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INTERVIEW

トップインタビュー能町みね子×花田菜々子(HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE 店長)「世界初のメン募漫画『中野の森BAND』をめぐる行き当たりばったりトーク」

世界初のメン募漫画『中野の森BAND』をめぐる行き当たりばったりトーク

2018.11.30

ここまでふざけた本は他にない

花田:文筆業のほうは年内にまた作品が出ますか?

能町:校了を終えたのが2冊あります。『週刊文春』の「言葉尻とらえ隊」という連載を3年半分まとめた『文字通り激震が走りました』が11月の頭に出て、11月の下旬には小説が出ます。

花田:書き下ろしですか?

能町:いや、連載をまとめたものです。『小説幻冬』という幻冬舎が出してる文芸誌に連載していた『おゆうぎの部屋』という小説で(書籍は『私以外みんな不潔』と改題)、恥ずかしいんですけどカバーに初めて自分の写真を使ったんです。自分の写真と言っても、3歳の時の写真なんですけどね。

花田:どんな話なんですか?

能町:自分の中では5歳の私小説がテーマなんです。それなら5歳の写真を使えよって話ですけど、3歳の写真の出来が良かったもので(笑)。

花田:具体的にどんなことが書かれてあるんでしょう?

能町:5歳の時の私は人のことが本当に嫌いだったんですよ。友達らしい友達もいなくて、それを寂しく感じることもなく、むしろ人のことをすごく邪魔だなと思っていたんです。親が「この子と仲良くしてね」と誰かと引き合わせるのを本気でウザいと思ってたし、その頃の人を受けつけない気持ちを書いてみたんです。

花田:5歳の自分をテーマに起承転結で語るとは面白そうですね。

能町:どうなんだろうな…。ネットはリアルタイムで感想が来るけど、雑誌はそうもいかないじゃないですか。あの小説をどう受け止められているのか謎ですね。

花田:『お家賃ですけど』も私小説に近い形でしたよね。あの作品もすごく面白くて事あるごとに誰かに勧めてるんですけど、感動させようって感じでもないし、ほっこりでもないし、飄々とした語り口なのにググッと入り込んでしまうんですよね。そういうタッチの本がまた読めるのかと思うと楽しみですね。

能町:『お家賃ですけど』とはまたちょっとテイストが違うんですけどね。とにかくみんなことが嫌いでしょうがないっていうのがテーマですから。ただ自分でもよく書けたなと思うのは、食事がどれだけ嫌いかってところですね。そこはかなり自信を持った書き方をしました。

花田:5歳くらいの頃はまだちゃんと人権を持たせてもらえないと言うか、友達はいたほうがいいに決まってるとか、「お友達と遊ばないとダメだよ」とか親に言われたりしますよね。

能町:5歳って意外と自意識があって、私の場合はすさまじくプライドが高かったんです。自分のことを大人だと思ってたし、子どもだという自覚はありつつも、大人が考えているほど子どもじゃないと思ってました。同じ幼稚園の子たちは全員バカに見えたし、そういうイヤな感じの子どもを書きたかったんですよね。

花田:ネットで連載されている『結婚の追求と私的追究』も本当に面白くて、あれもいつか良い読み物として世に出そうな気がしているのですが。

能町:今のところはどうなることやらですけどね。

花田:能町さんの文章はクスッと笑わせてくれるところがあってすごく面白いし、飄々としたスタンスで核心をつくみたいなイメージがあるんです。『オカマだけどOLやってます。』ではユニークな語り口でマイノリティの在り方を書かれていたし、『くすぶれ!モテない系』ではニュートラルな視点でフェミニズムの問題に接していたと思うんです。社会的少数派として攻撃的になるわけでもなく、被害者ぶることもなく、そんな次元を軽く突き抜けた視点と言いますか。それは意識していることなのか、それとも無意識なんでしょうか。

能町:ある程度は意識してますね。エッセイを書く時はいつも真ん中のスタンスを出したいとは思ってます。『中野の森BAND』はまたちょっと別で、だいぶ特殊なケースですけどね(笑)。仮に散歩の話を書くにしても、ただ単に散歩の面白さを書くだけではなく、どこか新しいものにしたいんですよ。言葉にすると平凡かもしれませんが、今までにないものを書きたいといつも思っています。なんでみんなやらないんだろう? ってところを一応やってるつもりなんですけどね。

花田:今までにないものと言えば、『逃北〜つかれたときは北へ逃げます』もそうですよね。別に暗い旅でもいいんじゃない? っていう本はそれまであまりなかったと思いますし。旅の本って、失恋して出向いた先で気持ちが前向きになるみたいにまとめがちですけど、『逃北』はそこにアンチを突きつけたと言うか、現実逃避として北へ逃げたっていいじゃんみたいな感じじゃないですか。

能町:ありがとうございます。いま思い出したどうでもいい話なんですけど、「逃北」で検索すると北朝鮮から逃げた人たちのことがいっぱい出てくるんですよ。「逃北」は中国語で脱北者のことなんです。『逃北』という本のタイトルは私が考えたんですけど、そういう意味もあるから最初はどうしようかと編集さんと相談したんですよね。でもここは日本だから別にいいかなと思って押しきったんです。『逃北』以外にいいタイトルが思いつきませんでしたし。それに比べて『中野の森BAND』というタイトルは何も悩むことなく決めましたね(笑)。

花田:中ノ森BANDから取ったんですよね?

能町:森ガールから連想して森バンドというワードがまずあって、そう言えば中ノ森BANDっていたなと思って。中ノ森BANDもみんなすぐに忘れるだろうと思って『中野の森BAND』にしたんです。最近、本が出て、ツイッターでエゴサーチしようと思って「中野の森」で検索したら、中野区にある平和の森公園がオリンピックに潰されそうだというすごい真面目な記事が出てきたんですよ(笑)。それもまた申し訳なく思っちゃって。

花田:公園の近所に住む中野区民の人たちが検索したら『中野の森BAND』のことが出てきたりして。公園の樹木伐採に怒りの声を上げている人たちにもぜひ読んでほしいですね(笑)。

能町:そうですね、気持ちを和ませるためにも(笑)。あと、中野の書店さんが何を勘違いしたのかこの本を200冊くらい注文してくれたらしいんですけど、中野のタウン情報は1ミリも描いてないんです。それもまた申し訳なくて(笑)。ちょっとだけかすっているのは、カンニング竹山さんが中野に住んでいたのは事実です(32話参照)。竹山さんが売れる前に不動産屋さんでバイトをしていたので、ああいう形で描いてみました。

花田:そんな細かいところまで小ネタを挟むとは(笑)。

能町:しょうがないですね、小ネタしかない本なので(笑)。

花田:そんな能町さんのおふざけが味わえる本はこれ以外出てないし、貴重ですよね。

能町:貴重ですね。ここまでふざけた本は、この本の2巻まで出ることはないと思うので(笑)。
 

*Rooftop2018年12月号掲載

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