リリー・フランキーの愛を感じるイラスト
──『#9 DREAM』を取り上げたのは、イヴェント自体がジョンのラッキー・ナンバーである“9”にちなんでいるからですか。
K:そうですね。偶然なんですけど、オリジナル・ナンバーも9曲なんですよ。そういう偶然を探し出しては勝手に盛り上がっているわけです(笑)。
──カヴァーの選曲基準みたいなものは?
K:マイク・リレーに関しては一体感ですかね。『HAPPY XMAS (WAR IS OVER)』は、もし次回作があればまた取り上げてもいいかなと思ったんですよ。この季節にぴったりだし、みんなで唄うと気分も乗ってくるので。ちなみに、マイク・リレーで参考にしたのはバンド・エイドの『DO THEY KNOW IT'S CHRISTMAS?』やUSAフォー・アフリカの『WE ARE THE WORLD』なんですよね。
──『ACROSS THE UNIVERSE』もマイク・リレー形式ですが、皆一様に記名性の高いヴォーカルだなと思いました。宙也さんのヴォーカルは特に際立っていますけど(笑)。
K:すぐに判りますよね。この間、De+LAXのライヴの打ち上げで宙也さんから「金ちゃん、大変だったろ?」って言われたんですよ(笑)。自分の声にハモりを付けるのがご本人も信じられなかったみたいで。
──宙也さんが唄う『JEALOUS GUY』は金吾さんの妙味に富んだハーモニーが折り重なった逸品ですね。
K:宙也さんはその時々の感情を歌声として発するから、自分の声をハモるのも大変みたいなんですよ。「同じように二度は唄えない」って言ってましたから。
──まるでボブ・ディランみたいですね。
K:あの人は天性のヴォーカリストだと思いますよ。『JEALOUS GUY』のヴォーカルもやっぱり素晴らしいですから。TIMESLIPの結成10周年記念ライヴをロフトでやった時に宙也さんにゲスト出演してもらったことがあって、そのステージで2人で弾き語りをやったのが『JEALOUS GUY』なんです。12月8日にやる9回目の『ジョン・レノンへの招待状』にも宙也さんが出演してくれるんですけど、僕と一緒に唄いたいカヴァーが他にもあるそうなんですよ。それがどの曲なのかは是非楽しみにしていて欲しいですね。
──宙也さんと金吾さんによる『JEALOUS GUY』は、流麗なストリングスのアレンジも聴き所のひとつですよね。
K:福本さんと一緒にオケを作ることになって、シンプルでありながらも壮大な感じにしたかったんですよ。宙也さんの歌も凄く活きたと思います。
──『IMAGINE』のような定番曲をカヴァーしなかったのは意図的だったんでしょうか。
K:候補はいろいろ挙がったんですけど、ジョンの人間性や歌の世界観を考えると自ずとこうなったという感じですかね。『IMAGINE』はいずれ唄ってみたいですけど、それは後々のお楽しみということで。
──フェイヴァリットに挙げられた『ジョンの魂』からのナンバーも聴いてみたかったですね。
K:『ジョンの魂』の収録曲は凄くパーソナルだし、みんなで唄う感じじゃなかったんですよ。『MOTHER』の痛烈な叫びを全員で大合唱できるとは思えないし(笑)。
──ジャケットのイラストをリリー・フランキーさんが手掛けているのも目を引きますよね。リリーさんと言えば、斉藤和義さんの『ずっと好きだった』のPVでジョンを演じていたのも記憶に新しいですが(笑)。
K:これもまた奇跡ですよね。福本さんがリリーさんと凄く仲が良くて、その縁でお願いしたんです。以前、リリーさんが『ビートルズへの旅』(写真家・福岡耕造との共著)というフォト・エッセイを出して、その本をジョンの追悼ライヴで販売したことがあったんですよ。買ってくれた人にはリリーさんのサイン入り色紙をプレゼントしようということになって、リリーさんも快諾してくれたんです。一枚一枚、ジョンにちなんだイラストやメッセージが描かれてあって、それがどれも本当に素晴らしかったんですよね。最初はその色紙の中から選んだ一枚のイラストをジャケットにしたくて、リリーさんにお伺いを立てたんです。そしたら、わざわざ描き下ろしのイラストを届けて下さったんですよ。しかも色つきで。これには凄く驚いたし、感動しましたね。
──1972年頃の平和運動真っ盛りのジョンが描かれていますね。
