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トップレポート第33回東京国際映画祭 BS10スターチャンネルアカデミー「映画級ドラマ!HBOコンテンツの神髄」丸屋九兵衛による徹底解説!

第33回東京国際映画祭 BS10スターチャンネルアカデミー「映画級ドラマ!HBOコンテンツの神髄」丸屋九兵衛による徹底解説!

2020.11.06

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「ジョーダン・ピールが今度はコズミックホラーとブラック・ライブズ・マターを組み合わせて面白くしたのがこの『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』なのです。 」(“万物評論家”丸屋九兵衛)
 
「BS10 スターチャンネル」(株式会社スター・チャンネル:東京都港区)は、 『ゲット・アウト』など社会派ホラーの ジョーダン・ピール や J・J・エイブラムス らが製作総指揮を執った最新ドラマ『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』を11月22日(日)に先行無料放送し、 11月26日(木)より独占日本初放送を開始する。 これに合わせ、 11月2日(月)の18時30分から、 東京国際映画祭にて、 “万物評論家”として知られる丸屋九兵衛(年齢非公開)をゲストに、 六本木ヒルズアカデミーホールで本作の解説をメインとするスペシャル・トークライヴ第33回東京国際映画祭<BS10 スターチャンネルアカデミー「映画級ドラマ!HBOコンテンツの神髄」>が開催された! その模様はスターチャンネルTwitter公式アカウントで生配信され、 他HBO最新ドラマについてもたっぷり紹介して頂いた。
 
まずHBOのイチオシドラマ『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』のおすすめポイントについて丸屋九兵衛は次のように熱く語った。 
 
「まず第一話の冒頭数分で驚きでした。 2つの火星が出会ってしまっているシーンです。 これはH・G・ウェルズの『宇宙戦争』とエドガー・ライス・バローズ原作でジョン・カーターが主人公の『火星シリーズ』というのが出会っているシーンなんです。 本作『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』の主人公アティカスが冒頭で読んでいる小説がまさに『火星のプリンセス』なんですね。 この地点で作りが細かいドラマだなと感じますが、 そこにニュルニュル系のモンスターであるクトゥルー神話を混ぜるとは、 流石!これはまさについ先日亡くなったショーン・コネリー先生の実質的な遺作でもある『リーグ・オブ・レジェンド』を彷彿とさせるいい意味でのごちゃ混ぜ感で大変うれしいです。 」 
 
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原作者H・P・ラヴクラフトの偉業については次のように解説した。 「そんなすごい世界観を創造されたラヴクラフト先生ですが、 実は生前はほぼ無名に近かったんです。 なぜかというと、 彼が作品を発表していた媒体がいわゆる「パルプ雑誌」と言われるものだったから。 これは今の「漫画」よりずっと地位が低い存在のもので、 一回読まれたらもう二度と読まれないであろう、 というくらい悪い紙で作られた雑誌なのです。 でもそこから生まれたのがクトゥルー神話であったり、 あるいは最近心臓手術に成功したばかりのアーノルド・シュワルツェネッガーの出世作『コナン・ザ・グレート』の原作『コナン・ザ・バーバリアン』シリーズだったり。 そもそもこのコナンもクトゥルー神話スピンオフ小説から生まれたキャラクターなんです。 そう思うとラヴクラフトが残した偉業というのは凄いなと思います。 」 
 
本作の印象的なモンスター描写や造形の細かさについては次のような興味深い解説を頂いた。 「そんなクトゥルー神話の設定は、 特徴として神、 モンスターの造形が素晴らしいんですよ。 神々もたくさんの種類が出てきます。 その作り込みがすごいですし、 ドラマ本編でも意外なところで登場するのが面白いんです。 さらにラヴクラフト自身に関してとても面白いのが、 これだけヌルヌルした海洋生物のようなモンスターをたくさん生み出していますが、 彼自身「魚介類」が大嫌いだったところです。 その嫌悪感こそが発想の根底にもあるかもしれませんが。 ドラマ本編でも粋な演出がされていて、 第二話の食卓のシーンでタコ料理があるんですねラヴクラフト小説を読んでいるアメリカ東海岸出身の黒人の友人も、 このシーンを見て「間違いなくラヴクラフトへのオマージュだ」と言っていました。 」 
 
