Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー『選挙に出たい』李小牧(歌舞伎町案内人)- 歌舞伎町案内人はなぜ帰化までして日本の政治家をめざすのか?

歌舞伎町案内人はなぜ帰化までして日本の政治家をめざすのか?
民主主義とは何なのかを考えさせる痛快な選挙ドキュメンタリー

2018.11.01

 30年前に日本にやって来て、初めて訪れた新宿歌舞伎町に魅せられた李小牧。以来20年以上、歌舞伎町の路上に立ち、外国人観光客を飲食店や風俗店に案内してきた。今や「歌舞伎町案内人」として日本だけではなく中国でも知られる存在となった李が、2015年、突如として新宿区議選挙に出馬を宣言した。元・中国人で歌舞伎町案内人の李が日本の選挙に挑戦することは当然大きな話題になったが、もし彼が当選したら世界を驚かすニュースになるはずだ。それは日本の民主主義における一つの試金石にもなるだろう。この前代未聞の選挙戦に日本在住の中国人女性監督・邢菲(ケイヒ)が密着し、完成させたのが本作『選挙に出たい』である。選挙、歌舞伎町、そしてそこから見えてくる「日本人」「外国人」「民主主義」の姿とは? 主人公である李小牧にお話を伺った。(TEXT:加藤梅造)

歌舞伎町の案内人から日本の案内人に

 歌舞伎町案内人としてネオン街の世界を生きてきた李小牧が政治に関心を持つようになったのは、2004年から連載を始めた雑誌『ニューズウィーク日本版』で社会的なテーマのコラム(「TOKYO EYE」)を書くようになってからだという。当時は小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題などで日中関係が悪化し始めた頃。日本で中国人を相手にガイドをしている李にとって政治は死活問題だと悟った。2014年2月、コラムに冗談半分で選挙に出ると書いた所、思わぬ反響が届き、新しいことにチャレンジすることが好きな李は翌年の新宿区議選に出馬することを決めたのだ。

李:日本で長く生活していて思うのは、日本はまだまだ閉鎖的な所があること。外国人にとって生活しにくい部分がたくさんある。いまは日本で働きながら生活している外国人はどんどん増えていて、特に新宿区は36万人のうちの12%、つまり10人に1人が外国人なんです。私はどうやって日本人と外国人が交流していけばいいのかを新宿の路上でずっと考えてきました。幸い、私はふつうの日本人よりも外国人の気持ちがわかるし、ふつうの外国人よりも日本人の気持ちがわかります。日本と外国の架け橋になるには好都合なんです。私は歌舞伎町の案内人から日本の案内人になりたいんです。

 李は、第二の故郷である歌舞伎町を経済特区にして24時間営業化するという政策を掲げた。実際、歌舞伎町のような繁華街では24時間営業を望む声は大きいだろう。あるホストクラブの店長は「この街の表も裏も知ってる人じゃなければできない」と李に期待を寄せる。

李:私は30年間歌舞伎町にいるから、この街のためになにかやりたい。ホストも水商売のおねえちゃんも、この街で働く人達みんなで繁栄していけるようなことを。かつて石原都知事が「歌舞伎町浄化作戦」と称して、ヤクザだけでなく風俗産業も根こそぎ取り締まったため、アジア最大の歓楽街として知られていた歌舞伎町の活力も一緒に失われてしまった。当時、私はニューズウィークの連載で「誇るべき『世界遺産』歌舞伎町を救え」というコラムを書き、石原氏のやり方を批判しました。それを読んだ石原氏はある集会の場で私のことを「ポン引きと称した男」とバカにしていましたが、彼とは是非一度じっくり話してみたかった。歌舞伎町の私の店「湖南菜館」の特別貴賓室にいつでも招待しますとコラムにも書いたのですが、ついに実現しませんでした。

senkyo_sub1.jpg

マイノリティの声を代弁しなければ

 映画の中で印象的なのは李が歌舞伎町のあちこちで演説するシーンだろう。普通の候補者がまず行かないような場所で、李はマイクを握って演説する。そこで李は道行く若者に向けて「私に投票しなくてもいい、誰に投票してもいいから、とにかく投票に行ってください」と訴えかける。

李:これは民主主義のない国からやってきた私の本音です。歌舞伎町のど真ん中のホストクラブの看板の下で演説しているんですが、ある意味象徴的な絵になっていると思いました。日本にはせっかく民主主義があるのに投票率が低いのは非常に残念なことです。若者たちにはぜひ選挙に行って欲しい。老人票は組織票が多いから、それだけだとこの街は変わらないし、この国も変わらない。

 選挙戦の最終日は李がかつて毎日立っていた旧コマ劇場前で演説するシーンだ。そこに李を応援するためホスト達がたくさん集まって来た。彼らのうちの何人かは翌日、生まれてはじめて投票に行ったかもしれない。李は映画の中でホストやホステスなど歌舞伎町で働く人達に対して「彼らは世間から後ろ指さされ、家族からも理解されず、心理的圧力を受けているマイノリティーの人達だ。この人たちの声を誰かが代弁しなければ」と心を寄せる。そして「政治を志すのは自分と同じ弱い立場の人のためだ」と自分の決意を確認するのだ。

