──「真夜中のメロディ」を筆頭に、“真夜中”という言葉がいくつかの曲に出てきますよね。カントリーっぽい趣の「サンライズ」も夜明けを待つ真夜中を唄った曲ですし。

K：曲を作るのもレコーディングするのも真夜中だからだろうね。今の時代、真夜中に静寂なんてないから特別なものじゃないけど、僕が田舎にいた頃は真夜中に聴く音楽は格別だった。真夜中に聴くラジオとか、真夜中に家を出て遊びに行くとか、今とは違った特別な意味を持っていたよね。今じゃ夜中の3時に女の子が一人で歩いてるのも普通だけど、昔はちょっと乙な感じがあった気がする。それで『MIDNITE MELODIES』というタイトルを考えたんだけど、ちょっと格好良すぎないか？ と思ってね。格好良すぎるのは苦手だからさ。まぁ、今回はタイトルにはあまり固執してないかな。ソロをやること自体に意味があるからね。“MELODIES”って言葉さえ入っていればそれでいい。

──自身のルーツを辿る作品を2枚作った後に生まれるソロ作が、“MELODIES”という音楽の核に焦点を当てたものになりそうなのが興味深いですね。

K：『THE ROOTS』の2枚に入ってる古いロックンロールもメロディの良し悪しを言われることはあまりないけど、結局はメロディなんだよね。ハッピーなリズムや歌とか他にも重要なポイントはあるものの、奏でてるメロディの集合体が音楽なわけだから。

──あと何曲録り終えたらゴールなんですか。

K：今のところ9曲ほど形が見えてるから、あと1、2曲でいいんじゃないかな。
 

──万が一アルバムの発売が遅れても、ソロ・ツアーのスケジュールはすでに決まっているんですよね。

K：うん。ツアーは『THE ROOTS』の2枚をメインに、オリジナル曲を少し混ぜつつやろうと思ってる。ツアーの後半はオリジナル曲のほうを増やせたらいいけどね。『THE ROOTS』と今作ってるオリジナルは録る場所も顔ぶれも違うし、音楽的なことを言えばギター・サウンドが全然違うんだけど、持ってる雰囲気と世界観は共通したものがあると思う。メロディの良さも一貫してるしね。『THE ROOTS』と見劣りしないように、オリジナル曲のメロディはけっこう頑張ったつもり。ただ歌詞は大変だった。そんなにいくつもアイディアがあるわけじゃないしさ。まぁ、少しだけ物の見方を変えれば違う表現になることも今回は学べたけどね。

──でも本作の歌詞に関して言うと、従来の岩川さんの作風には見られなかった部分があると思うんですよ。「ワンパイントの夢」は苦境に立たされた人に向けて「遅すぎることなんて何もない、何度でも夢を見せてくれ」と背中を押すような歌詞だし、「サンライズ」でも「明日が来なかったことは たったの一度もないのさ」と未来への希望をさり気なく唄っているじゃないですか。

K：今の世の中、けっこう殺伐としてるからね。今回はA&Rの川戸（良徳）を始め、いろんな人から励みになるような歌詞を書いて欲しいと偶然にも言われたんだよね。僕は本来、歌の中で「頑張れよ」とかメッセージを投げかけるのはイヤなんだよ。それなら違うことで、たとえばギターの音とかでそういうことを言えるのが理想なんだよね。でも声をひとつの楽器としてとらえた時に、その声に説得力があるって言う人がいるのであれば、歌詞にして唄うのもいいのかなと思ってさ。

──誰かの背中を押すような歌詞は、コルツでもマックショウでもない、ソロのオリジナルだからこそ唄えるところもありますよね。

K：そうだね。ルーツ・ミュージックに限らず、このソロ作だって自分の血なり骨なわけ。それを生み出すにあたって全部日本で作業したのは、自分が好きだった日本のロックのエッセンスや思いを注ぎ込んでみたかったからなんだよ。キャロルやクールスみたいな世界ももちろん好きなんだけど、モッズやARB、（忌野）清志郎さんやこの間亡くなったシーナさんみたいな骨太なロックも好きでね。このまま行くと、そういう腰の据わったロックのDNAがなくなっちゃう気がするし、それは大きな損失になる。だからいずれは『THE ROOTS』で日本のロックをやってみるのも面白いだろうね。そっちのほうが本気を出しちゃいそうだけど（笑）。まぁ、今後はテネシー州のほうに足を延ばすのもいいし、イギリスへ行くのもいいし、音楽ありきの旅はこの先もずっと続けていきたいよね。