トップ > コラム >おじさんの眼 > 第227回「訃報 二代目ロフト社長・小林茂明54歳」

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ふるさとの空気が吸いたい

 2017年5月中旬(正確にはわかりません)、結婚2年目の看護師の奥様は担当医から「全力を尽くしましたがあと一週間持てばいい」と伝えられたそうだ。  
 これは本人にちゃんと伝えるべきだと思ってシゲに伝えると、彼の答えはこの言葉だったそうだ。「ふるさとの空気が吸いたい」
 その日、個人用救急車で東京から愛知県西尾市の実家に運ばれ、一夜明けて息を引き取ったという。
 
 5月20日お通夜、21日告別式(喪主:小林稚隼(妻))が西尾市「心月ホール」で行われた。
 急な式にもかかわらず、遠方からたくさんの音楽関係者や友人、ロフト関係者が駆けつけた。参列者は200人近く、花輪は300近く。「かつてこれだけの花が飾られたことはあまりない」とホール側が言うくらい、多くの献花で会場が埋もれた。
 神社形式の葬儀ではbobinの「Slow Burning」のゆるやかな曲が流れ、多くの参列者の涙を誘った。あまりにも若い死。いい葬式だったなんて書きたくはないが、思いのこもった葬儀だった。
 

シゲとの出会い〜シゲに救われる

 90年代後半、私はカリブ海の島・ドミニカ共和国で5年にわたるレストラン経営に失敗し完全撤退を決意。失意の中、日本に戻った。帰る場所は、日本を脱出する前に一軒だけ残しておいた「新宿ロフト」しかなかった。しかしいろいろあり、それまで「新宿ロフト」を預けていたスタッフと別れ、たった一人になった。8年近く日本を留守にして日本のロックとは無縁だった私は「新宿ロフト立ち退き問題」には太刀打ちできても、店を維持する自信はまるっきりなかった。そんなとき「新宿ロフト」のアルバイト長だったシゲが「悠さん、大丈夫ですよ、安心してください。ブッキングや店の維持は僕がやりますから」と言ってくれた。私たちがまず始めに手がけたのは「新宿ロフト」移転に伴い、ライブハウス「下北シェルター」の構築だった。
 それからロフトの快進撃が始まった。ロフト立ち退き問題、ロフト20周年の武道館、30周年、そして昨年は40周年を迎えた。その間、私はロックに関わることを諦め、自分勝手な遊び場としてトークライブハウス「ロフトプラスワン」という新たな空間を立ち上げた。シゲは新宿ロフト・シェルターの音楽事業をするという住み分けができて、ロフトの社長に就任した。彼はまだ30歳半ばだった。
 
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8月に知ったシゲの病状

 私がシゲの病気を知ったのは、ピースボートの北極航海を終えた昨年の8月だった。この年の4月、シゲは「ちょっと体の調子を調べてみて」と看護師の奥様から言われ検診を受けた。宣告されたのはレベル4の後半、末期癌だった。  
 それからシゲの1年にわたる闘病生活が始まった。奥様はバリバリの看護師だったので、途中でめげるシゲを励まして気丈に支え続けた。54歳という若さの身体中を癌細胞が転移するのは早かった。肺からリンパ、骨髄、肝臓、そして最後には脳まで広がっていた。ロフトに迷惑をかけられない、と今年4月にロフト社長を腹心の加藤梅造に委譲した。
 

往復書簡

 昨年9月から、シゲを励まそうと思って往復書簡のやりとりを始めた。その数は100通近くになる。ここにはほんの少ししか載せられないが、シゲがどんな闘病生活をしたのかを垣間見てほしい。シゲは最後の最後までロフト復帰を願っていたし、新婚2年目の奥様を本当に大事にしていた。奥様とのツーショットは幸せそのもので、私を安心させた。
 

2016/08/19 覚悟

 『抗がん剤第一弾の最終クールを8月に終え、検査結果を待って主治医とセカンドオピニオンの見解を聞き、「覚悟」を決める所存です! 前にも伝えましたが、もし復帰できるようでしたら悠さんと農村計画をして生産部長でもやりたいです! 今月末の決断に向けて、やっぱりチキンなオイラは、揺れ揺れですっ。。汗。笑っちゃいますね。今週末は家族に経過報告です。老いた両親と、20歳の不良娘への報告は、なかなかキツイものです。。「覚悟」ですね。「覚悟」。Happy な事だけ考えて、一服します(笑)。農村計画してぇーー! 投与の方は終わりまして退院はしたんですが、今回は副作用がきつく忍耐の日々を過ごしております。』
 

2016/08/20 転移

 『ご相談になってしまいますが、入院中に先日受けたPET検診の検査結果を伝えられまして、肝臓と骨(数カ所)への転移が見つかっちゃいました。主治医の見解では、「がん告知の時期頃からあったと思いますが、見つからなかったのでは」という事でした。
 治療方針としては、現在行っている抗がん剤&放射線を進めつつ、他臓器への転移の再チェックをして、今後の方針を決めましょうということです。なので急遽、明日21日から通院で脳のMRIなど、他臓器チェックに入ります。望みとしては、今回の放射線で原発箇所を少しでも消して、転移臓器を消していくか止めていく治療法になると思います。
 今週末には放射線の治療計画が出て、来月中旬には他臓器を含む方針が出てくるとは思いますが、病状の変化を主スタッフに伝えるタイミングと、復帰出来ないということを前提にした体勢作りを早めた方がいいかと思いますが、悠さんのご意見を頂ければと思います。40周年企画のピークを迎えようとしている時期に、こんな報告で本当にすいません。』
 

2016/09/30 信念

 『悠さん!おはようございます。やはり、「生きるという強い信念」ですね〜。友人から届いた「がんを克服した人に共通する9か条」を受け入れようと思います。・抜本的に食事を変える。・治療法は自分で決める。・直感に従う。・ハーブとサプリメントの力を借りる。・抑圧された感情を解き放つ。・より前向きに生きる。・周囲の人の支えを受け入れる。・自分の魂と深く繋がる。・「どうしても生きたい理由」を持つ。だそうです。さあ! 心に秘めて、今日もこれから放射線治療に行ってきま〜っす! 体調が良く、お会いできることを願って。。。』
 
最後にシゲから届いたメールの三日後、彼は帰らぬ人となった。
 
 『悠さん。またまた先程の血液検査の結果が悪く緊急入院になっちゃいました。いずれにしても日曜から抗ガン剤投与入院の予定でしたので、あまり変わりませんが。。とにかくこの抗ガン剤クールで今後の治療法に灯りが見えてくれる事を祈って、あきらめずに乗り越えますっ!!』
 
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