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鳥越規央(江戸川大学客員教授)×カネシゲタカシ(漫画家)(Rooftop2018年7月号)

 あなたは「セイバーメトリクス」という言葉をご存知だろうか。セイバーメトリクスとはプロ野球ファンなら一度は目にしたことがあるであろう「OPS」や「FIP」、「UZR」、「WAR」といった、単純に打率や防御率だけでは測れない選手の本来の能力を統計学の観点から分析した指標のことである。この度、来る7月19日(木)に開催されるイベント、「セイバー語リクスナイト」を前に、出演者であるセイバーメトリクスの日本における第一人者・統計学者の鳥越規央氏と、漫画家で『ツイッター野球大喜利』主宰のカネシゲタカシ氏のお二人に、お話を伺った。[Interview:マツマル(LOFT9 Shibuya)]

徐々に浸透してきているセイバーメトリクス

 

―Yahoo! の『スポーツナビ』という媒体で連載していたお二方のコラムが個人的にすごく好きでして、ぜひウチでもセイバーメトリクスのイベントを! …ということでお声がけしたのですが、まずお二人の出会いというか、どういった経緯でコラムを連載することになったのか伺ってもよろしいでしょうか。

カネシゲ:実はもともと知り合いではなく、『スポーツナビ』さんがキッカケで一緒に仕事させていただくことになった感じですね。

鳥越:僕の方はお会いする前からカネシゲさんの『野球大喜利』に投稿していたんですが、一度も採用されたことがなくて(笑)。

カネシゲ:みたいですね(笑)。言われるまでは全然知らなかったですけど。『スポーツナビ』の連載はもともと3回くらいで終わるはずだったんですけど、なかなか好評とのことで、9回もやらせていただきました。

―本当に毎回面白く読ませていただいてます。映画の『マネーボール』をきっかけに、日本でも徐々に「セイバーメトリクス」という単語を耳にするようになってきましたけど、まだまだ一般の野球ファンには浸透していない印象があるのですが、実際のところどうなんでしょうか。

鳥越:最近では札幌ドームのスコアボードに打率とか本塁打数の他にOPS(打撃指標の一つ。後述。)とかBABIP(本塁打を除くグラウンド内に飛んだ打球が安打になった割合)とかの指標が出るようになりましたし、少しずつではありますが、認知されてきているのではないでしょうか。

―たしか球場ごとでもフェンスまでの距離とかで指標が変わってくるんですよね。

カネシゲ:えっと…それは「パークファクター」のことですかね?

―カッコいい! 声に出すだけで野球に詳しい感じが出ますね。

カネシゲ:鳥越さんとの連載コラムで覚えた単語ですけどね(笑)。セイバー系の単語は野球通な感じがでるので積極的に使っていこうと思ってます。

―たしかに急に通っぽくなりますね(笑)。セイバー初心者向けの面白い指標はありますか?

鳥越:まずはOPSからですかね。OPSは「出塁率」と「長打率」を足し合わせた指標なのですが、計算は簡単だけど「数値が高いほど得点力があるバッター」を見いだせるというものです。セイバーの中では最も普及しているのではないかと思う指標のひとつなので、早くNPBの公式記録として採用してほしいですね。

カネシゲ:でもNPBのサイトを開いても「通算打率」ですら上位30傑までしか書いてなかったり。データの地位がまだまだ低いですよね。

鳥越:MLBの場合はバリー・ボンズ(MLB通算本塁打王)の「打順別打率」を公式で発表したりしてますし、セイバー的な意味ではだいぶ遅れをとっていますね。

カネシゲ:OPSひとつ取るだけでも話は尽きないんですけど、OPSだけでは「セイバーメトリクス」という大きなボールパークの入場券すら買えていないような段階ですからね(笑)。

 

強いチームはフロントが作る!

 

―映画『マネーボール』はアスレチックスのGMであるビリー・ビーンがセイバーを駆使してチームを強豪に育て上げる、というシナリオでしたが、実際にNPBでもセイバーに力を入れていると感じるチームはありますか?

鳥越:先ほど挙げた札幌ドームを本拠地にする日本ハムファイターズは2005年からセイバーメトリクスを導入しており、かなり力を入れてますね。それまでの現場の首脳陣による勘や経験則による運営ではなく、フロントがデータを駆使して行う球団運営にシフトチェンジしたのです。それは1軍監督の人脈でコーチを選ぶのでなく、フロントが定在適所のコーチを選ぶことにあらわれています。

カネシゲ:セ・パだとセイバー面で力を入れているのはどちらのリーグなんですかね?

