amazarashi待望の2ndフルアルバム『夕日信仰ヒガシズム』が10月29日にリリースされた。
9月9日に東京ドームシティホールで行なわれた、インディーズ時代の名義「あまざらし」でのアコースティックライブでは、ストリングスを加えたり、事前に小説をオフィシャルサイトで公開し、その物語にリンクする形でライブが進められたりと、これまでとは趣向の異なるステージに多くのファンを魅了した。
そのライブを経てリリースされる今回のニューアルバムは、以前の作品に比べると、力強く生きていくことへの意思がよりはっきりとしている作品だった。不屈の精神を持った彼らの曲は、いっそう言葉が明確になり、生きることに対してどこか諦めを感じながらも、「それでもなお生きていく」という強いメッセージが綴られた曲が多くなっていた。その反面、「死にたい」というメッセージを含んだ衝撃の楽曲『穴を掘っている』も収録され、生死の両面が描かれた今作にこれからのamazarashiがどのような方向に進んで行くのかを期待させる。
今回もamazarashiの中心人物・秋田ひろむにメールインタビューを敢行した。常に進化を繰り返す彼の言葉に耳を傾けて欲しい。少しだけ秋田ひろむという人物像が見えるかもしれない。(interview:やまだともこ)
生活の中でふと立ち止まって物思う様な瞬間を歌いたかった
── ニューアルバム『夕日信仰ヒガシズム』のリリースおめでとうございます。まず、前作『あんたへ』から約1年ぶりの作品が完成し、率直な思いを聞かせてください。
全て出し切った感じです。今言いたい事は全部吐き出しました。今まで以上に密度の濃いアルバムになったと思います。
── 今作はどんな全体像をイメージして制作に取りかかったのでしょうか?
なんとなくイメージしてたのは、サウンド的に多少アップテンポなものもやりたいな、というのと、生活とか暮らしについて歌えたら、というものでした。
── 今作に収録されている『スターライト』は昔からある楽曲だそうですが、今回のタイミングで収録しようと思ったのは? この曲が最初にあって、アルバムのビジョンが見え始めたということはありますか?
『スターライト』については、アマチュア時代の曲で、僕の思い入れが強い曲でもあったんです。ちょっともったいぶってた部分もあって、出来るだけいい形でリリースしたいと思っていたら、ライブ「千分の一夜物語スターライト」といういいタイミングがあったので、今回のアルバムに入れる事にしました。『スターライト』はアルバムの中では脇役だと思ってます。
── 『スターライト』を聴いた時に、私はこの曲の歌詞を「生きろ」というメッセージに変換しましたが、秋田さんはどんな思いでこの曲を作られましたか?
昔、半分引きこもりみたいな生活をしながら音楽をやってた時期に出来た曲で、それでもなんとか這い上がってやろうという気持ちが込められた曲だと思います。自分を奮い立たせようとして出来た曲です。
── 「生きろ」というメッセージもそうですが、これまでのamazarashiは、世界への復讐だったり、自分のことなんか誰もわかってくれないという思いの歌詞が多かったと思います。しかし、前作の“聴いてくれる人を意識した”とおっしゃっていた『匿名希望』もそうですが、最近では理解者の存在を意識した上での歌詞が出来ているような気がしています。秋田さんの気持ちの上でどのような変化が起きているのでしょうか?
今回は自分の生活の延長線上の歌が多いので、リスナーを意識したという部分は少ないかもしれません。投げ掛けるメッセージというよりは、自分がこうありたいとか、こう生きて行くとか、意思表示のようなものだと思います。
──また、 『もう一度』の歌詞からは、「それでも生きていく」というメッセージを私は受け取りました。この歌詞にはどんな思いを込めていますか?
amazarashiの原点であるハングリー精神とか、何かを渇望する力を、今の僕の言葉で歌いたかったんです。過去があって今があるんですが、過去の表現に負けたくないという気持ちがあります。
── 『ひろ』にある「今に見てろ」や、『もう一度』の「何度も立ち上がるんだ」という歌詞は、これまでのamazarashiの曲から一貫したナニクソという精神を感じましたが、こういった思いは秋田さんが音楽を続けていく原動力だったり、生きる原動力だったりするのでしょうか?
