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INTERVIEW

トップインタビュー石橋 凌 - 生粋の表現者が提示する"ネオ・レトロ・ミュージック"の新たな一頁

生粋の表現者が提示する“ネオ・レトロ・ミュージック”の新たな一頁

2018.11.07

本来意図していたアレンジに近い「淋しい街から」

──どんな意図があってこの8曲を選ばれたんですか。

凌:東洋化成さんからはできればオリジナルを多くしてくださいというリクエストがあったんですが、今回入れた「ALL OF ME」や「WHAT A WONDERFUL WORLD」といったスタンダードはぜひ唄ってみたかったんです。たとえば「ALL OF ME」はいろんな人がカバーしていて、いろんなバージョンを聴きましたけど、曲そのものはこんなに短いのに、すごくよくできているなと思ったんですよ。それは歌詞も含めてね。これまで自分が唄い続けてきたメッセージ性やテーゼのある内容ではない、純粋なラブソングだけど、詞もメロディもとてもシンプルでよくできている。そういう曲を後世に伝えていくべきだと思ったんです。サッチモの「WHAT A WONDERFUL WORLD」もジョーイ・ラモーンが8ビートでカバーしていましたけど、どんなビートでやろうが、特に今この時代に唄うことがとても意味のあることだと思ったんです。ジャズのスタンダードだから採り上げるわけじゃなく、純粋に良い曲だから、唄い継いでいきたい曲だから採り上げたんですよ。

──「SOUL TO SOUL」、「PALL MALLに火をつけて」、「INFINITELY」、「淋しい街から」といったかつてのバンド時代の楽曲は、ジャズのアレンジに合いそうだという観点から選ばれたんですか。

凌:そうですね。特に「淋しい街から」がそうでした。この曲は僕が上京する前、19歳の時に自分が生まれ育った久留米の街を書いたものなんです。当時の自分が想定したアレンジは、その頃によく聴いていたボズ・スキャッグスやマイケル・フランクスみたいな感じだったので、今回のアレンジが本来意図していたものに近いんですよ。40年経って初めて自分が納得できるものができましたね。原曲はバンドありきのものだったし、メンバーそれぞれのアイディアを組み入れるべきだと思っていたので後悔はしていませんが、自分が曲を書いた時に思い浮かべていたサウンドやアレンジは梅津さんが今回やってくれたものに近いんです。

──全曲のアレンジを手がけた梅津さんの手腕が見事ですよね。どの曲も原曲の世界を踏襲しながら新たなニュアンスを加えるバランスが絶妙で。

凌:リハーサルの段階から素晴らしいアレンジだったし、それをメンバーの皆さんが過不足なく形にされていて、これは必ず良いアルバムになるとレコーディングの前から確信しました。とにかく今回は梅津さんのアレンジとサウンド・プロデュースに尽きますね。他のメンバーに対してのディレクションも非常に的確でしたし。

──レコーディングは山中湖スタジオで合宿されたそうですね。

凌:はい。皆さんの出す音には何の不安もなく、スムーズにやれる方ばかりだったんですけど、歌詞の世界や背景にあるものを共有してほしくていろいろと話したんです。「淋しい街から」もそうでした。自分が生まれ育った久留米はゴム産業発祥の地で、いつもゴムが焼ける匂いがしていて、家の近くに流れていた川でよく遊んで…みたいなことを話して。そしてこの曲を色にたとえるならグレーです、と。

──“灰色に褪せた街”ですからね。

凌:そういった景色を音で出してもらいたかったんです。情景が見えるような音作りを今回はお願いしたかったんですね。その辺りの意図を皆さんよく汲んでくれたと思います。今回の「淋しい街から」のアレンジはリズム的にはラテンなんだけど、スカッと抜けた気持ちの良いラテンじゃないんですよ。“灰色に褪せた街”だから翳りのあるラテンなんです。

──直近の『may Burn!』から2曲、「パライソ」と「名も無きDJブルース」が選ばれたのはなぜなのでしょう。特に「名も無きDJブルース」は、音楽が消費されるサイクルが異様に早い昨今、愛のない国に成り下がってしまった日本を憂う歌を改めて世に問いたかったからですか。