李:風俗で働いている人達はそれだけで白い目で見られることが多いのですが、偏見や差別は絶対にだめです。風俗イコール犯罪者ではない。みんな合法的に働いてるし、税金も納めてるんですから。彼らの声を誰かが代弁しないと。

 李がホストやホステスたちにシンパシーを感じるのは、自身が日本の中で外国人としてずっと差別されてきたからだろう。特に最近は、中国や韓国などアジア人に対する差別はたがが外れたかのようだ。李が出馬した2015年は、その数年前から始まった在特会などによる韓国人、中国へのヘイトスピーチ(差別扇動)がようやく社会的な問題として国会でも取り上げられるようになった時期に重なっている。

李:演説中に何度も「日本から出ていけ!」「中国に帰れ!」と言われました。私は日本人だから「どこに帰ればいいんですか?」って答えてましたが(笑)。選挙期間中の4月22日に、安倍首相と習近平主席による日中首脳会談のニュースが流れてきて、私は元・中国人としても、日本人としてもとても嬉しかった。日中関係は歴史問題などいろいろな問題がありますが、やることは簡単です。自分の身体から実現していくんです。

senkyo_sub3.jpg

人間と人間が出会う場所

 李が掲げる「ホスト・キャバ嬢の社会的地位向上」という政策は他の候補者が絶対に言えないものだが、「日本の民主主義の素晴らしさを中国に伝えたい」という訴えもまた元・中国人の彼にしかできない主張だった。

李:大陸系の中国人だった私が日本で政治家になったら、国内だけでなく世界中に衝撃を与えることになります。日本は中国に一番近い先進国です。言論の自由もあるし、出版の自由もある。私が選挙に出たのはもちろん新宿区のため、日本のためですが、客観的にみれば中国が民主化するためでもある。だから落選したにも拘わらず、日本の5つのテレビ局はすべて私のことを放送しましたし、イギリスやアメリカ、オランダからも取材が来ました。日本はまだ閉鎖的な所も多いですが、元・外国人が選挙に出られること自体が素晴らしいんです。

 出陣式で李は「自分が立候補できることがすでにある意味で勝利だ」とも語っている。

李:そう。日本に帰化してわずか2ヶ月で選挙に出ることができた。私は生まれて初めて選挙権と被選挙権を手に入れたんです。結果はどうあれ、これはすごいことだと思いました。前回は経験もない、時間もない、お金もない中で出馬しましたが、それでも1018人の方が私に投票してくれました。来年の区議選でまたチャレンジしたいと思います。今度は4年間準備したから、いけると思いますよ。

 映画『選挙に出たい』は昨年10月に山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映され、予想以上の手応えを得た。

李:山形では2回上映され、どちらも満員でした。2回目には私も現地に行って舞台挨拶をしましたが、観客から質問攻めにあい、予定時間を超過するほどでした。北京国際映画祭でも上映されたんですが、日本とはまた違った反応が得られました。この時は中国中央電視台の著名な司会者である崔永元がトークショーの司会をしてくれたのですが、崔は「李が獲得した票は多くはないかもしれないが、選挙民が投じた本当の投票だ」と言ったんです。つまり、中国の選挙のように最初から勝者が決まっている出来レースではなく、李小牧の得たものこそが本当の投票だということです。中国の政治体制に対する痛烈な皮肉ですね。

 2002年に初めて出した著書『歌舞伎町案内人』がベストセラーになり、日本で最も有名な中国人になった李小牧だが、今回、選挙に出たことでさらに外国からの取材が増えたという。

李:先日は3日間の密着取材がありました。朝起きてから夜、酔っ払って家に帰るまで。おねえちゃんと遊んでる所だけじゃなくて、ゴールデン街でママさんや同席のお客さんと仲良くなってみんなで飲んでる所とかもカメラを回した。歌舞伎町は人間と人間が出会う場所なんです。昼間は真面目に仕事してる人が、夜はネクタイをはずして楽しく飲む。飲んだら本音も出るし、これこそが民主主義なんだと思います。この映画には私が身体で感じたことがそのまま出てると思う。私はすぐ感動する人間なので、怒ったり、泣いたり、笑ったり、罵声を浴びたり(笑)、全部体当たりなんです。

B5chirashi_omote.jpg

LIVE INFOライブ情報

「選挙に出たい」
監督・撮影・編集:邢菲(ケイヒ) 
12月1日(土)より東京・ポレポレ東中野にてロードショーほか全国順次公開
 
※11月4日(日)ロフトプラスワンで特別先行上映会開催!
【ゲスト】
李小牧(歌舞伎町案内人)
ケイヒ(本作監督)
長岡義博(ニューズウィーク日本版編集長)
【進行役】綿井健陽、渡辺勝之
 
OPEN 12:00 / START 13:00
予約¥1200 / 当日¥1500 / 学生¥1000 →チケット予約
※終了後は李小牧さんの案内で歌舞伎町ツアーを実施
haku
lpo