Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューワタナベカズヒロ&いとうかなこ('08年08月号)

“GEORIDE LIVE TOUR 2008 FINAL”2days、新宿LOFTにて敢行!
歌に導かれて集いし楽聖たち、その艶やかなる饗宴!

2008.08.01

ロックとゲーム&アニメのクロス・オーヴァーを標榜し、日本のみならず世界へと発信し得る良質な音楽を発表していくことをコンセプトとして今年産声を上げた音楽レーベル"GEORIDE"〈ジオライド〉。同レーベルのお披露目を兼ねた発足記念イヴェントとして大阪・神戸・名古屋を巡るライヴ・ツアーが先月末に断行されたばかりだが、そのツアー・ファイナルが今月16日(土)、17日(日)の両日にわたって我が新宿ロフトにて行なわれる。初日はいとうかなこ、2日目はワタナベカズヒロという"GEORIDE"を代表する気鋭のシンガー・ソングライターによるワンマン・ライヴだ。いずれはこのロフトをホームグラウンドとして精力的なライヴ活動を展開していきたいという両者に、自身の音楽に対する矜持、ゲーム&アニメ音楽とロックの相違点、そしてワンマンに懸ける意気込みまでを訊いた。(interview:椎名宗之)

ワタナベカズヒロ

何事も貪欲に楽しむのが僕のやり方なんです

「こうして直接話していることよりも、自分の音楽の中にこそ話したい真実があるのかもしれない」。インタビューの最中にワタナベカズヒロがふと呟いた言葉である。伝えたい言葉を上手に伝えられないからこそ、彼は音楽の魔法を信じて雄弁なメロディを紡ぎ出す。その甘美さと切なさが同居したメロディは意志のある言葉と相俟って聴く者の感受性に突き刺さる。不器用な男がありったけの思いをその歌に込めるからこそ深く突き刺さる。音楽の力を限りなく信じる男の歌には1ミリたりとも嘘がないのだ。


"陽"の「追憶の風」と"陰"の「Are One」

──新曲の「Break the Chains」はブレイク・ビーツを大胆に採り入れたダンサブルなナンバーですが、従来のワタナベさんの音楽性からすると異色作と呼べるものですよね。冒頭にはラップを挟み込む念の入れようで。

ワタナベ:そうなんですよ。今まではそういう作品を作ったことがなかったし、全く初めての試みですね。聴いて頂いた方が面白がってくれればいいかな、という感じで。ZIZZ STUDIOがサウンドを手掛けるということで、最初にブレイク・ビーツを採り入れた音色になると聞いた時は、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとかあの辺の雰囲気に近いヘヴィなものになるのかなと思ったんですが、結果的にはこういう踊れる感じになりましたね。スピード感も出て良かったと思いますよ。

──随所に入ってくるギターのカッティングが効果的なアクセントにもなっていますし。

ワタナベ:そのギターは僕が弾いたものじゃないんですけどね(笑)。「Break the Chains」はZIZZの村上(正芳)さんに、カップリングの「Are One」は(榊原)秀樹さんにそれぞれ弾いてもらったんですよ。今回のシングルに関しては、サウンドの細かい部分に至るまでZIZZの磯江(俊道)さんに完全にお任せする形で、自分はヴォーカリストに徹したんです。磯江さんとは今までずっと良い信頼関係でコラボレートしてこれたし、今回もその流れでお願いした感じですね。アレンジも最初はもっとシンプルなロックだったんですけど、何回か音合わせをしていくうちにだいぶ変わっていったんですよ。最後のほうは、誰がどこのパートを演奏しているのか判らない状況になっちゃったんですけど(笑)。

──ラップの入ったダンス・ビートがこれほどまでにワタナベさんの歌と調和するとは少々意外でしたが。

ワタナベ:いわゆるミクスチャー系から派生している音楽が個人的にも凄く好きなんですよ。今まで自分の音楽でやってみようとは思わなかったので、新機軸だと思いますね。

──「Break the Chains」の躍動感に溢れた世界から一転、カップリングの「Are One」はピアノを基調とした内省的な楽曲ですね。"陽"と"陰"の表情がくっきりと出た2曲と言えそうですが。

