前線で面白いことをやっている人たちと話すとルーツがV系にある人が多い
──何かすごく壮大なストーリーを感じますね。
剤電:一人でいろいろやっている人も多かったんですが、そういう人たちが各々でいろいろなことをやりながら同じムーヴメントに帰結してきている感じはあるような気がします。うまく言語化はできていないんですけど世代の転換期みたいなものは感じますね。あとはヴィジュアル系の再認識の動きもあるのかなと思っています。
──それは私の身の回りでもなんとなくあります。
剤電:ボーカルの大島さんと2012年頃に出会ったとき、ゴシックとかブラックメタルとかそういうものが好きだって話したんです。当時はシティポップがすごく盛り上がっていた時期で、ぼくの周りにそういう人がいなかったのでとても驚きました。最近またそういう人と交差することが多くて。今ノイズ音楽の前線で面白いことをやっている人たちと話すと、結構ルーツがV系にある人が多いんです。変な音楽のルーツとして、最初はhideさんを聴きはじめてそこから違うものを知っていくっていう音楽の聴き方をしている人が多いんですよ。少し前はぼくがSNSでV系の話をすると30代40代のV系リアルタイム世代の方がいろいろと教えてくれたんですけど、今は同世代より下の人でこういう話をする人が多いんですよね。
──不思議な現象ですね。確かに以前は私もV系に対しては違う世界の音楽という偏見があったのですが、最近はすごく気になる存在になってきているんです。
剤電:ICEAGEとかから感じられる、シティポップとはまた違うオシャレさみたいなものに影響されて育った世代なのかもしれません。パンクっぽい格好でひとりでやってるような人もいたりしてそういうのの延長でV系も違和感なく受け入れられる土壌ができていったのかも知れません。
──ある程度ひとりでやりたいことをできるようになったから、自分の中の「かっこいい」を隠さなくてよくなったっていうのはありそうですね。バンドだけをやっているとある程度協調性は求められますし。
剤電:それはあるかも知れませんね。そしてこの流れがまたすぐ終わっちゃうのか、どんどん再解釈されていくのか、どうなっていくのかは全然わからないので気になりますね。そして29歳になる私はこれからどうすればいいのか…。
──うまくその潮流に乗っていっているようには見えるので注目しています。
剤電:昨年一年間エレファントノイズカシマシをやって、バンドシーンに取り込まれてしまったような気がするんですよね。それまでは喫茶店でもライブハウスでも美術館でもライブができるなんだかよくわからない存在だったんですけど、去年は音をどうするかっていうのにこだわったのもあって解釈できる存在になってしまったというか。それまで見にきてくれた人が来なくなったりしてしまって。今まではライブハウスに来ないような人も面白がってきてくれてたんですけど、最近はもうライブハウスでしかやっていないのでそういう人は離れてしまったかもしれません。我々的にもそれはよくないというか、時代の流れ的に淘汰される側になりつつあるような気がして結構今後どうしようかって言う感じではあります。界隈に回収されてしまうとそれ以上の広がりがなくなってしまうん気がするんですよね。
──売れていくっていうことを考えると分かりやすさは必要になってくるのかもしれないですけど、そうなるともはやアンダーグラウンドではないですし、本当に難しいところですよね。話は変わりますが、俳優デビューもされましたね!
剤電:これもまん腹の方とノイズカシマシのメンバーに縁があってのお話でした。大学で映像や舞台やっていたたので。
──個人的には剤電さんは佇まいにオーラがあるので大抜擢だと思いました。
剤電:最近は映像や舞台をやっている人が周りに減ってきてしまったのでどうなるかは分かりませんね…。楽曲提供みたいなのもはあるかもしれません。
──音源のリリース予定はありますか?
剤電:一応新しく出そうとは思っています。まだ未定なのですが…。
──いま音源で出されているアルバム「mヲ想(mou-sou)」も世界観に共感できて興味深く聴かせていただいています。ダウナーな中でも終盤へ向けてアガっていく感じがします。個人的には11.13.14.曲目が好きです…。
──こちらも録音でしょうか?
剤電:録音ですね。全部Garagebandで録音と編集をしています。Young Marble Giantsが好きで。音数が少なくチープな音で短い曲っていう感じ…あとはSebadohとか。そこにプログレの要素も入れ込んで、他の人があまりやっていないようなところでやっていけたらなと思っています。
後世に語り継がれる存在になれればいいですね…
──解釈できなさって良い怪しさを醸し出しますよね。
剤電:そうですね。またそういったものを作っていて、CDにできればなと思っています。…あとは怪談CDの第2弾もあるらしいです。
──おっ!
剤電:ただ今怪談って流行っててアマチュアの人がたくさんいるんですけどぼくには作家性とかは全くないし、そこで闘っていこうとはあんまり思ってないんです。みんなが酒やタバコでバイブスを高める感覚で怪談を語っているところがあるんで…後々はファンタジー映画で老人が語る伝説みたいな後世に語り継がれる存在になれればいいですね…。
──伝説!
剤電:当然音楽以外の引き出しがあることでより多くの人と知り合えるっていうのもありますし、CD出せば多少メイクマネーできるっていうのもあるんですけど、怪談でのし上がってどうにかなるぞという気は無いですね。さわりがある話とかもあるんで、大勢の前で披露するというよりはあくまでも内輪で、聞いた話をぼくが話すっていうスタンスでやっていきます。プロを目指す人たちは語るときに作家性を出したりするんでしょうけどぼくは怖いからそういうのやりたくないので…。
歌舞伎町のウツボと寄り添う剤電氏
混乱の季節…充実した人選を出来れば送りたいです
──今後の活動はどのように注目していけばよろしいでしょうか?
剤電:今混乱の季節だと思いますけど…充実した人生を出来れば送りたいですよね。
──本当にそうですよね!
剤電:昔から安定したいという思いはあるのですがなぜかどんどん逆の方向へ行ってしまっているんですよ。30歳になるまでには自分の納得する活動ベースを作りたいと思っているんで、今年もうちょっとどうにかなれるよう頑張りたいですね。剤電としてポジションを確立させて人生を充実させていくぞっていう気持ちです。