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INTERVIEW

トップインタビュー石井岳龍:映画『ソレダケ / that's it』公開記念爆裂インタビュー(Rooftop2015年6月号)

bloodthirsty butchersの爆音と共鳴しながら描写した不屈の闘志、生への希求

2015.06.01

 5月27日から全国で劇場公開されている石井岳龍(ex.聰亙)監督の最新作『ソレダケ / that's it』。ケタ外れの轟音による凄まじい音圧を放射するブラッドサースティ・ブッチャーズの音楽が映像と対等な立場でぶつかり合う本作は、2年前に他界したブッチャーズのリーダー、吉村秀樹の遺志を受け継ぎ、石井監督が当初の企画とは異なる全く新たな内容の劇映画として完成させたものだ。制作の過程で企画の首謀者だった吉村を失うという逆境に曝されながら、社会の底辺でもがき続ける若いホームレスの生き様を通じて"死んでも生きる"不屈の闘志、強靭な生への希求を描き切った石井監督の胸中に去来した思いとは何だったのか。およそ14年ぶりにロック映画の最前線に還ってきた"邦画界の革命児"に話を聞いた。(interview:椎名宗之)

ブッチャーズから持ちかけられた企画を固辞した理由

──本作の成り立ちはブッチャーズ・サイドからのオファーありきでしたが、それに関わらずいつかまたロック映画を撮る構想はあったんですか。
石井:常にありますよ。近年、潤沢な予算をかけられるスケールの大きな映画はなかなか撮れないんです。それは主に派手なアクション系の映画なんですけどね。
──前2作、『生きてるものはいないのか』(2012年)と『シャニダールの花』(2013年)は物語の核に狂気を孕みながらも全体的に静謐なトーンの作品でした。今回はその反動もあってのロック映画だったんでしょうか。
石井:と言うよりも、作れる映画を撮るしかないんですね。「こういう作品をどうしても作りたいんだ!」と粘っていたら、すぐに10年くらい経ってしまうので。そんなことがこれまで2回ほどあったから、今撮れるものをコツコツ撮っていくことで次につなげていくしかない。ただ、いくら予算が限られているとは言え、ロック映画には熱いファンが多いからヘタなものは作れないし、根性だけで一点突破するのは難しいんです。若い頃はスタッフやキャストと一丸となってメチャクチャにやることもできたけど、私も今や還暦間近ですから(笑)。
──それにしても、『生きてるものはいないのか』で田渕ひさ子さんがメインテーマのギター演奏として参加していた伏線はあったものの、今回これほどまでにブッチャーズとがっぷり四つに組んだ作品になるとは意外でした。
石井:20代の後半くらいからロックの世界とはしばらく距離があって、アナザー・サイドを追求していたんです。だからブッチャーズのことは名前は知っていたものの、ライブを見たことがなかった。吉村君と出会ったのは2004年ですね。ルースターズがフジロックで解散ライブをやって、その前夜祭的なイベントが新宿ロフトであったじゃないですか[註:監督は撮影で参加、後にDVD『RE・BIRTH II』として発表]。あの時に吉村君がソロで出て、MCをやっていたスマイリー原島君から吉村君を紹介されたんです。
──吉村さんの演奏を初めて見て、どんな印象を受けましたか。