ワタナベ:「Are One」は凄く気に入っているナンバーですね。何曲かストックがある中で、「録るならやっぱりこれだね」という話を磯江さんともしていたんですよ。今までの自分の音楽性から言えば、「Are One」は自分の歌を活かせるサウンドなんです。シンプルだけど非常に説得力のある楽曲に仕上がったと思うし、磯江さんが書いたメロディも素晴らしいですしね。

──磯江さんのメロディを聴いてからワタナベさんが歌詞を書き上げたんですか。

ワタナベ:そうです。自分が依頼を受けて歌詞を書く時は、いわゆる"曲先"が多いんですよ。自分が作詞・作曲を手掛ける時はケース・バイ・ケースですけど、"詞先"であることはほとんどないですね。トライしてみたい部分ではあるんですけど。

──「Are One」のPVは、いとうかなこさんの「追憶の風」と対になった作品になっていますね。両作品にそれぞれが随所に顔を出す凝った作りになっていて。

ワタナベ:凄く面白い試みですよね。かなちゃんの「追憶の風」が"陽"で、僕の「Are One」が"陰"になっていて、そのコントラストがよく出ていると思います。

──いとうさんが"太陽"もしくは"朝"、ワタナベさんが"月"もしくは"夜"という対比ですね。

ワタナベ:そういうコンセプトですね。2本見てもらえるとより面白さの増すPVだと思いますよ。

──"陽"と"陰"で言えば、ワタナベさんの本来の資質はやはり"陰"に近いですか(笑)。

ワタナベ:そうですね。基本的には部屋の隅のほうでウジウジしているタイプですから(笑)。


自作曲でも提供曲でも楽しむのが基本

──「Break the Chains」は日英詞で、「Are One」は英詞でそれぞれ唄われていますが、「Break the Chains」のほうは幼少時にアメリカで生活していたこともあるワタナベさんならではのネイティヴ感が出ていますよね。日本人が無理に英語で唄う拙さは微塵も感じられないし。

ワタナベ:その辺は多少意識しているところもあるかもしれないですね。もともと洋楽が好きだったし、完全な洋楽寄りに行かないまでも、洋楽の韻の踏み方や空気感みたいなものを出せたらなと思っているんですよ。

──ちなみに、アメリカには何年暮らしていたんですか。

ワタナベ:9歳から12歳までの3年半ですね。父の仕事の関係で渡米することになったんですけど。音楽を聴き始めたのもその頃で、アメリカってラジオがとても盛んな国じゃないですか。だから僕も四六時中ラジオばかり聴いていました。その時に聴いたたくさんの音楽が今の自分の糧になっていると思います。

──その当時流行っていた音楽と言うと?

ワタナベ:"第2次ブリティッシュ・インヴェイジョン"と呼ばれた音楽ですね。デュラン・デュランやカルチャー・クラブといったイギリスのバンドが元気な頃で。ちょうどMTVも始まった時期で、僕はU2とかが凄く好きでした。あと、アメリカの東海岸系の音楽を好んでよく聴いていましたね。ホール&オーツとかビリー・ジョエルとか、あの辺の音楽を。

──そういった良質な音楽を現地でオンタイムで聴いた後に帰国して、日本のポピュラー音楽に妙な違和感を感じませんでしたか。

ワタナベ:どうですかね。帰国した後に聴いた日本のポップスも割とすんなり受け容れられたと思いますよ。ライヴに足を運ぶようになったり、音楽にどっぷりと浸かるようになったのは帰国してからですしね。言うなれば"あいうえお"をアメリカで覚えて、日本で文章を書くようになった感覚ですね。

──なるほど。帰国した直後はどんな音楽を聴いていたんですか。

ワタナベ:中学時代はオフコースとか(笑)。日本のポップスに目覚めて以降は、布袋(寅泰)さんとかを聴いて影響を受けましたね。BOφWYが現役の頃は向こうにいたので、リアルタイムでは全然知らなかったんですよ。もちろん後追いで聴きましたけど。

