Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー川尻善昭(Rooftop2014年12月号)

ジャパニメーションを作った男

2014.11.25

 監督業30周年を迎えた今もなお作品作りに意欲的なアニメーション監督、川尻善昭。リアリズムと様式美を融合させた独自の世界観で国内のみならず海外でも高い評価を得ている。唯一無二で数多くの人を魅了する作品はどのように作られているのか、その一端に迫る。(interview:柏木 聡/Asagaya/Loft A)

アニメーションの魅力

──アニメーションの世界に入られたきっかけは何だったんですか?
川尻:最初は漫画家を目指していたんです。そんな時に虫プロを紹介していただくご縁があって、そこで絵の勉強をしてステップアップになればいいかなくらいの感じでこの業界に入りました。
──同じ絵を描く仕事でも、漫画とアニメではかなり違いますよね
川尻:アニメは動いているように見せるために、普通は描かないようなポーズも描く必要が出てきますから。そこが逆に面白いと感じたんです。普通は描かないものも描く必要があるので、思いもしなかった絵というのが出てくるのが妙に面白くて。それがファースト・インパクトでもありました。あとは音がついて、セリフが入って、動いて、時間があってという、漫画にはない部分を発見していくうちに、だんだんこれは漫画よりも面白いんじゃないかなと思えてきたんです。
──知らない世界の魅力を知った感動が今も続いているということなんですね。
川尻:そうです。
──川尻作品と言えば、“エロティック・ハードアクション”という、どちらかと言うと大人向けの要素だと思うんです。当時はまだアニメは子どもが見るものという認識が一般的だったなか、どのようにして企画を立ち上げたんですか。
川尻:初めて監督をした『妖獣都市』は自分で立ち上げた企画ではありません。
──川尻さん発信の企画だと思ってました。
川尻:違うんです。それまで菊地(秀行)さんを知らなかったんです。『迷宮物語』の「走る男」を見たプロデューサーから、作品の雰囲気がマッチしているということでお話を頂いたんです。それは本当に運としか言えない、偶然の巡り合わせです。それまでは監督というポジションに魅力を感じていなかったんですよ。ただ菊地さんの作品を読んで、同世代の人がこんな切り口で作品を書いているんだということでもの凄く感動して、これは絶対に監督して面白いものにしてやろうと初めて思いました。
──アクションというのが川尻作品の魅力のひとつですが、こだわりはありますか。
川尻:もともと時代劇が好きでよく見ていたんです。殺陣のシーンを見ながら、アニメーションならもっとできるだろうなという思いがあったんです。特にアニメは実写よりもテンションのボルテージを上げていかないと嘘のリアリティとしての説得力を持たせられないと思っています。ただ、実写ではできないことも自在にコントロールできることが最大の武器だというのが感覚としてあって、アニメだからできる表現をしていきたいと思っていました。
──アクション・シーンなどの見せ場だけではなく、静かなシーンも丁寧に描かれているので、その緩急がドラマとしての深さにつながっていると思うんですけど、そのバランス感覚はどうやって磨かれたんですか。
川尻:映像のリズムを保つということを凄く大事にしてます。絵コンテを描く際、毎日頭から読み返してから取り掛かります。映画を見ている観客の目線を意識しているんです。せっかちな性格なので、どんどん進めたくなるのをコントロールするという意味でも毎回読み返すようにしてます。
──常に観客を意識しているからこそ、エンタメとしても素晴らしい作品が出来るんですね。
川尻:アニメーションはある意味では設計図通りに作れるということが強みです。現場で考えるということが実写と違ってできないという面もあるので、絵コンテの段階ですべてを設計しておく必要があると考えています。
──僕がさらに魅力的な部分だと感じているのが、色彩なんです。川尻ブルーとも言われているダークな表現もそうですし、シーンにテーマ・カラーを持たせた表現が凄く魅力的だと感じています。
川尻:特に『妖獣都市』は人間界と魔界との話なので、闇の空気感を出したいということもありました。真っ暗にしてしまうと見えなくなってしまうので、試行錯誤した結果なんです。実写でよく使われている、バック・ライトの表現をヒントにアニメーションにマッチする形で取り入れた結果です。実写とアニメのいいところをミックスできればと考えていました。
 

