自分とは対照的なSEIZIの歌声の魅力
──今作は去年の9月に新曲のリハーサルを始めてから完パケするまでの約5ヶ月、緻密な作業を繰り返した末に完成に漕ぎ着けたそうですね。
OKI:制作に取り組むスイッチが割と早く入ったので、今回は余裕を持って曲を準備することができたんです。去年の秋口くらいに作品がまとまり始めて、それからメンバーにスタジオまで来てもらって、少しずつアレンジを試して肉づけをしていく感じでした。それと並行してツアーもあったので、凄く根を詰めて作業を重ねたわけでもなかったんですけどね。程良いペースでアルバム作りと旅回りができたし、楽しい作業でしたよ。
──年末のTSUTAYA O-WESTでのツアー・ファイナルを終えてから中一日で新曲のスタジオ・リハーサルをされていたし、相当な気合いの入れようだなと思ったのですが。
OKI:制作のオンとオフのメリハリを以前よりもつけるようになったんです。オフの時はまるっとオフにするし、自分一人で曲作りに籠る時間帯もあらかじめ決めて取りかかる。そこでメンバーと次に会う時までに某かのプレゼントを掘り下げる。課題とも言いますけどね(笑)。
──タイトルトラックの「約束の場所」が出来てから枝葉が分かれるように他の楽曲も完成していった感じですか。
OKI:いろんな曲が相互にリンクし合っていたし、割と同時に出来ていきましたね。大きなテーマが幹としてあって、そこから派生する断片がいろんな曲の適材適所に散りばめられているんです。
──「GREEN DAYS GREEN」から「HOPE IN MY HEART」まで、SEIZIさんの唄う歌とOKIさんの唄う歌を交互に並べて聴かせる中盤の流れがいいですよね。
OKI:あの流れは俺も気に入ってます。一枚のアルバムの中にSEIZIのボーカル曲を3曲入れるのは初の試みだったんですよ。と言うのも今回、自分が思い描いていた音世界のひとつとして、俺の歌とSEIZIの歌が対を成す感じを構築してみたかったんです。俺が書く歌のザラッとした感触やソリッドな感覚に対して、SEIZIの書く歌には独特の世界観があるじゃないですか。それが程よくマッチする構成にできるんじゃないかと思って。
──たとえば「ALWAYS LOVING YOU」のように衒いのないラブソングは、SEIZIさんの素朴で柔らかい歌声だと余計に沁み入るところがありますね。
OKI:SEIZIの声は独特のポップさを持ち合わせているんですよ。曲も含めてね。
──跳ねるリズムが軽快で心地良い「GREEN DAYS GREEN」なんてめちゃくちゃポップですよね。
OKI:「GREEN DAYS GREEN」は俺も好きです。ああいうSEIZIの歌を今回は特にいい形で活かせましたね。
──ビーツは硬軟両様のボーカリストがいるのが魅力だし、SEIZIさんの歌がOKIさんの歌を際立たせている部分もあるし、その逆もまた然りですよね。
OKI:良い意味で硬軟の関係だと思うし、硬軟があることで全体が緩急のついたバランスになっているんじゃないですかね。
──同じ唄い手として、SEIZIさんのボーカルをどう見ていますか。
OKI:自分の歌をざらついたもの、尖っているもの、鋭角なものとするならば、SEIZIの歌声や風情は俺と対を成す意味でまろやかさや大らかさ、ふくよかさがありますね。やっぱり互いに硬軟の持ち味があるんだと思います。ずっとその形でやってきたし、それがライブの中でもフックの役割になっているんでしょう。
──そんな硬軟の対を成す二人が共作した「紺碧の空高く」はスケールの大きい歌の世界観が魅力ですが、曲作りの上でどんな役割分担だったんですか。
OKI:もともと俺が「紺碧の空高く」という曲を一人で書いていて、それと同時期にSEIZIが書いていた曲のアイディアが大筋でそっくりだったんです。自分の曲をベースにはしているけど、たまたま二人の考えるアイディアがあまりに似ていたのでクレジットを共作にしたという珍しいパターンなんですよ。いままでのキャリアでもなかなかなかったことですね。
──歌詞の共作の場合は、SEIZIさんの歌詞にOKIさんが適宜に添削するケースが多いんですよね。
OKI:だいたいそうですね。俺が補作詞したり、SEIZIが持ってきたものをまとめたり。「紺碧の空高く」の歌詞は共作じゃないですけど、スケールの大きさやおおらかな歌詞を書きたかった部分で俺がSEIZIの持ち味に寄ったところがあるかもしれません。
──そう言えば、今回のレコーディングではOKIさんのサブ・ギターであるフェンダーのスクワイヤーをSEIZIさんがプレイするという珍しいことがあったそうですね。