──海外の生活を経験していらっしゃるから、日本語で唄うことに若干の抵抗があるのかなと思ったんですよね。

ワタナベ:そういうのは全然ないです。逆に、以前は日本語は日本語として堂々と唄おうと考えていたくらいで。ニトロプラスとの関わりが増えていくようになってから本格的に英詞に取り組むことにしたんですよ。最近は日本語詞と英詞の折衷みたいな作風になって、特に「Break the Chains」はそういった部分が如実に表れていますね。凄く面白い形でやらせてもらえたと思います。

──歌詞が日本語詞なのか英詞なのかは、メロディの質感に委ねてみると言うか。

ワタナベ:そうですね。楽曲の世界観に合うほうであれば。どちらかと言えば、まず楽曲ありきで取り組んでいますから。

──プレイステーション2のゲーム・ソフト『咎狗の血 True Blood』のタイアップ曲である今回のシングルは依頼を受けての楽曲ですが、自作曲とのギャップは感じていませんか。自身の内面から湧き上がる感情を歌に託すケースとはだいぶ異なる気がするんですけれども。

ワタナベ:"どんな楽曲であれ楽しんじゃえ!"という思いが根底にあるんですよね。「こういう歌詞を書いてくれ」とオーダーを頂いた楽曲でも、「自分ならこうするかな」と楽しんで取り組んでいるんですよ。自分の内面から湧き出る楽曲はオーダーを自分自身に出している感覚だし、作曲に取り組む2つのパターンにそれほど大きな違いはないですね。

──いとうかなこさんにも数々の作詞曲を提供していますよね。『Largo』に収録されていた「Moonstruck」や「鋼鉄サムタイム」然り、最新シングルである「A Wish For The Stars」然り。

ワタナベ:事前に「こんな感じの歌詞を」と言われることもあるし、そういうのが全くないこともあるんですよ。リクエストがない時は、メロディのニュアンスやかなちゃんの歌の色付けを考えながら書いていますね。かと言って、女性が唄う歌詞というのを殊更に意識することもないんですよ。小説や映画の1シーンを膨らませて楽曲の世界を映し出すように書いているんですけど、それを女性の観点からのカメラに切り替えるのはそれほど難しいことでもないですから。不思議と煮詰まることも余りないし、楽しんでやらせてもらっていますね。自分の楽曲にしろ誰かへの提供曲にしろ作風を変える意識はないし、単純に唄う人間が変わるだけの感覚なんです。

言葉と音楽が分離しないように伝えたい

──いとうさんへの提供曲でも、ワタナベさん自身が唄っても何ら変わりはない、と。

ワタナベ:もちろん。自分が人前で唄っても恥ずかしくないクオリティにはしているつもりですから。楽曲が完成して聴いた時に、まず自分自身が唄いたいと思えるものを作りたいと常日頃考えていますね。

──どちらかと言えばワタナベさんの音楽性はサウンド志向だと思うんですが、今回のシングルは特に言葉の響きがサウンドに押し潰されることなく、極めて理想的なバランスでメロディと言葉が寄り添っているように感じますね。

ワタナベ:言葉が音楽になることは自分でも凄く意識しているし、それはアメリカで生活していた経験が多少なりとも活きているのかなと思いますね。歌詞も音を構成する重要なパーツのひとつだし、そこにあわよくば面白いストーリーや言葉から連想する情感を色付けとして織り込みたいと考えているんです。ライヴでもそうですよね。言葉と音楽が分離しないように、楽曲の中にある歌詞をひとつの大きなメッセージとして伝えたいんですよ。言葉だけが持つメッセージ以上のものが伝われば、それが一番嬉しいですね。

──そうしたメッセージ性の高い音楽が、不特定多数のゲーム・ファンに触れる機会があるというのはとてもラッキーなことですよね。

ワタナベ:そうですね。思わぬところから思わぬ音楽が流れてきて、それに感動してもらえるのは嬉しいことですよ。

──思わぬところから思わぬ音楽が流れてくるという意味では、ワタナベさんが幼少期にアメリカでラジオを聴き込んでいたのと近いのかもしれませんよね。

ワタナベ:ああ、そうかもしれないですね。僕自身、向こうでラジオを聴いていて、聴いたことはあるけど曲名を知らない曲が結構あったんですよ。日本に帰国してから自分でいろいろ調べて、「あ、この人たちの曲だったんだ!」と初めて理解できたりして。ゲーム・ファンも多分そんな感じですよね。「この曲、何だろう?」「何かいい曲だな」と気になって、そこからネットで検索してみたり。ただ、ゲーム・ファンのほうが気になってからの行動が凄く早い気がする。興味を抱いた対象に対して凄く貪欲なんだろうし、そうやって僕の音楽を聴いてくれるようになった人たちも多いし、それはとても嬉しいことですね。