凌:『may Burn!』の「名も無きDJブルース」はジャジーなアレンジでお願いしたんですけど、あの時は渡辺隆雄さんのトランペットを入れてもらったんですね。隆雄さんとは歌詞を目の前に置いて、かなり話し込んだんです。あの隆雄さんのトランペットは怒りのメッセージだったんですよ。

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あくまでもJAZZY SOULというユニットの作品

──基地の問題を一方的に押しつけられる沖縄、震災後の復旧の取り組みを蔑ろにされ続ける福島、悪政のはびこる首都・東京と、大切なことが置き去りにされたままになっている今の日本に対する怒りですね。

凌:うん。スローの4ビートで唄ってはいるけど、内面ではとてつもない怒りの感情が渦巻いているんです。その怒りの心情を隆雄さんにトランペットで吐露してもらったんですね。あのテイクはあのテイクで僕は好きなんだけど、今回はJAZZY SOULとしてのアレンジでまた違うアプローチをしてみたかった。梅津さんたちにお願いしたのは、あまり感傷的にならないようにしてください、と。ペシミスティックに浸るのではなく、聴く人に何らかの画を思い浮かばせるような演奏をしてくださいと話したんですね。かつてのバンド時代の曲は自分が作詞・作曲したものに限って今もライブで唄っていますが、当時の曲を今やっているバンドで再現して世に問いたいわけですよ。『may Burn!』に入れた曲も同じことで、JAZZY SOULと一緒に再現したらどんなことになるのか楽しみだったんです。「パライソ」もそうで、ベースの渡辺圭一君による原曲のアレンジもすごく気に入っていますが、梅津さんのアレンジもまた面白い感じになりましたからね。

──19歳の時に書いた曲から30代の半ばに書いた曲、60歳を過ぎた頃に書いた曲まで生まれた時期はバラバラで、おまけにスタンダード曲まで入っているのに、こうして並べると不思議と統一感がありますね。

凌:当初考えていた12曲から8曲に変えたことで並びが変わってしまったんですが、8曲バージョンの並びがすごく良かったんですよ。梅津さんに「この並びでどうですか?」と訊いたら「すごくいいね」と言われましたし。

──ちなみに、選曲から漏れた4曲は何だったのですか。

凌:「ROUTE 66」と「TOKYO SHUFFLE」、「ジャックナイフ・ブルース」と「AFTER '45」という昔のオリジナル曲ですね。このアナログレコードにはCDが付録として付くんですけど、そのCDは「ジャックナイフ・ブルース」をプラスした9曲入りなんです。

──「PALL MALLに火をつけて」のドラム・ソロ、「ALL OF ME」のクラリネットやピアノのソロなど、どの曲もJAZZY SOULの聴かせ所があって、凌さんがメインではあるけれどもこれはあくまでバンドであるという主張を感じますね。

凌:自分のアルバムではあるけど、自分の歌のアルバムではないんです。JAZZY SOULというひとつのユニットのアルバムなので、皆さんの演奏が活きたアレンジになっています。それで1曲の時間が長くなってしまったのもあるんですが、リハーサルの段階からあえて削らなかったんですよ。あまりにも素晴らしかったので、このままで行くことにしました。国内外のいろんなジャズメンがカバーしているスタンダードを2曲入れたのも、「これがJAZZY SOULなりの『ALL OF ME』ですよ」、「これがJAZZY SOULなりの『WHAT A WONDERFUL WORLD』なんです」というのをちゃんと言いたかったからなんです。ジャズの世界に身を置く人からすればただの新参者に見られるだけかもしれないけど、そう思われるならば甘んじて受け入れるしかないと思っています。60歳を越えて新たにチャンレンジしていることなので、至らぬ点は多々あるでしょうし。ただ、チャンレンジするに値する世界だと僕は思っています。ジャズメンの音の作りや演奏のテクニックは純粋にすごいし、ただただ感服しますね。

──でも、凌さんの熟練の歌唱力も演奏に引けを取っていませんよね。水を得た魚のように生き生きと、もとい“粋粋”と、時に力強く、時に優しく、感情の起伏と呼応しながら七色の歌声を自由自在に操っているじゃないですか。

