シングル・コイルをちょっと歪ませた音が好き
──ギターの音色も真っ直ぐで温かみがあってマモルさんらしいと思うんですよ。1曲目の『森へ行こう』はイントロの歯切れの良いカッティングからしてシビレるんですが、ギターの音決めもやはり試行錯誤したんですか。
M:ギターのピックアップにはハム・バッキングとシングル・コイルっていうのがあるんです。シングル・コイルはテレキャスやストラト、ハム・バッキングはレスポールや335なんかですね。『森へ行こう』はパンク・ロック調だから、音が太くてキレのいいシングル・コイルがいいわけですよ。
──ザ・ジャムを彷彿とさせる部分もありますしね。
M:うん、僕はああいうのが好きだから。デモの段階でハム・バッキングとシングル・コイルを弾き比べてみるんだけど、家にある安っぽいレスポールを弾いてみても、自分はシングル・コイルをちょっと歪ませた音のほうが好きなんですよね。でもそうなると、結局は全部似たような音になっちゃうんですよ(笑)。ラモーンズとかピストルズとか、レスポールを使った歪みの太い感じの音は聴くぶんにはいいんだけど、自分のサウンドにはどうもしっくり来ない。それよりも僕はエルヴィス・コステロとかジョー・ジャクソン、ジャムみたいに軽く歪んだチープな音のほうが好きなんだなと今回気づきましたね。ホントは勇気があればレスポールを使ってハードなリフを弾いてみたいんだけど、僕には勇気がないんだね(笑)。
──レスポールを使うには勇気が必要なんですか(笑)。
M:いつもやってみたいとは思うんですけどねぇ。なぜかその域まで行けないんです。
──ところで、『森へ行こう』の“目に見えない不安は知らねぇ”や『マボロシ』の“あれがマボロシだったら/どんなに気楽だったんだろうか”といった歌詞は東日本大震災やそれに伴う原発事故のことを思わず連想してしまったんですが、何か関連性はあるんでしょうか。
M:いや、そうじゃないんですよ。歌詞は全部その前に書き上げてましたから。付け足したり、ちょっと変更した部分もあるんですけどね。
──まぁ、世の娯楽を原発や震災のこととつい重ねてしまうのは我々の悪い癖なのかもしれませんけど。
M:そうでもないでしょう。ただ、あの地震は特別にもの凄かったけど、その前から色々と異変は起きてたし、原発だって不安視されていたわけで、今回の震災がきっかけで唄うことがガラッと変わるわけじゃないよ、って言うか。確かに大きな出来事だったけど、だからと言ってそのことに影響を受けた歌が出るってわけじゃない。言い方を換えると、地震があってもなくてもそんなに変わらないもんなんですよ、少なくとも僕は。もちろんみんなが良く変わってくれればいいけど、僕はちょっと違う。上手く言えないんだけどね。
──実際、震災直後のブログにも「結局、僕にできることはロックンロールです」と書いていましたしね。
M:うん、僕の中ではそう思ったんですよ。
──まぁ、そういったことを抜きにしてもマモル・ワールド炸裂ですけどね、『森へ行こう』は。“バクダンより オレにはたくあん”というフレーズの脱力感たるや、如何にもマモルさんらしいじゃないですか(笑)。
M:そういうのが歌詞ノートのどっかに書いてあったんです。これはおもしれぇなと思って、いつか曲にしてやるぞと(笑)。
──レコーディングは震災を挟んだ時期だったんですか。
M:挟みましたよ。よく覚えてるのは、『森へ行こう』の仮歌を唄ってる時にあの地震が来たんです。ツアーをやりながらデモを録ってた時期で、リズム・トラックを録るのが間に合わなくて焦ってたんですよ。
──機材が倒れたりしませんでしたか。
M:ウチは大丈夫でした。地震が来た時は“おお、ヤベェ!”ってウチを飛び出て、その後何度も地震が来たんだけど、“今日中に歌を入れなきゃヤバイんだけどな…”なんて考えてましたね(笑)。まぁ、怖かったですけどね。ちょっと仮歌を入れたらまた揺れて。休み休みだったんですけど、結局その日のうちに全部入れました。
──あんなに酷い揺れの中で“オレのヘイル!ヘイル!はゴキゲン”って唄うのもツラいですよね(笑)。
M:ただ怖かったですねぇ。自分の気持ちを込める余裕もなく、仮歌だから淡々と唄って曲のアレンジを進めなきゃいけないことで頭がいっぱいでしたよ。