──ワタナベさんに対して何の先入観もなく、ただ楽曲の素晴らしさだけに反応してくれたわけですからね。

ワタナベ:そうですね。ゲームで僕の音楽を知った人たちは凄く熱烈に聴き込んでくれるし、本当に有り難い限りなんですよ。

──ワンマンを行なう新宿LOFTにはどんな印象がありますか。

ワタナベ:LOFTには今年の1月に"THE CHIRAL NIGHT ZERO"のイヴェントで出演させて頂いたんですけど、自分の中ではやっぱり日本一のライヴハウスというイメージがありますね。"伝説"という言葉が似合うライヴハウスだし、自分がワンマンをやるなんて畏れ多いと言うか(笑)。まぁ、気心の知れたZIZZ BANDと一緒だし、大阪、神戸、名古屋と回った後のワンマンなので観応えのあるライヴになると思いますよ。期待して頂いていいかと(笑)。

──最後に、今後の活動について聞かせて下さい。

ワタナベ:ソロと並行して"ワタナベカズヒロスロウバウンド"(WKTB)というバンド・ユニットとしても活動しているんですが、どちらも今以上に活発化させていきたいですね。ソロとして緻密に作品を作り上げていく作業も楽しいし、バンドのダイナミズムもやっぱり面白い。どちらも欲張りに楽しみたいんですよね。周りの人には単なる無節操な人間としか見えないかもしれないけど(笑)、どんなことにも貪欲に楽しんで取り組むのが僕のやり方なんですよ。


いとうかなこ


歌が繋いでくれた縁でここまで来れた


いとうかなこは生まれながらの唄い手である。歌を唄う瞬間こそが彼女にとっては至上の歓びであり、唄うことと生きることは彼女の中で直結している。それがゲーム音楽だろうとアニメの主題歌だろうと、便宜的なジャンルの区分けなど彼女は一切関心がない。その艶やかで伸びのある歌声に音楽のミューズが宿っていることは、一度でも彼女の歌を聴いたことがある人ならば異論の余地はないはずだ。歌を介して数々の出会いを果たしてきたという彼女だが、聴き手にとっても彼女の歌は"歌が繋いでくれた縁"そのものなのである。

ゲームで自分の曲が流れると感動する

──いとうさんがZIZZ STUDIOのメンバーに加入して、早7年が経つんですね。

いとう:歌が繋いでくれた縁ですね。今年に入って立て続けにシングルを発表しているのも、歌を介していろんな人たちとの縁が生まれて依頼を頂いているからなんです。歌が出会いを呼んでここまで来れたし、そうやって生きてきたので。「歌って便利だなぁ...」って思っているうちにいろんな人たちと出会えたんですよ。まぁ私の場合、音源の制作はZIZZのみんなが関わっているものばかりなんですけど。

──ZIZZ STUDIOのメンバーは運命共同体みたいなものですか。

いとう:まさにそんな感じですね。互助会みたいな感じで、みんな助け合って生きていますから(笑)。私の歌を最良の形で活かすサウンドはZIZZのみんなにしか生み出せないと思うし、まず何よりも私自身がみんなのファンだったりするので。磯江(俊道)さんが作ったゲームのコンペ用の曲(「煌星」)を唄ったのがきっかけでZIZZの仲間入りをしたんです。18禁ゲームなんて全然知らなかったけど(笑)、単純に曲の格好良さに惹かれたんですよね。

──PVが対の構成になっているいとうさんの「追憶の風」とワタナベカズヒロさんの「Are One」は、いずれもプレイステーション2のゲーム・ソフト『咎狗の血 True Blood』のエンディング・テーマなんですよね。

