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INTERVIEW

トップインタビューDischarming man - "極点とオーロラ"がいざなう激情と寂寥の極北

“極点とオーロラ”がいざなう激情と寂寥の極北

2021.01.25

誰かを無意識のうちに見下していたかつての自分

──「February」も差別と分断、国籍は違えど同じ人間同士が憎しみ合うことに対する違和感をテーマにした曲だし、「future」と似た傾向にありますね。

蛯名:うん。あと今は誰しもが頑張りすぎちゃうというか、人一倍頑張って働かないと生きられない社会構造になっているじゃないですか。平日に毎日遅くまで残業した結果、休みの日は何もできないくらい疲れ果ててしまったりとか。そういうのもおかしいし、もっと豊かに生きられないのかなと思うんですよ。そんなお伽噺みたいなことをいつも考えちゃうんですけど。だから「February」には「頑張らなくたっていいんだよ」というメッセージを入れたつもりなんです。

──「February」は木琴を取り入れた軽妙なアレンジの曲ですけど、歌詞はよく読むと重いですよね。「僕も差別を繰り返してた 自分を上に見せたかった」「裸の王様だと気付けなかった 今の君のように」といった歌詞がさらっと唄われていて。

蛯名:歌詞にもあるとおり、昔の自分はもっと刺々しかったし、人よりも上に行きたいという変な上昇志向があったんですよ。やってやりたいみたいなネオリベ的な感じというか(笑)。今はそうではなく、自分なりに身の丈に合ったことができればいいんじゃないかと思ってますけど。前はもっと優生思想的だったというか、できない奴は別にやらなければいいくらいのことを思ってたんだけど、音楽でも何でもやるのは自由だし、それぞれが自分らしいことをやればいいじゃないかと思うようになりました。

──以前は「溶け合ってく世界」を「毛嫌いしてた」のが変わってきたわけですね。

蛯名:そういうことです。溶け合うのを良しとする人たちが周りにけっこういたから抵抗してたところがあったんですけど、でもそれでいいんだよっていうか。いろんなやり方があるわけだから。みんなそれぞれのやり方でやりなよって感じですね。

──「future」の歌詞を借りるならば、蛯名さんは「アップデートする勇気と自分を捨てる勇気」を持ち合わせていたということですかね。

蛯名:ちゃんとアップデートできていたらいいんだけど、あまり変わってないような気もするし、だいぶ変わったような気もどちらもしますね。自分としてはもっと柔らかい人、豊かな人になりたいんですよ。誤解を恐れずにいえば、憲法9条みたいな人になりたい。日本は他国に攻められたら絶対に弱いだろうけど、9条が平和主義を謳っていることで海外の侵略から護られているし、9条はどの国とも戦争はしないという日本のアティテュードそのものじゃないですか。直接的な攻撃じゃない姿勢的な攻撃というか、それこそが真の強さというか。軍隊のない国というのは現実的ではないのかもしれないけど、それが理想だとしても発想が柔らかくて豊かだと俺は思うんです。豊かといっても経済的なことじゃなく、その人がいたら周りの空気が柔らかくなるというか。抗うことは忘れずに柔らかく豊かでありたい、そうなるための実践を今は一つ一つやってる感じですね。別に真面目に生きるとかそういうことじゃないんだけど。

──そういう意識の変化は、先ほども話に出たヘイトスピーチや右傾化する世界を見過ごせなくなってからですか。

蛯名:ヘイトスピーチを繰り返す人たちを見て、自分とちょっと重なる部分を感じたんですよ。それで、ああ、これはいかんなと思って。昔は日本のことを工業や科学技術で世界と肩を並べる先進国で、貧困層もなく中流家庭が大多数を占める経済国家だと思ってたんですよ。それも何かの洗脳だったのかもしれないけど。それが気がつけば堕落して地に落ちてるじゃないですか。どれだけ働いても暮らしは豊かにならないし、これではもう発展途上国ですよね。今はそんなふうに思える自分も、かつては誰かを無意識のうちに見下していたところがあったなと思って。そのくせ欧米の人にはおもねる態度をとったりして頭が上がらなかったり。そういう昔の自分がヘイトスピーチや全体主義に走る人たちと重なって見えて、すごく嫌だった。それでなおのこと人を見下すのはやめようと思うようになったんです。みんな同じ人間だし。

──なるほど。ブッチャーズの「no future」をカバーしていたDischarming manが「future」という曲を完成させたことに感慨深さも感じますけど(笑)。

蛯名:「no future」はタイトルこそ否定的だけど希望のある歌ですよね。「future」ができたのは去年の今頃、2020年の1月なんですけど、そのときからすでに希望を持ちづらい世の中だったということですね。コロナに関係なく。

──「極光」は11分を超える大作ですが、単調な進行なのに最後まで弛緩なく聴かせるのはバンドの並ならぬ力量だと思って。これがアルバムの肝になる予感は当初からありましたか。

蛯名:ありましたね。“オーロラ”という言葉が出てきて、氷の大陸がゆっくりと動いていく北極の画が浮かんだんですよ。でっかいものがゆるやかに動くイメージがあったから、スケールの大きい曲にしたかったんです。

──それこそ「white」をアップデートしたような曲にも感じたんですよね。広大で荒涼とした北海道の大地や雪景色を連想させる歌と演奏ですし。

蛯名:雪や氷のイメージはありますよね。「極光」の歌詞も実はヘイトスピーチやレイシストの流れがあってできたんです。イデオロギーが自分とは全然違って絶対に分かり合えない人たちはいるものだけど、こうして対話をしたり、時にはケンカしてぶつかりながらも分かり合える瞬間がいつか来ればいいなという願いを込めた曲なんですよね。

──「何か変わるかな 何も変わらない気もするけど」と唄いながらも希望は捨てていないというか。

蛯名:諦め半分ですね。だけど諦めたくはないんですよ。

──そんなふうに、悲観的な状況ではあるけれど諦めずに自分から握手を求めていくような曲が本作には多いですよね。

蛯名:一時期からそういう感じにしましたね。昔はけっこうバッドエンドで終わるような無責任な曲もあったんですけど、今は最後に自分から手を差し伸べたいし、扉が開いた状態で終わらせたいんです。

──「Disable music」や「empty boy」は自身を殺める前に連絡をくれよという歌ですしね。

蛯名:ちょっと前に周りで自死する人が多くて、そんなことになるなら電話の一つも欲しかったなと思って。亡くなってすごくショックだったし、もっと話がしたかったし。でもそれを止めることはできないし、自分でとどめを刺す権利も俺はあると思ってるので。でもやっぱり寂しいことに変わりはありませんけどね。

 

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2020年12月23日(水)発売
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【収録曲】
1. future
2. 極光
3. WOUND
4. February
5. Disable music
6. メイデイ
7. empty boy
8. Discharming man

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