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Report from Loft - What's Going On? VOL.1【高橋直輝(男組)】

2015.04.06

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(Text:加藤梅造/Photo:島崎ろでぃー
 
 今月から創のロフトのページが4頁になりました。せっかくなのでイベントの宣伝以外にロフトと関わりのある人物に登場してもらって、創には載らなそうな話をしてもらおうと思います。第一回目は超圧力/反レイシズム集団「男組」の高橋直輝さん。
 
 創の読者の方なら在特会やヘイトスピーチの問題はある程度知っているだろう。2006年に結成された在特会(正式名称は「在日特権を許さない市民の会」)は2009年頃からヘイトスピーチを伴うデモや街宣が次第に問題視されるようになった。特に2012年以降は、新大久保や鶴橋などの在日コリアンが多く住む地域でヘイトデモ(差別扇動デモ)を行うようになり、「朝鮮人を殺せ」といったヘイトスピーチを白昼堂々と行うまでになっていた。
 しかし2013年になると状況は一変する。「レイシストをしばき隊」など、ヘイトデモに反対する市民(一般的に「カウンター」と呼ばれる)が新大久保に集まるようになり、在特会のデモの度にヘイトデモ側とカウンター側の一触即発の睨み合いが続いていた。そうした状況の中、カウンター側の有志が集って「男組」は結成された。その代表が高橋直輝だ。 
 
 高橋直輝は元不良という少々特殊な経歴を持っている。思想的には右翼だという高橋はそもそもなぜカウンター行動をするようになったのだろう。
「2月頃にたまたま新宿で在特会のデモとカウンターの両方を見たんですが、こいつら何なんだろうというのが最初の印象でした。その後、またデモがあった時にちょっと話を聞いてみようと思ってデモが終わる寸前に公安の目を盗みデモ隊に入り、参加者に声をかけたんです。それが在特会の瀬戸弘幸と日侵会の菊川あけみだった。『どういう意図でこんなデモをやってんの?』と。そしたら菊川には無視されたんだけど、瀬戸の方が『私達は愛国者です。もし興味があるなら次のデモに来て下さい』と言うんで、後日彼らが池袋でやったデモに参加したんです。それは中国に抗議するという名目のデモだったんですが、なぜか在日朝鮮人や韓国人へのヘイトスピーチが全開で、なんだこれはと思って『瀬戸さん、これデモの主旨と全然違うじゃん。しかも死ね殺せって、こんなの愛国者でもなんでもないだろ』と文句を言った。そしたら向こうもムキになって反論してきて、それで決裂しました。ああ、こいつらはただのエセ右翼だなと」
 
 その一方で高橋は、レイシストをしばき隊としてカウンターをしていた伊藤大介氏とツイッター上で激しくやりあっており、遂には一対一でケリを着けることになったのだ。
「伊藤さんに住所を教えたら本当に来て何人で来てるのかも分からず、ケンカするつもりで伊藤さんを待っていました。私がいたマンションのフロアを全てノックしろ!と言ったのは訳があったんですが、流石に伊藤さんは全てをノックするのは無理に決まってるだろ!と言って帰って行ったんです。それでは私に筋が通らないと思い、翌日、伊藤さんの自宅に行って伊藤さんとサシで体面したんですが、ちょうどその時は下校時間で、道を歩いている小学生がみんな伊藤さんに挨拶するんです。それを見て『あれ?この人悪い奴じゃないな』と(笑)。そうこうしてるうちに伊藤さんが『まずは一回話して、それで納得できなかったらケンカしましょう』と言うんです。それで近くの公園で2時間ぐらい話したんですが、伊藤さんは『今までネット上で絡んできたネット右翼に自宅に来いと言っても実際に来た奴は一人もいなかった。来たのは高橋さんが初めてです』と言って、自分がなぜ在特会に反対しているのかを丁寧に説明してくれたんです」
 伊藤の説得もあって、後日、高橋は初めてカウンター側から在特会のデモを眺めることにした。
「沿道から在特会のデモを見ていたら、むこうは『朝鮮ヤクザ』『日本から出てけ』と容赦なく攻撃してくる。それでこっちも頭にきて、これはカウンターをやるしかないと思いました。
 
 一度やると決めたらとことんのめり込む性格の高橋は、ヘイトデモがある度にカウンター行動に加わるようになった。そこで出会った人達と結成したのが男組だ。男組は「非暴力超圧力」を掲げ、在特会を徹底的に追い詰めることに専念する。在特会との対立は時に激しさを増し、双方に逮捕者が出ることもあった。こうした過激路線ゆえ男組はしばしば批判の的にされるが、高橋はこう説明する。
「男組はヒールでいいと思ってます。バッシングもウェルカム。僕は何を言われても全然平気ですね。ネトウヨには文句があるなら俺ん家来いよって住所まで教えるんだけど、まず来ない。逆にこっちから会いに行ってサシで話すこともあります。実際に会うと、男組って何ですか?と興味持って聞いてくるおとなしい奴がほとんどですよ。それで時間をかけて説得するとデモに行かなくなったりツイッターを止めたりする。今の若い子たちって外で遊ばないじゃないですか。それでネットの情報を鵜呑みにしちゃうんでしょうね。しょせん在特会も上の奴らは在日特権なんかないと分かってやってるだけ。ただ信者は本気にしているから、そこを丁寧に説明してやると大抵ネトウヨなんかやめますよ」
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 こうした男組の行動力を称賛する人は多い。「のりこえねっと」共同代表の辛淑玉さんは男組の大ファンだと公言している。
「辛淑玉さんからはすごくよくしてもらってます。ただ、男組と仲良くすると辛さんの方にバッシングがいっちゃうんで、そこは気をつけてます。カウンター界隈で、男組は右翼のイメージが強いですから。実際は男組には右翼的な人も左翼的な人も両方いて、半分半分ぐらい。でも今の時代右も左もないと思いますよ。男組はどちら側の人とも対話ができるからそれが強みだと思いますね」
 
 レイシスト以外は誰でも歓迎と言う高橋の人柄もあってか男組には多様な人材が揃っており、大学での反差別教育からヘイトスピーチに対する裁判までその活動は多岐に渡る。黒人活動家マルコムXの言葉「By Any Means Necessary(必要ないかなる手段をとろうとも)」が男組の合い言葉だ。
「まだまだこれからです。レイシストを全員ぶっ潰すまで男組はあり続けますよ」
 こう言って人懐っこい笑顔を見せる高橋と話していると「強きを挫き、弱きを助ける」侠客が今の時代にも存在するのだと嬉しくなってくる。(文中一部敬称略)
 
(初出:月刊創2015年3月号)
追記:この原稿が公開された後、男組は解散を宣言した。理由等についてはこちらを参照 → 男組公式サイト【声明】
 
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