いとう:PCゲームのエンディングってたくさんあるんですよ。場合によっては10曲あったりもするし。アドヴェンチャー・ゲームには分岐点があるから、どっちに行くかでエンディングも自ずと変わってくるんですよね。明るい未来に向かうエンディングもあれば、全員死んじゃってドヨーンとしたエンディングもある。後者はバッド・エンドって言うんですけど、それがトゥルー・エンド(制作側の意図したエンディング)だったりもするんですね。必ずしもハッピー・エンドとは限らない。それをコンプリートするためにみんな夜な夜なゲームをやるわけですよ(笑)。私も全部のお話が気になって、『咎狗の血』のPC版は全部やりました。キャラクターを全部攻略しないと見られないお話もあったりして。

──ゲームの最中に自分の音楽が流れてくるのはどんな感覚なんですか。

いとう:感動しますよ。「おお!」って思う。アニメのオープニング・テーマには凄くポップでキャッチーな歌があったりして、ちょっと戸惑う部分もあるんですけど、実際に映像と音楽が合わさったのを見ると「ああ、アリアリ!」って思うんですよね。

──「追憶の風」は、別れた恋人との思い出を胸に抱きながら明日を信じて歩いていくという、とても前向きな楽曲ですよね。

いとう:そうなんですよ。まぁ、ゲームの中では男の子同士のお話なんですけどね(笑)。

──ああ、『咎狗の血』はボーイズ・ラヴ系のアダルト・ゲームですもんね(笑)。

いとう:うん。だから一人称を"僕"にしているんですよ。数々のバトルを乗り越えて生き延びた2人の男の子が未来に向けて踏み出していくっていう歌詞なんですけど、男女のラヴ・ソングとしても聴けると思いますよ。

──歌詞の内容はバラード調ですけど、曲調はロック・テイストが強いですよね。特に中盤の火を吹くようなアルト・サックスと激しく叩き鳴らされるスネアがもの凄く猛々しくて(笑)。

いとう:壊れそうな勢いですよね(笑)。ZIZZの場合、アレンジは基本的に作曲した人がやるので、「追憶の風」のアレンジは磯江さんにすべてお任せでした。やっぱり、凄く信頼していますからね。自分の書いた曲でも全部放り投げちゃうくらいなんですよ。その結果、予想外のアレンジで返ってくることもあるんですけど、それが逆に面白かったりもするので。まぁ、「アレンジもできるようになるといいよ」ってみんなからは言われているんですけどね(笑)。今度作るアルバムでは自分でもアレンジをやってみようと考えていますけど。


"アニソン歌手"と呼ばれても全然構わない

──カップリングの「STILL」は"Alter ego ver."ということですが、2ndアルバムの『サイン』に日本語ヴァージョンで収録されていた楽曲ですよね。

いとう:そうなんです。『咎狗の血』の初代エンディングに使われていたのが英語ヴァージョンで、そのアレンジ違いのヴァージョンなんですよ。英語詞をワタナベさんが、日本語詞を私がそれぞれ書いたもので、この曲をライヴで唄うと泣く人が多いんですよね。今回のヴァージョンは外山明さんという方がゲストでドラムを叩いていて、その様が凄く格好良かったんですよ。立って叩いていらっしゃいましたからね。弦のアレンジをするウッド・ベースの立花(泰彦)さんの紹介で参加してもらったんです。弦一徹さんのヴァイオリンも素晴らしかったですね。見た目も凄くロックな方で(笑)。

──ワタナベさんの書く歌詞にはどんな印象を持っていますか。

いとう:凄く好きな歌詞ですね。ワタナベさんもシンガーなので唄いやすいんです。言葉がメロディにとてもよくマッチしているから、唄っていてノリやすいんですよ。最初の頃は辞書を引かないと判らない英語が多かったんですけど(笑)。

──この「STILL(Alter ego ver.)」のような英語詞は、やはり唄うのが難しいものなんですか。

いとう:どうでしょうね。カヴァー・バンドをやっていた時はずっと英語の歌ばかり唄っていたんですけどね。どういう訳か、自分では英語のほうが覚えやすいんですよ。多分、ノリで覚えちゃうんじゃないかな。たとえば日本語で唄うアニメの歌は言葉が結構詰まっているのでしっかりと覚えなくちゃいけないんですけど、英語の歌は割とすぐに覚えちゃうんです。

