Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー中島卓偉('10年7月号)

それでも“明日への階段”を登り続ける頑強な意志、
破壊と創造を繰り返すイノヴェーターの強靱な覚悟

2010.06.22

 昨年、『ULTRA SLACKER』と題された2枚のフル・アルバムとベスト・アルバムを発表することでデビュー10周年を華々しく総括した中島卓偉。3年半振りとなるシングル『明日への階段』は彼の音楽人生がこの先の10年もまた実り多きものになることを予感させる作品であり、今がまさにセカンド・ステージへの過渡期であることを雄弁に物語っている。辛酸を舐めつつも歩を緩めず今日を明日へと繋ぐタイトル・トラックは、逞しいバンド・アンサンブルと荘厳なストリングス・カルテットが有機的に絡み合ったスタンダード性の高いナンバー。この妙味に富んだ楽曲を筆頭に、カップリング曲はいずれも決して一筋縄では行かない創意工夫を凝らしたものばかりだ。ありとあらゆる音楽的素養を貪欲に呑み込み、咀嚼し、血肉化させる破壊的創造者、中島卓偉にしか成し得ないハイブリッドな音楽性がいよいよ円熟期に突入したと言っていいだろう。文化の十字路をたった一人で体現する彼の思考体系に迫った1万字インタビューをここに謹んでお届けする。(interview:椎名宗之)

人生を身近にある"階段"に喩えた

──デビュー11年目の始まりを飾るに相応しいシングルが完成しましたね。

T:そうですね。シングルで行きたい気持ちがまずあったので、表題曲の歌詞が凄く重要だと思ったんですよ。自分なりの人生論と言うか、31年間生きてきた中で自分が蓄積してきたものを歌詞として表現したかったんです。

──ポップ・ミュージックの中に自身の哲学を噛み砕いて表現するのは至難の業だったんじゃないですか?

T:歌詞はとにかく時間が掛かりましたね。4ヶ月くらい答えが出なくて。歌詞に答えも正解もないんですけど、自分が納得できるラインにどうしても辿り着けなかった。今後の活動を見据えた時にターニング・ポイントとなる曲にしたかったし、それを考えると余計に深みにハマってしまって。でも、結果的には仕上がりに凄く満足していますね。今までは聴く人に共感してもらいたい気持ちが大きかったんですけど、今回は自分自身の気持ちや伝えたいことを優先させて歌詞を書き上げたんです。

──沸々と湧き起こる思いや人生のメタファーとして"階段"が象徴的に描かれていますね。

T:"道"と喩える人もいるでしょう。ビートルズなら『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』ですよね。船乗りなら"航海"かもしれない。僕の場合は、地に足を着けて踏み締めながら登っていく"階段"が一番しっくり来たんですよ。階段は降りることもできるし、途中で休むこともできる。身近なものでありながら深いなと思って。

──「誰にも本当のことを言えないまま/何でごまかしてんだろう 笑いながら」という冒頭のフレーズは普段の卓偉さんと重なる部分がありますよね。九州男児らしい武骨な男らしさがある一方で他者への気遣いが半端じゃないし、本当のことをなかなか言えない性格なんじゃないかなと。

T:よくご存知で(笑)。本当のことを言えない自分自身の真実なんですね。たとえば、採血をする時に注射針が血管まで届かないもどかしさみたいなものが僕には常にあるんです。人間、生きていればそんな場面に遭遇することが多々あると思うんですよ。サッカーで言えば、相手チームの選手が審判の見えないところでフェアじゃないプレイをするとか。でも、こっちは「相手に爪先でスネを蹴られて走れなかった」とは言えない。男らしくないですからね。全部を説明すれば理解されることであっても、「そこまで説明するなよ、男らしくねぇな」と言われるような世の中だし、そういうもどかしさは歌詞にできるなと思ったんですよね。僕にもステージ上で言えないこと、歌詞にも書けないことはありますよ。それを全部吐き出してしまえばリアリティはあるのかもしれないけど、そこまで行かないギリギリの線で人の心に届く普遍的な歌にしたいんです。

──躍動的なバンド・サウンドと雄大なストリングス・アレンジが楽曲を盛り上げる良い相乗効果を生み出しているのが見事ですね。

T:今回は生の弦で録ったんですけど、弦のアレンジをするならドラムもベースもシンプルなほうがいいと思ったんですよね。ホントは全部歌詞を書き終えてから弦のアレンジをしたかったんですけど、歌詞に煮詰まって弦が僕の歌詞を追い越してしまったんです。でも、歌詞のイメージはすでにあったので、それに従って弦をアレンジしたのが逆に良かったのかなと思って。出来たオケを聴きながら作詞に入れたので。あの何とも言えないもの悲しさのある弦から引き出された言葉だと思います。

──本作の収録曲はどれも完膚無きまでのバンド・サウンドで、セルフ・プロデュースということもあるのか、卓偉さん本来の持ち味が潔くストレートに出ていますよね。

T:今までいろんな方々とタッグを組んできて、いろんな手法を学んできたんですよね。誰かの畑にお邪魔して、アドバイスを受けながらいろんな作物を耕しつつ、どんなふうに実るのかを勉強できました。肥料や水の分量も学べましたし。その手法をそろそろ自分に置き換えてみる時かなと思ったんですよ。自分ならこんな育て方にしたいという、自分ありきのレコーディングにしたんです。

あらゆるものをブチ壊したクラッシュ

──『風穴メモリー』はハードコアの性急なリズムと広がりのあるポップなメロディが無理なく共存したナンバーで、パンクだけに留まらず、ポップだけでは解釈し得ないこの種の楽曲に卓偉さんの資質がよく出ているように感じますね。

