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INTERVIEW

トップインタビュー「愛のむきだし」園子温インタビュー('09年1月号)

愛は盗撮、愛は勃起、愛は寛容、愛は真実──
園子温監督が“純愛”をむきだしにした、至上の237分!!

2009.01.05

『自殺サークル』『紀子の食卓』など上映作品はすべて世間を揺るがし、国内海外の映画祭で常に高い評価を受ける園子温監督の最新作『愛のむきだし』がいよいよ公開される。「無敵の"純愛"エンタテイメント」と銘打たれたこの作品だが、当然のことながら園子温映画が巷にあふれる安易な純愛ものであるはずもない。園監督の友人でもあり、かつて盗撮界のカリスマとして崇められた男が、新興宗教にはまってしまった妹を教団から力ずくで奪い返したという実話をベースに、罪と罰、欲望と禁欲、キリストと新興宗教、家族と共同体など、さまざまな要素を複雑に絡み合わせて完成させた237分の長篇大作映画なのだ。まさに映画のむきだし! もしあなたが最高の映画体験をしたいのならば、絶対にこの映画を見逃してはならない。(Interview:加藤梅造)

史上初のロックスターはキリスト

──『愛のむきだし』は、園さんの自主映画時代からの友人の実体験をベースにした映画ですが、実際いつ頃の話なんですか?

園 その事件自体は15年前ぐらいの話で、その時は映画にするつもりもなく単に面白い話だなあと思っていた。それが一昨年ぐらいにふと映画にしたくなって脚本を書き始めた。

──上映時間が237分なんですが、最初から長篇大作という構想でした?

園 いや、全然。最初はその友達の変態ぶりだけを描くつもりだった。それでも面白いんだけどもう少し間口を広げたいなと。実際にそいつが宗教団体から妹を奪還する時に「こっちの世界に戻って来い!」と説得したんだけど、そのセリフがこの話の一番おもしろい所で、友達の変態性はそのきっかけにすぎない。だから、主人公の設定はかなり違うものにしたし、盗撮以外にも、聖と俗、SEXと禁欲、キリストと新興宗教など、いろいろな要素を付け加えていったら、結局あれだけ長いものになってしまった。

──園さんが実際に新興宗教を体験した話も入ってますよね。

園 そう。家出して上京したばかりで行く場所も食べる金もない時に、たまたま五反田の駅前でその宗教団体が勧誘活動をしてて「神を信じますか?」って言うから、「信じたらメシ食えるのか?」と聞いたら「食える」って言うから、じゃあってことでついて行った(笑) それでどこかの教会で掃除したり授業受けたりしながらしばらく生活していた。

──どのぐらいいたんですか?

園 全然憶えてない。もう次元が違う世界だから。ただ、暖炉の上に『ホワイトアルバム』があったことだけは憶えている(笑)

──洗脳はされなかったんですか?

園 だってその教祖のおっさんが宇宙を支配してるって言われても、信じようがないでしょ。賛美歌で「シオンの丘に帰ろう〜」とか歌ってる時も「俺が子温(シオン)だよ!」って思ったり(笑)

──ちなみに園子温という名前はキリスト教と関係あるんですか?

園 ないない。たまたま同じなだけ。でも俺はキリスト・マニアで、キリストのファンクラブがあったら入りたいと思ってた。でもそういうのはないから、何度かキリスト教に入信しようと思ったけど結局無理だった。それでもやっぱりキリストは好きで、いつかはキリストの映画を撮ってみたいね。

──スーパースターとしてのキリストが好きってことですか?

園 そう、ジョン・レノンみたいなもの。たぶんジョン・レノンもキリストをライバル視してたと思うけど、史上初のロックスターはキリストだと思う。若くして死んだっていうのもロックスター的だし。

どうしようもない絆を背負ってないとドラマにならない

──『愛のむきだし』はキリスト教がひとつの主題になってますが、保守的なキリスト教徒からは怒られそうな描写もあるじゃないですか。マリア様に勃起したりとか。

園 うーん、確かに外国はそのへんのモラルの尺度がわからないからね。でもベルリン映画祭で僕の『奇妙なサーカス』が地元の大きな新聞の読者投票で1位になったんだ。つまりドイツで『奇妙なサーカス』は日本でいう『三丁目の夕日』みたいなもんなのかなって。そういう国なら大丈夫でしょう(笑)

──ちなみに園さん『三丁目の夕日』は観たんですか?

園 観るわけないじゃん(笑)。ああいう映画がヒットするのは、今の時代が活力を失っているからだと思うし、そもそもいい人しか出てこない映画っていうのにはやっぱり抵抗を感じるよね。

──『紀子の食卓』もそうでしたが、家族、共同体は園さんにとって描きたいものなんですか?

園 というか、共同体以外に面白いテーマがないから。確かに友達とか恋人というのも面白いかもしれないけど、恋人の場合、嫌なら別れりゃいいじゃんと思っちゃう。どうしようもない絆を背負ってないとドラマにならないというのがあって、本物の葛藤が描けない。

──園さんの映画では、例えば児童虐待や家出など崩壊した家族を描くことが多いですが、それでも人は家族や共同体を必要とするものだと思いますか?