凌:そんなふうに聴いてもらえたら嬉しいですけど、ソロになって以降、唄い手としてどれだけの力を発揮できるかというのは常に考えています。いちシンガーとしてどれだけのことができるのか? というチャレンジが、このJAZZY SOULのメンバーとなら何の心配もなく自在にできるんです。

──それが窺えるように、このアルバムでの凌さんはとにかく気持ち良く唄っているのが伝わりますね。

凌:どの曲もほぼ一発録りでしたしね。手直しもほとんどしなかったし、多くやって2テイクでした。音に関しては完璧に委ねられたし、演奏中の皆さんのプレイからインスパイアされるものがあったし、その瞬間に唄い方も自ずと変わってくるんです。

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2018年11月21日(水)アナログレコード限定発売
T-ANNEX / LOFT RECORDS LTAX-001
価格:¥5,800(税込)

【SIDE-A】
01. SOUL TO SOUL
02. PALL MALLに火をつけて
03. ALL OF ME
04. INFINITELY

【SIDE-B】
01. WHAT A WONDERFUL WORLD
02. 淋しい街から
03. パライソ
04. 名も無きDJブルース

LIVE INFOライブ情報

001.jpg石橋凌 Debut 40th Anniversary Tour “淋しい街から”

2019年
3月16日(土)東京・日本橋三井ホール
開場 17:00 / 開演 18:00
前売り 指定席¥7,500(税込)※別途ドリンク代必要
問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999

3月24日(日)大阪・なんばHatch
開場 17:00 / 開演 18:00
前売り 指定席¥7,500(税込)※別途ドリンク代必要
主催:ENTER the DEE / HOT STUFF PROMOTION
問い合わせ:サウンドクリエイター 06-6357-9990

3月29日(金)高知・高知県立県民文化ホール・グリーンホール
開場 18:00 / 開演 19:00
前売り 指定席¥7,500(税込)
問い合わせ:デューク高知 088-822-4488

3月31日(日)愛知・名古屋ブルーノート
2ステージ制:
1st 開場 15:00 / 開演 16:00
2nd 開場 18:00 / 開演 19:00
指定席¥8,000(税込)
問い合わせ:名古屋ブルーノート 052-961-6311

4月5日(金)新潟・NIIGATA LOTS
開場 18:00 / 開演 19:00
前売り 指定席¥7,500(税込)※別途ドリンク代必要
問い合わせ:FOB新潟 025-229-5000

4月6日(土)宮城・仙台PIT
開場 17:00 / 開演 18:00
前売り 指定席¥7,500(税込)※別途ドリンク代必要
問い合わせ:クールマイン 022-292-1789

4月13日(土)北海道・札幌PENNY LANE 24
開場 17:00 / 開演 18:00
前売り 指定席¥7,500(税込)※別途ドリンク代必要
問い合わせ:マウントアライブ 011-623-5555

4月20日(土)福岡・久留米シティプラザ ザ・グランドホール
開場 17:00 / 開演 18:00
前売り 指定席¥7,500(税込)
問い合わせ:久留米シティプラザ 0942-36-3000 / KUSU MUSIC 0942-48-8331

チケットについて:
※未就学児童は入場不可、小学生以上はチケットが必要となります。
(3月31日 名古屋ブルーノートのみ中学生未満入場不可)
※転売チケット入場不可

▼チケット先行予約
※チケット先行購入特典:期間中のチケット購入者に、デビュー40周年スペシャルCDを会場でプレゼント

最速先行予約(全国共通・抽選):
11月7日(水)12:00〜11月18日(日)23:59
受付URLはこちら

【出演者】
Vo.石橋凌、G.藤井一彦、Key.伊東ミキオ、B.渡辺圭一、Dr.サンコンJr.、Vn.太田惠資、Sax.梅津和時

※4/13札幌公演のメンバーは、Vo.石橋凌、G.藤井一彦、Key.伊東ミキオ、B.渡辺圭一、Dr.サンコンJr.、Vn.太田惠資 となります。
※ツアーメンバーにつきましては予告なく変更となる場合もございます。予めご了承ください。

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