帯に燦然と輝く「芥川賞5回落選!作家」のコピー。本誌でも連載をお願いしている、戌井昭人氏による短編小説集が、この『酔狂市街戦』である。表題作、『酔狂市街戦』に登場する、酩酊し過ぎて京都市街で楽器を片手に空想のゲリラ戦を展開するバンドマン一行をはじめ、戌井氏の作品には「酔った狂人」が頻繁に現れる。この「酔った狂人」は、非常にはた迷惑な存在ではあるのだが、彼らが発する言葉や行動からは、時に人間という存在の真理を考えさせられる……というのは言い過ぎだろうか。かつて氏からお話を伺った際に、「俗的なグローバリズムが厭だ」と嘆いておられたが、そのような時代の潮流から追い出されつつある、愛すべき落伍者たちが織り成す珠玉の作品群、『酔狂市街戦』。「文学を知らなければ、どうやって人生を想像するのだ?(アニメか)」という真意を測りかねる問いとは別次元の「落選作家」による、実に味わい深い一冊であった。(LOFT9 Shibuya:マツマル)