来れなくなっちゃって。
──マボロシハンターズの音源をMAGIC TONE RECORDSから出したい、マボロシハンターズこそMAGIC TONE RECORDSに最も相応しいグループのひとつだったとマモルさんは当時のブログに書いていましたね。
M:ツータンともCDを出せたらいいねと話していたんです。と言うのも、彼らには凄くいい曲がたくさんあるんだけど、ちゃんと世に出た音源はCDとEPが1枚ずつだけなんですよ。そういうのんびりしたペースのバンドでね。
──マモルさんから見たツータンさんはどんな方だったんですか。
M:「奈良のミック・グリーン」と呼ばれた男で、体がでかくてねぇ。もともと力士だったことを亡くなった後に知ったんですよ。でも、見た目と違ってナイーヴで、曲作りのセンスも凄くあった。
──MAMORU & The DAViESは『かくかくしかじか』という曲をカヴァーしていますが、これはマモルさんのお気に入りということで選ばれたんですか。
M:もちろん好きな曲なんだけど、マボロシハンターズのベースをやっていたタニー(谷藤広明・The Specialty's)から「この曲でお願いします」と言われたんですよ。ツータンが一番最初に書いた曲らしいってことでね。半ば命令で(笑)。タニーはこのトリビュート・アルバムの企画者で、前からこういうアルバムを作りたいねと話してたんですよ。これだけの数のバンドを取りまとめたわけだし、よくやったよね。
──DAViESの『かくかくしかじか』は、カヴァーだと言われなければマモルさんのオリジナル曲だと思う人もいるんじゃないですかね。
M:うん、そうだね。ポップでいい曲ですよ。
──DAViESを筆頭に、THE PRIVATES、片山ブレイカーズ&ザ☆ロケンローパーティ、ザ・サイクロンズ、博多ザ・ブリスコ、YOUNG PARISIAN、ザ・たこさん等々、総勢45組が参加しているのはマボロシハンターズが如何に愛されていたのかを如実に物語っていますが、日本にはまだこんなに面白いパブ・ロック系バンドがいるんだと窺い知れるアルバムにもなっていますよね。日本のパブ・ロック名鑑的アルバムと言うか。
M:東京には少ないけど、京都や大阪には土壌的にそういうバンドが多いんです。マボロシハンターズと知り合って、このトリビュートに参加してる若いバンドと出会うケースが増えましたね。どういうわけか、関西にはパブ・ロック好きな連中が多いんですよ。まぁ、ごく一部のエリアにギュッと凝縮されてるんだろうけど、あまり流行に左右されない土壌っていうことなのかな。
埋もれてしまった名曲をリリースしていきたい
──日本のバンドだけではなく、カウント・ビショップスの初代ヴォーカリストだったマイク・スペンサーのカンニバルズが参加しているというのも凄いですよね。何せあのジョニー・ロットンよりも先にセックス・ピストルズに誘われた人ですから。
M:そうなんですよ。いろいろとツテを辿ってね。カンニバルズが4年前に初来日した時に僕もマイク・スペンサーに会ったことがあるんですけど、マボロシハンターズはその時にカンニバルズのサポートをやっていたんです。
──アルバムの最後に『I Want To Hug You』というツータンさんの未発表デモ音源が収録されていますけど、これも胸を締め付けられる憂いを帯びたメロディが素晴らしくて、バンドとして完成させていたら代表曲のひとつになっていただろうなと思いました。
M:とにかく彼は無類の音楽好きで、変わったヤツでしたよ。『ニッポンのロックンロール』のジャケットは参加してくれたバンドマンの合成写真なんだけど、ツータンは何を考えたのか阪神タイガースの帽子とユニフォームを着た写真を送ってきましたからね(笑)。「それでいいのか?」って訊いたら「いいです」って(笑)。
──ツータンさんはマボロシハンターズの新曲をカセット・テープに入れて、いろんな人たちに渡していたそうですね。
M:もったいないよね、売れば良かったのに(笑)。彼はそうやっていろんな人に聴いてもらうのが好きだったみたいだね。あと、郷ひろみの曲をパブ・ロック調にしたのを配ったりもしてたんだけど、それがけっこう格好良かったんですよ。
──このトリビュート・アルバムを聴くと、余計にマボロシハンターズのオリジナルを聴きたくなるんですよね。
M:そうでしょう? 僕もオリジナルを入れろってタニーに言ったんだけどね。半分をオリジナルにすれば良かったんじゃないかな。そうすればカヴァーとオリジナルの違いが分かるからね。
──このトリビュート・アルバムと同じ曲順のベスト・アルバムをMAGIC TONE RECORDSからいつか出して頂きたいですね。
M:うん。奈良や京都だけに埋もれてるのはもったいないしね。だから今回はROLLER☆KINGの力を借りてちゃんと全国流通させたかったんですよ。そうすればマボロシハンターズを知らない人たちにも聴いてもらえるチャンスが増えるし。
──マモルさんは以前から「ヴィジュアルやイメージばかりが先行する近頃のロック界で、どこか埋もれてしまってる名曲をリリースできたらというのが僕の思い」と語っていましたよね。話題性だけならすぐに仮面が剥がれるけど、良い曲は100年経っても色褪せない、と。
M:今も思いは同じですね。マボロシハンターズの音楽はまさにそういう類のもので、埋もれているのが単純にもったいない。そういうバンドはマボロシハンターズ以外にもまだいっぱいいるんです。
──ところで、今年も4月7日が迫ってきましたね。18年にわたって開催され続けているリー・ブリロー追悼ライヴですが、今年は久し振りにシェルターでやって頂けるということで。
M:まぁ、クラブドクターが新宿からなくなっちゃったからね(笑)。リー・ブリローが死んだ年からずっとやってるけど、別に意地でやってるわけじゃないんですよ。シェルターでやってた時期が長いからシェルターのイメージが強いけど、一番最初はロフトだったんです[1994年7月15日。マモルは「SHOT GUN BLUES」として出演]。最初はこんなに続くとは思わなかったけど、要するにやってて楽しいんでしょうね。ドクター・フィールグッド好きな連中が集まってワイワイやるから純粋に楽しい。