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トップレポート見えない親友に向けて、問いかけ、語りかけ、伝えるように歌われた富士吉田でのクボノ宵。

見えない親友に向けて、問いかけ、語りかけ、伝えるように歌われた富士吉田でのクボノ宵。

2019.03.19

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クボケンジ『クボノ宵』
2019.3.9@富士吉田市民会館小ホール
 
この新宿ロフト移転20周年の記念イベントの数々は、何も新宿ロフトだけで留めているわけではない。時には出張版もある。そして、この日は新宿ロフトの音響をそのまま山梨県は富士吉田市にテレポート。そこで行われたクボケンジの「出張版クボノ宵」こと「夕方5時のチャイムからのクボノ宵supported by 路地裏の僕たち」は、まさに会場やロケーションは違えど新宿ロフトのあの音で楽しませてくれた。
 
この富士吉田で今回クボが自身のソロライブ「クボノ宵」を行ったのには意味があった。詳しくはこちらに記しているが、要約すると、クボの親友でもあったフジファブリック志村正彦の生まれ故郷でもある同地にて、是非この街の人々や志村の両親、知人たちにも自身のライヴを魅せたいとの思いから市の協力も手伝い実現したもの。当日はクボのライブはもとより、地元・富士吉田から志村の足跡を後世に伝える志村の地元の同級生たちから成る有志団体「路地裏の僕たち」の面々の協力の下、かの地ならではの趣向やもてなしが各位を迎えてくれた。
 
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この日は入口からして富士吉田、そして志村の生地ならではの趣向が凝らされていた。エントランス正面のガラス窓には巨大な霊峰富士の全景がお出迎え。志村家やフジファブリックからの花を始め、クボと志村の2ショット写真、過去志村から新宿ロフトに寄せたコメントの再掲等がなされ、開演までの時間は場内に用意されたスクリーンにてこの地の紹介やローカルCM等も放映。県内外のお客さんをもてなした。
今回のこのホールは市の施設。椅子も可動式でフラットにしても使える面白い会場であった。とは言え、この日はステージ間近から最後列まで椅子がぎっしり。それでもチケットは完売。満員御礼であった。そんな中、この日のクボからは途中想い出深い微笑ましいトラブルを経ながらも、見事これまで自身の中だけで留めていた親友志村への想いや想い出、このライブ実現への気持ちや気概を端々から感じ取ることが出来た。
 
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定刻の14時。内ベルの代わりに、この季節には聞けないはずの「富士吉田の5時のチャイム」、そう、フジファブリックの「若者のすべて」のチャイムが特別に流された。まさか実際に聞けるとは思ってもみなかったので、ちょっとした感動だ。終わると登場までに若干の間。緊張と期待値溢れる中、クボがサポートギターの曽根巧と鍵盤の山本健太と共に入場してくる。「ずっとここでやりたかった。その思いがようやく叶った」と、アコギの爪弾きと歌い出しから「CAMPFIRE」に。そこに曽根のエレキギターと山本の鍵盤が加わり、世界がブワッと広がっていく。誠に生命力あふれる出だしだ。クボの歌声もウェットさから開放感を得るが如くその声域を拡大していく。「繋がっていたいよ」と手を伸ばすかのような歌が胸に響く。続く「ルゥリィ」に入ると山本の鍵盤も映え始め、軽快さとエレガントさが場内に呼び込まれていく。ちょっとしたダメさを歌いつつその肯定した先の相手への愛しさや思いやりが伝わってくる。また、♪たとえばどんなにすてきな歌をつくったって君が聴いてなきゃ意味なんかない♪のフレーズは、故・志村に向けて歌われているようにも響いた。
 
「今日は親友の所縁の場所、なので曽根さんも一緒に誘った」と告げ、「hole」からは山本が踏むビートも加わって躍動感が場内に寄与されていく。クボの歌声も更に伸びゆき祈りのような気持ちを交えて歌われる。
ここでクボの弾いていたアコギにトラブルが発生。急遽、曽根がそのギターの修理を開始。その間、クボ、山本だけで成立できる曲たちが当初の予定より前倒しで現れる。
この日、語られなかったが次の「うつし絵」は故・志村も大好きで高い評価をしていたクボの曲。クボも立ちハンドマイクで歌う。音数が減った分、より感情移入が出来、ジェスチャーを交えて歌うクボ。後半に向かうにつれ歌に想いと熱が加わっていく。鍵盤とのデュオは続く。「まぶしい朝」ではエレガントな鍵盤にクボの歌い描く世界でひとりぼっちの世界観の融合を魅せる。ストリングス音も加わり、ファルセットも交えた感情移入たっぷりの歌声が場内に染み渡っていく。
 
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曽根修理のアコギがここから復活。このMCでは、「なぜこの場所でやるか」の説明がなされた。「志村は最後まで掴めない人間だった。彼の才能や楽曲はこの環境があったからこそだったと来る度に実感。憧れの街でもあったので、そこでやれて嬉しい」(クボ)と語り、「だけどこんなこと(ギターのトラブル)になって。やっぱりここにはなんかいるね」と志村を思い浮かべながらステージの3人が笑う。
「自分が育った街を想像しなら作った」と、望郷を歌った「underworld」。同曲では山本もハーモニーを加え、ノスタルジックを歌いながらもしっかりとこれからを見定めている感じが伝わってくる。対してギターの爪弾きと歌から「水槽」が始まると、曽根のギターメロディとクボの歌声もユニゾンも楽しませてくれた。
 
