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INTERVIEW

トップインタビュー映画『戦争と一人の女』公開記念 井上淳一監督インタビュー

戦後、GHQの検閲で大幅削除された坂口安吾の小説を大胆に映画化。日本映画のタブーを破る、下から突き上げてくるような戦争映画がいよいよ解禁。

2013.04.26

 昨年急逝してしまった若松孝二監督の弟子である井上淳一による初監督作品が公開される。舞台は第二次大戦末期。退廃的な愛欲生活を送る不感症の女(江口のりこ)と虚無的な作家(永瀬正敏)、そして戦場のトラウマから凶悪事件に走る帰還兵(村上淳)、この三人が運命的に重なり合った果てにある絶望と希望。坂口安吾の同名小説をベースに、実際に起こった連続強姦殺人事件を織り交ぜ、最後に一つのストーリーに昇華するというかなり大胆な手法をとった本作は、安易な感動は全く得られないが、言葉にできないような重たい何かがズッシリと残る衝撃作である。シネコン向けの無難な作品ばかりの日本映画に退屈している人にこそ観て欲しい。何故いま戦争映画なのか? 安吾なのか? 公開直前に井上監督にお話しを伺った。(INTERVIEW:加藤梅造)

日本における戦争映画のタブーを突破したい

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──以前から戦争映画を作りたいと考えていたとのことですが?

 監督で撮るというよりは、戦争映画の脚本をずっと書きたいと思っていたんです。以前、大ベテランのシナリオライターである野上龍雄さんが映画『男たちの大和/YAMATO』の脚本を書くにあたってサポートする人を探していて、そこに僕が紹介されたんです。僕は教科書で習う程度の戦争しか知らなかったので、当時の人達のメンタリティをどうにか理解しようと、戦争について死ぬほど勉強したのが興味を持つきっかけでした。野上さんは敗戦の時ちょうど14歳だったんです。戦艦大和には少年兵も多かったんですが、ああいった閉ざされた空間で起こることはいつの時代も同じで、しごきという名の徹底したいじめと同性愛。そして上意下達の殺人マシーンとなった彼らが無駄な沖縄特攻であっさりと死んでしまった。野上さんはそれを徹底した少年兵の目線で脚本に書いた。それこそが好戦でも反戦でもなく鎮魂なんだと。でもその意図は製作委員会に全く受け入れられず、結局、野上さんと僕は名前を降ろすことになってしまた。
 似たような話では、「戦争と一人の女」の脚本家でもある師匠の荒井晴彦さんとの共作で青山真治監督で進んでいた『退廃姉妹』(原作・島田雅彦)という映画もカンヌで1億円の資本が集まったにもかかわらず日本側の資本が一切集まらなかった。なぜかっていうと天皇を殺しに行こうとする場面があるからで、それは日本では完全にタブーなんです。他にも去年、高橋伴明監督の『道〜白磁の人〜』を、最初は違う神山征二郎監督で荒井さんと僕とで脚本をやってたんですが、関東大震災で朝鮮人の虐殺があったという話を入れたことが原因で、僕たちは制作から切られちゃうわけです。
 で、そういうことが何回もあって、戦争映画を大作としてではなく、もっとミニマムな予算でできないものかとずっと考えていたんです。つまり大金をかけなければ、途中で潰されることもなく自分達のやりたいコアなことができるだろうと。日本における戦争映画、いや、日本映画そのもののタブーを突破したいという気持ちがありましたね。

──それで今回、坂口安吾の小説「戦争と一人の女」を映画化した理由は?

 もともとは、プロデューサーの寺脇研さんが戦争もののピンク映画を撮りたいということで、荒井さんに脚本を頼んだんです。それで日中戦争の帰還兵が中国でやった残虐行為のためにPTSDになってインポになってしまうという設定を考えたんですが、僕がまず下書きを書くことになった。ただ、先程話した戦争と同様、当時の男女の間のメンタリティがよく分からない。それでいろいろな戦争文学を読んでいるうちに『戦争と一人の女』に出会ったんです。安吾は死後五十年以上たってるから、既に著作権が切れていてお金がかからないのと、やはり決定的だったのは「女は戦争が好きだ」という主人公の女の存在ですよね。僕たちが今まで観てきた戦争映画の女の人って、「欲しがりません、勝つまでは」じゃないけど、空襲の中、腹を空かせながら、戦地にいった夫や恋人を待っているみたいな、堪える女の人ばっかりだったじゃないですか。だから、これなら、今までとは違う戦争映画ができるんじゃないかと。教条的な反戦映画にだけはしたくありませんでしたし。

これは反日映画ではなく愛国映画

──安吾の短編小説に、実際に起こった小平事件(註:終戦直後、東京とその周辺で発生した連続強姦殺人事件)の話を合体させたわけですが、この大胆な発想はどこからきたんですか?