──今月はまた更に「A Wish For The Stars」という新しいシングルが発表されるんですよね。

いとう:矢継ぎ早にまた別のレーベルから(笑)。『ブラスレイター』っていうアニメのエンディング・テーマなんですけど。

──「キミと夜空と坂道と」(『Myself;Yourself』エンディング・テーマ)然り、「Heartbreaking Romance」(『破天荒遊戯』オープニング・テーマ)然り、このところアニメづいていますね。

いとう:すっかり"アニソン歌手"ですね。いつだかウィキペディアで検索したら、"アニソン歌手"って書いてありましたから(笑)。

──そうやって唄うテーマを限定されることに抵抗はありませんか。

いとう:全然いいですよ。私、アニソン大好きなんで。まぁ、70年代のアニメに限るんですけど。地元の宇都宮でアニソンのコピー・バンドをやっていたこともあるし。誰でも知っている曲だから、どこでライヴをやっても凄くウケたんですよ。

──ちなみに、いとうさんが好きだったアニメの主題歌というのは?

いとう:『ハクション大魔王』でしょ、倖田來未さんもカヴァーしていた『キューティーハニー』でしょ、『みなしごハッチ』でしょ、あとは『あらいぐまラスカル』のオープニング。それと『ベルサイユのばら』。これはバンドでやると凄く格好いいんですよ。

──また見事なまでに70年代限定ですね(笑)。

いとう:ホントに(笑)。まぁ、私は再放送を見ていたクチなんですけどね。そんな感じなので、肩書きは"アニソン歌手"でも何でもOKなんですよ。"シンガー・ソングライター"でも"ヴォーカリスト"でも、もう何でも一緒かなと思って。

──自分の歌が聴き手に伝わればそれでいい、と?

いとう:うん。アニメにしろゲームにしろ、何らかの物語の中にある歌を唄えることが嬉しいんですよね。何かのテーマ・ソングになっているのが凄く嬉しいし、そのアニメやゲームを好きな人の前でテーマ・ソングを唄うことも凄く好きなんです。アニメの曲から自分の作った曲まで振り幅は広いんですけど、自分が唄わせてもらっている曲の中には好き嫌いが余りないんですね。だからみんな一緒と言うか。

どんな曲でも"なんちゃって"なら大丈夫

──どんなタイプの曲でも唄いこなせないとプロじゃないという意識もありますか。

いとう:それもありますね。どんなジャンルの曲でも自分なりに唄えるっていうヘンな自信はあります。たとえば民謡でも、"なんちゃって民謡"なら唄える気がするし(笑)。和風でもオリエンタルなものでも"なんちゃって"なら大丈夫(笑)。ラテン語でもイタリア語でも、喋れないのに唄うのは大丈夫なんですよね。「A Wish For The Stars」のカップリング曲(「DD」)もフランス語ですから。ワタナベさんが書いた歌詞をフランス語を話せる方に翻訳してもらったんですけど、私が唄うのを聴いて「ちゃんと通じる」って言ってくれたんですよ。

──もはやタモリの四ヵ国語麻雀の域ですね(笑)。フランス語を習っていたことがあったんですか。

いとう:全然。フランス語は「ボンジュール」と「ボンソワール」しか知りませんから(笑)。その場でフランス人の方に発音してもらって覚えて、「今だ!」って忘れないうちに録ったんですよ。この間、誰かにその話をしたら、「それは耳や運動神経がいいとかじゃなくて音感がいいんだよ」って言われましたけど。まぁ、「DD」みたいな曲はライヴで唄うのが大変ですけどね。今は65%くらい覚えたかな(笑)。フランス語は北京語に似てると思いましたね。私、北京語でも唄ったことがあるんです。『塵骸魔京』っていうゲームに使われた「孤高之魂魄」がそれで、1番が北京語で2番が日本語の歌詞なんですよ。ZIZZの(江幡)育子ちゃんが北京語の歌詞を一生懸命書いたんですけど。

──新宿LOFTでのワンマンはどんな内容になりそうですか。

いとう:今詰めている感じですね。まぁ、当日までのお楽しみということで。以前"THE CHIRAL NIGHT ZERO"で出演させてもらった時のLOFTは、最高に唄いやすい場所だったんですよ。私、ライヴハウスであんなにちゃんと唄えたことがなかったんです。あんなに綺麗に音が聴こえたのは初めてだったし。ライヴハウスは大抵が爆音で中音が聴こえづらくて、勘に頼って唄うしかないんですよね。私にとってのLOFTはとても唄いやすいライヴハウスなので、今度のワンマンもきっと自分が一番楽しいんじゃないかなと(笑)。

──LOFTに対して抱いているイメージは?