T:僕はもともとパンクから入っているのでハードコアも大好きだったし、10代の頃に組んでいたバンドではそういう音楽もやっていたんですけど、それを捨てたわけじゃないんですよ。ハードコアは自分がこれまでに蓄積したもののひとつであって、今もちゃんと引き出しになっているんです。ただ、ハードコア一辺倒の人にはこういう試みが理解されづらいんですよね。僕は高円寺や下北沢に住んでいるパンクスに負けないくらいハードコアの論議ができるんですけど(笑)。

──ハードコア一辺倒は狭義な世界だし、閉塞感があるじゃないですか。ポップなフィールドという大海の中でハードコアのスタンスで斬り込んでいく卓偉さんみたいな人が僕は格好いいと思います。

T:やっぱり、ザ・クラッシュの在り方が僕のお手本なんですよね。子供の頃に聴き始めた時はとっくに解散していましたけど、そのぶんバンドの歩みを俯瞰できたんです。結局、クラッシュは一貫してクラッシュだったんですよ、ミック・ジョーンズが抜けても。自分たちに必要なアティテュードはバンド名だけで、あらゆるものをブチ壊すからこそクラッシュなんです。だからいろんな音楽的要素を採り入れて変化し続けていった。でも、ライヴではオーディエンスが好きな曲をちゃんとやる。僕はその姿勢に大いに賛同しますね。音楽的なジャンルなんてどうでもいいんです。ジャンル分けにこだわっていること自体がナンセンスだし、ルールのないレコーディングを今回は試みたんですよ。何かを壊さないと新しいものは生まれないし、人のやっていないことにトライしなくちゃいけないし、"これでいいかな"と満足した時点で歯車が回らなくなるんです。そういうトライアルを含め、自分の殻を壊すレコーディングにしたかったんですよね。

──『風穴メモリー』でのミクスチャー感覚は、個人的にレピッシュに通じるものを感じたんですよね。

T:『風穴メモリー』にホーン・セクションを入れたらレピッシュっぽくなるだろうし、フィドルとかを入れたらアイリッシュ・パンクみたいになるでしょうね。楽器を2つ、3つ入れ替えるだけでそういう匂いになるんですよ。それは言い換えれば、パンクもスカもアイリッシュも同じサッカー・チームのメンバーみたいなものだということです。どれも11人の中の1人のはずなのに、ひとつのジャンルしか愛せない、心を開けないのはもったいないなと思うんですよね。

──凄くよく判ります。掛け合わせの妙を楽しめたほうが視野は確実に広がりますしね。

T:それを体現していたのがクラッシュなんですよ。古い発想だとその掛け合わせが素直に楽しめないし、現状で満足してしまう。僕の場合、作品を完成させるたびに達成感はあるんですけど、"ホントにこれでいいのか? まだやり残したことがあるんじゃないか?"と語り掛けてくるもう1人の自分がいるんですよ。

──『すてちまえよ』もラウド・ロック系の重厚なギター・リフとOiパンクの疾走感が融合したユニークな楽曲ですね。

T:あの曲のリフはヘヴィに聴こえるかもしれませんけど、小難しいことは何もやってないんですよ。オープンで全部弾けるチューニングで、シンプルであることが僕にとっては常に大前提なんです。自分なりにパンク寄りのアレンジにしましたけど、「この曲はパンクだから」と限定するのではなく、聴いた人の中でパンクのエッセンスが響けばそれで充分なんですよね。またクラッシュの話になりますけど、パンクが出発点だった彼らもスカやレゲエの発症の地であるジャマイカまでレコーディングをしに行きましたよね。それはつまり、パンクのルーツを辿ればブラック・ミュージックに行き着くことを体現しているわけです。そのクラッシュのアティテュードをパンクスが受け継いでいないのはおかしいと僕は思う。

──要するに、パンクの表層的な部分しかなぞっていないんでしょうね。

T:そうなんですよ。音楽を楽しむ上で、それが残念でならないんです。僕は新しい音楽的要素を採り入れつつ、自分のルーツにあるものを活かした曲を作りたいだけなんですよ。毎回思っているのはそれだけです。

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明日への階段

zetima EPCE-5716
1,500yen (tax in)
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01. 明日への階段
02. 風穴メモリー
03. すてちまえよ
04. 再会
05. 明日への階段 〜vocal off version〜
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LIVE INFOライブ情報

中島卓偉 LIVE 2010
120% TAKUI NAKAJIMA〜3時間一緒に唄えますか!?〜

2010年8月1日(日)SHIBUYA-AX
OPEN 16:00/START 17:00
チケット料金:4,500円(税込・ドリンク代別途500円)/全自由(整理番号付)/スタンディング/未就学児入場不可
*チケットは、電子チケットぴあ(Pコード:103-876)、ローソンチケット(Lコード:78132)、e+にて7月3日(土)に一般発売。
musicians Guitar:生熊耕治/Bass:牧田拓磨/Drums:石井悠也
お問い合わせ:オデッセー 03-5444-6966

音霊 OTODAMA SEA STUDIO 2010
『波打ち際ROCK』

2010年7月20日(火)逗子海岸
OPEN 16:45/START 17:30
チケット料金:前売3,500円/当日4,000円(税込/ドリンク代別途500円/IDチェック有)
出演:Do As Infinity/中島卓偉/椎名慶治(ex.SURFACE)/Opening act:LOVE
お問い合わせ:OTODAMA 運営事務局 046-870-6040(11:00〜20:00)

ブロードウェイ・ミュージカル『RENT』
2010年10月7日(木)〜11月23日(火・祝)日比谷シアタークリエ
脚本・作詞・音楽:ジョナサン・ラーソン
訳詞:吉元由実/演出:エリカ・シュミット
*公演詳細は東宝のホームページをご参照下さい。
http://www.toho.co.jp/stage/

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