Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー田口トモロヲ(Rooftop2015年9月号)

東京での嘘のないリアルな恋愛を描く

2015.09.01

 ジョージ朝倉原作の『ピース オブ ケイク』が待望の映画化!! 監督は自身も俳優である田口トモロヲ。どのような化学反応を起こし、この名作は映像化されるのか!? 田口監督にこの映画の制作秘話の一端を伺いました。[interview:柏木 聡(Asagaya/Loft A)]

©2015 ジョージ朝倉/祥伝社/「ピース オブ ケイク」製作委員会
 

共通項から積んでいくという作業

──最初、監督依頼があった際に迷ったけれど原作に通じるものを感じて引き受けられたということですが、それは具体的にどういった点ですか。
田口:まずは出てくるカルチャーです。小劇場であったり、主人公の(梅宮)志乃が働いているレンタルビデオ屋に出てくる作品や作中の登場人物の名前が『仁義なき戦い』から取られていることを発見し、ジョージ(朝倉)さんが影響を受けたものが一緒だということに気づいたので、物語の主軸ではないけれどサブから大切に築き上げていけば、その世界に入れるかもしれないと思ったんです。
──ご自身との共通項から積んでいく作業だったわけですね。25歳の女性の恋物語という主軸部分はいかがですか。
田口:最初の「私は植物を買っては枯らす」という心の声があるんですが、それは凄く分かりました。自分も20代の時に幸福の木を買って枯らしたことがあるので(笑)。そこは男女関係ないんだって。その心境にたどり着いたのは大きかったです。
──原作を読まれたタイミングはいつだったんですか。
田口:オファーを受けたタイミングで読ませていただきました。
──最初から監督の目線で読まれていたということですか。
田口:いえ、違います。監督を引き受けることができるのかという段階で、とりあえず純粋に原作を読ませてくださいということで読みました。
──今までの監督作は、みうらじゅんさんの原作でご本人とも交流があり、よくご存知で距離も近い作品だったと思うんです。今回は映画化にあたって、ジョージさんとお話をされたことや、原作に対してどんな気持ちで作られていたのかをお伺いできますか。
田口:初めてお会いできたのは、撮影の15日前くらいなんです。その際に「『仁義なき戦い』、好きですよね」って話で盛り上がって(笑)。あと、「イメージしてた小劇団が大人計画だったりして」と言うと「その通りです」とか。ジョージさんも昔レンタルビデオ屋でバイトしてて日本映画にハマった時期があったらしく、そのきっかけが『鉄男』だったということで(笑)。ひとつひとつ話が面白くて共感できたので、距離感が近しいと思えました。その時点ではすでに引き受けていたんですけれども、出会うべくして出会った作品だったんだと改めて思えました。僕の場合は原作を好きになれないとできないので、まず原作を好きになって監督をやろうという気持ちに踏み切れたのは良かったです。
──主役の2人として多部未華子さん、綾野剛さんをキャスティングされた理由は?
田口:プロデューサー・サイドと僕とで話し合った結果です。多部ちゃんに関しては満場一致でした。凄く潔くて、ラブ・シーンも臆することなくチャレンジしていただけて、本当にプロフェッショナルだなと思いました。攻めたラブ・シーンにしたかったので、そのことを言葉では伝えていたんですけど、勇敢に演じていただけて気持ち良かったです。
──綾野さんに関してはどうですか。
田口:今まではシャープでエッジの効いた役が多かったと思うんですけど、今回は抜けたようなところと太い幹のようなドンとしたところを併せ持つ人物像にしたいと言ってあったので、そこを上手く演じてくれたと思っています。
 