K:完全にこのアルバムのアイコンになっていますね。至ってシンプルでほのぼのとした筆致だけど、“WAR IS OVER”という力強いメッセージも込められているし、リリーさんのジョンに対する愛を感じます。
亡くなった親父への思いがジョンとダブる
──そのリリーさんのイラストを含め、参加アーティストの愛がこれほどまでに注ぎ込まれたトリビュート・アルバムもなかなかないですよね。安直なカヴァーに終始することなく、オリジナル楽曲が全体の2/3を占める点を見ても実にユニークな構成だと思いますし。
K:僕はこの『ジョン・レノンへの招待状』と並行して『NAKED COLLECTION』というイヴェントを開催しているんです。普段バンドで唄っているヴォーカリストが3人集まって、Aメロ、Bメロ、サビとリレー式に曲を作ってレコーディングしてからイヴェントに臨む趣向なんですけど、イヴェントに向けて新曲を作るのが自分ではそれほど珍しいことじゃなくなってきていたのが大きいですね。イヴェントに誘ったミュージシャンに対して「実は宿題がひとつあってさ…」って言うことにあまり抵抗を感じないと言うか(笑)。今度の『ジョン・レノンへの招待状』にはUnlimited Broadcastの井垣(宏章)君が出演してくれるんですけど、彼にも普通に曲作りをお願いしていますからね。最初は「マジですか!?」って驚かれるんだけど、そこはやっぱりミュージシャン魂に火がつくんですよ。こっちもジョンやビートルズのことが好きな人に声を掛けているし、「一曲作って下さい」とお願いした時点でその人とジョンやビートルズの関係性へと一気に発展していくんですよね。だから、「おっしゃ!」って一肌脱いでくれる人が結構多いんですよ。
──このトリビュート・アルバムのオリジナル楽曲もそうなんですけど、ジョンなりビートルズなりを唄うことはありのままの自分自身を語ることに直結すると思うんです。それは僕らのように文章を書く仕事でも同じなんですが、ジョンやビートルズを対象にして表現する行為は小手先じゃ勝負できないし、満身の力を振り絞るしかないんですよね。
K:そうですね。今回のトリビュート・アルバムに参加してくれたミュージシャンはみんな結局のところ自分自身について唄っていると思うし。イヴェント然り、このトリビュート・アルバム然り、ジョンを見ている方向がみんな違っていて、いろんな思いや形でジョンと付き合っているんだなと改めて感じたんですよ。それは凄く新鮮でしたね。
──金吾さんにとってのジョン・レノンは、やはり永遠に超えられない高い壁みたいな存在ですか。
K:一生超えられないでしょうね。僕は最近、親父を亡くしたんですが、死んだ後になってから親父に訊いておきたかったことや一緒に行ってみたかった所が次から次へと浮かんでくるんですよ。ああしておけば良かった、こうしておけば良かったと思いを巡らせるたびに、そこで思い出はストップしちゃっているんだな…と感じるんですけど、それが親父に対する愛情だったり思いなんですよね。それと同じ思いがジョンに対してあるんですよ。30年前に亡くなったジョンに対して思いを馳せることと親父のことを思い返す行為が最近になってダブるんです。
──ジョンの生み出した作品は今も世界中で愛聴されているし、その歌声と魂に触れる若い世代が生まれ続けているのは純粋に素晴らしいことですよね。
K:今回のトリビュート・アルバムにも1980年にはまだ生まれていない人たちがいますからね。ukishizumiのさとうよう君は26って言ってたかな。自分が生まれる前にジョンは亡くなっていたわけだから、僕以上にもっと強い思いがあるのかな? なんて逆に思っちゃいますね。
──ジョンが凶弾に倒れた時、金吾さんは18歳の高校3年生だったんですよね。
K:そうです。友達の下宿先へ遊びに行って、寝そべってテレビを見ていたらジョンが射殺されたというニュースが流れたんですよ。凄くショックで、今でもよく覚えています。篠山紀信さんが撮ったジョンとヨーコの写真が『写楽』っていう雑誌の表紙になっていて、あれは亡くなる直前のものなんですよね。あの写真を見てジョンがジタンを吸っているのを知って、僕もジタンを吸うようになったんですよ。今はもうタバコをやめちゃいましたけど。
──ジョンは金吾さんの思春期へいつでもタイムスリップさせてくれる存在とも言えそうですね。
K:うん、いつもあの頃へ連れ出してくれますよ。その意味では、ジョンの存在自体がタイムマシンみたいなものなのかもしれませんね。