いよいよ2016年が始まったが、新春の名物フェスと言えば、毎年新宿ロフトを舞台に開催される「しりあがり寿Presents 新春!(有)さるハゲロックフェスティバル」(通称「さるフェス」)だ。マンガ家しりあがり寿の事務所「有限会社さるやまハゲの助」が主催する世界にも類を見ないこの「社内ロックフェス」では、プロのミュージシャンから畑違いのマンガ家たち、テクニック無視の驚異の素人まで、「さるハゲ」に出入りする有象無象、神羅万象がしのぎを削り、歓喜と渾沌の宴が朝まで続く。世界中に大小さまざまなロックフェスは数あれど、その強度(濃密さ)で「さるフェス」に勝るフェスも他にないだろう。なんだかよくわからないけど脳裏に焼き付くような体験をしたい方は、是非さるフェスに訪れてみてはいかがだろう。(TEXT:加藤梅造)
今年のテーマ「おサルの産業革命」とは
──いよいよ1月16日に新春恒例のさるフェスが開催されますが、今年で何回目になるんでしたっけ?
寿 調子に乗るようになってからは5〜6回目ぐらいな感じだよね。
八木 天野天街さんが(演出で)入ってからは6回目です。
村山 いつも回数を聞かれるんですけど、そのたびに「あれ、何回目だっけ?」って言ってますよね。
ハヤマ ホームページには今年8回目を迎えるって書いてありますよ。
村山 そうだ、8回目だ。さるハゲロックフェスと名乗り出したのはロフトプラスワンからだけど(※2007年12月27日開催)、新宿ロフトで一般公開イベントになったのが2009年からだから。
寿 まあ誰も憶えてないから、急に10回目になっても気づかないでしょ。
八木 私は1回目から撮影で参加してますけど、当時は大学生でした。
村山 それがいつの間にか出演者になって、今では有能なメインスタッフに。
寿 人に歴史ありだね。
村山 もはや下克上が起こってますね。老兵が去る日も近い。
──さるフェスは、もともと有限会社さるやまハゲの助の社内フェスだから、八木さんみたいな人が出るのが1つの魅力ですよね。
寿 それがいいのか悪いのか(笑)。
村山 でもそういう人も出ないと、普通のロックフェスになっちゃいますから。
寿 有象無象、神羅万象、全てのものに出演してもらいたいくらい。
──今回のテーマは「おサルの産業革命」とありますが、どんなことをやるんですか?
村山 例によっていまだに内容が固まってないんですけど、そもそも今年は申年のさるフェスなんで、サルにまつわる何かをやりたいなと。
──それがなんで産業革命なんでしょう?
村山 それは…いろいろ紆余曲折があって…。
寿 毎回、ロフトという場所を何かに見立てるということから始めるんです。
村山 ここ数年はそうですね。
──2014年はテーマが「宇宙旅行」でした。
寿 あの時はロフトを宇宙船に見立てて、お客さんはロフトという宇宙船に乗って旅をするというコンセプトでした。時々、宇宙船っぽいアナウンスを入れてたじゃない。
村山 それで深海エリアにはHAL 9000(※『2001年宇宙の旅』に登場するコンピューター)のレプリカを置いてたんですが。
──あぁ、そうだったんですね。でも、お客さんにはあんまり伝わってなかったような気も…。
寿 2012年のテーマ「翼」は出演者にすら伝わってませんでした(笑)。去年(テーマ「迷宮のシンデレラ」)はロフトをお城の迷宮に見立ててましたが、今年はさらに進めて工場に見立てているんですよ。まあ僕が勝手に言ってるだけで、ちゃんとお客さんに伝えようとしてないのがダメなんだけど。
村山 当初は、サルを作る工場というアイデアだったんです。前回の打ち上げでそうしようと決めて、でも3ヶ月ぐらいたったら飽きちゃっていたという。
寿 途中までかなり盛り上がったんだよ! サルの耳当てを配って、サル耳のお客さんがどんどん増えていって、終わる頃には場内がサルだらけになると面白いよねって。でも誰かに「みんな髪型とか気にするから耳当てなんかしない」って一蹴されたんだよ(笑)。それでもう意気消沈しちゃって。
村山 それ以降、テーマがサルと工場に分離してしまい、そのまま今に至るという。
ハヤマ サルを工場で働く労働者に見立てたんですよね。
寿 そう、なんか今って産業革命っぽいじゃない?
──えっ、18世紀とかじゃなくて今ですか?
寿 テクノロジーが進歩して産業の形が変わったり、働き方が変わったり。
──確かにネットとかロボットとかいろいろ発達してますが。
寿 「じゃあ、産業革命だ!」と思ってシナリオを作ってたんだけど、だんだん社会主義革命になってきて…。途中であれっ?と思ったんだけど、まあその成り行きもいいかなと。
村山 ロシアの工場のイメージからロシア革命のモチーフが出てきて、しりあがりさん演じる革命家シリツキーがフェスの中で誕生するっていう予定なんですが、細かいことはまだ決まっていません。
寿 それでビジュアルにもロシア構成主義の要素を取り入ようとか言ってたんですが、いつもの天野さんのイメージも大切にしたいし、もういろいろゴチャゴチャで。まあそこがさるフェスっぽくて楽しいんですけどね。
──去年も確か、最初は「日本社会の同調圧力から逃れようとするシンデレラ」というコンセプトだったのが、いつの間にか「さるハゲシンデレラ」のオーディションがメインになってましたよね?
寿 いつも社会的なテーマを取り入れようとするんですけど、いつの間にかうやむやになっちゃう。それでも去年は津田大介さんといとうせいこうさんに出てもらって、社会派な部分もなんとか保ってたんだけど、今年はそういうのもなくて…。どうしようかなあと。