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INTERVIEW

トップインタビュー菊池真理子(漫画家)- 親に押しつぶされなかった有名無名11人の、赤裸々な体験談『毒親サバイバル』

親に押しつぶされなかった有名無名11人の、赤裸々な体験談『毒親サバイバル』

2018.08.20

 アルコール依存症の父親との顛末を描いた『酔うと化け物になる父がつらい』で世に衝撃と共感をもたらした菊池真理子さんが、毒親から生還した10人を取材してまとめた書き下ろしコミックを8月31日にKADOKAWAから発売する。9月24日(月・祝)の昼間には、精神科医の香山リカさんをまねいて阿佐ヶ谷ロフトにて刊行記念イベント「サバイバーカフェ 〜ウチのフツウは変でした〜」を開催することが決定。
 愛で満ちた天国のような家ばかりになるのは理想だけど、そうじゃなかったときにどう生きるか。
 コミック第3話のエピソードで取り上げていただいた成宮が、まさに新刊を描き終えたばかりの菊池さんに、親との関係、そして家族から逃げられない気持ちについてお話をうかがいました。(interview:成宮アイコ)

マニュアルだけで、「すぐに親から離れるべきだ」というのは難しい

 

──新刊『毒親サバイバル』を描き終えたばかりということで、お気持ちはいかがですか。

菊池:短い期間で描き下ろしをしたのでたいへんでしたが、今は、他の人が読んだときにどう思うか、読まれたときの反応の不安の方が大きいです。

──前回の『酔うと化け物になる父がつらい』では、ご自身のことを描かれていましたが、今回は「毒親」というテーマで他の人へのインタビューをされていますが、描かれていて違いはありましたか。

菊池:編集さんからやってみませんか? と提案をいただいて始まったのですが、他人のものがたりを描くというのはとても難しかったです。一人ひとりに何時間もお話をうかがって、生きてきた年数をかけて語りつくさないと分かり得ないような感情もあるのに、マンガとしてのストーリーの流れでカットせざるをえない部分があるのはつらかったです。いつも以上に、描かせてもらう人にたいして、感謝とごめんなさいっていう気持ちがありました。

──ひとりにつき、どのくらいの時間インタビューをされたのでしょうか。

菊池:平均すると3〜4時間くらいですね。もっと長い人もいました。

──それを10人分もされたんですよね。他人の話を聞いているうちに、自分の過去をフラッシュバックして苦しくなったりしそうですが…。

菊池:フラッシュバックは大丈夫だったんですが、「自分よりもこの人のほうがつらい」と思ってしまうことがありましたね。比べてはいけないとわかりつつも、気の毒で涙が出てしまうことが多かったです。普通に生きているだけなのに、なぜこの人がこんなにつらい体験をしなくてはいけなかったのか、と思うと理不尽すぎて。自分のことだったら、なんとなく自分のせいにしたり理由をつけちゃったりするのに、人の話だと、「なぜ!」とびっくりしてしまいます。

──その中で、印象に残ったエピソードについてお聞きしたいです。

菊池:一人ひとりにエピソードがあって、全てが印象に残っていますね…。どの親もひどいのだけど、ギャンブル依存の無職のお母さんに、息子さんがお金を渡してしまうご家庭があって、そのお話をうまく描けているかが、読んだ人が、「お金を渡すのが悪いじゃん」と思ってしまわないかがとても心配です。

──共依存的な感じは難しいですよね。メンタルヘルスの伝わりにくいところってとてももどかしくて、たとえば、コミュニケーションもできてパッと見なにも問題はないけど発達障害を持っているひとが、いざ働き出すと、細かいところで作業や仕事に支障が出てきて、まわりの態度が変わったり、本人も自己嫌悪で退職せざるをえない、というのをよく聞きますが、長続きしないというのは決して本人がだらけているわけではない、というのってものすごく説明に時間がかかるし、問題と対処法が伝わりにくいんですよね。

菊池:そうそう。だから、自分はその人にすごく共感したんです。わたしは、父がお酒を飲んでたいへんなのに家を出ていけなかった。その立場から、お母さんにお金を渡してしまう気持ちがわかるし、彼に近い境遇の人もわかるって言ってくれるかもしれないんだけど、まったく違う環境の人が読んだときにどう思うのかが気になります。

──そういうことに怒りがちな方もいらっしゃいますし。

菊池:そうなんですよね。「家を出なかったおまえが悪い」「お金を渡したおまえが悪い」と言われてしまわないように注意して描きました。家族関係が悪い場合、「逃げなさい」って言うけど、それができない状態のときもありますし、家を出る決心をしても途中で、「やっぱり親がだいすき」って思って引き返してしまったりもします。でも、それは段階の途中だと思うんです。こうしろああしろって言うよりも、逃げられない自分とか、離れられずにぐだぐだしている自分を責めなくていいんじゃないかなって思うんです。

──処理をするのに必要な時間ということですよね。自分を傷つける親を憎みきれないことに自分自身でも気づいているから、「なぜ切り捨てられないの」ってイライラしてしまいます。

菊池:しがちしがち、そうなの。正解がわかっているのに出て行けない自分もいる。でもそれはしょうがない、そういう時間なんだよ、って思います。人にはいろんな正解があるから。だから、マニュアルだけで、「すぐに親から離れるべきだ」「なぜ家を出ないんだ」って決めつけるのは、なかなか難しいと思います。

