Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー高野政所 a.k.a DJ JET BARON(Rooftop2016年8月号)

活動自粛から1年、高野政所が抱えている”本当のトコ”

2016.08.01

 2015年3月3日、職務質問を受けた際に大麻を所持していたとして逮捕され、いろんなものを失った男がいる。
 90年代末、大学在学中よりクラブDJとして活躍し、ユニット『LEOPALDON』におけるナードコアムーブメントの牽引や、インドネシアクラブ音楽『Funkot』の日本における伝道師として知られ、トークではメジャーシーンであるTBSラジオでのレギュラー番組も多数。2014年末、37歳にしてリリースしたメジャーデビューアルバムにはあの毒蝮三太夫氏も参加し話題となっていた。そんな中での逮捕。アルバムは配信/出荷が停止され、自身が店主をしていた"最先端かつ平均的"なクラブ『アシッドパンダカフェ』(通称アシパン)も閉店を余儀なくされてしまい、事件以降TBSラジオへの出演もない。
 活動自粛から1年が経ち、徐々にイベントにも出演するようになった現在、逮捕から今までの思いを綴った著書『前科おじさん』のドロップに先駆け、高野政所が抱えている"本当のトコ"を探る。(interview:齋藤航[NAKEDLOFT]、協力:幸野晋哉[阿佐ヶ谷ロフトA])

 

写真:現在のホームタウン戸越銀座商店街でとうもろこしをほうばる高野政所

あのおじさん変なんです!

—タイトルが『前科おじさん』。これ”直球の極み”みたいなタイトルですね。
政所:「なんだツィミは?」って聞かれた時に、『(鼻に抜けた声で)そうでス。私が”前科おじさん”でス。』って答えられるかなぁって。
—…まぁ、あそこのファミリーには”前科おばさん”もいらっしゃいますしね、同じ罪状で。
政所:元々は曲名にしたかったんですけどね。レーベルの方に止められてしまいました。内容的には、1年間の活動自粛の期間に考えていたことや、23日間の拘留の間の留置所でのエピソードなどが中心です。
—番号で呼ばれていた期間ですね。
政所::39番! ”サグ”。ひっくり返すと”クサ”。
—ああ〜運命ですねぇ(笑)。
政所:その拘留期間に記録として書きためていたノートをタマフル※の作家・古川耕さんたちに見せたら「面白いから本にした方がいいよ!」と勧められて出すことになりました。でも犯罪行為をして、法的な責任を取って、そっから手記を出版…ってこれ”少年A”と同じことしてねぇかなって(笑)。自分が犯した犯罪をネタにするなんて”中年A”とか言われて叩かれるんじゃねぇかってビクビクしながら作り上げた本です。半分ぐらいはその逮捕や拘留の頃の内容なんですが、もう半分は、活動自粛からマッサージ屋さんで働いてまして、そこでおじいちゃん・おばあちゃんと交流をしたりしているうちに感じたことなんかを書いてます。
—心温まる内容に?
政所:うーん、ほっこりする部分はあるかもしれないけど。…逮捕される前の10年間って、アシパンの店主として遊びだか仕事だかわかんないような暮らしをしてたんですよね。それが急に堅気の仕事をしなきゃいけなくなった時に『こんなに違うもんか!?』って感じて。クラブに来てるお客さんって、メチャメチャはしゃいで喜んでるじゃないですか。なんでこんな楽しそうなんだろ? って不思議だったんです。でも”週5日ガッチリ働いている人は、パーティに行かないと死ぬ”んですね。それまでは娯楽産業…音楽やパーティっていうのは生活になくてもいいものであって、俺はクラブやDJをしていても何の社会貢献もしていないと感じてたんですが、これは生きるのに、人間の生活に、必要なものだったんだなって思い直しました。
—”ハレの日”ってやつですかね。
政所:そうそう! 毎日イベントやパーティをやってると”日常”がわかんなくなっちゃう。真面目に普通に働くっていうことで見えてきたものがそれって、10年間どれだけフザけて生きてきたんだ、ってことをまざまざと感じたところでもあるんだけど(笑)。
 
※TBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』。政所氏はセミレギュラー的に出演していた。
 

反省

政所:今回の最大の焦点というか、一番重要なところは『高野政所は反省しているのか?』という部分だと思うんですけど…。
—あ、自分から言ってくれましたね(笑)。まさにそれをお聞きしたいと思っていたんですよ。
政所:反省してるかしてないかって聞かれたら「反省してる」としか言えないですよね。だって「反省してない」なんて言ったらそれだけでアウトですから。「反省してます」っていくら言っても「口だけだろ」って言われたらそこで終わってしまうし。言葉をどう受け取られるかは、その人と俺との関係性によるものなんですよね。23日も拘留されたらそりゃ反省しますよ! 面白いこともあったけど基本は辛いですから。自粛している間もやりたいことができない辛さは常にあって…それで1年経って、Twitterで「このイベントで活動再開します」って告知したら「早すぎる」って意見もありました。でもそれはしょうがないんですよ。1年間の活動自粛を経ても、反省してると思ってもらえない人には、俺はもうどうしようもないなって。このインタビューを読んでる人にも、反省していると思うか思わないかは委ねます。俺が許されるのか、それとも”少年A”的な扱いになるのかは世間に委ねようと。そこで試されるのが俺の『ひょっとこ力(りょく)』ですよ。
—ひょっとこ力?
政所:昔から言われていることで『おかめとひょっとこ』ってあるじゃないですか。あれは日本人が理想としている姿なんですよね。おかめっていうのは今はあれですけど、当時では色白で下ぶくれというのは相当な美人の姿であって、対になるひょっとこっていうのは、要は「ひょうきんもの」なんですよね。ひょうきん、つまり愛されていることで、なんとなく世は渡れていくもんだっていうのは諸先輩方が示してくださってますし。そういう人をアルバムでは『面白おじさん』と表現してみたんです。今回はちょっと度が過ぎてしまったわけですが、今こそ俺の『ひょっとこ力』が試されているところなんじゃないかと。今までの人生の『ひょっとこ業(カルマ)』が清算されるタイミングなんじゃないかな? とも思っているんですよ。急にそれまでフザけてきた奴が真面目になるのは求められていないと思うし、シャレにならないことが起きた時に、どれだけ自分はひょっとこを続けられるのか? というところを試されている感じはありますね。
—結局、政所さんは何に対して一番反省をしたんでしょう?
政所:一番は”逮捕されたこと”に対してですね。おまわりさんにも言われたんですが「(単純所持による)薬物犯罪は被害者がいない」と。逮捕された時に周りに迷惑がかかるということが一番悪かった。仕事を飛ばしてしまったり、アシパンに来てくれていた人たちが行き場を失ってしまったり、そういうところに対しては本当に申し訳なかったですし、反省しました。大麻使用に関しては「本当にワリに合わないから止めとけ」って言い続けます。合法化については日本も徐々に変わっていくのかもしれないですけど、現時点では本当にリスクでしかない。ワリに合わない。この本の最後にアートワークを担当してくださった高橋ヨシキさんとの対談があるんですが、そこでも同じ結論で。ただ、犯罪の大小ではないですけど、みんなYouTubeとか見てるでしょ? ベッキーに誘われたら行くかもしれないでしょ? と思っている部分はありますけどね。
—どんどん他人を許さない社会になってしまっているとは感じますよね。例えば普段の仕事や生活でも何かのポイントで人のミスを指摘したとすると、同じことで自分は絶対にミスしてはいけないという風潮だったり。ある程度お互いでフォローしあって指摘し合えればいいんじゃないかとも思うんですけどね。
政所:逆に人に超厳しくしてる奴がミスると誰もフォローしてくれなかったりしますからね。インドで言われているような『人は人に迷惑をかけて当たり前なんだから、人から受けた迷惑は大目に見よう』みたいな寛容さが日本ではどんどん失われているなって思いますよね。
…とか言ってると、「やっぱり反省してないじゃねぇか!」って言われちゃうから難しいですが(笑)。最近気づいたんですけど「よろしくお願いします」って超ずうずうしい言葉ですよね。他人にお願いをするにあたって”コッチに良きようにしてください”ってことですから。それをみんな当たり前のように決まり文句として「よろしくお願いします」とか言って。だから俺も使っていこうと思います。「高野政所、『前科おじさん』をよろしくお願いします。」

高野政所
『前科おじさん』

ISBN978-4-905158-35-6
本体1500円+税
四六判並製/モノクロ/240ページ
スモール出版

amazonで購入

“声だけで信頼できる男”と呼ばれながら、結果的に多くの信頼を裏切ることになってしまった高野政所。留置場で罪の重さを痛感しながらも、ついつい出逢ってしまうおもしろおじさんやトホホな出来事。苦悩と哲学、脱力と爆笑、そしてDJ復帰の道のりまでを赤裸々に綴った初エッセイ集。

盟友・漫画家ジェントルメン中村によるコミック「実録・渋谷警察署内留置場第八居室 ボスと呼ばれた男!!」、敬愛する映画ライター&デザイナーの高橋ヨシキとの対談も収録!

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