「ダークなエロティシズム」をテーマに5人の写真家が5組のモデルを撮り下ろしたオムニバス写真集『DARK EROS』。Jingna Zhang、沢渡朔やコムアイ、戸田真琴らが絶妙な化学反応を起こしている。その出版記念イベントが渋谷LOFT9で開催決定。ノグチユキとしてこのプロジェクトのモデル兼広報係を任命された身として、写真集の魅力をさらに広めたく、フォトグラファー笠井爾示さんと写真集プロデューサーのナガサワケンジさんのお二人にインタビューをさせていただきました。[interview 野口結生(LOFTPLUSONE)]
『DARK EROS』とは
----写真集『DARK EROS』とはどんなものを作ろうとしたんですか。
ナガサワ:ゴシック的な中にある重たいエロスのようなものって、最近見ないなと思って。僕自身もエロティックとかフェティッシュなカルチャーを、俗っぽくじゃなくて、クリエイティブな見え方ができないかという活動をしているので、どーんとしっかり王道をいくようなエロスを、しっかりとしたクリエイターで作ってみたいなと思ったんですよね。
----このプロジェクトには5名のカメラマン、10名のモデルが集まりましたが、どのように選んだんですか?
ナガサワ:ダークエロスというテーマと、このカメラマンとこのモデルの組み合わせで起こす化学反応が見たい、といった感じで選びました。
----笠井さんの作風はダークといった感じではないですよね。このテーマを投げられた時にどう思いましたか。
笠井:正直に話すと、難しいなと思いました。自分は日々写真を撮っていく時に、仕事の写真と、個人的な作品、作品撮り...っていうのは好きではないのでそういう言い方はしないんだけど、そういった撮り方が大きく分けて二つあって、全然違うスタンスでやっていて。これは仕事なのか作品撮りなのかを含めて、中間なところが結構ありました。コンセプトがあるので、そこに向けてといった感じではあったけれど、普段作品を撮っている時って別にコンセプトありきで撮っていなくて、結果的にエロチックな写真にはなるかもしれないけど、大前提としてエロスを撮ろうというところからは出発していなくて。そういうのもあるからお題としてダークエロスという作品に仕上げるというのは自分的には難しい行為だなと。逆に言うと、やりがいがあるという意味でもあるんですけどね、自分もどんな化学反応が起きるか分かりませんでした。
ナガサワ:そこで、さらに笠井さんには制約というか足枷的なものを設けてみました。それがメイド衣装だったんです。それでどう出てくるかなと。
笠井:メイドっていうのは分かりやすいお題だったから、普段作品を撮っている様なことをメイドですればいいんじゃないのかなと思って、そもそも僕は写真を観念的に捉えたくないっていうのがあって、感覚的にやりたくて。だからメイドだからどうしよう...とか考えてしまうとすごくつまらないものになるんじゃないかと思いました。よくラブホテルで撮影をしていて、ラブホテルで撮ることにすごく意味を持っているわけではないんだけど、日々撮影をするときにスタジオで撮るよりもリアリティが出るっていう意味合いもあって。そういう、普段、撮影をしているところを使おうかなと。安易にそうなったのではなく正攻法だなと。
ナガサワ:ユキちゃんは実際どうだったんですか? 笠井さんのモデルをしてみて。
----メイド服も笠井さんの撮影のスタイルも、今までは自分とは別ジャンルのものだと思っていたんですけど、実際撮影をしたらちゃんとハマった感じがしました。うまく化学反応が起きたというか。
笠井:ラブホでの撮影のデメリットって、事前に部屋が選べないし、希望の部屋が空いてない時もあって、今回それは結構苦労しましたね。実際うまくハマったなというのと、ちょっと厳しい環境で撮ったなというのはあって。ユキちゃんのはハマりましたね、近未来的でアンドロイド感が出てるっていうか。あれが昭和の雰囲気だったら合わなかったですね(笑)。余談ですが、撮影でラブホが空いてなくてなかなか入れない時、自分でラブホ難民って言ってるんですけど、数年前の方が使いやすかったですね。今、風俗が店舗型よりデリヘルが増えていて、ホテルが繁盛してますね。え、こんな時にって時に満室だったりしますね。こっちからすると大変な時代になっちゃったなと(笑)。
写真を取り巻く環境
----今回、『DARK EROS』の他の作品で興味が沸いたものはありましたか?
笠井:これは仕方が無いんだけど、沢渡さんが好きなので(笑)、沢渡さんは最近ずっとデジタルで写真を撮っていてフィルムを使ってない時期があったんですけど、『DARK EROS』ではフィルムで撮っているじゃないですか。そこに気合の表れが見えるなと思っていて。やっぱり沢渡さんには嫉妬しちゃいますね(笑)。あと、視点は変わっちゃうんですけど、僕がここ数年で仕事で撮った人で、誰が印象に残っているかと聞かれたら確実にコムアイって言ってるんですよ。一回だけなんですけど彼女の撮影をしたことがあって、この子は感覚的に動けて、被写体として面白いなーと思いました。なので今回、『DARK EROS』ではどういう風に撮られるんだろうって興味はありました。
ナガサワ:コムアイ×ジンナの撮影ではいろいろと学ぶものが多かったですね。ジンナさんはNYを拠点に活躍するフォトグラファーなんですが、作家性の強いアーティストで、コムアイさんはとても協力的だったんですけど、どうしても制約もそれなりになくはない。そこで難しい調整になってくるのは、フォトグラファーの持つ著作権と、肖像権のバランス、とか。日本では肖像権とかタレントさんの方がパワーバランス的にいうと強い傾向にあるけど、欧米ではちょっと様相が違うぞ、とか。そういった点も写真を取り巻く環境としてイベントで話せると面白いかなと思っています。
笠井:僕も良かれと思って撮っているものが事務所のNGが入ってしまって、壁を感じる時はあります。仕事だったら割り切れる部分はあるけど、少なくとも作品撮りはそういうストレスは抱えたくないと思っている。けれど、やはりうまくいかない時はありますね。日本ってそういうところがあるなあと。ただ僕は日本のこういう環境には理解はある方ですけどね(笑)。