作品の影響力については丸屋の得意とする音楽も例にとり解説。 「そのラヴクラフトの作品がどれほど影響力があるか、 というお話なんですが、 アメリカを代表するヘビーメタルバンド「メタリカ」の曲で「THE CALL OF KTULU」(=クトゥルーの呼び声)というのがあります。 そして日本でも『クトゥルフモンスターガイド』という本がホビージャパンが出していたり、 クトゥルー神話の邪神の中でも特に人気のあるニャルラトホテプをモチーフにした『這いよれ!ニャル子さん』や『異形たちによると世界は…』といった作品もあります。 さらに『パタリロ!』も、 出てくる悪魔たちは伝統的な中世ヨーロッパ式解釈なのに、 そこにちょくちょくクトゥルー要素が入ってきたりします。 またラヴクラフト作品にはしばしば、 人間の皮で装丁されたという「ネクロノミコン」という魔道書が出てきますが、 1996年に北九州市で開かれた「日本SF大会」は「コクラノミコン」と呼ばれているんです! 」
 
そして今回のドラマの制作総指揮であるジョーダン・ピールの手腕についても次のように言及した。 「そしてこれをジョーダン・ピールが作っているというのがすごいんです。 ジョーダン・ピールはもともとはコメディアンです。 あまり似ていないオバマ大統領のマネとかをしていますね。 そして、 コメディアンであるがゆえに現在の現実を風刺する手腕に長けているんです。 つまり『ラヴクラフトカントリー』の扱う大きなテーマの一つが「ブラック・ライブズ・マター」ということは明らかです。 本編の中にも「本というのは人間のようなもので、 欠点もあるが長所もあるさ」というようなやり取りがありますが、 これはラヴクラフトやエドガー・ライス・バローズがレイシストだったことを指したもの。 そんな作家による物語を黒人が語りなおすのがポイントです。 クトゥルー神話の中で黒人は低能人種扱いですが、 そんな黒人側がこの作品を自分のものにしてしまう行為自体がとても気高いことだと思います。 しかもこの主人公のアティカス(通称ティック)は子供の頃からSF・ファンタジー小説が好き、 という設定! これはおそらくジョーダン・ピール自身の投影でしょう。 そしてさらにすごいなと思ったのが、 グリーンブック要素の導入。 物語の最初に主人公が伯父さんと友達と旅に出るんですが、 この伯父さんが「グリーンブック」を作っている人物という設定なんですね。 当時のアメリカでは、 公然と黒人を差別する法律「ジム・クロウ法」がほうぼうにありました。 そんななか、 黒人が安心して泊まれるホテルやレストランの場所を記したガイドブックが、 映画化もされた『グリーンブック』。 ラヴクラフトの世界にグリーンブックの要素も入れてしまうところに、 ジョーダン・ピールの手腕が伺えますね。 『ゲット・アウト』や『アス』や制作中の『キャンディマン』の続編など、 ダークファンタジーと現実の社会問題を組み合わせるのが得意なジョーダン・ピールが今度はコズミックホラーとブラック・ライブズ・マターを組み合わせて面白くしたのがこの『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』なのです。 」 
 
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やはり本作はフィクションとノンフォクションのバランスが取れているところが、 大きな魅力の一つの様だ。 丸屋は最後『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』のおすすめポイントを次のようにまとめている。 「よく「理屈無しで面白い」という考え方がありますが、 私は理屈と面白さというものを対立する概念として語る必要は無いと思っています。 ヒップホップの世界でよく使われる表現で、 「Edutainment」というものがあります。 「教育、 かつエンターテイメント」という意味です。 この2つは相対するように見えて、 両立できるひとつになりうるものなのです。 そいう意味で私はこの『ラヴクラフトカントリー』というものを面白いし怖い、 だけどそのうえでとても勉強になる作品としておすすめしたいなと思っています。 」 
 