映像作品の面白さ

──川尻さんは国内はもちろん、海外での評価も高いですよね。
川尻:国内の評価がちょっと…それが寂しいですけど(笑)。
──そんなことないです、国内での評価も高いですよ。
川尻:ヴァンパイアの物語は海外でも受け入れてもらいやすいですし、『獣兵衛忍風帖』に関しても時代背景が分からなくても楽しめるものにしようと意識はしていました。自分の好きな世界をより大勢の人に見てもらいたいなという思いはもの凄く強くあります。
──そういうことを意識するきっかけとなる作品があったんですか。
川尻:山田風太郎作品が好きなので、その影響が大きいかもしれないですね。そこに自分の経験がミックスされたことで、オンリーワン的な作品になったんだと思います。普通の人にも面白い映画として受け止めて欲しいなという思いが強いんです。
──川尻さんの作品は凄くザックリした表現をすると、おじさんが殺し合いをする物語ですよね。
川尻:若い人にとってはそうかもしれないですね(笑)。
──血と汗の匂いが画面からも伝わってくる感じがするので、少女漫画『ちはやふる』に携わられていたのが凄い意外だったんです。
川尻:昔やった『エースをねらえ』も少女漫画ですよ(笑)。
──『エースをねらえ』は演出されている出崎(統)さんの汗くささを感じる部分もあるんですが、『ちはやふる』はそういった雰囲気があまりないので意外だったんです。
川尻:それは、監督の浅香(守生)君の力量というのが凄くあります。作品に男の汗くささというのがない人ですから。
──『ちはやふる』の経験を活かした、女性主人公の作品も個人的には見てみたいなと思ってます。
川尻:やってみたいと思う作品があればやるかもしれないですね。
──原作のある作品を作る上で、特に意識をされていることはありますか
川尻:原作の良さを100%引き出せるようにしたいとは常に思ってます。映像化の際にはどうしても変更しなければいけない点も出てくるんですけど、世界観が損なわれることがないよう、魅力を120%引き出すことはいつも心がけています。漫画でも映像と違ってコマの大きさでシーンを表現するという部分があり、そういったところでリズムは変わります。映像はどうしても進んでいってしまいますから、時間・流れを作っていくということが映像化の面白さだと思います。
──今後作ってみたい作品はありますか。
川尻:自分で監督をするのであれば、やっぱりヒーロー・アクション物になりますね。好きですから、チャンスがあればやり続けていきたいなと今も一貫して思っています。
──最後に、ファンの方に向けてのメッセージをお願いします。
川尻:今見ても面白いものになっていると思っているので、まずは今までの作品を見てもらいたいなという思いが凄くあります。そしてこれからもオンリーワン的な魅力ある作品を作り続けたいと思っていますので、ご期待下さい!
 

LIVE INFOライブ情報

監督デビュー30周年記念上映会『川尻善昭ミッドナイトフェス』開催!
【開催日】2014年12月6日(土)
【開場時刻】23時30分
【開演時刻】23時45分
【終演時刻】午前6時30分(予定)
【会場】テアトル新宿
『川尻善昭ミッドナイトフェス』のチケットを11月22日(土)より劇場窓口及びテアトル新宿オンラインチケット予約にて販売開始します(料金:3,000円均一)。劇場窓口にてチケットをご購入頂いたお客様、先着60名様に川尻監督の直筆サイン入り『獣兵衛忍風帖BURST』ポストカードをプレゼント致します。
*オンラインチケット予約の場合は、先着プレゼントのお渡しはありません。予めご了承下さい。
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