石井:リハからずっと見させてもらって、ロックに対して凄く一途なんだなと。凄く印象に残ったし、ロックをやるヤツにはまだまだ面白いのがいるんだなと。その後、2006年に私のDVD-BOX(『石井聰亙作品集DVD-BOX』)の発売記念ライブがロフトであって、それにブッチャーズが出てくれたんです。ROCK'N'ROLL GYPSIESや怒髪天と一緒に。
──3daysでありましたね。初日はGUITAR WOLF、2日目はFRICTIONと恒松正敏グループがメインで。
石井:ブッチャーズを始め、dipや日本脳炎、FOEといった私よりも下の世代のバンドが出てくれて、彼らのライブを見るとそれぞれが個性的で面白くて、世代を超えた接点を感じたんですよ。私が『狂い咲きサンダーロード』(1980年)や『爆裂都市 BURST CITY』(1982年)、あるいは1984でやりたかったことが受け継がれて、今も脈打っているんだなと思って、元気をもらえたんです。ブッチャーズを見たのはその時が初めてで、特に吉村君と田渕さんのツイン・ギターが非常に印象に残りましたね。当時はまだ田渕さんが真ん中でギターを引いている頃で。
──ひさ子さんは監督と同じ福岡の出身ですよね。
石井:どことなく同郷の匂いを感じますね。福岡女子独特の雰囲気がある。情に厚い秘めたところがありつつ気さくなんだけど、シャイと言うか(笑)。まぁそれはさておき、田渕さんの弾くギターが佇まいも含めて凄く格好良かったんですよ。
──それで『生きてるものはいないのか』で起用されたと。
石井:田渕さんがメインで唄うブッチャーズの『curve』が気に入っていたんです。あのフェルト人形のPVも素晴らしかったし。あと、女子の背中から始まる映画だったので、女性的な音が全体で欲しかったんですね。で、『kocorono』のDVDが出る時に雑誌で吉村君と対談して、その時にtoddleのCD(『the shimmer』)をもらったんです。その中の『chase it』という曲が凄く良かったので、映画の冒頭に使わせてもらったんですよ。田渕さんばかりにお願いして、吉村君にはちょっと悪いなと思っていたんですけど(笑)。
──その罪滅ぼしというわけではないでしょうけど(笑)、その後、ブッチャーズの音楽を全編に使った映画の企画が立ち上がり。でも、監督はそのオファーを一度固辞されたんですよね。
石井:ブッチャーズの新しいアルバムを最初にCDとして出さずに、まず映画で初披露するという企画を打診されて、試みとしては面白いし、有り難いオファーだったんです。でも、ブッチャーズの音楽は1曲1曲にちゃんとした世界観があるし、私には難しすぎたんですね。PVを1本作るだけでも大変だし、それをつなげて映画にするのは無理だと思ったんです。基本的に完成された素晴らしい音楽には映像は邪魔ですから。
──とは言いつつも、監督はこれまでにUAさんの『悲しみジョニー』や吉村さんとの縁深いCHARAさんの『スカート -short film-』のPVも手がけていましたよね。
石井:初期の頃はライブ主体だったり、ライブに付随する何らかの映像を加えたり、あるいは全く違う要素をぶつけて作ったこともあります。UAのPVはイメージを展開できる曲だったし、実験映画のような世界観を作り上げられるだけの力が曲にあったんですよ。CHARAのPVも同じ感じで、短編映画のように作れましたから。
 