いとう:やっぱりロックの殿堂ですよね。伝説のバンドをいっぱい生み出したライヴハウスっていうイメージです。

──ワンマン当日は、普段LOFTとは縁遠いオーディエンスが多数詰めかけるような気もしますが(笑)。

いとう:ピュアなお客さんが多いですからね、有り難いことに。みんないい人ばかりだし、女の子は可愛い人ばかりだし(笑)。最初はお客さんの99%が男の子だったんですけど、『咎狗の血』が出て男女の比率が半々になって、最近は女の子の数が追い越しそうな勢いですね。

──来年辺り、『Largo』以来のオリジナル・アルバムを発表する構想はありますか。

いとう:来年のことは何も考えていませんね。今やることだけで精一杯ですから(笑)。アルバムの制作はZIZZのみんなのスケジュール次第みたいなところもあるんですよ。みんな凄く忙しいので、スケジュールの調整だけで大変なんですよね。

──今後新たに試みたい楽曲の方向性や演奏形態とかはありますか。

いとう:サウンド的にはベースと歌だけとか、ヘンな構成でやってみたいですね。ZIZZのアレンジはいろんな音を重ねてかなり重厚なので、もうちょっと音に隙間があるものをやりたいです。凄く新鮮で面白いんじゃないかと思う。まぁ、今はそんなことを考える暇がまるでなくて、とにかくいろんな人から楽曲の依頼が来るんです(笑)。私、本当に運がいいと思う。あとそうだな、客取り合戦をしてみたいかな(笑)。昨日SHIBUYA-AXで(榊原)秀樹さんのDe+LAXのライヴを観て、純粋に音楽の力だけで毎回お客さんにライヴに来てもらうようにするのは凄く大変なことだと思ったんですよ。東京に住み始めた直後にいろんなライヴハウスへ行ったんですけど、どのバンドも真剣に客取り合戦をしているんですよね。だから私もゲームやアニメを全く知らない人たちの前でライヴをやって、初めてライヴを観てくれた人が私のCDを買って帰ってくれたら嬉しいな、と。あ、そうだ、夏フェスに「唄わせろ!」って無理矢理乱入して、そこで客取り合戦するのもいいかもしれない(笑)。何にせよ、そういう面白いことをこれからもやっていきたいですね。

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Break the Chains / Are One

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2008.8.13 IN STORES

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追憶の風

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A Wish For The Stars

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2008.8.06 IN STORES

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LIVE INFOライブ情報

ワタナベカズヒロ

GEORIDE LIVE TOUR 2008 FINAL 〜ワタナベカズヒロ with ZIZZ BAND ワンマンライヴ〜

2008年8月17日(日)新宿LOFT
出演:ワタナベカズヒロ(vo)、磯江俊道(key, prog)、村上正芳(g)、神保伸太郎(ba)、佐々木しげそ(ds)、他
OPEN 17:00 / START 18:00
TICKET:advance-3,000yen (+1drink) / door-3,500yen (+1drink)
*オール・スタンディング
INFO.:shinjuku LOFT 03-5272-0382

 

いとうかなこ

GEORIDE LIVE TOUR 2008 FINAL
〜いとうかなこ with ZIZZ BAND ワンマンライヴ〜
2008年8月16日(土)新宿LOFT
出演:いとうかなこ(vo)、磯江俊道(key, prog)、村上正芳(g)、神保伸太郎(ba)、佐々木しげそ(ds)、他
OPEN 17:00 / START 18:00
TICKET:advance-3,000yen (+1drink) / door-3,500yen (+1drink)
*オール・スタンディング
INFO.:shinjuku LOFT 03-5272-0382

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