Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー映画『生きる街』榊英雄監督(Rooftop2018年3月号)

どんなことがあっても人間は踏ん張って生き続けていく
震災から5年の時を経て、その街は未来を信じて生きている

2018.03.01

 3月3日、東日本大震災から7年が経つのを前に、宮城県石巻市を舞台にした一本の映画が公開される。震災から5年後に撮影されたこの映画には、その地を去る人、とどまる人、帰ってくる人、そして訪れる人、様々な人達が交錯する街の姿と人々の想いをフィルムに残すべく、スタッフとキャストが石巻に集結した。
 津波に流された夫を待ちながら、たった一人で民泊を営む主人公・千恵子を演じるのは、歌手として、また役者として圧倒的な存在感をみせる夏木マリ。そして監督は『捨てがたき人々』『木屋町DARUMA』など、人間の欲望や社会の裏側などを描いた問題作を次々と撮り続けてきた榊英雄が務める。
 千年に一度とも言われる大震災に遭遇した中、家族や故郷の持つ普遍的な価値とは、また悲しみを持った人が生き続けるとは何かを問う、珠玉のヒューマンドラマを撮り終えた榊監督にお話を伺った。[TEXT:加藤梅造]

俺は震災から逃げてる人間だからという気持ちはずっとあった

 

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 映画はもともと山田事業所という実在のトラック会社の社長が、震災直後に自らトラックを運転して石巻の支援に行ったという実話をベースにしている。震災から5年が経ち、人々の記憶が風化する前に何か映像で残したいという、脚本家・プロデューサー秋山命の強い想いがこの映画を実現に導いた。

 

榊:秋山から監督の話を持ちかけられた時は一瞬引きました。俺は東京で募金したぐらいで、震災に対して何もしてこなかった。やっぱり後ろめたい気持ちがあったんです。そんな奴が震災の映画撮ってもしょうがないだろうと。

 

 しかし秋山から「一回、現地を見てから考えてくれ」と言われ、榊は石巻や女川などの被災地を回った。

 

榊:被災地を見れば見るほど衝撃を受けて、東京に帰った後はやっぱり撮りたくないと思っていた。その一方で、震災の映画じゃなくて家族の映画だったら俺は撮れるかなという気持ちもあったんです。石巻だろうと、俺の地元の長崎だろうと、それこそパレスチナであろうと、どこにでも家族はいる。大地に根を張って生きている人間のドラマだったら撮れるんじゃないかと。

 

 2011年の3月11日、榊は都内にいたという。地震の起きた数時間後、東宝スタジオのカフェテリアで打合せをしていた時、テレビで津波のニュースが報じられた。

 

榊:今でも憶えているのが、ちょうどそこにいた別の映画か何かの撮影クルーの連中がその津波の映像を観て「かっこいい空撮だ」って言ったのを隣で聞いたんです。俺はその時、何かがブチっと切れた。もちろん彼らに悪気はないんだろうけど、映像をやってる人間の特権意識みたいな感じを受けたし、何かすごく気になった。あと、テレビを観ていた時、津波の映像を映していたカメラの映像が急にパンしたんです。あっ、おそらくそこに何か見せたくない瞬間があったんだろうなと思った。だから今回、映画の話をいただいた時も、俺はそこから逃げてる人間だからという気持ちはずっとあった。

 

 脚本家の秋山命と清水匡は、被災地で取材を重ねながら脚本を書き上げた。映画には実際の被災者から聞いたと思われる生々しい描写が随所に出てくる。看護師として石巻の病院で被災した千恵子の娘・佳苗が、当時ボランティアに来ていた夫の隆に対して「隆は知らないから分からないよ、私達がどれだけの目に遭ったか」と言い争うシーンは、観ている者をドキっとさせるものだ。

 

榊:佳苗の台詞は非常にリアルですよね。彼女は実際に石巻の病院で震災当日に一夜を明かした女性がモデルなんです。寒くてぶるぶる震えながら真っ暗な中で人の声を聞いたことがあるのか?と。それに対して隆が「でもあの街はいろんなことを乗り越え始めてるよ」と言いますが、それぞれの体験や見方が違うからこそすれ違ってしまう。

 俺の地元の長崎もそうだけど、長い歴史の中で人がいなくなるという経験を何度も経験しているのがこの国じゃないですか。俺はもともと自主映画を撮ってる時は、四畳半で同棲しているカップルの話とか、そういう地味な映画が好きだったというのもあって、震災や戦争といった大きな出来事は撮れないと思っていた。だから今回も脚本には原発のことは入れないでくれと頼んだ。まず俺にそれほどの知識がないというのもあるし、個人的な感情としては、事故を起こして海外に逃走した東電の元会長や元社長はぶっ殺したいと今でも思ってるけど、それを映画に込める必要はないと思ったからです。

 

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またつらい現実があるかもしれない。だからこそラストは明るい笑顔で終わったほうがいい

 

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 この物語の中で重要な役割となっているのが、韓国からやって来て石巻を訪れるイ・ジョンヒョン扮するドヒョンだ。彼が持ってきた一通の手紙を巡って物語は動き出す。

 

