Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー映画「沖縄スパイ戦史」監督・三上智恵 × 大矢英代(Rooftop2018年7月号)

戦後70年以上語られなかった沖縄の「秘密戦」──
いま明らかにされる残酷な事実は、次の戦争を止めることができるか

2018.07.02

住民の強制移住とマラリア地獄

 映画の次の舞台は沖縄県の南端にある波照間島。米軍が上陸せず、空襲や戦闘による死者は一人もいなかったにもかかわらず、戦時中に島民の3分の1が死亡している。ある一人の男の命令により島民全員がマラリアの有病地帯である西表島に強制移住させられたからだ。「戦争マラリア」と呼ばれるこの悲劇を正確に知る人は地元にもあまりいないという。

大矢:米軍上陸に備えて安全のために避難をしたら、たまたまそこで風土病のマラリアに罹患して不運で死んでしまったという認識の人が多い。機密漏洩防止とか軍の食料確保といった日本軍の作戦のために計画的に強制移住させられたということが全然知られていないんです。

三上:八重山の人達でさえそうなので、沖縄本島の人はもっと聞いたことがないと思います。だから全国の人達が知るはずもないんです。

 島民を移住させたのは、沖縄戦が始まる3カ月前に、波照間国民学校に赴任してきた山下という教師だった。島民はこの若い新任教師を丁寧に迎え入れたが、ある日突然、山下はそれまでの優しい教師の顔を捨て、軍刀を抜いて「西表島へ移住しろ」と島民達に迫った。男の正体は、陸軍中野学校を卒業したばかりの工作員だったのだ。

大矢:すごい話ですよね。最初、これだけで映画ができると思ったぐらいです。今回取り上げた護郷隊、戦争マラリア、スパイリスト、それぞれで一本ずつ映画ができるぐらいの内容だと思うんですが、それだと昔の戦争の悲惨な話で終わっちゃうんです。これらのエピソードを一つの映画にすることで沖縄の「秘密戦」の全体像が見えてくる。そうすることで初めて現在の自衛隊の問題までつなげることができるんです。

 映画では戦後、山下(本名は酒井清)に取材したテープの録音が紹介される。取材に対し山下は「民を虐げて軍が横暴を振るうということはなかったと私は断言できます」と平然と言い、謝罪の言葉を口にすることはなかった。

大矢:軍の命令を忠実に実行しただけで、その結果、民を虐げたのかどうかは関係ないと思っているんでしょうね。

三上:山下は軍人としてはすごく優秀だった。軍刀一本で島民1500人を従わせ、完全に任務を遂行したということですから。西表島で多くの人がマラリアで死ぬのはもちろんわかっていたと思いますが、そもそも住民を「いつでも始末がつく状態」にすることが任務だったのだから、大本営からしたらお手柄だった。だから山下はそれに誇りを感じて、戦後も罪の意識を持たずに生きてきたんだろうなと思います。

 それがどんなに非道な行為であろうと、戦時中は正しい任務として実行されてしまう。戦後、アウシュヴィッツ強制収容所の元所長であるアイヒマンは、自分は命令に従っただけだから無罪だと主張したが、戦争の狂気はいともたやすく普通の人間を殺人者に変えてしまうのだ。

三上:最終的に160人の少年兵が戦死した護郷隊の二人の隊長は、戦後、罪の意識を感じて戦死した部下の家を供養して回ったそうです。ただ、本当に申し訳ない、二度と犠牲を出してはいけないと思うなら、陸軍中野学校の出身者として自ら秘密戦の実態をもっと明らかにしてもよかったのでは。いくら個人として反省してもらっても、沖縄の人々にとっては罪深い作戦に加担したわけです。その構図にメスを入れることができるのも彼らだったのではないかと思うんです。

