作家とともに読者に名作を届けてくれる編集。普段は裏方でなかなか目に入らない編集という仕事を、インタビューという形によって、その一端を見せてくれた『"天才"を売る』。6/15に開催されるイベントを前に、編集という仕事の魅力について伺いました。[interview:柏木 聡(Asagaya/Loft A)]
最先端でスリリングな間柄
――最初に、書籍化に至った経緯をお伺いできますか。
堀田:もともと、担当編集の岸山(征寛)さんとは以前から一緒に仕事をさせていただいていて、彼と次の企画について相談した時に出した案の1つでした。ただ、僕はビジネス寄りで考えていたのですが、岸山さんに「バカヤロウ。もっと本質を掘り下げろ」と言われて今の形に。
――素晴らしい方針です。編集の方は裏方・黒子の立ち位置なので、こういった本は自画自賛に取られてしまいそうでインタビューを受ける側のみなさんもためらってしまいそうですが、そういったことがなく本音が語られているのが素晴らしかったです。
堀田:そこは気にしていた部分でもあったのですが、思った以上に率直にみなさんが自分の実感をお話いただけて、逆にそんなに本音を言っていいの? って思うくらいでした(笑)。
――だからライブ感のある文章になっているんですね。読んでいて、実際に生で話を聞いているような感覚になりました。
堀田:ありがとうございます、そうであってほしいと思っていました。もちろんチェックもしていただいたんですけど、修正はほとんどなかったんです。そこは編集者のみなさんも「生でないとダメ」と思ってくださったのかもしれないです。
――素晴らしいです。
堀田:苦労話を盛り上げるとドラマチックになるんでしょうけど、そこは担当の岸山さんの方針もあって、そういった演出なく仕上がりました。最後、みなさんが楽観的になるのも、意図せず素直にそうなっているんです。
――だから、みなさんが楽しそうなのが伝わって来るんですね。あとがきでも「みんな言うことバラバラでしょ」と言われたと。でも共通しているのも面白かったです。
堀田:そっくりでしたよね。
――なぜ、漫画編集の方にインタビューをしようと思われたのですか。
堀田:編集の方にお話を伺ったのは人間関係を書きたいなと思ったからです。それは答えがないものですが、一番複雑な人間関係ってなんだろうと思った時に、”編集と作家”かなと。友達同士や仕事のパートナー・取引先でもあり、先輩後輩でもあり、全ての人間関係の要素を含んでいるんですが、どの関係とも違う、いつ関係性が逆転してもおかしくない。もっとも最先端でスリリングな人間関係。そこが面白いと思ったんです。
面白い漫画を作っていれば結果は後から付いてくる
――確かにそうですね。
堀田:特にマンガ家とマンガ編集者の場合、性質上、編集者は絶対に自分では作品を描けない。そこが面白いと思いました
――絵が描けるから、物語を作れるからできるという仕事じゃないですからね。
堀田:更に効果音などの音楽演出もありますから、すごいですよ。
――作者のイメージがよりダイレクトに伝わってきますから。それが新しい流行になるということも多いですし。私の世代だと「SLAMDUNK」があって、みんなバスケ部に入っていました(笑)。
堀田:影響力ありましたからね(笑)。
――当時「バスケものは流行らない」と言われていて、止めることもあったそうですね。難しい題材を作家が持ってきた時にどうするかというのは作中でも書かれてますね。
堀田:みなさん、無碍にはしない、情熱を消すのはいけないことだ、面白い漫画を作っていれば結果は後から付いてくる、とおっしゃっていました。そこは夢がちゃんと評価される業界だと思っています。
――どう寄り添うかをいつも考えられていて、それもいろんな形があって答えがない。でも、根底にある思いは一緒という。
堀田:そうなんですよ。明治(理子)さんが「才能に奉仕するのは大好き」とおっしゃられているのが凄まじいですけど本質だなって。
――苦しいことも経験されていると思いますが、喜びの大きさが伝わってきて魅力的な仕事だなと感じました。
堀田:そうですよね。僕もそう感じました。
――ただ、クリエイティブなことは答えがないことですから難しい面もあると思います。例えば絶対に感想を伝えるようにしたり、作品をよくするために方向を示すのではなく、選択肢を提示するようにするのも確かにと思いました。
堀田:「決めてしまうとそれしか答えがなくなってしまう」ということですよね。あくまで自分がサブでキッカケになるということを意識してだと思います。優秀な編集は人をやる気にさせるのがうまいですよね。