“一瞬が永遠”、“生死を超えてリアルな今”、それが私の考えるロックです

── 一度固辞されたオファーを引き受けることになったのはどんな理由だったんですか。
石井:熱心にお願いしてくれましたからね。ずっと待ってもらうのも申し訳なかったし。私も題材がブッチャーズならやりたい気持ちはあったので、ライブ撮影とイメージ的な映像を組み合わせるのはどうか? と提案したんです。ノイバウテンの『半分人間』(1985年)で廃工場でのライブと舞踏家集団のパフォーマンスを組み合わせてみたり、ルースターズやスターリンの解散ライブでもいろんな試みをやってきたし、今はデジタル機材がだいぶ進歩しているからもっと面白いことができるんじゃないかと思って。
──イメージ的な映像に出演するキャストは最初から決めていたんですか。
石井:ブッチャーズの4人をイメージした配役を最初から考えていましたね。吉村君が染谷(将太)君、射守矢(雄)君が村上(淳)君、小松(正宏)君が渋川(清彦)君という。
──当初からメインキャストは不動だったんですね。
石井:そうなんです。田渕さんをイメージさせる女優さんは探していましたけどね。そんな4人をメインにした、ブッチャーズのもうひとつの物語を作ろうと思ったんですよ。バンドをやりたくてもやれなかった男女のちょっと間抜けでだらしない日常を描きつつ、最終的にはブッチャーズのライブ会場に来た彼らがいつの間にかブッチャーズと入れ替わったり、一緒に演奏しているという筋書きでしたね。それと、『ロックとは何か?』という命題を自分なりのイメージとしてその物語に盛り込んでみたかった。まだ準備稿の段階でしたけど、撮影日とスタジオを決めて、ロケの下見もほとんど済んでいたんですよ。ブッチャーズのライブの試し撮りもしていたし、リハーサルを何回も見させてもらっていたんです。
──確かに当時のライブで、フロアの後方で撮影している監督を何度かお見かけしました。
石井:カメラマンが京都のライブを撮らせてもらってましたしね。その一部が本編にも使われているんですけど。そうやって着々と準備が進んでいて、あとは撮影するだけという状態だったんですよ。そのさなかに吉村君が急逝してしまった。あまりに突然のことで、とても信じられませんでしたね。映画がどうこうではなく、ただただ呆然としてしまった。皆さんそうだったと思いますけどね。
──それで映画の計画が一度頓挫してしまったと。
石井:製作委員会と企画続行の相談をしたのは、吉村君が亡くなってからちょっと落ち着いた頃ですかね。吉村君をリスペクトしているボーカリストがたくさんいるので、彼らに代わる代わる唄ってもらうことで企画を持続できないかと考えたんですけど、それはちょっと違うだろうということで、当初の企画案はナシになったんです。
──それはそれで見たかった気もしますね。
石井:面白かったとは思うんですけどね。ブッチャーズの新作のタイトルが『youth(青春)』で、タイトルトラックが『youth パラレルなユニゾン』でしたよね。私はあの曲の音の塊から吉村君の中にあるパラレルワールドとしての共鳴状態を読み取ったので、映画と音楽のユニゾンを試行したかったし、現実のブッチャーズと並行して存在するもうひとつのブッチャーズの物語を描いてみたかったんです。別のドラマがパラレルなユニゾンを成していくような。(フライヤーを指しながら)最初はこんなに殺伐とした感じではなかったんだけど(笑)、殺伐さを超えて再生に向かう意志を描いたつもりなんです。“一瞬が永遠”、 “生死を超えてリアルな今”、それが私の考えるロックです。幽霊になろうが生きてる奴より活き活きしてる! っていう(笑)。
──社会の底辺でもがき続ける不器用な若者が現状を突破して這い上がっていくという設定は、監督がブッチャーズの世界観から連想したものなんですか。
石井:そういうわけでもないです。でも、物語の構想中にブッチャーズの音楽を聴きまくったし、その中で『アンニュイ』という曲がとりわけ強く印象に残ったんですね。しらけた路上を見つめつつも、それでも少しと歩いてみる、めまいあり! という。そうやってひたむきに前を向いていくことの大切さと、この世の不条理を痛感したんです。ひたむきすぎるほどひたむきに、そしてマイペースにバンドを続けていた吉村君が突然亡くなってしまう不条理を。あと、今もそうですけど政治に対する不信感が凄くあって、それに向けて自分がどれだけ声を上げてもどうにもならない無力感が拭えなかった。この世に生きているのに生きていないような感覚と言うか、自分がまるで幽霊やゾンビにでもなって足掻いているみたいな状態だったんです。だけど、それでも前を向いて歩んでいかなくちゃいけないと思ったし、その思いが私の中で『アンニュイ』という曲とシンクロしたんですね。
 
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【収録曲】
01. guitar shock*
02. 10月/october(2010年発売『kocorono 完全盤』より)
03. toki no owari*
04. 燃える、想い(2001年発売『yamane』より)
05. ROOM(1993年発売シングル『ROOM』より)
06. ファウスト(album version)(1999年発売『未完成』より)
07. cloudy heart*
08. empty sky*
09. 3月/march(2010年発売『kocorono 完全盤』より)
10. knife air*
11. hard attack*
12. Techno! chidoriashi(2013年発売『youth(青春)』より)
13. 12月/december(2010年発売『kocorono 完全盤』より)
14. アンニュイ(2013年発売『youth(青春)』より)
15. イッポ(2007年発売『ギタリストを殺さないで』より)
16. senjyu room*
17. iron bell*
18. senjyu room2*
19. last low ambience*
20. 襟がゆれてる。(1999年発売『「△」』より)
21. the end*
※「*」のトラックはすべて映画本編からの「効果音」。
※本作にブッチャーズの新たな楽曲はありません。すべて既発売の作品からの楽曲です。

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B5判/並製/272頁
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 本誌に掲載されたブッチャーズのインタビュー15年分を網羅し、7年間にわたり連載されていたメンバーの持ち回りコラム『裏のスジの突き当り』を完全復刻、さらに本書でしか読めない特別インタビューまで収録した“読むブッチャーズ”の決定版。

LIVE INFOライブ情報

映画『ソレダケ / that's it』
【出演】染谷将太、水野絵梨奈、渋川清彦、村上淳 / 綾野剛
【監督】石井岳龍
【楽曲】bloodthirsty butchers
【脚本】いながききよたか
【製作】『ソレダケ / that's it』製作委員会
【配給】ライブ・ビューイング・ジャパン
2015年 / 日本 / カラー / 1:1.85 / 3ch / 110分
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