メジャーとマイナーをつなげる妖精でありたい
──そう言えば、ラストワルツがグランドオープンに合わせてロフトヘヴンという新しい店名になるんですよ。
森若:エッ!? ...今、思わず鳥肌が立ちました。私のためにありがとうございます(笑)。まぁそれはともかくとして、ここ数年、自分はあとどれくらい唄えるんだろう? と考えることが増えたんです。9年前に清志郎さんが58歳で亡くなってからは特に。58歳なんてすぐだし、今回のGO-BANG'SのDVDで演奏してる人もすでに2人亡くなってますから。谷さんと朝本(浩文)くんがね。谷さんはGO-BANG'Sのサポートをロッカーズよりも楽しいと当時から言ってくれてて、それはロッカーズ・ファンの私としてはちょっと複雑でしたけど(笑)。朝本くんはRam Jam Worldに対してすごい思い入れがあったし、彼がプロデュースしてくれたGO-BANG'Sの曲やソロの曲もたくさんあるんです。「HEAVEN」もそうでしたしね。そういうGO-BANG'Sや私のソロに関わってくれた天国にいる人たちのことを考えると、私はまだこっちで音楽をしっかりとやり続けなくちゃいけないと思うんですよ。
──なるほど。だけど驚異的ですよね。GO-BANG'Sでメジャーの洗礼を受けながら、30年以上にわたってマニアックに自分なりの表現をし続けているわけですから。
森若:私が今日まで病むことなく音楽を楽しく続けていられるのは、自分がラクにできる方法を一個ずつ見つけて、自分が動かない時でもいかに周りのみんなに楽しく動いてもらえるかを考えてきたからだと思うんです。だからGO-BANG'Sの社長みたいなものですよね。社長室でパターの練習をする社長が理想(笑)。私が老け込まないでいられるのはそういうのも理由だと思います。
──確かに森若さんの老け込まなさは異常ですよね(笑)。
森若:かわいくなきゃGO-BANG'Sじゃないですから。それとやっぱり、ロフト感がないとダメですね(笑)。GO-BANG'Sにはロフト感があったからこそメジャー・デビューしたバンドの中でもコアなお客さんが付いてきてくれたんだと思います。ロフト感、もっと言えば根本感(笑)。GO-BANG'Sだった2人にロフト感はあっても根本感はなかったのですが、私は根本敬さんにある時期すごくかわいがってもらって、根本さんに連れられて一緒に電波めぐりをしたこともあったんです。ロフトプラスワンとかの佐川一政さんのイベントになぜか呼ばれたこともあったし(笑)。
──森若さんは華やかなメジャーな世界が本来は似合うはずなのに、リリー・フランキーさんから「文化のドブさらい」と揶揄されるロフトっぽいアンダーグラウンドの世界にも精通していて、どちらの領域も自由に行き来できる稀有な存在だと思うんですよ。
森若:私に似た人を見たことがないんですよね。近いのはKERAとか卓球、大槻ケンヂくんとかナゴムにいた人たちかな。たまに会うと親戚みたいな感覚になりますし、(田口)トモロヲさんとは今LASTORDERZというパンク・バンドをやってます。GO-BANG'Sはナゴムからリリースしたことはないけど、その関係性の近さがわかる人にはわかると思うんです。その感覚をわからない人が増えれば増えるほどメジャーで売れるってことなんですよね。さっきも言った通り、私には行動力とチャラ力があるし(笑)、それを使ってメジャーなものとマイナーなものをつなげる妖精でありたいんですよ。これが天使だといい人すぎちゃうので、水木しげる先生が妖怪なら私は妖精。悪知恵もはたらくし、イタズラもする妖精なんです。このあいだのロックカフェロフトでいいなと思ったのは、ひとりで来てたお客さん同士が一緒に呑んでたことなんですよ。そうやってファン同士が友達になって勝手に私のファンクラブをつくったり、私の周りのスタッフやミュージシャンも勝手に動いてほしいんです。なぜなら勝手に動き回るのはすごく楽しいことだから。自分がどうしてもやらずにはいられないことを友達と一緒にやるのは絶対に楽しいので。
──森若さんは社長に徹してパターの練習に余念がないと(笑)。
森若:私は月一で『KaolyriX』をやるけど、あとは自分たちで勝手に楽しんでくださいって感じですね(笑)。よく「夢中になれることがない」なんて言う人がいるけど、ある日突然、棚ぼた的に夢中になれることが向こうからやって来ることはないと思います。好きなことを追求すると夢中になっていくんです。私だっていろいろと失敗を繰り返しながら長い年月を経てバンドをやることの本当の楽しさに気づいたんだから。GO-BANG'Sも最初は「ギターを手伝って」とメンバーに言われて始まったんです。そこからバンドをやるようになって東京へ出てきて、かわいさを保ちながらロック魂をなくさないようにするにはどうすればいいのかを研究して実践していったことで夢中になれた。恋愛と一緒ですよ。一目惚れはまだ本当の恋愛じゃないでしょ? 好きになった人に告白してフラれてもまた懲りずに告白したり、付き合ってイラっとすることがあっても、それを乗り越えていくうちに本物の愛情が芽生えて...とかのプロセスが夢中ってことなんじゃないかと思うんです。...そんなことを『KaolyriX』で延々と話してると「長すぎる!」って言われるんですけどね(笑)。