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トップレビュー映画『凱歌』- ハンセン病元患者夫婦の現実。寝た子を起こし、消えそうになったら火をつけ、そうして語り継がれるなかで、わたしたちはきっとそれぞれの「凱歌」を歌うのだ。

映画『凱歌』- ハンセン病元患者夫婦の現実。寝た子を起こし、消えそうになったら火をつけ、そうして語り継がれるなかで、わたしたちはきっとそれぞれの「凱歌」を歌うのだ。

2020.12.09   CULTURE | CD

 故郷を追われ、名前を変えさせられ、子どもを産む権利をも奪われたハンセン病の元患者の夫婦のドキュメンタリー映画『凱歌(がいか)』。先日、映画の主人公・山内きみ江さんからゆっくりとお話しを聞く機会をいただいた。非人道的な「断種手術」を強制されながらも、共に死を選ばず、夫婦で生きる道を進み続けたきみ江さんが語ってくれた "メディアに出る決意" は、取材側として深呼吸が必要なほど重く貴重な言葉ばかりだった。
 
 養子をむかえると決めた日のことを聞いたら、「(まわりからは)罪深いことをした、とまで言われた。……ほっといてくれればいいのにね(笑)」と話してくれたのだが、実はこの、「……ほっといてくれればいいのにね」というのは、いったん会話がおわって顔を見合わせてうなづいている間に、ふっと冗談を言うようにおっしゃった言葉だ。
 そのあと、きみ江さんはいたずらをしたかのような顔で笑った。
 沈黙の間に生まれたその言葉を聞いた瞬間、人の本音はとても尊いのだと思うと同時に、きみ江さんはこれまで、どれだけの気持ちと言葉を飲み込み続けてきたのだろう、と考えた。とてもじゃないがわたしには想像がしきれなかった。
 
 インタビュー後、お部屋のなかに飾っている小物を順番に見せてくれた。時期的にもうすぐクリスマスだから、玄関はサンタでいっぱい。並べられていたスノードームを逆さまに振って、雪に見立てたラメが降るのを一緒に見た。
 
 帰り際、わたしのなかにある、"きみ江さんが見た風景と状況的にすこしだけ重なる記憶"について、ついポロっとこぼしてしまった。あわてて玄関でお辞儀をしたわたしと並んで廊下を歩き、きみ江さんは言った。「後追いしたらみんな死ぬだけよ、幸せにならなくちゃ」そして、エレベーターが閉まりきるまで笑顔で手を振って見送ってくれた。
 
 誰かがやらないならわたしがやる、と語り部を引き受けたきみ江さんが語る言葉を聞いてしまったからには、次に伝えていくのはわたしであり、そしてあなただと思う。
 
 寝た子を起こし、消えそうになったら火をつけ、風化しそうになったらまた組み立てていく。現実をなかったことにしてはいけない、人間をいなかったことにしてはいけない。そうして語り継がれるなかで、わたしたちはきっとそれぞれの「凱歌」を歌うのだ。(成宮アイコ)
 
 
主人公の山内きみ江さん(ハンセン病 元患者・86歳)へのインタビュー掲載中。
 
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シアター・イメージフォーラム(東京・渋谷)にて公開中
2021年陽春 名古屋シネマテーク(愛知)ほか順次公開予定
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