続いてHBOの看板作品でもある『ゲーム・オブ・スローンズ』についても以下のように怒涛に解説頂いた。 「『ゲーム・オブ・スローンズ』とは、 ドラマという概念を変えた2010年代を代表する作品です。 もともとファンタジーの映像化というのは安っぽくなってしまいがち。 何の代償もなく無尽蔵に使える魔法、 動機は不明だが世界征服を目論む悪の魔王、 など。 ですがファンタジーなのにリアリズムを追求したのが『ゲーム・オブ・スローンズ』なんです。 私が最初に驚いたのは「服にボタンが無いこと」。 実際の歴史でボタンというのはホックより後に誕生したもので、 劇中はまだ「ホック世代」なのでしょう。 あとクロスするタイプのいわゆる洋バサミもなく、 和バサミのような形のものしかないんですね。 これも人類の発明の歴史を再現していて、 リアリズムを徹底しているのが分かります。 おそらく原作者のジョージ・R・R・マーティンは歴史を丹念に学んでそれをファンタジー世界に反映したのでしょう。 この作品は、 四季がなく、 夏と冬が不定期にやってくる異常な世界が舞台なのに、 用語説明やナレーション、 回想シーンもほぼありません。 そんな突き放した作風ですが、 21世紀だから「インターネットで調べられるでしょ」というのが前提に作られているんです。 そういう意味で現代的なドラマだと思います。 もう一つ言うと、 難民受け入れや気候変動などの問題を提起している点でも現代的です。 そして本作が世界に与えた影響もすごく、 スペインのカタルーニャ独立運動の際に独立派の人たちが当時のスペイン首相のことを「ナイトキング」呼ばわりし「我々に必要なのはジョン・スノウのような王だ!」と、 現実の政治を『ゲーム・オブ・スローンズ』で語る、 ということが割と普通に行われてさえいます。 そんな『ゲーム・オブ・スローンズ』を作り出したHBOが、 今度はなんと「ゲーム・オブ・スローンズの前日譚」を制作予定とのことで楽しみが尽きません!」 
 
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その他にも、 スーパーヒーローが実在する現代を描いたドラマ 『ウォッチメン』 や、 第二次世界大戦時ルーズベルトではなく、 反ユダヤ主義で親ヒトラー派のリンドバーグが大統領選に勝利していたら、 というストーリーの 『プロット・アゲンスト・アメリカ』 の歴史改変もの2作品をご紹介。 さらに打って変わって、 快楽を解放させるテーマパークのアンドロイドたちが自我に目覚め反乱を起こすSFドラマ 『ウエストワールド』 シリーズもご紹介頂いた。 さらに12月22日(火)より「BS10 スターチャンネル」で放送開始される最新スリラードラマ 『サード・デイ ~祝祭の孤島~』 もご紹介頂いた。 特に『サード・デイ』は映画『ミッドサマー』や『ウィッカーマン』に通ずる不可思議な島が舞台のサスペンスで、 ジュード・ロウ、 ナオミ・ハリスをキャストに迎えた注目作だ。 
 
最後に丸屋は次のようにトークライヴを締めくくった。 「無料コンテンツというものが溢れるようになってから久しいですが、 ほとんどの無料コンテンツはコマーシャルでやりくりしています。 それはつまりスポンサーの要望に応えねばならないということ。 問題は、 我々視聴者はスポンサーを選べないことです。 それに対して、 その局を選んだ視聴者が払うお金を資金として、 気合の入った質の高い作品を作り続けるという行為はとてもまっとうで気高いと思います。 私はそんなHBOを応援していきたいと思います。 」 
 
これまで注目作が次々と生まれてきたHBOから、 これからまたどんな作品が生まれるのか、 楽しみは尽きない。
 

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