──そういう人は自分がそうできた人だから、あなたにもできるでしょ? って思うのかもしれないですね。「いろんな制度があるじゃない」って言われたこともあります。

菊池:そんなことは知ってるよって思いますよね(笑)。それを押し付けたりするのはよくないですよ。あなたとわたしは違うんだから! って。

──確かに。状況もそれぞれ違いますし、自分の気持ちに区切りをつける年数は必要ですよね。

 

感情を伴わなくなってしまった時期から

──そんなあやうい場面もあったりしますが、そこで純粋に質問をなげかける"編集ハタノさん"という明るいキャラクターは、キーポイントに感じました。

菊池:この本は、1話ずつ切り離した短編集ではなくて、一冊を通して感じてもらう横軸が欲しいと思っていて、その役をハタノさんにやってもらおうと思ったんです。

──そのハタノさんの質問や疑問にたいしての、菊池さんのつっこみというか、ちゃんと説明をしていく感じがとても良くて、扱うテーマは重くても暗い気持ちにならずに読むことができました。今回の出版記念にハタノさんにもご出演していただくのがとても楽しみなんです。

菊池:ハタノさんは最初、他人ごとのように明るく聞いているのですが、だんだん、「うちもちょっとそうでした」って言い始めて泣いちゃう場面があって、最後に、「自分も無理していたかもしれない」って教えてくれたんです。取材を始めたころはうまく描けるか心配だったし、「こういう経験をした人じゃないと伝わらないかもしれない」とも思っていたのですが、ハタノさんが泣いてくれたことで、こうやってコッチとアッチってわけて考えてしまうことがマイナスだって思ったんです。そこで、「この本、描けるかもしれない」って決心がつきました。

──絵柄がかわいらしいというのも大きいポイントだと思っていて、書き込みがありすぎると苦しい場面で追い詰められちゃうんですけど、なんだかみんなちょっとチャーミングなんですよね。

菊池:ギャンブル依存のお母さんって、だらしないんだけどちょっとかわいらしく描こうとか、人間らしい感じにしています。つらいシーンをリアルな絵で描いてしまうと、苦しいんですよね。それこそ成宮さんが殴られているシーンだとか…。

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──菊池さんの絵柄のおかげで、目をそらさずに見られる感じがしました。以前、他のインタビューで、「いろんな人の話を聞くことで、自分もつらかったし、つらいと思っていいんだ、と気づくきっかけになれれば」と言われていましたが、今回ハタノさんのことを目の当たりにしたり、10人へインタビューをして、菊池さんご自身の気持ちの変化はありましたか。

菊池:自分の親にたいして、父が亡くなってすぐ、父のいやなところは忘れちゃったんです。記憶はあるのだけど、心の中に立ちのぼってこないというか、感情を伴わないというか。「わたしが悪かったからごめんなさい」という気持ちでいっぱいになって、父の悪いことが全部消えちゃったんです。しばらくして、酔っ払っている時のことを思い出して、やっぱり嫌だ! と思いましたが、なんとなく記憶がぼんやりしていたんですよね。

──亡くなった人を悪く言うのはちょっと、って自分でブレーキをかけて気持ちを押し込めてしまうこともありますよね。

菊池:それを本を描きながら思い出したんです。今までは、自分の中で、「父はお酒で家族をめちゃくちゃにしたのはいけなかった/でも嫌いになれない」と、怒りをもつことができなかったんです。それが、今回いろんな方の話を聞いているうちに、それぞれの親に対して怒りの感情が出てきたんです。

──父親に持てなかった分の怒りの感情が、それぞれのご家族…いわゆる毒親にたいして。

菊池:そうなんです。その怒りの感情が、やっと父にも適応されたんです。だから今は、「まったく、あんなことを家族にして許せない!」と感情が伴いました。

──わたしも自分の体験と過去の自分はただの憎しみだったんですけど、それをこの本の取材で菊池さんたちにお話したことで、他人のような気持ちで自分を見ることができて、「たいへんだったな…これは憎んだり悲しかったりしていいんだな」と思えたので、やっと感情が伴ったというお話はすごく印象的です。

菊池:そうなんですよね。一度、人を通さないと自分の感情が動かない。親から離れることに関しても、迷って迷って何年もかかって離れた人もいれば、10代でスパっと縁を切った人もいます。すごいなと思うけど、それはそれで長く離れられなかったわたしたちとはまた違う傷つき方をしているんですよね。

 

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「毒親サバイバル」
著:菊池 真理子

2018年8月31日(金)発売
KADOKAWA

amazonで購入

LIVE INFOライブ情報

2018年9月24日(月・祝)@阿佐ヶ谷ロフト

『毒親サバイバル』(KADOKAWA)刊行記念イベント

サバイバーカフェ 〜ウチのフツウは変でした〜

 

OPEN 12:00 / START 12:30

前売¥1,800 / 当日¥2,300(共に飲食代別/要1オーダー¥500以上)

※前売イープラス・Famiポートにて発売中

 イベント詳細はこちら

 

酔っ払ってゴミ捨て場からタンスを持って帰って家宝だと言い張る父親、母親に連れて行かれた宗教の集会でクラスのいちばん人気の女の子とはちあわせた日、など、それぞれの家の「普通」が、実はめちゃくちゃ変なのでは?!ゲストに精神科医の香山リカ先生をまねき、有名無名11人の赤裸々な体験談の取材に同行した編集ハタノと、第3話のエピソードの成宮アイコとともに、問題のある家族の日常について語り合います。

 

【出演】菊池真理子(漫画家)、編集ハタノ、成宮アイコ  他

【ゲスト】香山リカ(精神科医)


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