園 それはまあしょうがないよね。信じ合おうが憎み合おうが、人と人がどうしようもなく一緒になるのは理屈じゃないから。

ライバルはケータイ小説

──園さんは新興宗教に対して、一般社会とは違った存在として興味があるんですか?

園 新興宗教は好きじゃないけど、存在意義に興味があるのは確かだね。なんでそんなものが必要なのかなって。やっぱりそれがないと生きていけない人もいるわけだし、家族とは別の運命共同体としておもしろい存在だよね。

──園さんが以前主催していたハプニング集団「東京ガガガ」にも、当時行き場のない人や家出した人がよく来てましたが。

園 2階建ての一軒家を借りてたから。全部で12部屋ぐらいあって、完全にコミューンだった。朝、なぜか知らない奴が俺の部屋で歯磨いてたりして、こんなやついたっけなぁ?とか。バックパッカーが「ここに来ればタダで泊まれてメシも食えるんですよね?」って押しかけて来たり(笑)

──園さんの映画が好きな人って一般社会になじめない人も多いと思うんですが、園さん自身はどんな人に自分の映画を観てもらいたいんですか?

園 例えば浅草のジェットコースターしか乗ったことない人を本物のジェットコースターに乗せてやりたいって思う。今、日本の映画って安易な感動ものばかりだから。「余命もの」とか。そういう奴らは全員『愛のむきだし』を観てビビって欲しいね。

──「泣ける」とか「感動」とかやたら宣伝文句に使われてますからね。でも園さんはそういった安易な感動映画をきちんとライバル視しているんですね。

園 だからケータイ小説が僕の映画のライバルだよ。この前も出版社の奴に『愛のむきだし』の原作本を『赤い糸』の隣に並べろ!って言ったんだ(笑)。ターゲットはサブカルじゃないんだからさ。

身近な共同体の話を描くことがむしろ社会的な問題を語りえる

──園さんの映画は、『自殺サークル』にも顕著なように、いつも社会的な事件や状況にコミットしようとする力がありますよね。

園 常に社会的な問題は取り上げたいと思っているんだけど、じゃあどっからやるんだというのが難しい。昔みたいに左翼が元気な頃は、盲目的にそういうものが撮れたと思うんだけど、そんな幻想はもうないんだから。人が自由になるためには、単に権力と闘えばいいとかじゃなく、社会はもっと複雑なものだと誰もが知っている。そういう時代に社会的な映画をどう撮ればいいのか。ドキュメンタリーだったらどこか一部を切り取る方法もあるけど、ドラマの場合、見る側の情報の開きも問題で、前提となる知識を一から説明するわけにもいかない。だからといって、どっかの国で戦争が始まったら自分の給料が下がっちゃうような時代に、社会的な部分を無視することもできない。だから、大きな社会状況を語るのが困難であるなら、『愛のむきだし』のように身近な共同体の話を描くことがむしろ社会的な問題を語りえるんじゃないかと思う。

──僕は『愛のむきだし』ではキリスト教が社会性の象徴として描かれていると感じました。

園 この映画の中では、キリストをあたかも10年ぐらい前まで生きてたような、身近な存在にしたかった。わかる? 「今、キリストっていうのがブレイクしているんだよ」ぐらいの感覚で、ごく最近のカリスマとしてキリストを語っているの。それによって、2000年という時間をすっとばして、キリストをリアルな存在にしたかった。

──ああ、だからヒロインのヨーコは、カート・コバーンの次にキリストのファンになるんですね。

園 そう、カート・コバーンのちょっと前ぐらいにいた人。だから、ヨーコが新約聖書を読むのは、ジョン・レノンの「LOVE」を引用するのと同じなんだよ。

──新約聖書の中のコリント人への手紙13章を引用したのは、それが今の時代にもリアルな詩のフレーズだからですか?

園 もちろん好きな言葉だけど、あれが不思議なのは、「愛は寛容なもの」だと言っているのにもかかわらず、映画の中では、愛がずっと不寛容なものとして描かれていること。それはキリスト教にも通じるんだけど、せっかくいいことを言っているのに、それを言えば言うほど不寛容な状況になってしまう。愛がこうなったらいいなと願うほど、それが真逆の方向にいってしまうという不幸、それを描きたかった。愛が「素晴らしい」と言ったそばから色褪せしぼんでいく予感、その恐怖、それでも愛ってすごいなと、その両極端が映画に出ている。

──まるで園さん自身の恋愛を語っているみたいですね。まあ罪の方が多いでしょうけど。

園 だから今回この映画で懺悔したとも言えるね(笑)


園子温 Profile

映画監督、詩人。街頭詩パフォーマンス「東京ガガガ」主催。愛知県豊川市生まれ。インディーズ映画監督の旗手としてデビュー後、精力的に作品を発表。今や海外でも評価の高い映画監督として知られる。主な監督作品は、『自転車吐息』(1990年)、『部屋 THE ROOM』(1994年)、『自殺サークル』(2001年)、『Strange Circus 奇妙なサーカス』(2005年)、『紀子の食卓』(2006年)など多数。


公開情報
愛のむきだし

愛のむきだし
09年1月31日より、ユーロスペース他にて衝撃のロードショー!
原案・脚本・監督:園 子温
出演:西島隆弘、満島ひかり、安藤サクラ
音楽:ゆらゆら帝国(主題歌『空洞です』)
配給:ファントム・フィルム

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