榊:こんなのは現実的じゃないっていう人もいますよ。でも、人生には不思議なこともあるじゃないかと。こんなことありえないって言う人はそもそも映画なんか観なくていいんですよ。創作ってこういう奇跡を信じてやるものだから。だから俺にとって違和感は全くない。ドヒョンが来ることによって物語が動く。それは天の采配です。たった一通の手紙の裏に書かれた言葉が、巡り巡って千恵子や娘の佳苗、息子の哲也に届く、それがこの映画のテーマなんです。俺の母親も田舎に一人で暮らしてますが、大地に足を着けて踏ん張って生きている母親が、自分の子供の健康や安全を祈って生きている姿は、どこの国でも同じだと思う。そういう母親である千恵子が、いつか帰って来るかもしれない夫を想いながらいつも窓の外を眺めていた所に、外国人であるドヒョンが現れ、そこから家族が久しぶりに集まって楽しい一時を過ごす。そして彼女はまた一人になって窓から何かを眺めて生きていく。それを撮りたかった。

 

 終盤に家族が食卓を囲むシーンはこの映画の最も美しい場面だろう。それは榊監督が自主映画時代に撮っていたという四畳半の美学に通じているのかもしれない。

 

榊:そうなんです。あれが俺のやりたかったこと。ただね、いま偉そうに言ってますけど、映画の台本ではまだ続きがあったんです。撮っている時に「ここで映画終わったほうがいいんじゃないか」と思って、カメラマンに言ったら、彼もそう思うと。実は、何年か後の3月11日で祈るシーンがあったんです。それはもちろん大事な儀式だけど、それはもうなくていいかなと。朝ご飯を食べて、それぞれが希望を持って去って行く。その後にはまたつらい現実があるかもしれない。みんなが去った後のお母さんの姿は、切ないし愛おしいし、頑張って生きて欲しいと思うんです。だからこそ、ラストはみんなの明るい笑顔で終わったほうがいい。だから、あそこでバッサリ切ったんです。

 食卓のシーンは台本で言えば半ページです。当初1時間で撮り終える予定だったのが、撮っていくうちに「いや、これはもっと時間がかかるな」と。それで結局半日使ったんですが、それがよかった。つまり現場は生き物だし、映画も音楽もそうだけど、ライブの中で動いた瞬間をどこまでこぼれ落とさずに拾えるか、それが今回の食卓のシーンでした。

 

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表現者としての抵抗というか、ささやかなメッセージ

 

 そして、希望を感じさせるラストに流れる主題歌はBRAHMANの「ナミノウタゲ」だ。

 

榊:BRAHMANについては、それまでちゃんと聴いたことがなかったんですが、奨められて聴いてみたら、スゲエ、こんな歌を歌ってるんだと。それでTOSHI-LOWと会って飲んだんですが、世代も近いしすぐに意気投合した。主題歌はTOSHI-LOWが、震災で家族を失った漁師の方の夢の話が忘れられずに書いたという歌詞です。俺はなるべく震災から離れようとしていたんだけど、映画を撮ってるうちに、やっぱり夏木さんやBRAHMANのような、震災に正面から向き合ってきた人達が自然と集まってくるのは、いい意味で逃れられなかった。

 

 震災から5年という年月は街をどのように変えたのだろうか?

 

榊:街が崩壊してますよね。みんな高台に移転して街自体がなくなってしまった。鮎川の浜も壊滅です。人もそうですが、風景がまず変わってしまった。護岸工事でコンクリートが固められて、海のにおいもしないし、波の音も聞こえない。映画の中でも出てくる鳴き砂、足で踏むとキュッキュと鳴る砂浜もコンクリートで半分以上なくなってしまった。仲間由紀恵さんが声の出演で参加して頂いた、DJ美鈴が、自分が大好きだった鳴き砂の音をラジオ番組で流すというシーンによって、ひとつのメッセージを伝えられるかなと思ったんです。それは、天災に備えて護岸工事をするのは分かる、でも、すべてをコンクリートで固めることが本当にいいことなのか?ということ。地元の人の中にもいろいろな意見があるのは知ってます。ただ、みんなが泳いだ海がなくなり、笑顔があった浜もなくなり、見上げればコンクリート、それが半永久的に残ってしまう。それを今いる人だけで決めていいのか? その思いを美鈴がラジオで「寂しい」とつぶやくシーンにしたんです。それは表現者としての抵抗というか、ささやかなメッセージですね。どちらかというとそういう表現は避けたいほうなんだけど(笑)

 

 この映画を撮った後、榊監督の中で何か変化はあったかを最後に聞いてみた。

 

榊:俺が震災の時に何もできてなかったのが、今回撮ったことで、ようやく向き合えるようになったのかもしれない。どんなことがあっても人間は踏ん張って生き続けていくんだと思ったし、自分が無意識に人を思って、家族を思うということも分かった。あらためて言うと、人間は素晴らしいんじゃないかということですよね。人間賛歌というか、どんな時でも人は生きていけるんだなと、そういうことを思いました。

 

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LIVE INFOライブ情報

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映画『生きる街』
 
出演:夏木マリ、佐津川愛美、堀井新太、イ・ジョンヒョン(CNBLUE)、岡野真也、吉沢悠
監督:榊英雄
主題歌:BRAHMAN「ナミノウタゲ」
 
 
2018年3月3日(土)より新宿武蔵野館、ユーロスペース、イオンシネマ石巻ほか全国順次ロードショー
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