ライブハウスはもっともっと夢も見られる職場になれると良いな
──ロフトのお客さんとして、昔と変わったなあというところや、こうあって欲しいというところはありますか?
音楽業界はCDの売上が落ち続けているとか、音楽配信も頭打ちになってきたとか、いろいろ暗い話題がいっぱいです。
その中でもロフトはライブ文化っていうのがちゃんとできてるな、続いてるな、って思う。やっぱりロフトはロックとかサブカル、もっと言うと日本における自由な空気の発信源のひとつであり続けてほしい。ロフトみたいな場所が許されるっていうことが文化で、ロフトがなくなったら日本じゃないもんっていうかね。ジャンルもDJだけのパーティーからパンクバンドからV系からハードコアまであるからね。みんなビジュアル系になったから髪の毛金髪にしなきゃいけないのかな、とかいうのではなくて、色んなものがあるのが自由だと思うんですよね。僕は、幸せな社会の答えのひとつは多様性が認められる社会だと思ってるんですよ。たまたま朝日ジャーナルの70年代の号を読み返していたら、田原総一朗さんが「太陽の色が白いのは色んな炎が合わさって白に見えるから」っていうことを言っていたんですよね。その言葉にすごく感銘をうけて。ロフトプラスワンだとかロフトAみたいなトーク酒場って素敵だなと思っていてね。やっぱり自由の象徴であり多様性の象徴であってほしい。自由な表現、主張が許されるというかね。
あと、やや苦言じゃないけど、僕が子供の頃はあったんだけど「このバンドはこの小屋から出てきた」っていう文化がまだあると嬉しいな。ライブハウスって言うのはアーティストに限らず若者の才能を育てる場だと思ってるんですよ。だから若い人に対する理解のある、40,50才のお兄さまだとかおじさまたちがね、今日のライブ良かったぞとか、今度どういう風にするみたいなことを話せれば、会社じゃないけど若い人が育って出て来られる場になると思うんだよね。あと、新しい才能を未来を担う若者に紹介するというか。やっぱり一緒に育ってね、そこで大きくなるっていうかね。
──そうですね。育てたバンドが大きくなって帰ってきてくれたらまた嬉しいですよね。
僕の宝物のひとつとして、黒夢が97年くらいにロフトでやったライブの音源があるんですよ(「1997 10.31 LIVE AT 新宿LOFT」)。もうだいぶメジャーになってたと思うんだけど、ロフトに帰るっていうかのがね、こだわりとリスペクト、愛を感じるわけですよ。
あとは店舗のメディア化っていうこと。店舗自体がカルチャーで、メディアであって欲しいですよね。「とりあえずロフトに行ってみよう」っていう人が今は少ないような気がするんですよ。僕が学生の頃は「とりあえず吉祥寺曼荼羅に行ってみよう」っていう日々を送っていました。とにかくお酒を飲みながらライブが聞きたいと思って、どんなバンドが出るのかも分からないのに曼荼羅にふらりと行って、ハイネケンを飲みながらブルースバンドとかフォークとか聞いてたんですね。社会人になってからは「恵比寿MILK行ってみよう」って恵比寿MILKに通ってて、今思うと「あれROVOだったんだ」ってバンドが出てたりとか。とりあえずその場にいたくなるような場所であると良いな。とりあえずライブハウス行こうよ、っていうね、そんな日がまた来たら良いなと思いますよ。
──もし常見さんがロフトでイベントをやるとしたらどんなイベントがやりたいですか?
雨宮さんが「バンギャル ア ゴーゴー」っていうのをやってるから僕は「メタル小僧 ア ゴーゴー」っていうのをやりたいんですよ。昔から活躍しているバンドや、若手メタルバンドに脚光浴びさせたりして世代を超えて楽しもうよ、っていうのとか。あとはプロの演奏をバックにエアギター大会とかね。「生エアギター大会」。どっちなんだっていう(笑)。あと大好きな京都のバンド騒音寺に出て欲しいですね。
トーク系でいうと、「ロスジェネ」ってなんだったのかってことを同世代で語り合いたいなと思ってます。
──人材コンサルタントとしての常見さんから見てロフトみたいな仕事ってどうですか?
真面目な話をするとね、職場としてのロフトとかライブハウスについて、ちょっと心配しています。これは音楽業界全体でね、ライブハウスに限らず心配しているんだけども、そこの人達の働きがいがどうか消えませんように、って思ってます。好きなことにずっと関われることっていうのは大事なんだけれども、そこって嫌な部分も見ちゃうところだし。ちゃんと誉められて欲しいなって思うんですよね。評価されて欲しい。もちろんね、僕がお世話になっている書店員さんとかも「実はあの本はこの売り場から火がついた」って誉められて嬉しいっていうような、そういう喜び方をするんですけど、もっともっと夢を見られる職場になれるといいなっていう気がしていて。それにはやっぱり音楽業界に活力がないとダメだと思うし、さらには日本に元気がないといけないなと思うんですよ。で、もっともっと面白い仕事をして欲しいっていうのが僕からの要望です。面白いっていうのは見てて「ロフトこれやっちゃったんだ」って感想を抱くような。何晩も徹夜してハードな交渉もやったけど、当日は飛ぶような勢いでビールが売れて、お客さんもやってきて、まるで映画『フィールド・オブ・ドリームス』のエンディングのように毎回満員で、チケットないの? って状態になってね。ミュージシャンも客もロフトに感謝っていう状態になったら嬉しいなって思って。だからもっともっと面白く仕事をしてほしいなっていうことと、努力が報われる様になるといいなって思ってます。あと、自分のいる出版業界も含めて日本のエンタメ業界全体に言えるんだけども、「前例にとらわれない」ってことですよね。気づけばバンドも著者も丸くなってるんじゃないか、っていう。今の時代だからこそロックが出てきて欲しいと思います。だって国に対してとか社会に対して不安なこととか怒りとかあるはずだから。北野武か誰かが言ってたけど最近のロックとかヒップホップの歌詞って「家族と愛する友人に感謝」みたいなね。それも大事ですよ、大事なんですけど、僕が言いたいような健全な怒りっていうのをもっとね。だから、またバンドやろうかなって。僕は本当はベーシストなんです。で、歌とかへたくそなんですけど、ミクスチャーバンドで、社会に対する怒りを発信するようなバンドをつくろうかなーなんて思ってるんですよ。
──では最後に6/26の阿佐ヶ谷ロフトAでのイベントに向けての意気込みをお願いします。
3.11が起こる前からそうなんですけど、「絶望と希望」についていつも考えています。やっぱり現実を知ることって大事だと思うんですよ。なんとなく大丈夫だなーと思ってたらみんなダメだった訳でみんな嘘だった訳じゃないですか。だからまず現実に目を向けようよっていうことで、いまや頑張って大学に入ったところで仕事につけない可能性があるのも事実だし、日本経済も、いわゆる大企業に入ったところでどうなるかわからないし、じゃあ中堅中小企業行けって言うけどこちらももちろん大変だしね。そういう現実を知りつつ、また特にメディアというものはなんなのか、ジャーナリズムっていうものは日本にあったんだろうかとかね。今、テレビ局も新聞社も潰れるかもしれないっていうような指摘が出ているような状況なんだけど、こんな時代のメディアってどうあるべきかっていうことや、就職活動ってどうなるべきかっていうことについて、淡々とした冷たい事実と明るい希望と両方話そうと思っています。共演の霜田明寛さんとも世代が一回り違って、良いコラボになれば良いなと思うので、ぜひ幅広いみなさんに来て頂きたいですね。で、ちょっとロックな会にしたいなと思うので、よろしくお願いします!