そうですね。原動力なのは間違いないと思います。怒りは表現しやすい部分もあるので、今回はそれを意識して避けて作ったんですが、それでも怒りの感情は漏れ出てしまう位に多いです。
── 秋田さんにとって、「生きている」と改めて感じる瞬間とはどんな時ですか?
達成感とか、何かを成し遂げた時は次へのパワーになると思うので、そういう時でしょうか。ライブ終わった後とか。
── 『穴を掘っている』は、「死」が表現され、おどろおどろしい曲だという印象でしたが、この曲を作ったきっかけを教えてください。
人生は自分の墓穴を掘っているようだ、というイメージが以前からあって、それを曲にしたものです。頑張ったりさぼったりしながら歪な形の穴を掘って、人生が終わる頃には結局自分にぴったりな穴になっていた、という感覚です。言葉で言うのが難しいんですが、人生収まる所に収まる、みたいな感じです。
── 最後の『それはまた別のお話』は温かな雰囲気のある曲でしたが、この曲を作ったきっかけがあったら教えてください。
この曲がこのアルバムの鍵になると思っていて、『夕日信仰ヒガシズム』というアルバムタイトルで言わんとする事はこの曲の様な、生活の中でふと立ち止まって物思う様な瞬間についてです。自然に湧き上るように出来た曲で、とても地味な曲なんですが、作為のない感情が込められたので、僕にとって大事な曲です。
小説の容量の無限さに憧れがある
── 今回はアルバム1枚を通して、オフィシャルサイトで公開されていた小説「スターライト」で描かれた風景を想像する曲がありました。曲の『スターライト』以外に小説からイメージがわいて書いた曲はありますか?
小説「スターライト」はamazarashiの曲の世界を繋げる様に作りました。曲が先にあって物語を書きました。曲も小説も僕の過去を描いたものなので共通する風景は多いと思います。
── 小説で言うと、以前リリースした『千年幸福論』には小説が付き、『あんたへ』は『まえがき』で始まり『あとがき』で終わる作品でした。今回はオフィシャルサイトで小説「スターライト」を公開したり、秋田さんが小説という形式を用いる理由を教えてしたください。
音楽の形式はある程度の枠組みの中での表現だと思うんですが、小説の容量の無限さに憧れがあるというか、ひとつの目標なんだと思います。小説一冊分の読了感を1曲で表現できる場合もあると思うので、そういうものへの憧れだと思います。
── サウンド面で言うと、『ヒガシズム』はとても骨太でしたし、『スターライト』はとてもスケール感のある曲で、フィジカルなサウンドが多くなったという印象でした。ここ最近はフェス等にも出演し、初めてamazarashiを聴く人たちの前でも演奏される機会が増えました。そこで、もっと幅広い人に聴いてもらいたい、もっとamazarashiを広げていきたいという思いがこれらのサウンドに表れているような気がしたのですが、いかがでしょうか?
amazarashiを広げたい気持ちはありますが、それでサウンドが変わるという事はないと思います。多分それをやってもamazarashiの場合は上手く行かないと思います。
いつも前作とは違う感じにしたいという気持ちがあって、それを繰り返してたらここに辿り着いたという感じです。アレンジ面で言うと、僕がデモでアレンジして、それをアレンジャーの出羽君が意図を汲んでくれてブラッシュアップする、という形も多くなりました。『ヨクト』『後期衝動』『それはまた別のお話』などがそうです。そういう所がサウンドに変化をもたらしたのかもしれません。
── では、12曲の中で、制作に特に苦労した曲がありましたら教えてください。
『ヒガシズム』が最後に出来た曲なんですが、あと1曲アルバムを引き締める曲を作ろうという明確な意図があって、頭の中でイメージが出来上がった状態で作ったのでとても大変でした。同じ様な曲と歌詞を4、5曲分作ってボツにしました。
── 今回曲順はすんなり決まりましたか?
今回は最後まで悩みました。最後の曲は決まってました。1曲目をどうするかずっと悩んでて、『ヒガシズム』が出来た事で、形になったと思います。
── 今作を作るにあたり、特に意識した点等ありましたら教えてください。
あんまり攻撃的なものは止めておこうと思ってました。そういう歌詞はぽんぽん出てくるんですが、意識して避けました。