 それはもともとピンク映画をやろうとしてた段階で出てきたアイデアで、荒井さんの発想です。「戦争が好き」や「もっと燃えろ」という先では現実に多くの人が死んでいるわけじゃないですか。予算の関係で実際の戦闘シーンや空襲シーンが撮れないから、代わりに帰還兵の残虐なレイプシーンとして戦争の被害を二次的に描くという荒井さんならではの手法ですね。

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──逆に残酷なレイプシーンを入れたことで映画を受けつけない人も出てくるんじゃないですか。

 文脈を読まないで表層的に観たらそうでしょう。そういえば、雑誌「an an」の官能映画特集でなぜか取り上げられてたんですが、いくつかあるうちでこの映画だけ「C級ピンクエロ映画」と酷評されてました(笑)。その一方で、東京工科大学教授の吉田俊実さんのように「従軍慰安婦問題にも密接な関係を持った映画だ」と高く評価してくれる人もいます。

──ほかにも劇中で帰還兵のレイプ魔・大平に「殺しつくし、焼きつくし、犯しつくす」と言わせてますが、これっていわゆる日本軍が中国で行った三光作戦(「殺しつくす」「焼きつくす」「奪いつくす」)のことですよね。これも相当物議を醸しそうなテーマだと思いますが。

 ちょうど昨日(4/10)の国会でも、安倍首相が愛国教育の必要性について答弁した後、下村文部科学相が教科書の南京大虐殺などの記述を書き換えると言ってましたが、なんで日本は過去にやったことを認めないのかと不思議に思います。それを自虐史観という言葉で片付けることに強烈な違和感がありますね。よく言われることですが、ドイツはナチスについて教科書で100ページ以上割いているのが、日本は日本軍がやったことについて半ページしか扱わない。そんな日本で、自分達でお金を集めて戦争映画を作るなら、普段カットされてしまうようなことをやらないと意味が無い。荒井さんが脚本に三光作戦を入れてきたのも、そういうことだと思います。おそらく右翼からは反日映画だと言われるんでしょうが、僕はこれこそ愛国だと思ってます。

──実際、右翼や保守の人の反応はどうですか?

 不思議なことに何の反応もないんですよ。そういえば韓国で2回だけ上映したんですが、そこで韓国のマスコミに「今の右傾化した日本でこんな映画を作って身の危険はないんですか?」と質問されました(笑)。反日という批判ではないですが、原作に忠実でないという批判は多くて、例えば西部邁が大平(小平事件)を入れたことで安吾の精神を壊していると言ってます。それに反論すると、戦争末期、主人公の野村のように安吾も絶望していた。一方、大平も戦場で絶望していた。それは精神の絶望と肉体の破壊という一人の人物の合わせ鏡なんです。

若松孝二監督が最後に観た映画?

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──原作での野村と女の退廃的な男女関係に、レイプ魔の大平という暴力的な要素が加わることで不思議な三角関係になっていくのが、この映画のキモですよね。

 そう思います。キャスティングの一番最初、村上淳さんに「野村と大平、どちらがいいですか?」と訊いたら「大平だ」と。それで、これは野村をよっぽど慎重に決めないと、物語の三角形が成り立たなくなるぞと焦りました。その時はまさか永瀬正敏さんが野村役をやってくれるとは思ってなかったので、永瀬さんに決まったときは「これでいける!」と大喜びしました。

──さらに「女」が江口のりこさんで、当初はピンク映画から始まった企画が、結果的にすごい豪華キャストの映画になったんですね。

 勝手な想像ですが、やっぱりみんな今の日本映画に不満を持っているんじゃないかと思いますね。ハリウッドでも例えばジョージ・クルーニーがマッカーシズム(赤狩り)をテーマにした『グッドナイト&グッドラック』のような社会的な映画を撮ったりするじゃないですか。

──そもそも寺脇さんが「見たい映画がないなら自分たちで作ろう」と言って始まったんですよね。

 もちろんそうなですが、シネコン全盛の状況で、こういう小さい規模の映画はなかなか世間に届かないという辛い現実もあります。少しでも裾野を広げたいと思っているんですけど。

──自分がやりたいことを映画でやるという姿勢は、井上さんが映画界に入ったきっかけでもある若松孝二監督の教えでもありますよね。

 よく「何をどう描くか」の「どう」は教えられるけど「何を」は教えられないと言うけど、若松監督からはまさにその「何を」って所にすごく影響を受けました。荒井さんからは「しょせんお前は若松プロだ」って揶揄されますが(笑)。

──若松監督は残念ながら昨年10月に亡くなってしまいましたが、この映画はご覧に…

 それが初号試写を観に来てくれたんです。ちょうどベネチア映画祭から帰ってきた日で、朝、成田から「お前、今日何時からだ?」って電話してきたんですよ。それで18時からだって言ったら「俺、寝てねえから行けないな」って。それが結局来てくれて、観終わった後に「エロくないなあ〜」ってボロクソに言って帰ってきました。でも、その翌日にまた電話があって「昨日、打ち上げ行かなくて悪かったな。俺、時差ボケで眠かったんだ」って。それはたぶん「お前の映画を寝ないでちゃんと観たぞ」って言いたかったのかなって。それが若松監督と話した最後でしたね。試写は9月10日だったんですが、若松監督は10月17日に亡くなってるので、監督が最後に観た映画がこれだって僕は勝手に思ってます。ほとんど映画観ない人でしたから。だから、僕よりもっと苦労した弟子はたくさんいるんだけど、若松監督の愚直なまでの政治性を引き継いだのは僕でありたいという思いはあります。

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【公開情報】
戦争と一人の女
江口のりこ、永瀬正敏、村上淳、柄本明
監督:井上淳一
原作: 坂口安吾
脚本: 荒井晴彦 / 中野太
企画・統括プロデューサー: 寺脇研
 
2013年4月27日よりテアトル新宿ほか全国ロードショー

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