「8月、落雷のストーリー」からは力強さが表れ始めた。嵐の中見つかること信じて突き進んでいくが如く強い信念を持った歌が心強い。曽根も光景的で力強い景色感の込もったギターソロを放っていく。
「今朝、ここに向かう際、誤って新潟方面に行きそうになっちゃって(笑)。夜の高速道路は好きです。そんな歌です」と入った「highway&castle」では空間系のシンセ音と対照的に軽やかなギター、そして途中よりそこにビートも加わり、どこかアーバンで幻想的な雰囲気を味合わせてくれた。
曽根が一旦抜け、再び山本とクボの2人。ここから数曲は再びこの編成で送られた。アルペジオの爪弾きと歌い出しからの「再会のテーマ」では中盤から薄くオルガン音を加え、その歌物語に淡い演出が加わっていく。
 
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ここからはこの「クボノ宵」のもう一つの特性とも言えるカバー曲ゾーンに。まずは大沢誉志幸の「そして僕は途方に暮れる」がしっとりめに叙情性を交えて歌われれば、あえて曲名を告げずに入った次曲では、その歌い出しで騒めきが起こった。歌われたのはフジファブリックの「タイムマシン」。♪欲を言えば君の声が聞きたいんだ♪♪戻れるかなタイムマシンのように同じように笑えるかい♪の歌声が何故だか痛く響く。かつて笑いあっていたであろうクボと志村の笑顔がオーバーラップしてくる。
このMCゾーンでは、クボにより志村が、自分とは全く違う人間だったこと、凄い男だったこと等が懐かしそうに振り返られた。そして路地裏の僕たちみたいな存在への羨ましさも。そんなみんなのおかげで実現出来たこの日のライブに感謝の気持ちを込めて、フジファブリックの「若者のすべて」が力強く、この場所で歌われる意味や意義を込めて贈られた。ノスタルジックとはまた違った懐かしさを伴って伝えられた同曲。富士の麓の夕方の光景が思い浮かぶ。続く「東京に居る理由」もメレンゲの歌ながら、♪僕らはいつの間にかお別れした それでもいつか会える気がして♪とのリリックも含め、志村に向けて歌われたように感受した。
 
「今度は僕の地元でもこんな感じでやれたらいいな…と思いました」とはクボ。ここからは比較的明るく響く歌が続いた。会場の手拍子の中、歌詞の一部を♪富士吉田へ♪と変えて歌った、あの恋をしていた夏の日に引き戻した「クラシック」にて牧歌性が呼び込まれれば、次へと進んでいく意思と、場内を引き連れ、一緒に歩ませるように謳歌した「ビスケット」が歌われる♪楽しい事肝心な時はやはり 出てきてもくれないか♪と、また今はもういない志村へ捧げられた同曲では会場の手拍子と共に楽曲が完成されていく様を見た。
 
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アンコールではこの日用に制作されたTシャツに着替え登場した3人。クボは上にジャケットを羽織っている。「火の鳥」がジワジワと場内にその歌を広げていき、とてつもなく高みへと引き上げてくれると、「最後にもう一曲だけ友達の歌をうたわせて下さい」と、最後はしっとりとフジファブリックの「笑ってサヨナラ」を。とてつもない喪失感がありながらも、不思議な愛しさが広がっていき、気がつけば我々はそれにすっぽりと包まれていた。
 
富士吉田でこの「クボノ宵」を開催する意味、そしてようやくその希望や願いが叶ったかのような、あの達成感や、やり遂げたかのような表情。そして姿こそ見えないが、しっかりと心の奥底に親友志村が居てくれたからこそ、このイベントはトラブルの克服も含めて成立できたと、いま振り返ると思える。
果たせなかった夢や悔い、ずっと提出できずにいた宿題や、かねてより探していた、その探し物がようやく見つかった時のような、どこか晴れ晴れしい、この日のクボの表情が今でも忘れられない。それを生み出したのは紛れもなく、志村が育った富士吉田と、そこに住む人々、そしてこの日、姿は見えずとも絶対に会場のどこかに居たであろう、志村が居たからに他ならない。
 
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セットリスト
1.CAMPFIRE
2.ルゥリィ
3.hole
4.うつし絵
5.まぶしい朝
6.underworld
7.水槽
8.8月、落雷のストーリー
9.highway&castle
10.再会のテーマ
11.そして僕は途方に暮れる(大沢誉志幸カバー)
12.タイムマシン(フジファブリックカバー)
13.若者のすべて(フジファブリックカバー)
14.東京にいる理由
15.クラシック
16.ビスケット
Encore
En-1.火の鳥
En-2.笑ってサヨナラ(フジファブリックカバー)
 
PHOTO:丸山恵理(LOFT PROJECT) TEXT:池田スカオ和宏
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