OKI:SEIZIがレスポール以外のギターを弾いている写真をブログに載せたのが初めてだっただけで、特に珍しいことじゃないですよ。逆に俺も、過去にSEIZIのレスポールを使ってサイド・ギターを録った曲がありますしね。今回はちょっとした味つけと言うか、アクセントとなるようなフレーズを弾くのにSEIZIがフェンダー・スクワイヤーを使ったんですけど、それがどの部分かはたぶん聴いても分からないんじゃないですかね。
ビーツを気に入ってもらえるのは奇跡の出会い
──踊るような明るい表情をたたえた「歌うたいのクロニクル」は、ちょっとアイリッシュな佇まいも感じられて新鮮ですね。
OKI:そういう雰囲気もあるかもしれませんね。「歌うたいのクロニクル」の印象的なギターのメイン・メロディはSEIZIが基本的に2本のギターを重ねて録ったことで独特の響きになって、ちょっとしたオーケストレーションみたいに仕上がったんです。8分の6のリズムだから軽快な雰囲気があって、自分の中では旅者一座や大道芸のイメージがあったんですよ。遊園地とかメリーゴーランドみたいなニュアンスを出してみたかったと言うか。流浪する旅人のイメージや世界観が自分の中にあったんでしょうね。
──仮にシングル・カットするならおあつらえむきな、疾走感とキャッチーさが溢れる「STRAIGHT SOUL'S LULLABY」は、コナミのモバイル・ゲーム『クローズ×WORST V』の中で流れる“Mobile Version”があるそうですね。
OKI:アルバムに入れたのとはミックス違いですね。去年、曲作りを進めていた頃にモバイル・ゲームのタイアップの話をいただいたんです。その時点で「STRAIGHT SOUL'S LULLABY」はすでに存在していて、他にも候補曲はあったんですけど、先方がこれが欲しいということで選ばれました。既存の曲ではなく新曲がいいということだったんで、ちょうどいいタイミングでしたね。ゲームのユーザーとロックのリスナーはまた違うだろうし、しかも無料配信されるわけだから、これをきっかけにビーツを知る裾野が広がれば嬉しいです。音楽単体でもこれだけ多岐にわたるジャンルが存在したり、音楽以外にも多種多用の娯楽がいくらでもある中でこうしてビーツの音楽を知ってもらえる機会があって、ましてや気に入ってもらえたならそれはもう奇跡の出会いですよ。お互い出会うことなく過ぎ去っていくことのほうが圧倒的に多いわけですから。
──ビーツの場合、数あるストックの中からアルバムの収録曲を精選することが多いのですか。
OKI:いや、俺は寡作ですからね。曲の断片的なものはむしろ最後までちゃんと形にすることが多いです。とは言え、ストックしたものはいくつかありますけどね。今回も少し手をつけて今後のために取っておいたものが3、4曲はあります。それは今回のアルバムにはそぐわないとか、また次の良いタイミングで形にしようということで取ってあるんです。
──レコーディングが完了した時、OKIさんがブログで「やっぱSEIZI、山根(英晴)、牟田(昌広)、うちのメンバー皆ハンパなく凄いわ」と手放しで讃える一文がありましたけど、今作はそれが如実に窺えるアルバムですね。各メンバーのプレイの必然性とバンドの一体感が音にはっきりと表れていると思うので。
OKI:そこはメンバーのポテンシャルやスキルありきですね。進行も終始スムーズにできたし、その辺は長年積んできたキャリアならではと言うか。
──楽曲の持ち味を最大限まで引き出した過不足のないアレンジもキャリアの為せる業なんでしょうね。
OKI:それはバンドの体質なんでしょうけど、なるべく無駄なものを削ぎ落としたいというのが根本にあるんですよ。ライブ感を大切にしたい気持ちもありますし。
──楽曲の雛形はOKIさんの中でありつつも、メンバー全員のスキルやアイディア、気合いや思いがギュッと詰め込まれているのをどの曲からも感じます。
OKI:今回、最初のリハーサルはドラムの牟田だけ来てもらって、歌とドラムだけで原型がスタートした曲もあったし、メンバーが4人揃って音を合わせる時はある程度のものを持ち寄って完成に近づけていったんです。そんな作業の繰り返しでしたね。そこで右往左往するようじゃ話にならないんですよ。そのやり取りの場面を若いバンドマンが見たら、ちょっとビビるかもしれない(笑)。ダラダラと長い時間やるわけじゃないから展開も早いし、ワンプレイごとにちゃんと意味を持ってやりますからね。
──今作の収録曲はいわゆる歌ものの比重が大きいですが、これは結果的にそうなったわけですか。
OKI:そうですね。全幅の信頼を寄せているエンジニアの山口州冶さんがミックスダウンするにあたって、そういう捉え方をされた部分が大きいんじゃないですかね。
──歌をしっかりと聴かせるところに重きが置かれたと。
OKI:おそらくそんなふうに州冶さんが感じたんでしょう。その辺は俺たちも口を出さなかったし、どんな仕上がりになるのか楽しみにしていましたから。【次号、インタビュー後編へ続く】