Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー遠藤ミチロウ(Rooftop2016年3月号)

前進していく終わらない旅、終わらない音楽

2016.03.01

最大公約数の中の一人一人の普通は取り残されている

――映画は葛藤を赤裸々に、またナチュラルに曝け出していて。それはミチロウさんそのものであると同時に誰にでも当てはまるって感じるし。実際、私もこのミチロウさんへのインタビューは3月にアップできるようにって思って。読んだ人に震災と原発事故のことを思い出してほしいから。でも、自分だって忘れてる日がほとんどだし、偉そうな動機でインタビューしていいのかって。そういう葛藤に近い気持ちはちょっとありました。
遠藤:なんかね、福島に住んでる人も、「ヤバイんだぞ」って言われるより、「いや大丈夫」って言われた方が、ウソでもいいから救われたいみたいに思うこともあるかもしれないし。その矛盾っていうか。そういうものは抱えていくしかないし。
――でも矛盾や葛藤を抱えながら前進していく姿を感じる映画です。弾き語りでツアーをする様子も出てきますが、中心となっているのが福島、奄美大島、広島。奄美大島は福島に近い感じがするそうですが。
遠藤:奄美大島は、昔、島尾敏雄の「死の棘」を読んで、それで行ってみたくなって。行ってみたら、それまで奄美大島のイメージって沖縄と同じような感じに捉えていたんだけど、全然違っていて。例えば沖縄が東北なら、奄美大島は福島的な感じ。奄美大島は沖縄でもなければ本土でもない。福島も、東北なんだけど関東に近いし。言い方が難しいけどどっちつかずなの。しかも奄美大島は子どもの頃の福島に似ていて。その頃の自分は自我に目覚める前で、福島に対しても家族に対しても自分に対しても肯定的で。肯定的な自分に出会える場所が奄美大島。
――奄美大島で地元の人が謡う民謡の「ワイド節」を聞いてるミチロウさん、凄く楽しそうですもんね。その頃から民謡に興味が?
遠藤:いや、その頃はまだ。奄美竪琴を演奏して謡ってくれた盛島さん(盛島貴男)って、凄い自由人で。内面には矛盾も抱えてるんだろうけど、とても自由な人なの。凄くいいなって思いながら、俺は自分ではそうなれないなって思って見ていたんだろうね。
――広島は?ミチロウさんは毎年8月6日に広島で歌っていますが。
遠藤:広島はね、その前からツアーで行ってたんだけど、8月6日に毎年やるようになったのは1995年から。阪神淡路大震災があって、オウムがあって。そこで自然の問題、核の問題、宗教の問題が自分の中で繋がっていって。映画に、ネイティブ・アメリカンのホピ族の「予言」について話してるシーンがあるんですけど、それとも繋がってくる。
――ホピ族の話の中には放射能のことも出てきますし。
遠藤:そう。アレは原発事故の2日前に撮ったシーンなの。2日後に事故。象徴的だよね。原発事故が起きて更に繋がっていって。宗教に関しては、俺は信仰する宗教はないんだけど、ネイティブ・アメリカンの宗教感覚が自分にはピッタリきて。で、1995年と2011年っていうのが、自分の中で直結しちゃってるんだよね。沖縄に初めて行ったのも95年。その年の、俺が沖縄に行った後に、少女暴行事件が起きてるんだよ。沖縄の基地の問題、核の問題、宗教の問題。95年に集約されてて、それが終戦50年の年で。戦後の日本の問題が95年にドカーンと出てきて、更に2011年に再びドカーンと。
――戦争への思いも強くなっていった。
遠藤:そういうこともあってか、広島では必ず8月6日に歌おうかなって。あとね、宇和島も大好きな街で。宇和島って俺の中では典型的な地方都市ってイメージがあって。奄美大島は原風景の福島だとして、広島は今の日本の一番矛盾を象徴した街。宇和島は典型的な地方都市のイメージ。原発が爆発してなかったら福島もそういう街だったのかもしれないなっていう。
――もともとドキュメンタリー映画を作るつもりで始めたけど、2011年3月11日以降、映画は本当にドキュメントになっていって。
遠藤:そうなんだよね。状況も変わっていくし、自分の気持ちも引っ張り出されていくような。それまで自分が体験してきたこと、いろんなことが2011年に全部含まれていったんだよね。だから一つ一つに対して結論を出せている映画ではないんだけど。
――そこがいいです。ミチロウさんの歌に終わりがないのと同じで、終わるものじゃないですし。でもゴールがないのって監督としては難しいですよね。
遠藤:一応、還暦のドキュメントだから、誕生日の前に終わらせようとね。それだけかな、ゴールは。
――ご自身のことを赤裸々に出した映画ですか、それこそ葛藤はなかったですか?
遠藤:やっぱり撮る側と撮られる側、両方の立場に自分がいて、撮られる立場としてこう撮ってほしいって思っても、撮る立場は違うとこを出したいって。最後に作品として完成させるには、監督としての立場で見ざるを得ないというか。まぁ、自分をカッコよく見せるプロモーションビデオじゃないからね。
――映画を撮り終えた後、ミチロウさんは病気になられて活動を休止して。
遠藤:膠原病。その時期に休みになって、映画の最後の作業ができたからよかったけど(笑)。病気になって、それまでできたことができなかったり、普通の生活をしてたらできないことが出てきて。「普通」ってとこから零れ落ちてしまった。でも、それでも俺は普通の人間なわけで。そういう人はいっぱいいるだろうし。比べるものではないけど、ある意味、福島もそうかもしれない。じゃ、「普通」ってなんだ?単に最大公約数ってだけで、典型的な普通の人なんて世の中にはいないんじゃないかって。最大公約数の中の一人一人の普通は、取り残されているっていうね。
――それこそミチロウさんの歌いたいことと…、
遠藤:繋がってるんだよね。
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映画「お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました」より ©2015 SHIMAFILMS