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スパイリストと住民虐殺

 沖縄戦では現地の住民が日本軍によって殺されたことが知られている。「敵に捕まればスパイになる」という恐怖に支配された北部の日本軍敗残兵は、米軍に投降して情報を漏らすのを防ぐという名目で数百人の住人を処刑した。今帰仁村にいた通称「白石隊」は、地元の有力者や学校の先生を集め、住民同士をお互いに監視させ密告させる秘密組織を作り、そこで使われたのが「スパイ容疑の住民リスト」だ。そこでは「ムラ社会の闇」が非常に危険な状況を作っていた。

三上:イジメのなれの果てだと思いますが、結局、人間ってそういうDNAがあるんでしょうね。お互いが疑心暗鬼になって、自分が犠牲にならないために他の誰かを犠牲にしてしまう。これが人間の一番の怖さだと思います。

 軍隊が自国民をスパイとして殺し、住民をゲリラ戦に巻き込んだ沖縄戦、その背景には現在の特定秘密保護法の前身ともいえる戦前・戦中の「国内遊撃戦の参考」「国土決戦教令」など、日本軍のマニュアルがあった。

三上:結局、沖縄戦を戦った第32軍も陸軍中野学校も大本営の方針で動いたわけですよね。沖縄戦で多くの住民が日本軍に殺されたのは、たまたまパニックになった兵士が沖縄の人をスパイと勘違いして殺しちゃったという話ではなく、軍のマニュアルに従った結果だということです。そして一番問題なのは、戦後それらは一掃されたのか? その反省の上に構築された、今度こそ本当に国民を守れる軍隊なのかを検証しなくてはなりません。

 映画の終盤では、現在の自衛隊が行動規範とする「野外令」や「自衛隊法」を検証するとともに、2016年から石垣島、宮古島などの南西諸島で進められている自衛隊のミサイル基地配置について紹介される。

三上:自衛隊のマニュアルには、橋は爆破する、住民の行動は制限する、食料は軍のために保管するなど、かつての日本軍のマニュアルである「教令」と同じことが書かれているんです。今回の映画では、この事実はどうしても伝えたかった。

 「軍は住民を守らない。そして基地ができたら必ずそこは戦場になる」沖縄戦を体験したおじい、おばあ達は言う。しかし戦争から70年以上が過ぎた今、かつての沖縄戦の記憶もまた薄れている。「護郷隊」「スパイ虐殺」「戦争マラリア」と現在をつなぐ一本の線。このシステムにメスを入れない限り、沖縄戦の地獄は再来すると映画は警告している。そのためには現実を直視しながら、同時に、歴史を読み込んで未来を作っていく力が必要だと三上監督は言う。

三上:逆境に向き合い続ける力というのが前作『風かたか』のテーマだったんですが、その時よりもさらにひどい状況になっていく沖縄を正視し続けるのは苦しいこと。心が折れて終わり。とても普通の人には難しいです。今はもうその段階は越えてしまったんだと思います。だから目の前で起きている沖縄イジメの現実だけでなく、次の戦争がそこまで迫っている現実をまだ想像できていない人に向けて見せていくしかない。次の戦争を怖いと思うことでしか戦争を止められないのだとしたら、その具体的なイメージを与えられるのはこの映画しかないんじゃないかと思います。


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 今年の慰霊の日の追悼式で中学3年生の相良倫子さんが朗読した平和の詩「生きる」は、このような言葉で結ばれている。

「過去と現在、未来の共鳴。鎮魂歌よ届け。悲しみの過去に。命よ響け。生きゆく未来に。私は今を、生きていく」

 私たちは歴史の中に生きている。過去を見ない者は未来もまた見えなくなってしまうだろう。『沖縄スパイ戦史』で描かれた過去の事実から決して目を背けてはいけないのだ。

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LIVE INFOライブ情報

沖縄スパイ戦史
7月21日(土)より沖縄・桜坂劇場
7月28日(土)東京・ポレポレ東中野にて公開、ほか全国順次
 
監督:三上智恵、大矢英代 
プロデューサー:橋本佳子、木下繁貴
(c)2018『沖縄スパイ戦史』製作委員会
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