等身大でリアリティを持たせて描く

──サブカルチャーということですと、劇団では下北沢がありますし、中央線沿線ですと吉祥寺もあります。阿佐ヶ谷・高円寺を舞台に選ばれた理由はどんなところですか。
田口:原作ではどこに住んでいるかというのは明確に描かれてはいないんです。実写化する際に脚本の向井(康介)君と話をして、具体的にどこだろうと考えていった時に、劇団関係は上り調子になってから下北沢だろうという話になり、志乃は経済状態を考えた時に、リアルに中央線沿線で少し離れた辺りでビデオ屋がある所を探していってあそこになりました。最初は「東京の恋愛を描こう」というテーマだったので、もうちょっとおしゃれな所でと話もしていたんですけど、全然出てこなくて、2人でおかしいなって(笑)。結局、登場人物たちの経済状況を考えたらその辺りがリアルだろうと決定しました。
──そんななか、Asagaya/Loft Aを舞台のひとつとしてご利用いただいたのはなぜなんですか。
田口:それは向井君です。出したかったんじゃないのかな。熱海の秘宝館もそうだし、名指しのリクエストがあったので、ここがいいと思って書いたんだなと感じて、変更する必要もないし、イメージ通りで何も抵抗することはなかったです(笑)。
──最初の脚本作りの段階では東京の恋愛を描こうというテーマとのことですが、具体的にはどういったイメージだったんですか。
田口:最初は東京という人間のるつぼの都市でこんがらがっちゃった面倒くさいラブ・ストーリーを考えていました。何気ない風景をバックに恋愛を描けたらと。例えが大きいですけど、ウディ・アレンのニューヨークの恋を描いた感じのオサレーなイメージで作り始めたんですけど、ならなかったですね(笑)。
──映画は凄く東京のカップル感が出ていて、どこか知ってる人みたいな感じがありました。
田口:映画の表現として、もう少し飛躍しても良かったのかもしれないですけど、作っていくなかでそこに嘘を挟みたくない、キレイごとにしたくない、等身大でリアリティを持たせて描きたいと考えて、こういう形になったんだと思います。
──リアルなものを追求されているのはとても伝わりました。そこが響いたんだと思います。50代で25歳の恋愛を描くのは悩まれる点だと思いますが、作られる際に等身大の20代・30代の気分になって作られたのか、全く俯瞰して上から見てなのか、どういう視点で作られたのでしょうか。
田口:半々ですね。客観性も持ちつつ、主観的にならないと作れないので。自分の中の全女子力を結集しました(笑)。あとは女優さんや女性スタッフに嘘はないかを聞きました。
──話を聞くというのは、セリフの言い回しについてですか。
田口:台本という共通テキストを読んでどう思ったか、それで違うなって思ったことや、行動にも嘘があるなと感じたら言ってくださいと女優さんには伝えていました。僕には分からないこともあるので、教えてくださいというスタンスです。
──実際に変わったことはありましたか。
田口:あります。こういう行動はしないとか、髪型や衣装に関してもこれは違うと言ってもらえました。原作は少し前ですが映画は現代のものにしたかったので、本当に助かりました。多部ちゃんは実際に25歳で志乃と同い年なので、違和感があれば遠慮なく言ってくださいと振っていて、実際に意見もいただきました。
──周りの意見を取り入れてというのは、いつもそういうふうに作られているのですか。
田口:今回は特に参考にしました。人の不変な感情という部分は分かると思うんですけど、今の25歳女子の恋愛は未知の領域で分からないことが多かったです。特にファッションや、その時代の気分というのは情報だけじゃ分からないですから。
 

ど恋愛を描いているんだけど、オルタナティブなラインに

──作品を観て、ジョージさんの作品が持つ恋愛とサブカル世界の表現のバランス感覚が映画でも凄くいいなと感じました。たとえば、志乃が劇団入りする時に千葉に最近あった面白いことを聞くというくだりは、私がロフトに入った時の面接でも同じことを言われたので思わず笑ってしまいました。そういったバランス感覚で気をつけられたところはどこだったんですか。
田口:脚本作りでは5巻ある原作のどこをチョイスするかの作業に悩みました。原作は恋愛あるあるな面白いシーンが多いので、最初はそこをメインにしてジェットコースター的な映画にしようということでスタートしたんです。途中でこれ違うな、原作の芯を喰ってないなって、1回寝かしたんです。それで最終的に向井君にまとめて書いてもらってた時、志乃と(菅原)京志郎の恋愛をメインに集中してて、それを読んでこれだなって。そこから細かいネタをスライドさせたり戻したりで、今の形になりました。最初に作っていた時はメインが見えなくなっていたので、時間をかけて良かったと思います。
──田口監督自身はどんな映画に仕上がったと感じていますか。
田口:手前味噌ですけど、原作のジョージさんから「面白かった、今できる形で最高の形にしてもらえた」と言ってもらえたので嬉しかったです。そこはクリアーできたなと。最初は軽く2時間に収められると思っていたんですけど、なかなか切れなくて、もっと大胆になりたいですね。何かバランスを逸するような衝動を持って。この作品でも千葉ちゃんや志乃などから自分の衝動は出ているんですけど、正解ってないじゃないですか、こういう表現って(笑)。
──最後になりますが、同世代の男性の方に観ていただくとしたら、どういったスタンスで楽しんで欲しいですか。
田口:恋愛ものでも僕がこの年齢で作って恥ずかしくないものにしたいと思っていたんです。恋愛って恥ずかしいからいいのかもしれないんですけど、そうじゃないものにしたいと思ってました。大げさな言い方をすると、大人の鑑賞にも耐えるような、ど恋愛を描いているんだけど、オルタナティブな感性にできればと思って作りました。でもこれからですね。お客さんにどう受け入れられるかだと思うんですけど。今はドキドキです。
──試験結果を待つ受験生のような心境ですか。
田口:そういう感じです(笑)。
 
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1巻〜5巻・番外編
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LIVE INFOライブ情報

映画『ピース オブ ケイク』
2015年9月5日(土)より全国ロードショー
【原作】ジョージ朝倉『ピース オブ ケイク』(祥伝社 フィールコミックス)
【監督】田口トモロヲ
【脚本】向井康介
【音楽】大友良英
【主題歌】「ピース オブ ケイク ─愛を叫ぼう─」加藤ミリヤ feat.峯田和伸(Sony Music Labels)
【出演】多部未華子、綾野剛、松坂桃李、木村文乃、光宗薫、菅田将暉、柄本佑、峯田和伸
【配給】ショウゲート
【公式サイト】http://pieceofcake-movie.jp/
 
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