抜け落ちたもの、零れ落ちたものを歌いたい

――ところで、プロジェクトFUKUSHIMAは退いた感じなのでしょうか?
遠藤:今は離れたんだけど、大きな理由はやっぱり病気になっちゃったから。今までみたいにやれないだろうから、一度退こうかなと。
――個人ではずっと福島で歌って….。
遠藤:それはずっとやってるからね。福島だけじゃなくいろんなところで。ただ福島と関わるようになって生まれた、自分の中の新しい文化が羊歯明神で。プロジェクトFUKUSHIMAを立ち上げたのは、福島から新しい文化を作っていくことによって、ネガティブなイメージになってしまった福島をポジティブなものにしていこうってことだったんだけど、自分にとってそれが羊歯明神だったの。福島と関わらなかったら生まれなかったもので。土着で密着で、そういう新しい文化が自分の中に作られていって。それはこれからもやっていくし、福島とも関わっていくし。
――新しいロックの誕生ですね(笑)。
遠藤:いや、ロックとかパンクとかどうでもいいです。それはTHE ENDもそうで。自分の中で、歌であったり踊りであったりを、最もプリミティブにしていけたから。元々ロックとかパンクとか取っ払いたかったし。取っ払って上で、「歌とは?踊りとは?」って考えて出てきたものが、今やっていることで。やっとそこまで行けたかなって思ってます。
――映画を観て、昔、ソロアルバム『I.My.Me/AMAMI』(2005年)でインタビューさせていただいた時、ミチロウさんは「過去を探ることは未来を知ることでもある」っておっしゃっていたのを思い出して。まさにそんな映画だなって。
遠藤:あのアルバムとも繋がってるしね。あとね、一つのことを考えていくと全部のことに繋がっていくんだよね。俺は福島に行って福島のことを考えて、そしたら旅で廻っている地方都市にも同じ問題がある。日本の戦後の高度成長っていうものが、地方を切り捨てて東京に一極集中していくものだったわけで。地方を食い物にして豊かになってきた。そういうことに改めて気づく。今、どんどん世の中は動いているけど、根源は同じなんだと思う。
――それもミチロウさんかずっと歌い続けていることに近いというか….。
遠藤:そうかもしない。「抜け落ちたもの」、「零れ落ちたもの」を歌いたくて、それは価値観が変わっていく中で、変わらないものは何か?ってことだから。それが根源ってことなのかもしれないし。
――はい。この映画がご自身の葛藤と向き合いながら、同時に常に外にも向かっている。だから個人の枠を超えているし、勇気づけられました。
遠藤:自分では、勇気づけようなんて思ってなかったですけどね(笑)。
 
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お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました
監督:遠藤ミチロウ
製作・配給:シマフィルム株式会社
K's cinema、他で全国順次公開
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