全体をデフォルメしたプロデュースの手法
──力強いリフで押しまくる『Telephone』や『idaho』のようにストレートなナンバーは初期を彷彿とさせますけど。
ehi:その辺は逆に最近の曲なんです。
yatch:古いのは『Know a way』とか『Summer』ですね。
──ああ、ヒダカさんがプロデュースした『Summer』もそうなんですか!
ehi:結成して2年目くらいの曲ですね。ヒダカ君のお陰でめっちゃ生まれ変わりました。
──コーラスやハンドクラップを多用したアレンジがビーチ・ボーイズやビートルズへのオマージュを感じさせて、如何にもヒダカさんらしいなと思ったんですが。
ヒダカ:そういうオールディーズっぽさは狙いました。アメリカのインディーズ・バンドって、オールディーズに対するリスペクトがちゃんとあるんですよ。俺が凄く印象的だったのは、サマソニで一緒になったEELSがTHE LOVIN' SPOONFULの曲をやってたことなんです。多分、一緒に見ていたbloodthirsty butchersの吉村(秀樹)さんか俺くらいしか判らなかったんじゃないですかね(笑)。日本のお客さんはさっぱり判ってないけどやるっていう、ああいう感じっていいなと思って。そんなニュアンスでオールディーズっぽさを出そうと思ったんですよ。俺はハイスタの良さってそういうところもあったと思うんです。ハイスタもたまにオールディーズ風の曲が入ったりするじゃないですか。それがかわいくもあり、ルーツ・バックしてる感じもあり、中身のないバンドじゃないんだっていうのを上手く体現できていると思うんですよね。
──『Summer』のコーラス・ワークはWtBのレパートリーの中でも屈指の出来なのでは?
ヒダカ:まぁ、歌だけは上手いので(笑)。
ehi:サビのフレーズと「ドレミファソラシド♪」が最後に折り重なるのはヒダカ君のアイディアなんですよ。
ヒダカ:散々試しましたからね、BEAT CRUSADERSでも。
──アレンジの事細かい部分までヒダカさんの辣腕ぶりが発揮されていると。ちなみに『Summer』のオリジナルはどんな感じだったんですか。
ehi:もっと淡泊な感じでしたね。
Nao★(vo, b):そう、あっさりしてたな。ウチらのやりたかったことをヒダカさんが最大限まで引き出してくれたんですよ。
ヒダカ:全体をデフォルメした感じですよ、プロデュースの手法としては。
──WtBらしい疾走感と愛くるしいメロディ・ラインが交錯した『Rest』にもヒダカさんの色が上手く溶け込んでいますよね。
ヒダカ:実はこの人たち天才じゃないか!? と思ってるんですよ。普通、楽器を持って5、6年でこれだけの曲を作れないでしょ? 俺が10代の頃にギターを弾き始めてから5、6年であれだけの曲は書けなかったし。と言うことは、本人たちは「曲を作るのが楽しいね」で終わってるんだなと思ったので、それを楽しく聴かせる方法論として大袈裟にアレンジしてみたり、ベースやギターのオクターブを1個上げて明るく聴こえさせたりしたんですよね。
──WtBとヒダカさんの化学変化が一番理想的な形で結実したのがリード曲である『ベクトル 〜いつの日かたどりつけるこの足で〜』ですよね。WtB本来の持ち味を損なうことなく抽出した良い部分を倍増させるという、実に見事なプロデュース力だと思うんです。
ヒダカ:最初はA、Bメロがあって、彼女たちの希望としては「BOOM BOOM SATELLITESみたいなのがやりたい」ってことだったんです(笑)。
ehi:そう、ブンブンブンブン言ってました(笑)。
ヒダカ:でもそれは無理だから(笑)、ブンブンのブンくらいのところでやろうと思って肉付けしていったんですね。
──WtBとは一見不釣り合いと思われるシンセの音も過剰になることなく小気味良いアクセントとなっていますね。
ヒダカ:3人と一緒にBOOM BOOM〜の映像を見て、「ここでこういうふうにシンセが鳴るから、それをイメージして演奏してみよう」と言いまして(笑)。
ehi:サビのメロディはヒダカ君が考えてくれたんですよ。
──確かに、ちゃんとヒダカさんのお名前がクレジットされていますね。
ヒダカ:BOOM BOOM〜だったら1個のリフでクールにキメて、トランスな状態でお客さんを踊らせるのが魅力なんでしょうけど、WtBでそれと同じことをやってもつまらないし、トランシーなリフで押していく途中で急に開けたサビが出てきたら面白くなると思ったんですよ。それもちゃんと説明しながらやったので、本人たちも無理矢理じゃなく理解できたはずです。演奏はだいぶ無理矢理練習させましたけど(笑)。
ehi:ヒダカ君にプロデュースしてもらえるということで、こっちも無理な注文をかなりしたんですよ。「この曲をBOOM BOOM〜みたいに生まれ変わらせたい!」とか「サビはもっと伸びやかにさせたい!」とか。伸びやかなイメージはあるんやけど全くメロディが浮かんでこなかったので、ぶっちゃけヒダカ君に投げちゃったんです(笑)。
ヒダカ:もう、自分もメンバーなんだくらいのつもりで。「俺がメンバーだったらこうするな」っていう意識で作りましたね。