鳥越:やっぱりパ・リーグでしょうか。日本ハム、ソフトバンク、楽天はしっかりやっているイメージです。

―セ・リーグでセイバーに力を入れているのはどこなんですかね? 最近だと広島とか?

鳥越:広島は素材の力ですね(笑)。導入しているのはDeNAでしょうか。

カネシゲ:鳥越先生曰く、一番遅れているのは中日とオリックスとのことですよね。

鳥越:どちらも素材はいいんですけどね。運用が「勘」なのかなと。あくまでイメージですけど(笑)。

―鳥越さんは阪神のファンですが、セイバー的に見るとどうですか?

鳥越:タイガースはピッチャーは優秀なんですけど、攻撃と守備がなあ…(笑)。

カネシゲ:ネット上ではコーチ陣が悪いという意見が多いようですけど、例えばセイバーに強い指導者と言えば誰でしょうか?

鳥越:やはり中日の監督だったときの落合(博満)さんは凄かったですね。技術指導もさることながら、データの見方もしっかりしていたので、中日を9年連続Aクラスの常勝集団を指揮できたんだと思います。

カネシゲ:その落合さんの懐刀である森繁和さんが監督になったのに、中日はやや低迷してますよね。

鳥越:今は首脳陣にチームの全てを委ねるのではなく、フロントがチームを強くする時代ですから。昔は税金対策とかもあり、「球団が赤字でも親会社が補填するからいい」という考え方だったところが、今の楽天やDeNAは「球団経営自体を黒字にする」という考え方なんです。

カネシゲ: DeNAにはデータ解析の専門部署や、VRで相手チームのピッチャーと対戦できるような設備があったりして、セイバーの重要性がさらに増してきているのかなと感じました。

鳥越:そこで元から「データマン」と言われていたほどセイバーに明るいラミレス監督を起用したのも実にDeNAらしい人事起用だと思いましたね。

 

セイバーを知ると野球がもっと楽しめる!

 

―もしもNPBからセイバーメトリクス顧問としてオファーされたらどうします?

鳥越:オファーされたらやります(即答)。それこそNPBに埋まっている膨大なデータをまとめて打順別の選手成績をまとめたり、MLBに負けないくらいのデータベースを作りますね。

―でも本当に実現したら、WBCでも勝てるようになるかもしれないですよね。

鳥越:うーん、短期決戦は調子に左右されるので、一概にそうとも言えないところはありますけどね。

―今回のイベントの出演者でいくと、鳥越さん、カネシゲさんの他にロフトグループの常連出演者の一人、桃井はるこさんもかなりの野球通ですよね。

鳥越:桃井さんとはもともと長い付き合いでして、大学の授業の講師としてお招きしたこともありました。この面子の中でも遜色なく野球談議を繰り広げてくださるのではないでしょうか。

カネシゲ:あとはなんと言っても今まで正体不明だった、えるてんさんのイベント初出演ですよね。単純にすごく楽しみです。えるてんさんが運営していたデータサイトには本当にお世話になっていたので。

鳥越:もちろん僕もお世話になってましたし、もしかしたらセイバー通で知られるダルビッシュも見てたかもしれないですね(笑)。

―「セイバーメトリクスでプロ野球を語る」というテーマに相応しい、濃い面子が集まりましたよね。ウチでやるような野球のイベントはファン同士の交流会とか、プロ野球のポップな部分のものが多いので、今回のようにややマニアックなものは新鮮なので、本当に楽しみです。

カネシゲ:正直、僕はそのポップな部分でしかイベントをしてこなかったので、今回に関しては完全にノープランでただの聞き手として臨みたいなと思っております(笑)。

鳥越:僕はえるてんさんの持っている膨大な量のデータから新しい議論をするのがとても楽しみです。お客さんからしてもこんな機会はないと思いますので、質問コーナーもぜひ設けたいですね。

カネシゲ:セイバーを少し知るだけで、野球を観る楽しみも格段に上がると思いますので、ディープな層はもちろん、ライトな野球ファンの皆さんにもぜひお越しいただきたいですね。まあイベント1回だけだと深すぎるセイバー界の最寄り駅の改札くらいしかたどり着けないので、シリーズ化を目指したいと思います(笑)。

 

 

Live info.

7/19(木)「セイバー語リクスナイト ~プロ野球をセイバーでちょいマニアックに語る会~」@LOFT9 Shibuya

【出演】 桃井はるこ(シンガーソングライター)、カネシゲタカシ(漫画家)、えるてんさん(元老舗野球データサイト管理人)、鳥越規央(江戸川大学客員教授)

OPEN 18:30 / START 19:30

前売¥2,500 / 当日¥3,000(税込・要1オーダー500円以上)

前売はe+にて発売中